英雄伝説~灰の騎士の成り上がり~
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第24話
1月15日、同日PM10:30―――
何者かの依頼によって”ニーズヘッグ”の猟兵達がアルスターを襲撃し、その襲撃にエステル達が対抗している中、既に仕事を終えて明日に備えて休むつもりだったロイド達だったがセルゲイの通信による連絡で急遽召集をかけられ、ブリーフィングを開始した。
~特務支援課~
「さてと、これで全員揃ったわね…………念の為にもう一度聞いておくけど二人のキーアはちゃんと寝ているのかしら?」
「はい、さっきわたしとエリィさんが降りて来る前に二人のキーアがちゃんとベッドに入って眠っているのを確認しました。」
「それで課長、ルファディエル姐さん。こんな夜中に召集をかけるなんて、何かクロスベルで相当ヤバイ事でもあったんッスか?」
ルファディエルの確認にティオが答えたランディが真剣な表情でセルゲイ達に訊ねた。
「いや、クロスベルではそのような事を起こっていない…………まあ、後で起こるかもしれんが。」
「へ…………それってどういう事なんですか?」
セルゲイの答えの意味がわからなかったユウナは不思議そうな表情で質問を続けた。
「先程ヴァイスハイト皇帝からの直通の連絡で判明した事なんだけど…………現在、エレボニア帝国の辺境の町の一つ―――”アルスター”という町が何者かに雇われた猟兵団によって襲撃を受けているとの事よ。」
「なっ!?」
「ど、どうして猟兵団がエレボニア帝国の町を…………」
「それにその猟兵団を雇った”依頼人”は何の為にその”アルスター”という町を襲撃させるように依頼したのでしょうか?」
ルファディエルの説明を聞いたロイドは厳しい表情で声を上げ、ノエルは不安そうな表情を浮かべ、エリィは真剣な表情で訊ねた。
「ま、簡単に言えばその猟兵団を雇った依頼人とやらは”第二のハーメルの惨劇”を発生させる事で”百日戦役”を再現するつもりであるとヴァイスハイト皇帝達は睨んでいるとの事だ。」
「え…………」
「”百日戦役”って………」
「12年前に起こったリベールとエレボニアの戦争の事ですね。」
「ええ、そしてその戦争の最中にゼムリア大陸と繋がる転移門を見つけたメンフィル帝国が乱入して、リィンさん達の故郷である”ユミル”を含めたエレボニア帝国の領土を奪い取った戦争でもありましたね。」
セルゲイの答えを聞いたティオは呆けた声を出し、シャマーラは目を丸くし、エリナとセティは真剣な表情で答えた。
「課長、先程”第二のハーメルの惨劇を発生させる事で百日戦役を再現するつもりである”と、ヴァイスハイト陛下は睨んでいると仰っていましたが…………そもそもその”百日戦役”勃発の原因と思われる”ハーメルの惨劇”とは一体どういった内容なのでしょうか?」
「………………………………俺もヴァイスハイト皇帝からの連絡で先程知ったばかりだが…………”ハーメルの惨劇”はエレボニアの機密情報の中でもトップクラスのもので、もしその内容を流布すれば、恐らく帝国機密法に接触し、国家反逆罪に問われる可能性が非常に高いものだ。」
「こ、国家反逆罪に問われるって…………」
「”百日戦役”―――”戦争”にも関係している出来事なのだから、恐らくはエレボニアにとっては外部―――他国もそうだけど、自国の民達にも知られれば相当不味い内容なのでしょうね…………」
「つーか、あのリア充皇帝はそんな情報をどっから仕入れてきたんだよ…………」
ロイドの質問に対して少しの間重々しい様子を纏って黙り込んだ後答えたセルゲイの答えにノエルは信じられない表情をし、エリィは複雑そうな表情で呟き、ランディは疲れた表情で溜息を吐いた。
「………………………………」
「ティオ?もしかして今の話について何か知っているのか?」
一方複雑そうな表情で黙り込んでいるティオの様子に気づいたロイドはティオに訊ね
「はい…………わたしが”影の国”事件で巻き込まれた際にエステルさん達を始めとした様々な”立場”の人達とも出会い、その人達の中にはエレボニア帝国の皇族のオリヴァルト殿下も含まれている事は皆さんもご存知でしょうが…………その時にわたしはエステルさん達からも”百日戦役”の裏に隠されていた”真実”である”ハーメルの惨劇”についても教えてもらっているんです。」
「へ…………その”ハーメルの惨劇”が”百日戦役の裏に隠された真実”、ですか?」
「…………課長、ルファ姉。その”ハーメルの惨劇”とは一体どういう内容なのか詳しく教えて頂けないでしょうか?」
「ええ、構わないわ。”ハーメルの惨劇”とは―――」
ティオの答えを聞いたユウナは首を傾げ、真剣な表情で訊ねたロイドの質問に頷いたルファディエルはセルゲイと共に”ハーメルの惨劇”について説明した。
「それじゃあエレボニア帝国政府の人達はリベールの領土欲しさに猟兵達に同じ祖国の人達を虐殺させたんですか!?」
「いえ、さっきも言ったように”ハーメルの惨劇”を企てたのは一部の過激派の”独断”と”リベールの異変”にてケビン神父に殺害された結社の”蛇の使徒”によるものよ。皇帝を含めたエレボニア帝国政府の上層部はその件を把握したのは終戦間際との事よ。実際”ハーメルの惨劇”の真実をようやく把握したエレボニア帝国政府は”ハーメルの惨劇”がリベール王国によるものであるという指摘を撤回して、即時に停戦と講和を申し出たとの事よ。」
「だ、だからと言って、それで”ハーメル”の人達が生き返る訳でもありませんし、多くの犠牲者を出したリベール王国にも謝罪や賠償とかもしなかったそうですし、その事件を公表せず、それ所か今も隠し続けているなんて…………」
「公表すれば間違いなくエレボニア帝国の国際的地位は地の底に落ちる事や自国の民達からの信頼も地に落ちて、エレボニア帝国は内部、外部共に大混乱が起こる事が予想されたから、帝国政府による”政治的判断”によって”ハーメルの惨劇”は闇に葬ったのでしょうね…………」
”ハーメルの惨劇”の事を知って怒り心頭の様子のユウナにルファディエルは静かな表情で指摘し、ユウナ同様エレボニアに対して思う所があるノエルは複雑そうな表情で呟き、エリィは複雑そうな表情で推測を口にした。
「つーか、まさかその”ハーメルの惨劇”とやらに巻き込まれて運良く生き残っていたのがヨシュアと”剣帝”だったとはマジで驚いたぜ…………」
「ああ…………」
疲れた表情で呟いたランディの意見にロイドも頷いた。
「えっと………でも、課長たちはその”アルスター”っていう町が”第二のハーメルの惨劇”になる事で”百日戦役”を再現するって言っているけど、それがクロスベルとどう関係してくるの~?」
「…………恐らくエレボニア帝国政府は”百日戦役”のように”アルスターを襲撃したのはメンフィル・クロスベル連合であるという言いがかり”を公表する事でエレボニアの民達のメンフィル・クロスベル連合に対する憎悪や復讐心を煽る事で、エレボニア帝国全体の士気を高める為でしょうね…………」
「そうですね…………ただでさえエレボニアは内戦が終結した直後で戦争が起こった事で民達が今後のエレボニアの先行きについて不安や不満を抱えていると思われますから、その不安や不満を”メンフィル・クロスベル連合に対する怒り”に変える為でもあるでしょうね。」
シャマーラの疑問にセティとエリナはそれぞれ推測を答え
「な、なんですか、それ!?要するにエレボニアは自分達の国を一致団結させる為だけに”ハーメルの惨劇”のようにその”アルスター”って町の人達を虐殺してその罪をクロスベルやメンフィルに押し付けてメンフィル・クロスベル連合を悪者にするって事じゃないですか!」
「まあ、この間の迎撃戦でクロスベルを侵略する為に侵攻してきたエレボニアの侵攻軍に所属する多くのエレボニアの軍人たちを殺害した時点で、既にメンフィル・クロスベル連合はエレボニアにとっては”悪者”ではありますが…………」
「幾らクロスベルにとっては”敵国”の話とは言え、エレボニアが戦争で勝つ為だけに猟兵達に自国の民間人を虐殺させるなんて、色々と複雑ね…………」
二人の推測を聞いたユウナは怒りの表情で声を上げ、ティオは静かな表情で呟き、エリィは複雑そうな表情で呟いた。
「…………課長、ルファ姉。その”アルスター”の件ですが…………本来でしたら事件が起こった翌日に説明してもいいその情報を事件が起こっている最中に説明する為にわざわざ俺達を召集させたのは…………その”アルスター”の件に関係する”緊急支援要請”でしょうか?」
「ほう…………」
「フフ、今までの話だけでそこまで推理できるなんてね。」
ロイドの推理にセルゲイは思わず感心した様子で声を上げ、ルファディエルは微笑み
「ええっ!?それじゃあ、ロイドさんの言ったようにまさか本当にあたし達をその”アルスター”の件に介入させるつもりなのですか!?」
「その”アルスター”って所がエレボニアのどこにあるか知らねぇが、今から行っても間に合わないんじゃないッスか?」
「それ以前にどう考えても”特務支援課”の業務ではありませんし、そもそも他国―――それも戦争状態に陥っている国で起こっている事件にわたし達をどのような名目で介入させるのでしょうか?」
二人の様子を見たノエルは驚き、ランディとティオは困惑した様子で訊ねた。
「いや、別にお前達に”アルスター”に行ってもらう訳じゃない…………―――ヴァイスハイト皇帝が出した”特務支援課に対する緊急支援要請”の内容はエステル・ブライトを始めとした”ブライト家”の遊撃士達が”アルスター襲撃”から護ったアルスターの民間人の”護送”だ。」
「エステルさん達が…………!?という事はまさか、エステルさん達は今アルスターに?」
セルゲイの説明を聞いて驚いたエリィは信じられない表情で訊ね
「ええ。一体どこで入手したのは不明だけど、彼女達はこの前の迎撃戦が起こる前日くらいから”第二のハーメルの惨劇”が起こる情報を手に入れたそうでね。彼女達は”第二のハーメルの惨劇”を防ぐ為にセリカ・シルフィルから彼の使徒や一部の使い魔達も借りて”アルスター”に向かったのよ。」
「そういえば迎撃戦が起こったあたりから、マリーニャさん達の姿を見かけませんでしたが…………まさかそんな事になっていたとは。という事はまさか今からわたし達もその”アルスター”という所に行ってエステルさん達が護り切るであろうアルスターの民間人をどこかに”護送”するのでしょうか?」
ルファディエルの答えを聞いて驚きの表情を浮かべたティオは自分達の今後の行動を訊ねた。
「いや―――アルスターの民達は貴族連合軍の残党がエレボニアとクロスベルの国境である”ベルガード門”に護送する手筈になっているから、お前達の役割はそこからクロスベルが用意するアルスターの民達を匿う場所へ護送する事だ。」
「き、”貴族連合軍”って確かエレボニアの内戦を勃発させた…………」
「”主宰”であるカイエン公が捕えられても、貴族連合軍の一部はまだ抵抗を続けている事は伺っていますが…………何故、その貴族連合軍がアルスターの民達をクロスベルまで護送―――いえ、それ以前に何故ヴァイスハイト陛下は”クロスベルにとっての敵国”の民達であるアルスターの民達をクロスベルで匿う事を決められたのでしょうか?」
セルゲイの説明を聞いたノエルは驚き、エリィは困惑の表情で訊ねた。
「まあ、普通に考えたら真っ先にその疑問を抱くわよね。―――ヴァイスハイト皇帝によるとメンフィル・クロスベル連合がエレボニア帝国との戦争に勝利、もしくはエレボニア帝国が戦争を回避する為にメンフィルの例の要求を呑んだ際の領土の”分け前”の中に”アルスターを含めたラマール州”が含まれているとの事よ。」
「”ラマール州”と言えば、帝国貴族最大の貴族であり、四大名門の一角でもある”カイエン公爵家”が統括領主を務めている領土ですが、まさかその”ラマール州”がクロスベルの領土になる予定だなんて…………」
「もしかしてヴァイスハイト皇帝がそのアルスターって人達を匿う事にした理由はそのアルスターって人達が将来のクロスベルの民達になるからかな?」
「確かにそれなら、納得できますね。」
「ええ、何だかんだ言ってもヴァイスハイト皇帝もそうですが、ギュランドロス皇帝も民達をとても大切にしていらっしゃる”名君”ですものね。」
ルファディエルの答えを聞いたエリィは驚きの表情を浮かべ、ある事に気づいたシャマーラの推測にエリナとセティはそれぞれ納得した様子で頷いた。
「無論その理由も含まれているが…………この情報もさっきヴァイスハイト皇帝から教えてもらった秘匿情報だが、どうやらヴァイスハイト皇帝達―――メンフィル・クロスベル連合は何らかの方法で”カイエン公爵家”に接触してカイエン公が逮捕されて以降”カイエン公爵家”を取り仕切っているカイエン公の娘の一人―――ユーディット・ド・カイエン公女をヴァイスハイト皇帝の”第一側妃”として迎える縁談を交渉して、その縁談が纏まったとの事だから、ヴァイスハイト皇帝を含めたクロスベルがアルスターの民達を護る事でその公女に対する”恩”を作る事でカイエン公爵家のクロスベルに対する忠誠心を高める為の”点数稼ぎ”でもあるとの事だ。」
「きょ、局長…………」
「何ィッ!?あのリア充皇帝、戦争のどさくさに紛れてただでさえ多いハーレムメンバーを更に増やしたのかよ!?」
「しかもその相手がよりにもよってエレボニアの内戦の主犯であるカイエン公のご息女だなんて…………」
「という事はわたし達はヴァイスさんの”点数稼ぎ”の為にもこんな夜中にわざわざ召集をかけられてそのアルスターの人達を護送しなければならないのですか…………」
セルゲイが口にした驚愕の情報に仲間達と共に冷や汗をかいて脱力した後ロイドは疲れた表情で肩を落とし、ランディは悔しそうな表情で声を上げ、エリィは表情を引き攣らせ、ティオはジト目で呟いた。
「まあ、今の話を聞けば、貴方達も色々と思う所はあるかもしれないけど、アルスターの民達は将来はクロスベルの民達にもなるのだから、それを考えれば彼らの護送は特務支援課(あなた達)の業務の一つでもあるでしょう?」
「確かにヴァイスハイト皇帝の”私情”が含まれているとはいえ、そのアルスターの人達を護送する事もまた特務支援課の業務の一つではありますね…………」
「それにエレボニアやクロスベルとか関係なく、そんなエレボニアの悪巧みに巻き込まれた民間人を護る事は特務支援課―――いえ、クロスベル警察の一員として当たり前の事ですよ!」
「ハハ、それもそうだな…………―――話はわかりました。そういう事であればアルスターの民達の護送に関する”緊急支援要請”を謹んで受けさせて頂きますが…………その件で一つ気になる事があるのですが。」
苦笑しながら答えたルファディエルの指摘にノエルは疲れた表情で溜息を吐いて答え、真剣な表情で答えたユウナの意見に同意したロイドはセルゲイとルファディエルにある質問をしようとした。
「ん?何が気になっているんだ?」
「町一つの民間人を護送する事になると護送する人数も相当なものになると考えられますが…………何故、その護送任務に一課を含めたクロスベル警察の他の部署やクロスベル帝国軍、警備隊がつかないのでしょうか?」
「言われてみればそうですね…………」
「辺境の町だから、普通の町よりは少ないとは思うけど、それでも数十人くらいはいると思うから、あたし達だけじゃ手が足りないかもしれないよね~?」
ロイドの疑問を聞いたエリナは頷き、シャマーラは考え込んでいた。
「その件についてだけど…………ヴァイスハイト皇帝達は”アルスターの民達への襲撃はもう一度起こる―――それも護送の最中にあると想定しているわ。”」
「しゅ、”襲撃がもう一度起こる事を想定している”って…………一体どういう事なんですか?」
ルファディエルの答えを聞いたユウナは不安そうな表情で訊ねた。
「”ハーメルの惨劇”の件を考えると、アルスターを襲撃するように猟兵達に依頼した”依頼人”にとってはアルスターの民達が生き残っている事はその”依頼人”も関わっていると思われるエレボニア帝国政府にとっても都合が悪い事実だろうから、連中にとってはアルスターの民達は必ず全員死んでもらわなければ、アルスターの民達の生存は後々のエレボニア帝国政府にとって都合が悪い存在だと、ヴァイスハイト皇帝達は想定しているとの事だ。」
「実際に襲撃を行った”犯人”である猟兵団を目撃している”証人”であるアルスターの民達を全員殺害する事で、”ハーメルの惨劇”のように”アルスター襲撃”の”真実”を闇に葬る…………そういう事ですか…………!」
「例え”アルスター襲撃”の理由がメンフィル・クロスベル連合との戦争に勝つ為という理由とはいえ、もしその事が世間に知れ渡ればエレボニア帝国は各国から非難される上信頼も地の底に落ちるでしょうし、何よりも帝国政府に騙されたエレボニアの民達が暴動を起こす可能性は非常に高い事はわかりきっていますから、エレボニア帝国政府の関係者と思われる”依頼人”にとってはアルスターの民達に生きてもらう事は非常に都合が悪い状況でしょうね…………」
セルゲイの話を聞いたロイドとエリィはそれぞれ厳しい表情を浮かべて推理をし
「ですが何故ヴァイスさん達は護送の途中に必ずもう一度襲撃があると睨んでいるんでしょう?」
「恐らくエステルちゃん達が一度襲撃を防ぐ事で、アルスターの連中も自分達が助かった事に安心して気が抜けている所を狙うつもりなんだろうな、その”依頼人”とやらは。アルスターの連中を匿う場所はどんな所かわからねぇが、襲撃の件を考えればクロスベルが遊撃士協会と協力して”匿っている間の襲撃”に対して最大限に警戒するだろうから、さすがにそこを襲撃する事は厳しいだろうから、アルスターの連中が本格的に匿われる前に消す算段なんだろうな。」
「そ、それなら尚更護送は万全の態勢でするべきじゃないですか!なのにどうしてヴァイスハイト皇帝達は護送に一課の人達や警備隊、それに軍を使わないんですか!?」
ティオの疑問に答えたランディの推測を聞いたノエルは真剣な表情で声を上げた。
「―――”敢えてアルスターの民達の守りを薄くする事で襲撃者達を確実に釣りだす為よ。”」
「”守りを薄くする事で、襲撃者達を確実に釣りだす為”、ですか?」
「一体どういう事なのか訳がわからないよ~。」
ルファディエルの答えを聞いたエリナは目を丸くし、シャマーラは疲れた表情で呟き
「…………恐らくですけど護送の状況が鉄壁の場合だと、”襲撃者達”は襲撃を一端諦めて再び襲撃する機会を狙うでしょうから、”アルスター襲撃”の”依頼人”もそうだけどその”襲撃者達”に”アルスターの民達を襲撃する事はあまりにもリスクがある事を思い知らせる事でアルスターの民達への襲撃を諦めさせる為”に守りを薄くして襲撃者達を釣りだしてそこを徹底的に叩く作戦なのだと思います。」
「ええ、まさにその通りよ。」
「ちなみにだが…………どうやらこの間の迎撃戦のどさくさに紛れて猟兵団がクロスベルに”密入国”して、”ジオフロント”やクロスベル郊外に潜伏している事が一課やメンフィル帝国軍の諜報部隊の調べで判明している。…………それを考えると”次の襲撃”の際は、クロスベルにアルスターの民達への2度目の襲撃を介入させない為にクロスベルでも何らかの騒動を起こすと想定している。」
「ええっ!?猟兵団がジオフロントやクロスベルの郊外に!?」
セティの推測にルファディエルは頷き、セルゲイが口にした驚愕の情報にロイド達がそれぞれ血相を変えている中ユウナは信じられない表情で声を上げた。
「よりにもよって迎撃戦の時に”密入国”していたなんて…………まさかその依頼人は”アルスター襲撃”が未然に防がれた時の”備え”としてその猟兵団をクロスベルに潜伏させたのでしょうか…………?」
「いや…………さすがにその時点でクロスベルがエレボニアの貴族連合軍の上層部クラスと繋がっている上”アルスター襲撃”に対する対策までしている事を想定してはいないと思う。恐らくその猟兵団は”別の目的”―――メンフィル・クロスベル連合とエレボニアの戦争の最中に何らかのタイミングでその猟兵団にクロスベルを襲撃させてメンフィル・クロスベル連合を混乱させる目的だったんだろう。」
「そして”アルスター襲撃”が失敗すれば、急遽その猟兵団を動かす羽目になる…………という所でしょうね。」
不安そうな表情で呟いたノエルの推測に対して答えたロイドは真剣な表情を浮かべ、ロイドに続くように推測を口にしたエリィは複雑そうな表情を浮かべた。
「要するにわたし達やわたし達に護送されるアルスターの人達はその猟兵団を釣る為の”餌”ですか………」
「味方どころか護送対象者まで敵を釣る為の”餌”にするなんてえげつない作戦、恐らくだがエルミナ皇妃が考えたんだろうな…………まあ、ルファディエル姐さんも考えそうッスけど。」
「フフ、それについては否定できないわね。」
ティオはジト目になり、疲れた表情で呟いたランディの推測に苦笑しながら同意したルファディエルの答えにロイド達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「頼むから、せめて否定くらいはしてくれよ…………話を戻しますけど、今までの話から察するに一課を含めたクロスベル警察や警備隊、それにエステル達以外のクロスベルの遊撃士達はクロスベルで騒動を起こすと想定されている猟兵達の対処で、クロスベル帝国軍はその護送の最中に釣りだされた猟兵達の制圧でしょうか?」
我に返ったロイドは疲れた表情で指摘した後気を取り直してセルゲイ達に確認した。
「ああ。ちなみにその釣りだされた猟兵達の制圧にはクロスベル帝国軍だけじゃなく、メンフィル帝国軍も参加するとの事だ。」
「メ、メンフィル帝国軍までその猟兵達の制圧に協力してくれるんですか!?」
「幾ら連合を組んでいるとはいえ、クロスベルの都合の為だけに何故協力してくれるのでしょうか?」
セルゲイの説明にノエルは驚き、エリィは目を丸くして訊ねた。
「そのあたりの事情についてはヴァイスハイト皇帝ははぐらかしていたが…………ヴァイスハイト皇帝の話にあったダドリー達”一課”の連中やメンフィル帝国軍の諜報部隊が確認したというその猟兵団を考えれば、もしかしたらその猟兵団に対する”報復”かもしれん。」
「あのメンフィルが”報復”する事まで考える程の猟兵団ですか………ちなみにその猟兵団の名前は何という名前なんでしょうか?」
セルゲイの説明を聞いて目を丸くしたティオはセルゲイ達に訊ねた。
「―――”北の猟兵”よ。」
「”北の猟兵”…………ノーザンブリアを拠点にしていて、その稼ぎを祖国のノーザンブリアに送っている元ノーザンブリア公国軍の連中か。」
「それに確か”北の猟兵”はメンフィル帝国が”本気でエレボニア帝国に戦争を仕掛ける理由”の一つとなった”ユミル襲撃”を実行した猟兵達でもあったそうだから…………メンフィル帝国軍まで協力する理由は恐らくその”ユミル襲撃”に対する”報復”かもしれないわね…………」
ルファディエルの答えを聞いたランディは目を細め、静かな表情で推測を口にしたエリィは複雑そうな表情をした。
「恐らくはそうでしょうね。ヴァイスハイト皇帝の話によると猟兵達の制圧に協力するメンフィル帝国軍は”英雄王”と”聖魔皇女”、それにプリネ皇女が直々に率いる事になっているとの事だもの。」
「おいおいおい…………!たかが猟兵を殲滅する為だけに皇族どころか、”総大将”まで出て来るとか、どんだけその”北の猟兵”の連中に対してマジになってんだよ、メンフィルの連中は!?」
「エレボニア帝国同様リウイ陛下を含めたメンフィル帝国を本気で怒らせた”北の猟兵”達はご愁傷様としかいいようがないですね…………リウイ陛下達の事ですから、恐らくその”北の猟兵”達を慈悲もなく殲滅するでしょうし。」
ルファディエルの説明を聞いて驚きの声を上げたランディは呆れた表情で溜息を吐き、ティオは静かな表情で呟いた。
「リフィア殿下まで”北の猟兵”達の制圧に協力するって事はリィンさん達も来るんじゃないかな~?」
「リィンさん達はリフィア殿下の親衛隊に所属していますものね…………」
「それに”北の猟兵”達はリィンさん達にとっては故郷を襲撃した猟兵達の仲間でもありますから、リィンさん達自身にとっても”北の猟兵”に対する”復讐”になるのでしょうね…………」
「それは…………」
シャマーラの推測にエリナは頷き、セティの推測を聞いたエリィは複雑そうな表情をした。
「…………課長、ルファ姉。俺達はアルスターの民達をどこまで護送する事になり、ヴァイスハイト皇帝達が想定している襲撃地点はどこになるのですか?」
「アルスターの民達を護送するお前達の目的地は”太陽の砦”だ。ヴァイスハイト皇帝達によるとあそこはヴァイスハイト皇帝達がディーター元大統領政権に抵抗していた頃に”拠点”として利用していたことから、ライフラインも一通り揃っている上非常時に利用できるように今も稼働しているとの事だ。」
「そして予想される襲撃地点は太陽の砦の手前―――”古戦場”よ。」
ロイドの質問にセルゲイとルファディエルはそれぞれ答え
「”古戦場”か…………あそこなら護送する俺達を包囲しやすい上、クロスベルやタングラム門からも距離がある事で普通に考えれば応援が到着するのも時間がかかるだろうから、襲撃する場所として絶好の場所だな…………」
「クロスベル帝国軍やメンフィル帝国軍はどうやって、”古戦場”に潜んでいると思われる猟兵達から見つからず”古戦場”に待機しているのですか?」
ルファディエルの話を聞いたランディは真剣な表情で考え込み、ティオはある事を訊ねた。
「クロスベル帝国軍もそうだけどメンフィル帝国軍も襲撃が起こる直前まで”古戦場”の上空でステルス機能を発動させた戦艦を滞空させて、その戦艦に兵達を待機させて、襲撃が起こればその兵達を転移魔術で”古戦場”に転移させる事になっているわ。そして貴方達は襲撃が起こった際には信号弾を空に打ち上げればいいわ。―――で、ユウナに聞きたいことがあるのだけど…………」
「へ…………あたしにですか?一体何を聞きたいのでしょうか?」
「今までの話からも既に察していると思うが、襲撃が起こればその場は”本物の戦場”―――”互いの命を奪い合う現場”になるだろう。」
「貴方達の目的はあくまで護送するアルスターの民達の護衛に徹する事で、メンフィル・クロスベル連合軍と共に猟兵達の制圧をする必要はないのだけど…………それでも、まだ新人どころか警察学校も卒業していない”学生”のユウナにはあまりにも”早すぎる現場”よ。」
「ルファディエルと相談した結果、今回の緊急支援要請のお前の参加はお前自身の自由意志にする事に決めて、ヴァイスハイト皇帝にもその件を説明して既に承諾してもらっている。」
「確かに幾ら補充要員とはいえ、本来だったらまだ警察学校の生徒であるユウナちゃんが経験するには”あまりにも酷な現場”になるでしょうね…………」
「ええ…………状況を考えれば間違いなく多くの死者が出る凄惨な現場になるだろうし…………あ…………もしかして、キーアちゃん達がちゃんと寝ているかどうかの確認はそれが関係しているんですか?」
セルゲイとルファディエルの話を聞いたノエルは複雑そうな表情を浮かべ、疲れた表情で呟いたエリィはある事に気づいてセルゲイ達に訊ねた。
「そうよ。子供の方のキーアにはとても聞かせられない話だし、大人の方のキーアだったらあの娘の事だから貴方達に協力する申し出をする事は目に見えているでしょう?」
「そうッスね…………」
「まあ、10年後の方のキーアは今よりも”未来”の出来事を知っていますから、ひょっとしたら知っていてわたし達を困らせない為に敢えて過去の自分と共に眠る事にしたかもしれませんが…………」
ルファディエルの意見に同意したランディとティオはそれぞれ複雑そうな表情を浮かべた。
「…………ユウナ、俺は”特務支援課”のリーダーとして正直今回の緊急支援要請からは外れて欲しいと思っている。ルファ姉の言う通り、今回の”緊急支援要請”は今まで受けた支援要請や経験した”現場”の中でも間違いなくトップクラスの修羅場になるだろうから、まだ新人どころか警察学校も卒業していないユウナには”あまりにも早すぎる現場”だ。」
「そうね…………それこそかつてクロスベルが”赤い星座”、”黒月”、そして結社の猟兵達に襲撃されたあの時よりも凄惨な現場になると思われるもの。」
「ロイド先輩…………エリィ先輩…………―――お二人やセルゲイ課長、ルファディエル警視の心遣いはとても嬉しいですけど、その頼みだけは聞けません。あたしは特務支援課に来た時から―――いえ、警察学校に入学した時からクロスベル警察の一員としてクロスベルを護りたいと気持ちで精進し、そしてクロスベルを護る為にも人手不足な”特務支援課”に派遣されたのですから、あたしも支援課の一員として…………クロスベル警察の一員として今回の緊急支援要請にも是非協力させてください!」
ロイドとエリィの気遣いを知って呆けたユウナだったがすぐに決意の表情を浮かべて答えた。
「ユウナさん…………」
「ったく、雛鳥なのにいっちょ前な発言をしやがって…………」
ユウナの決意にティオは目を丸くし、ランディは苦笑し
「……………………わかった。だけど最優先に自分の身を護る事と俺達の指示に必ず従う事…………この二つを守る事を約束してくれ。」
「はい…………!」
ユウナの決意の表情を少しの間見続けたロイドは疲れた表情で溜息を吐いた後気を取り直してユウナに指示をし、ロイドの指示にユウナは力強く頷いた。
「フフ、話は纏まったみたいね。それじゃあ早速だけど、護送の手筈について説明をするわ―――」
そしてロイド達の様子を微笑ましく見守っていたルファディエルはセルゲイと共に護送についての手筈について説明を始めた――――――
後書き
またもや予告詐欺となる話にしてしまい申し訳ありません…………次回こそは敵、味方共に豪華な面子が登場する話になります。
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