魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epica46頂点~Schweat Paladin~
前書き
プラダマンテ・トラバント戦イメージBGM
Catherine: Full Body
「ベートーヴェン「ピアノ・ソナタ 第14番 月光 Op.27-2 嬰ハ短調 第三楽章」」
https://youtu.be/9HG4NrbU9SU
†††Sideイリス†††
トラバント元団長率いる大隊、彼の側に付いた裏切り者たち新生ベルカ騎士団を炙り出すため、もう夜空へと変わった大空を飛び回るわたし達オランジェ・ロドデンドロンは、何度目かの『敵性騎士の撃破!』っていう報告を聞く。
「うーん、順調、順調♪ 自治領全体を結界で覆ってくれてるおかげで、民間人や建物にも被害が出ないし♪」
「それに、強敵がいないのも助かってる」
「パラディン連中はもう、私たちが片付けたから・・・」
「だから割と早く殲滅できそう」
「残るパラディンは、プラダマンテとキュンナだけですね」
母様やパーシヴァル君を始めとした教会騎士団が、わたし達を撃つために姿を見せたベルカ騎士団を制圧していくのを空から見届け続けてた。
「ミヤビ、そっちは大丈夫? 怪我とかしてない? 一応わたしの元部下だから、心配は無いと思うけど・・・」
『はい、シャル隊長! 皆さん良くしてくれていますので、安心して背中を任せられます!』
母様やパーシヴァル君と一緒にザンクト・オルフェンへと来てくれたミヤビは、かつてわたしが率いてた朱朝顔騎士隊ロート・ヴィンテと一緒に、ベルカ騎士団と交戦してくれてる。
――シャル隊長! 私の偽者がご迷惑をお掛けしました! 不肖ミヤビ・キジョウ! 少しでもお助けになれば、と参上しました!――
それはそれは綺麗な敬礼だった。そんなミヤビを、わたし達と一緒に戦いたいって言ってくれてた彼女を、わたしの古巣に預けて裏切り者掃除をさせてる。餌役であるわたし達は空を翔け回らないといかない。でもミヤビは飛行魔法を使えず、当然空戦も出来ない。だからミヤビには、地上での裏切り者掃除をお願いした。
――ごめんね、ミヤビ。せっかく来てくれたのに――
――いえ! ご一緒できないのは少し寂しいですが、私に出来る事があり、それでシャル隊長たちの助けになるのであればそれだけで嬉しいです!――
それでもミヤビは、わたし達の力になれるなら、って喜んで引き受けてくれた。だからルミナが「あんな良い子を失望させられないね!」って言ったから、わたしは「うん、本当に!」頷き返した。
『止まってください!・・・あの路地裏に人影が見えました。数はおそらく1人、チラッとスカートが見えたので・・・大隊の女性制服です』
繋いだままのミヤビからの報告に耳を傾け、モニターを横目で確認。その間もスナイパーライフルやらガトリング砲やらで狙われるけど、それらを華麗に回避していれば後は『敵戦力確認! 交戦します!』って、騎士隊が駆けつけてくれる。
『ダメです、ミヤビさん! その人は!』
かつての部下であり、今はロート・ヴィンデの隊長、セバスチャンの切羽詰った声でモニターへと視線を戻すと、探していた人物が映ってた。毛先に向かうほど外に跳ねる緋色の髪と、見惚れるほどに綺麗な紫紺色の瞳、手には斬首剣としての形状である剣先が四角いエクスキューショナーズソード・“シャルフリヒター”。
「プラダマンテ・・・!」
教会騎士団においても、剣騎士においても最強であるプラダマンテが、大隊の女性制服姿でミヤビ達の前に姿を見せた。
「そこはどこ!?」
『あ、はい! 中央区はログレス地区・エリアBです!』
セバスチャンからの報告に、「近い! すぐ側! 急いで向かうから交戦は避けて!」って伝えて、「プラダマンテ! そこで待ってろ!」聞こえるように叫んだ。
『イリス・・・。ええ、待っているわ』
プラダマンテはそう言ってその場に留まったのを確認して、「急いで向かうよ!」後ろを飛ぶみんなに指示を出す。
「居た!」
ミヤビとプラダマンテが向かい合ってる。わたし達は「お待たせ、ミヤビ!」の側に降り立つと、彼女は「シャル隊長! 先輩方!」って嬉しそうに笑顔を浮かべてくれた。そんなミヤビに「手を貸してくれる?」って聞いてみる。
「っ! は、はいっ! 誠心誠意、全力全開でお供させてもらいます!」
――風雷鬼降臨――
額から黄色と翠色の角を生やすミヤビに続いて、わたし達も臨戦態勢に入る。交戦に入る前に「セバスチャン。ここはわたし達が請け負うから」って伝えて、この場から離れるように伝える。プラダマンテとの殺し合いに1歩踏み込むような戦いとなれば、巻き込まない自信は無い。
「了解しました! 御武運を!」
慌しく離れてくセバスチャン達の足音を背に、わたしは“キルシュブリューテ”の剣先をプラダマンテに向ける。
「昇格試合じゃないし、何よりわたし独りで勝てないのはこれまでの試合で理解してる。だからここに居る全員で潰す。文句は無いよね? 元シュベーアトパラディン」
「結構。纏めてかかって来い」
歳からしてキツい黒のセーラー服から、上下真っ白なジャケットとスラックスっていう騎士甲冑に変身し直した。袖に腕を通さずに羽織るコートを構築しないってことは、今のプラダマンテは本気ってことだ。
「最後の大隊が剣士長メギル、そして新生ベルカ騎士団が剣帝プラダマンテ、参る」
VS・―・―・―・―・―・―・―・―・―・
其は堕ちてなお頂点に立つ騎士プラダマンテ
・―・―・―・―・―・―・―・―・―・VS
「一気に畳み掛ける! ルミナ!」
――剣神モード――
対人では使ってはいけないって、管理局員時代に厳命されてたスキル・絶対切断アプゾルーテ・フェヒターを発動。プラダマンテのスキル・空間干渉に対抗するにはそんな事を言ってられないもんね。
「よしっ! エクスィステンツ・ツェアレーゲン!」
ルミナも対人使用厳禁のスキル、終極の支配者 エクスィステンツ・ツェアレーゲンを発動。
「「おおおおおおおおおっ!!」」
――絶刃一閃――
――ツェアラーゲン・シュラーク――
わたしとルミナ、互いに当たれば相手に致命傷を負わせられる一撃を、割と全力でプラダマンテに仕掛ける。後ろからはセレス達が魔術師化した気配を感じる。プラダマンテの実力を知ってるからこその全力だ。
「それでいい。私を殺すつもりで来い」
プラダマンテが“シャルフリヒター”を持つ右腕を水平に伸ばした。
――ラウムファレ――
「「っ!?」」
ガツンと何かに蹴躓いて前のめりになる。そんなわたしとルミナの首に向かって振るわれる“シャルフリヒター”。食らったらまさに斬首の一撃、即死だ。
「でぇぇぇぇぇい!」
――風塵蹴波――
頭上から一直線に突っ込んで来たのはミヤビ。両足に暴風を纏わせての踏み蹴りを繰り出した。プラダマンテはミヤビの蹴りを、わたし達の首へと払っていた“シャルフリヒター”の軌道を変えることで受け止め、ミヤビを遠くに弾き飛ばした。
「ありがとミヤビ!」
「助かった!」
身を低くしたままプラダマンテの左右へと分かれて・・・
「「改めて!」」
――絶刃一閃――
――ツェアラーゲン・シュラーク――
「「でぇぇぇぇい!!」」
――ラウムヴァント――
「くぅ・・・!」「ちぃ・・・!」
斬撃と拳撃を繰り出して挟撃。でにわたしとルミナの攻撃は、空間の歪みによって生じた力場によって完全に停止させられた。絶対切断と絶対分解のスキルすら、空間干渉の前だと無力になることを改めて思い知る。
「そのまま!」
――天翔けし俊敏なる啄木鳥――
「隙間を狙います・・・」
――ハルトファーネ・ゼーデルヒープ――
プラダマンテの頭上へ跳んだトリシュとアンジェの放った高速矢と魔力刃化した幕がアイツを急襲。そんな魔法じゃなく神秘満載の魔術による一撃を、プラダマンテは小さな動きで紙一重で躱した。一度周囲に力場の壁を創ったことで、頭上ががら空きになってた所為での回避行動。
(自分を閉じ込めるドーム状に展開するのは、自身への危険度が跳ね上がるから嫌だ、とは言ってたけど・・・。この状況でも貫くなんて・・・)
「ナデシコ!」
クラリスが召喚獣の名前を呼ぶと、あの子の背後に金色の毛並みをした巨大な九尾の狐が突如として現れた。
「おかえりミヤビ、手を取って!」
――真紅の両翼――
「え、はい!」
わたしはダッシュで戻ってきていたミヤビの手を取り、プラダマンテの側から離れるためにみんなと一緒に空に上がった直後、クラリスが「狐火!」そう大声を上げた。狐――ナデシコの口からチロチロと蒼い火の粉が漏れてたけど、クラリスの言葉を合図にそれは冗談じゃないレベルの火炎砲となって、プラダマンテを襲う。
「くぅぅ・・・!」
「あつ・・・!」
これまでに見たことのある火炎魔法のどれよりも強大で、極悪な火力。結界外じゃ絶対に使っちゃいけないレベルの爆発が起きた。
「あの、これって亡くなってませんか・・・!?」
「ミヤビ。今のうちに伝えとく。プラダマンテのスキル・空間干渉について」
あのルシルが、最強、と断言するようなものだ。プラダマンテがスキルで出来ることを大まかに説明してると、「イリス、ミヤビ! 注意!」セレスの声で一旦中断。とは言ってもほとんど伝えられた。
――シュヴァルツェス・ロッホ――
「来るよ、気を付けて」
「はいっ!」
爆炎が急激に一箇所へ収束していって、直径800m圏内にあった建物の瓦礫すら残らない焼け野原の中心に、若干すす汚れたプラダマンテの姿を視認できた。けど「まったく通用しないってわけじゃないんだ」ってことが、この20年で初めて判った。すす汚れたということは、完全に無力化できなかったわけだから。
(大威力の空間包囲攻撃・・・か。わたし持ってないな~。それに、攻撃範囲が広かったりすると迎撃させ易くなるし・・・難しいな)
「シャルフリヒターを掲げた!」
「攻撃来るよ!」
――ラウムシュナイデン――
プラダマンテが“シャルフリヒター”を振り下ろそうとした瞬間に・・・
――神速獣歩――
――ゲシュヴィント・フォーアシュトゥース――
――ゼクンデアングリフ――
セレスとルミナとアンジェが、高速移動魔法で一気にプラダマンテに接近すると同時、“シャルフリヒター”は完全に振り下ろされた。剣先の延長線上の空間がバックリ割れて、さらには地面を何十mと斬り裂いて、クレバスのようなものを生み出した。
「な・・・!?」
「これが空間干渉による攻撃よ、ミヤビ」
直撃は即死。ただ、プラダマンテの空間干渉にはある欠点がある。空間に何らかの干渉したら、その干渉を解除してからじゃないと次の干渉が発動できない、というもの。同時に空間をいじり続ければ最悪世界が崩壊するらしいし、連続や同時使用は脳に負担が掛かり過ぎるって聞いたことがある。ま、それが判ってはいても勝ててないのがわたしなんだけど・・・。というわけで1対1で勝てないなら、1対多で押し切る戦法を執る。
「行くよミヤビ! トリシュはこのまま狙撃で! クラリスはナデシコの指示に注力!」
「了解です!」「「了解!」」
展開してた自前のフローターフィールドに立つミヤビの手を取って、プラダマンテの元へと向かう。
――ファルコンメン・ツェアシュティーレン――
――シュテルケンシュラーク――
――氷奏閃――
欠点どおり、干渉した空間を元に戻さないと次の干渉が出来ない。その隙を突いた接近済みのルミナとアンジェとセレスの「でぇぇぇい!」三方向からの挟撃。
「まだぬるい!」
――ラウムヴァント――
「ラウムヴァント・・・!?」
「「うそ・・・!?」」
「同時使用・・・!?」
アンジェの打撃、セレスの斬撃、ルミナの拳撃を、三方向に創り出した力場で防御。攻撃を防がれた3人は「きゃああ!」衝撃を返されて弾き飛ばされた。
――極致モード――
ミヤビと一緒に地面に降り立つと同時、シャルロッテ様やルシルのキスで行えた魔術師化。それをわたし自身のスイッチで切り替えられる極致モードを発動。
「雷牙月閃刃!」
スキルを解除すると同時に両手持ちした“キルシュブリューテ”に、魔術化してる雷撃を付加して振り下ろした。スキル同時使用って言う脳への負担が掛かり過ぎた影響か鼻から血を流しながらも、プラダマンテが「さぁ、来なさい」“シャルフリヒター”を振るった。
――ラウムシュナイデン――
「っあ・・・!」
辛うじて見えた“シャルフリヒター”の剣閃。スキルも強力だけど、剣騎士としての技量もわたしの上を行く。だからわたしの魔術と“キルシュブリューテ”は、プラダマンテの光速とも言えるような速さと技によって粉砕された・・・。
「~~~~っ!」
視界に映る桜色をした刀身の破片。柄から先を失った“キルシュブリューテ”だけど、プラダマンテに砕かれたのは何もこの1度だけってわけじゃない。10年以上の昇格試験の中で何度も砕かれてる。だからそのショックをねじ伏せることが出来る。
「このぉぉぉぉぉーーーーーっ!!」
――風陣電旺拳――
わたしと入れ替わるように突っ込んできたミヤビが、プラダマンテの顔面へと風と電撃を纏う右拳を繰り出した。普段なら避けられる速度だったけど・・・
「ぶふっ!」
「おおおおおおおおおおおおッ!!」
ミヤビの拳はプラダマンテの左頬をがっちり捉えて、プラダマンテは思いっきり殴り飛ばされて地面に激突した。
「クラリス!」
斬り裂かれてた空間はもう元に戻ってる。でもミヤビの全力の一撃を受けて地面に高速で叩き付けられたことで、脳を酷使するスキルを発動する余裕はないはず。
「ナデシコ! 火産霊!」
「承知した。皆の者、巻き込まれぬようにな」
ナデシコの口から放射されるのは一条のレーザー。ソニックブームを発生させながら放たれたレーザーは、プラダマンテが倒れてる場所より手前に着弾したけど、大地を穿ちながらプラダマンテの方へ向かってく。
――ラウムゲフェングニス――
「素通りした・・・!?」
「回避されたっぽい!」
穿たれた地面の亀裂からシャレにならない爆炎が噴き上がる、あんなヤバイ場所に留まってるとは考えにくい。わたしが知ってるプラダマンテの空間干渉の技で、当てはまるものに瞬時に思い至る。
「(ひょっとして、異空間檻・・・?)なら、クラリス! 火炎砲もう1
発! 持続させてくれると助かる!」
ナデシコにレーザーじゃなくて火炎砲を用意してもらって、「今!」合図をすると、クラリスが「撃て!」指示を出した。ナデシコが「狐遣いが荒いのぉ~」なんて愚痴をこぼした後で火炎砲をぶっ放した。
(来た!)
何も、誰も居なかった空間にプラダマンテが現れた。ゲフェングニスは本来、バインドや手錠では拘束できないような相手を、別の空間に閉じ込めるというものだ。ただ、長時間の拘束は対象の健康に害を及ぼすらしい。だから出るタイミングを見計らって攻撃を行えばいい。
「っ! 攻撃来るよ!」
迎撃のために“シャルフリヒター”を構えたプラダマンテに、わたしはみんなに聞こえるように叫ぶ。
――ラウムシュナイデン・ナーゲル――
さっきは1発だった空間切断を、今度は同時に6発と放って火炎砲を真っ向から斬り裂いた。さらにはナデシコにも直接当てようとした。危ない。そう伝えるまでもなくナデシコは一瞬にして小さいサイズへと変身して、空間切断の合間に身を置いて無事に回避。
「全騎、とにかくプラダマンテに攻撃を!」
この場に居る全員が魔術師化できたとしても、それが圧倒的なメリットってわけじゃないのは理解した。剣技にしたって向こうが圧倒的だけど、全員で掛かればなんとかなる・・・と思いたい。
「(空間干渉が魔術すらも凌駕するなんて・・・)だったら! 全騎、魔術師化を解除! 手加減なしの魔法で決めに掛かるよ!」
――ゲシュウィンディヒカイト・アオフシュティーク――
両翼を羽ばたかせて突っ込みつつ、「絶刃!」を発動。柄しか残されてない“キルシュブリューテ”に、絶対切断効果を持つ魔力刀を展開。
――鉄兵風馳――
「風塵蹴波!」
ミヤビが高速移動で先に突っ込んで、右足に暴風を纏わせての蹴りを繰り出す。プラダマンテは半身の構えで躱して、“シャルフリヒター”の柄尻による打撃をミヤビのこめかみに打とうとするけど・・・
「ハルトファーネ・ゼーデルヒープ!」
アンジェの伸長された魔力幕による斬撃が2人の合間に伸びて来て、“シャルフリヒター”を上に向かって弾いた。
「骨の1本や2本は覚悟!」
――ファルコンメン・ツェアシュティーレン――
「電閃・・・拳殴!!」
その隙にルミナとミヤビの拳がプラダマンテを前後から襲う。どんな対応を取られようとも、わたしとトリシュとセレスはいつでも中遠距離攻撃を放てる用意は済ませてある。
「はああああああああ!」
魔力を放出したプラダマンテは弾かれた“シャルフリヒター”を手放して、空いた右手でルミナのスキル効果の及んでない前腕を掴み、左手の平でミヤビの放電する拳を受け止めた。同時にわたしとセレスは同時にプラマンテへと突っ込む。
「トリシュ、上!」
「っ! はい!」
――天翔けし俊敏なる啄木鳥――
トリシュが超高速射撃を射た。狙わせたのは、ルミナの頭に向かって回転しながら落ちてくる“シャルフリヒター”。トリシュの一撃は“シャルフリヒター”を遠くへ弾き飛ばし、ルミナとミヤビは「えい!」それぞれプラダマンテの腕を腕ひしぎで拘束。
「プラダマンテぇぇぇぇーーーーーッ!!」
「イリス・・・!」
プラダマンテの瞳には怒りも焦りも無く、僅かな迷いを見せてた。母様の言うとおり、プラダマンテはこの事件に対して迷いを捨てきれてないっぽい。迷うくらいなら出頭してほしかった、話してほしかった。
「絶刃・斬舞一閃・新式!」「氷奏閃!」
「ぐうぅぅぅ・・・!」
深く、でも今後歩行や戦闘に支障が出ることがないよう注意して、太ももを斬り裂く。プラダマンテはガクッと膝を折って、ルミナとミヤビが腕から離れたことで四つん這いになった。そんなアイツにわたしとセレスは剣先を向けて、「投降してくれるよね?」そう促す。
「迷ったままで戦うの辛いでしょ? 大人しく捕まってくれると思ってるよ・・・?」
「騎士プラダマンテ、手錠を付けさせて頂きます」
アンジェがプラダマンテの手を取って、魔力生成を遮断する対魔導師用手錠を掛ける。その様子を眺めながら「こちらオランジェ・ロドデンドロン。医療班を願います」プラダマンテの怪我を治すための医療班を手配。
「とりあえず止血を・・・」
トリシュが出血してる太ももに布を巻き付けようとした時、『何をしている!』怒声が響き渡った。拡声魔法によるもので、声の出所を探す。
「主ら、あそこじゃ」
再び巨大な姿に戻っていたナデシコの鼻先が向かう先、家屋の屋根には逮捕されたはずの「リナルド・トラバント!」が、この場に居てほしくない女と一緒に居た。
「フィヨルツェン・・・!」
“エグリゴリ”の1体であるフィヨルツェン。アレとの戦闘だけは絶対に避けないといけない。
『何をしているプラダマンテ! 貴様が全力を出せば、その小娘共を容易く蹴散らせるだろうが! さっさと片付けて、ヴィヴィオ陛下をお迎えに上がるぞ!』
リナルドのその言葉にプラダマンテは「お兄様・・・」少し怯えたような声色で呼び返した。
『さぁ立て! 今この時が、ベルカを立て直せる最後の機会なんだぞ! お前にはもっと働いてもらわなければならないんだ! 判ったならすぐに小娘共を討て!』
悲しそうに目を伏せるプラダマンテに、わたしは「うるさい、黙れ馬鹿野郎!」口汚く怒声を上げた。クラリスも「それ以上喋ると焼き払う」って、ナデシコの口をリナルドの方へと向けさせた。
『ふんっ。同志フィヨルツェン、貴方も是非参戦を』
ヴィスタっていうコードネームらしいフィヨルツェンにそう声を掛けたから、わたしの心臓はバクバクだ。だけどフィヨルツェンは『わたくしには関係ないです』とだけ言って、踵を返して北へ向かって飛んで行った。もしかするとルシルに遭いに行ったかも知れないけど、今は彼を信じよう。元より“エグリゴリ”の相手はルシルだけだから。
『・・・あの女の考えはいつまで経っても解からん。・・・まあいい、プラダマンテ、判っているな?』
「・・・判りました、お兄様」
――ラウムアウスグラブング――
パキンと音を立てて手錠が2つに割れた。プラダマンテは両手を地面に付いた勢いで空高く跳ね上がって、わたし達から離れたところに着地。どうして、という言葉を投げかけようとするも、「え、どこ行くの!?」プラダマンテが踵を返して走り去っていく。
「あ、シャルフリヒター! 取らせちゃダメ!」
弾き飛ばされた“シャルフリヒター”が突き刺さってる場所へと向かうプラダマンテ。トリシュが「止めます!」って、魔力矢を4本と射た。
――とぐろ巻く連環の拘束蛇――
――閃駆――
――ゲシュヴィント・フォーアシュトゥース――
――神速獣歩――
――ゼクンデアングリフ――
魔力矢に続くようにわたし達も一斉にプラダマンテを追う。矢はプラダマンテの至近に着弾して、ソレらが一斉にバインドとなって彼女を拘束しようと伸びる。
「グラヴィタツィオーン・デッケル」
ギンッと鈍い音が耳に届く。プラマンテの頭上、周囲15m圏内に球体状の空間の歪みが発生したから、わたしは「全騎とまれ! 離れて!」指示を出した。わたし達は急停止して、慌ててバックステップ。直後に強力な重力場が発生して、プラダマンテを拘束し始めてたバインドが地面に叩き付けられた。
「さすがに重力の壁の中を突っ切る勇気は無いね・・・」
その間にも石畳が剥がれて土がむき出しになった地面に突き刺さってた“シャルフリヒター”を回収したプラダマンテは素振りを数回。そして重力場が解除されて、わたし達は改めて対峙した。
「プラダマンテ!」
「迷いを抱えたままでお前たちと戦っていたことについては申し訳なかった」
「いやいや待ってってば! せっかく投降の空気出してたのに、あんなリナルドの言いなりになるわけ!?」
「私は妹で、あの人は兄だ。幼い頃に両親を亡くした私を育ててくれた恩には報わなければならない。騎士である前に家族なんだ。兄の願いを叶えられる力が私にあるのなら・・・私は!」
一足飛びで突っ込んでくるプラダマンテに、わたし達は一斉に身構える。
「援護します!」
――翔け抜けし勇猛なる光条――
「斬!」
トリシュの砲撃をただの魔力付加の一撃で斬り裂くけど、その一動作の隙にわたし達は中距離戦を挑むことにした。初撃はセレスからだ。
『跳んで!』
思念通話での合図と同時にわたし達は跳び上がって、セレスは冷気を纏う“シュリュッセル”を地面に突き刺した。
――愚かしき者に美しき粛清を――
セレスを中心として地面がすごい勢いで凍結されていった。プラダマンテは前方の地面を「ラウムシュナイデン!」で大きく斬り裂いてクレバスを造り、凍結効果を食い止めることに成功すると同時に、「狐火!」ナデシコの火炎砲が発射される。
「おおおおおおお!!」
――ラウムシュナイデン・ナーゲル――
左手の五指にスキル効果を付加して、引っ掻くようにして空間に亀裂を生み出して火炎砲を真っ向から散らした。そして炎の壁となったそこから血涙と鼻血を流すプラダマンテが飛び出してきて、追撃を行おうとしていたアンジェと肉薄。
「っくぅ・・・!!」
――グリッツェンフェッセルン――
“ジークファーネ”の魔力幕が伸びて、プラダマンテを簀巻き拘束。わたしもバインドの「拘束の連鎖!」を発動して、さらにプラダマンテを拘束。アンジェが魔力幕を“ジークファーネ”から切り離して離脱すると・・・
「もう1発! 行くよ!」
――愚かしき者に美しき粛清を――
対地凍結をもう1度行って、凍結のバインドから逃れられていないプラダマンテを一瞬にして凍結させた。でもすぐにパキパキとヒビが入って、崩れ始めていく。
「ルミナ、ミヤビ!」
――雷鬼降臨――
「うん!」「はい!」
わたし達3人で決めに掛かる。ルミナがストレートを打ち込んで、「シュトゥースヴェレ!」防御系貫通効果のある魔法を発動。殴った前面の氷が粉砕されるより早く、プラダマンテが後面を突き破って吹っ飛ばされた。
「ぐぅぅ・・・!」
わたしと、黄色に変色した角を有するミヤビが、着地したばかりのプラダマンテに肉薄。そしてミヤビは「雷牙轟鳴 靂帝 双霆掌!!」放電する両掌底を繰り出した。
「鬼と戦うのは初めてゆえ、加減が出来るかどうか怪しいが・・・」
閃く“シャルフリヒター”がミヤビを捉え、「かは・・・?」あの子の両腕や上半身から派手な出血が起きた。
「ミヤビ!?」
『だ、大丈夫・・・です。私・・・頑丈ですし、自己治癒力もすごいんで・・・。戦いに集中を・・・』
両膝から崩れ落ちたミヤビを一瞥することなく、プラダマンテがこっちに向かって駆け出した。
「よくも!」
――滅び運ぶは群れ成す狩り鳥――
「本当に迷いを断ち切ったわけね!」
――悪魔の角――
トリシュの魔力矢が分散して何百本とレーザーとなってプラダマンテに殺到。さらにセレスの氷の杭が何十発と続いた。そのどれもが直撃コースであるにもかかわらず、目にも止まらぬ速度で“シャルフリヒター”を振るって、着弾寸前で迎撃しつつ突っ込んで来る。
「私たちがプラダマンテを疲労させるから、イリスはトドメを担当して! セレス、アンジェ!」
「よし!」「はい!」
「任せて!」
ルミナとセレスとアンジェが迎撃に入るのを見届けながら、わたしは抜刀の構えを取る。
――女神の鉄拳――
「吹っ飛べ!」
「むっ・・・」
セレスの発動した地面から突き上がる氷の鉄拳によって、プラダマンテが宙に殴り飛ばされた。その間にルミナが両手に魔力を集束。ルミナをフォローするようにアンジェが、プラダマンテの斬撃で砕かれて崩壊する氷の鉄拳目掛け、「ハルトファーネ・ゼーデルヒープ!」魔力刃化させた魔力幕を伸ばした。魔力幕は、崩壊する氷塊に紛れて落下してるプラダマンテをしっかり捉えてる。
――ラウムシュナイデン――
とここで空間切断の一撃が振るわれて、魔力幕を寸断し、その剣閃はアンジェやルミナ、セレスにまで伸びて来ていた。その一撃を躱してる3人の元に、氷塊を足場として蹴ったプラダマンテが突っ込んできた。
――翔け抜けし勇猛なる光条――
トリシュが砲撃を放って迎撃。回避行動から体勢を立て直すまでの僅かな時間の合間に放った砲撃は、プラダマンテに着弾して魔力爆発。その一撃で体勢を立て直し終えたばかりのルミナ達に・・・
――ラウムシュナイデン・ナーゲル――
爆煙を消し飛ばした10本の空間切断が襲い、その奥から“シャルフリヒター”を水平に構えたプラダマンテが飛び出してきた。口端から結構な量な血を流してもプラダマンテは、「ラウムシュナイデン・ナーゲル!」“シャルフリヒター”を横薙ぎに振るって、さらに10本の空間切断を放った。
「ダメ、空に逃げて!」
格子柄のようになった空間切断が迫り来る。わたし達は隙間を潜って回避するんじゃなくて、余裕を持って空へと上がって逃げるんだけど、ルミナだけが「このチャンスは逃せない!」隙間を潜って、吐血で苦しそうにして“シャルフリヒター”を杖代わりにしてるプラダマンテに接近。
「ムート・・・フェアナイデン!!」
空間切断に触れたことで肩の長さにまで後ろ髪を失ったルミナが、「終わりだ!」集束拳を繰り出した。でもその一撃がプラダマンテに当たることはなく、代わりにルミナが逆風に斬られて、前のめりに倒れこんだ。その様子にわたし達は「ルミナ!」叫ぶように呼んでも返答は無い。
「・・・降りて来い」
大きく肩で息をするプラダマンテが“シャルフリヒター”の剣先をわたし達に向けた直後、頭上からギンッ!と鈍い音がした。
――シュヴァルツェス・ロッホ――
押し付けられるような重力が「ぐぅぅ・・・!」わたし達を襲う。なんとか逃げ出そうとしてもその場から横移動できないような重力が掛かって、とうとう地面に叩き付けられた。視界の端にこちらへ向かってくるプラダマンテの姿があった。
「今すぐ重力を解除して!」
「死にたくなければな!」
そんなプラダマンテの頭上からクラリスの乗ったナデシコが跳びかかった。デカイ前足でプラダマンテを踏み潰そうとするも、プラダマンテの空間干渉の前にはただの大きな的だった。
――ラウムゲフェングニス――
「む!?」
ナデシコの中央に空間の歪みが生まれると急速に拡大して、ナデシコを包み込むと収縮。クラリスを残して異空間の檻に閉じ込められ、その巨体がこの世界から消失した。
「プラダマンテ・・・!」
――フェアシュテルケン・ガンツ――
“シュトルムシュタール”全体に魔力付加して攻撃力を高めたクラリスが「今すぐ解放しろ!」自分を軸にして“シュトルムシュタール”をぶんぶん振り回しながらプラダマンテに仕掛ける。
「今は眠れ、クラリス」
「・・・っ!? ぅあ・・・?」
“シャルフリヒター”が高速で振るわれ、クラリスは袈裟切りに斬られた。倒れこみそうになるもクラリスは「まだまだ・・・!」“シュトルムシュタール”を振るったけど、マリアンネは“シャルフリヒター”で受け止め、左拳をクラリスの鳩尾に一撃。
「かは・・・!」
「クラ・・・リス・・・!」
クラリスも墜とされた。両手を付いて上半身を起こそうとするも、重力は変わらずわたしとアンジェとトリシュとセレスを押し潰してくる。そんなわたし達に体を向けたプラダマンテは“シャルフリヒター”を頭上に掲げ、剣身にトパーズ色の魔力を付加。
「飛蓮!」
振り下ろされた“シャルフリヒター”から放たれるのは、ドラゴンの背びれのような形状の魔力刃3発。魔力刃は地を走って来て、重力で動けないアンジェとトリシュとセレスへと迫り、重力が解除された瞬間・・・
「やめて!」
わたしの懇願むなしく魔力刃は3人に直撃した。その衝撃に3人は宙を舞い、ドサッと勢いよく地面に叩き付けられた。
「・・・。これでお前と私だけだな、イリス。最期にお前と1対1で闘っておきたかった」
わたしはフラフラと立ち上がって、もう言葉を紡ぐことなく鞘に収まったままの“キルシュブリューテ”を手に取り、抜刀の構えを取る。
「カートリッジロード」
カートリッジシステムは無事だから、全弾をロードして魔力を爆発的に上昇させて魔力刀の攻撃力を引き上げる。
「もう言葉は要らない、か。・・・そうだな、最期の決着に相応しい静けさだ」
“シャルフリヒター”の剣身に魔力を纏わせ、バットのように振りかぶったプラダマンテ。
(医療班は呼んだけど、プラダマンテと交戦してる限りは近付けないはず)
だから早々に決着を付けないと。深呼吸を1回して、グッと地面を踏み込んで・・・
「真技」
――閃駆――
プラダマンテに突っ込む。柄を握り、わたしの間合いにプラダマンテを入れると同時、彼女は全力フルスイング。
「牢刃・弧舞八閃!」
そしてわたしは、密かに長年練習していたシャルロッテ様の真技を繰り出した。鞘から“キルシュブリューテ”を抜き放ち、魔力刀を構築していた魔力を分解して8本に再構築。そしてプラダマンテを牢に閉じ込めるかのような8方から同時斬撃を繰り出した。
「っ!!」
同時8撃だったけど、プラダマンテは半数の4撃を捌いてきた。でも残り4撃は左肩と左頬、右腰と右脚を裂いてやった。片方だけとはいえ腕と脚にダメージを与えることが出来たから、少しは真っ向からやり合えるはず。
「うおおおおおおおお!」
魔力変換は行わず、ただひたすらに身体強化と魔力刀維持に魔力を注ぎ、“キルシュブリューテ”を振るう。プラダマンテは動かしにくいのか左腕は一切使わず、右手だけで“シャルフリヒター”を振るって、わたしの斬撃を防いでくる。
「っつ・・・!」
時には体のどこかを浅くだけど斬られる。脳への負担、かなりの出血、左腕と右脚のダメージ。これだけのハンデを背負ってなお、プラダマンテはしっかりと立ち、戦闘を行ってる。
「(ホント化け物すぎでしょ・・・!)ぅぅらッ!!」
柄を両手持ちしての渾身の振り下ろしを、プラダマンテは立てた“シャルフリヒター”の腹に沿わせるようにして受け流し、わたしが返す刃で振り上げるより先に懐に入られた。“シャルフリヒター”の刃が首に向かって伸びてくる。
「チィ・・・!」
――閃駆――
一度立て直しを図るために距離を取ろうとしたんだけど・・・
――ラウムファレ――
(は!?)
左踵が何かに引っ掛かって後ろ向きに倒れてしまいそうになる。慌てて右足を付いて踏ん張ることで尻餅をつく無様は晒さなかったけど、プラダマンテの接近は許した。すでに左薙ぎの一撃が迫る中、わたしはブリッジすることで刃をやり過ごし、「てや!」ネックスプリングを行ってプラダマンテの腹に両足での突き蹴りをぶちかます。
「ぐ・・・!」
蹴っ飛ばされたことでわたしから距離を空けたプラダマンテ。もう一度ネックスプリングで起き上がると同時、「風牙烈風刃!」をぶっ放す。
「ふんっ・・・!」
風圧の壁をただの膂力に頼った斬撃で消し飛ばした。その間にわたしのターンに移らせてもらう。
「滅牙・・・!」
炎牙月閃、氷牙月閃、風牙月閃、雷牙月閃、光牙月閃、凶牙月影の、6属性の直接斬撃を、様々な角度から14連撃(14回は、シャルロッテ様が出来る短時間連続属性変化の限界数らしい)と放つ。
「あああああああ!」
「暴破・・・」
プラダマンテは魔力付加した“シャルフリヒター”で、わたしの連撃をすべて捌いた。連撃の後に“キルシュブリューテ”を振るって放たれるゼロ距離烈風刃も“シャルフリヒター”で受け止められたけど、魔法はすでに発動してることで暴風が放たれた。
「うぐ・・・!」
風圧は本来に比べれば弱かったけど、まともに受けたことでプラダマンテの体が宙に浮く。わたしは即座に“キルシュブリューテ”を鞘に収め、プラダマンテへ向かって跳んだ。
「(これがトドメの・・・!)螺旋刃!!」
滅牙暴破螺旋刃は、14連撃からの烈風刃で相手の体勢を崩し、その隙に高威力魔法や剣技に繋げる連撃技だ。わたしがトドメに選んだのは・・・。
「でやぁぁぁぁぁぁ!!」
――牢刃・弧舞八閃――
ドン!と踏み込み、鞘から“キルシュブリューテ”を抜き放った。柄から枝分かれして8本となった魔力刀がプラダマンテを包囲して、アイツを8方から斬った。でも・・・
「うそ・・・でしょ・・・?」
わたしもまた、袈裟切りに斬られた。プラダマンテは防御も迎撃もせず、相討ち覚悟でわたしを斬った。結構ガチに斬られてしまい、わたしは膝を折って・・・うつ伏せに倒れた。頭上から大きく、そして早い呼吸が聞こえて、頭だけを動かして揺れて霞む視界にプラダマンテを収める。
「私の、はぁはぁ、勝ちだ、はぁはぁ・・・惜しかったな、はぁはぁ、イリス・・・! そして、残念だ・・・」
勝ったはずプラダマンテの表情が残念そうに歪む。
「おい、プラダマンテ。イリスもそうだが、他の奴らも死んでいないぞ。なぜトドメを刺さない? 今後の作戦如何によっては邪魔になる。殺せ」
そんなところにリナルドがやって来て、わたしの頭を踏み付けてきた。抵抗しようにも体に力が入らず、「どけ・・・ろ」としか言えなかった。わたしの様子に鼻で笑うリナルドが、現役時代の大鎌型デバイスを起動して、わたしの首に添えてきた。
(誰か・・・!)
助けが来ることを願いつつ、でも次の瞬間に訪れる死を恐れてギュッと目を強く瞑った。だけど大鎌の刃がわたしの首を刈ることはなかった。
「ぶごぉ!?」
目を開けて見れば、リナルドの腹から突き出した“シャルフリヒター”が視界に入った。プラダマンテが、実の兄のリナルドを貫いたんだ。わたしは混乱して、その様子を見開いた目で見る。
「お兄様、私たち新生ベルカ騎士団はもう・・・負けているのです。・・・大人しく舞台を降りましょう」
「ごぼっ! ごふっ、プラダ・・・マン・・・」
ドサッと倒れたリナルドの目は驚愕に大きく見開かれて、死んだことを知らせるように瞳孔が開いてた。
「イリス・・・。最期はお前の手で討たれたかった、剣騎士として・・・。すまない、こんな勝ち逃げのような形で、お前との長年の闘いを終えることを・・・許してくれ」
「待って・・・ダメ・・・ダメ、プラダマンテ・・・」
プラダマンテは自らの腹に“シャルフリヒター”を突き刺して自害しようとした。
「させない!」
「ぶぐ!?」
でもその前に“シャルフリヒター”が蹴り上げられて吹っ飛び、さらにプラダマンテをぶん殴ったのは「ミヤビ・・・!」だった。
「死に逃げるなんて許さない! 生きて、みんなにごめんなさいをしないとダメです!」
今の一撃で気を失ったのかプラダマンテは倒れたまま。その様子を一瞥した後、わたしはミヤビに「ありがとう」お礼を言った。
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