艦隊これくしょん~男艦娘 木曾~
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天才の足跡~その二~
前書き
……えー、はい。新生活があまりにも忙しすぎて、新人賞用の小説を書く時間しか確保できませんでした。大変お待たせ致しました。何とか、なんとか再開します……あ、ちなみに二徹目です。
─横須賀鎮守府─
私は今、横須賀にやって来ていた。諸々の生体検査を、三日かけて行った後、最後に艦娘になるための作業を行った。
作業、と一言で言っても、ただ艦娘の血液を私の体に注射するだけと、かなりお手軽なものだった。もっと他に色々やるものだと思っていたから、かなり拍子抜けだ。
結果、私は「若葉」と言う駆逐艦になった。
正直な感想を言えば、なんだそれ、だった。
戦争やら軍艦やらに全く興味のない私にとって、「駆逐艦」やら、「軽巡洋艦」やらの軍艦の種類なんか、知ってるはずがなかった。精々、戦艦を知っている程度だ。
どうやら、小回りの効く種類……なのだろう、多分。幼い私には丁度いい。
さて、私はこれから暫く……およそ三ヶ月ほど、この横須賀鎮守府にて訓練を積んだ後、呉鎮守府に異動する事が決まっていた。
あの神谷と言う男は、わざわざ広島から神奈川まで来ていたらしい。頭のネジが飛んだ男だ。
「……ふん」
私は鼻を鳴らすと、目の前に広がる水平線を眺めた。穏やかな波に反射した夕焼けが、感情の薄くなった私でも、神秘的な光景であると認識させていた。
……実を言うと、ここでの生活は大変気に入っている。
一つ、衣食住が完璧に揃っている。
戦闘用の制服は毎日のように洗濯とクリーニングがされ、毎日食堂で暖かい食事ができ、二人一組だが、自室も与えられていた。今までとは雲泥の差だ。
二つ、周りには女しかいない。
大変気が楽だ。
主な理由はその二つだが、私にとってはかなりな好条件だった。
最も、私や他の艦娘を指揮する上司は男なのだが……まぁ、所詮は人間。艦娘に勝てる身体能力は無い。
と言うわけで、今の私はかなり上機嫌だった。
同期で入った「木曾」と「龍驤」は、中々複雑な面持ちで過ごしていた。それが普通らしいので、私はやはり異常らしい。知ったことではないが。
話が逸れたが……だから私は、柄でもない散歩なんてものを楽しんでいた。
人生でも五本の指に入るほど、上機嫌だった。
羽織ったパーカーのポケットに両手を入れ、ただ歩いて景色を見ることに意識を向けていた。
──だから、一歩踏み出した先に、足場が無いことに気付かなかった。
「へっ」
自分でも驚くほど間抜けな声を出した私は、そのまま前に倒れていく。視線の先には、冷たそうな海。
──しかし、私がそこに落ちることは無かった。
私の右肘を、誰かが掴んだからだ。
その誰かは私の右肘を思いだ切り引っ張った。その強い力は、私に尻餅をつかせるほどだった。
「……おいおい、気をつけろよな?この季節の海は凍えるくらい冷たいからな」
本当はその相手に感謝するのが礼儀なのだろうが、私は思わず後ずさり、身構えた。
目の前に立っていたのは、わたしとそう歳の変わりそうにない、少年だったからだ。
「おいおい、助けたってのにその態度はねーだろ?せめて礼くらいは言ってくれよー」
小学生くらいの甲高い声は、私の神経を逆撫でしていた。
「……あぁ、すまない。助けてくれてありがとう。それじゃ」
しかし、私がこの少年に助けられたというのは事実だったので、大人しく謝罪と礼の言葉を口にする。その後、すぐに立ち上がり、スタスタと立ち去ろうとする。
「おいおい!せめて自己紹介くらいしよって!」
「……悪いが、男と話す趣味はない」
「レズか?」
「死に晒せ」
「ひでぇ!?」
あまりにも低俗な言い分に、私はとことん冷酷に突き放す。と言うか、小学生くらいの男子が知ってていい単語ではない。
「私は、お前と話す時間に価値はこれっぽっちも感じない。だから、行かせてもらおう」
「──ちょっとちょっと!待ってってば!」
しかし、私の足はそこで止まった。
理由は単純。目の前にその少年が両手を広げて立っていたからだ。
それだけならなんてことは無いのだが、私は少年に向かって背を向けて話していたはずなのだ。
それがいつの間にか、私の目の前にいた。
「……お前、何者だ?」
少なくとも、普通の少年にできる芸当ではない。
私は思わず、名を聞いてしまった。
少年は勝ち誇ったかのように笑うと、口を開いた。
「俺の名前は橘 悠人!艦娘候補生の一人だ!!」
─休憩スペース─
「……つまり、お前とほか二人の男が、艦娘になれるかどうかの実験に参加している……ってことか?」
「ま、簡単に言えばなー」
橘はそう言いながら、カップに入ったお茶を啜っていた。
あの後、完全に負けを認めた私は、大人しく橘とゆっくり出来るところで自己紹介し合う事になってしまった。大変不本意だし、実に不愉快だった。
そこで聞いた話は、この橘と、七宮、そして長谷川と言う少年たちが、この鎮守府で「艦娘候補生」として、世界初の男にの艦娘になるための実験に参加しているとのことだった。
「まぁ、ただ艦娘の血を注射するだけじゃ失敗は目に見えてるからなー。色々と実験やらなんやらしてから、になるけどなー」
「……非人道的な、か?」
「当たり前だろ?」
私の問いかけに、当たり前のことを聞かれたかのようにポカンとしながら橘が私を見てきた。
「人体使って既存の枠の外のことをしようとしてるんだ。そんなこと当たり前だろ?最も、艦娘に近づいてるからか、怪我とかすぐに直るようになったけどな!」
「…………お前も大概終わってるな」
「まーな。その分、お前にはまだ救いはあるけどなー」
自分がとっくに手遅れになってることを感じているのか、橘の言葉はやけに軽かった。その分、私に向けての言葉はやけに重く感じた。
「……どこがだ?」
「だって、俺と話せてるじゃないか」
橘はそう言うと、実に腹立つ顔でニヤリと笑った。
「……別に男性恐怖症ではないからな。話すぐらいはできる」
「へぇ……じゃあ、嫌う必要なんてねぇじゃん」
能天気な声が、私の神経を逆撫でした。
「……知らないお前に、とやかく言われる筋合いはない。私はもう行く。自己紹介も終わったしな」
まだ半分くらい残っていたカップをゴミ箱に捨てると、私はそそくさと立ち上がった。
「……まぁ、俺はお前のことを知らないからな……それはおいおいって事で!」
「もう二度と話しかけるな」
「ひでぇ!?」
橘にそう吐き捨てると、私はその場から立ち去った。
……厄介なのと知り合ってしまったと、私はかなり後悔していた。
後書き
読んでくれてありがとうございます。はーい、とんでもないキャラが出てきました。もう殆ど、核心みたいなもんです。ただ、本編において「ここはまだ重要ではない」ので、あくまで余談ということで。
それでは、また次回。
追記
五万PV突破しておりました。本当にありがとうございます。これからは、もう少し皆様に早く物語を届けられるよう頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。
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