ある晴れた日に
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464部分:夕星の歌その四
夕星の歌その四
「それ今日からやってみるな」
「じゃあ頼んだよ」
「ああ」
「しかしな」
正道の酒に関する話はこれで終わった。しかし彼に関する話はまだ続く。野本は腕を組んで難しい顔をしながらまた言うのであった。
「あいつどうなったんだろうな」
「前から飲むことは飲んでいたけれどね」
「そんな無茶な飲み方しなかったからな」
桐生に対して返した。
「だろ?無茶だろ、ウイスキーを水が飲むみたいになんてな」
「それも一日にボトル三本って」
「やっぱり何かあったんじゃねえのか?」
野本もこう察していた。
「あいつにな」
「御家族に何かあったとか?」
茜はその可能性について考えたのだった。
「まさか」
「ああ、その可能性も確かに」
「あるよな」
「否定できないわね」
皆茜の言葉に頷いた。
「けれどそれでも」
「あそこまで荒れるかしら」
「だよな」
そこまで今の彼の酒浸りは尋常ではなかった。だからその可能性については少しいぶかしむものもあった。
「どっちにしろ何かあったのは間違いないけれど」
「その何かは」
「何なんだろうな」
「様子見だね」
またここで竹山が言った。
「結局のところはね」
「何かそればかりだけれど」
「まだるっこしいな、おい」
「けれどそれしかないわ」
千佳は竹山の案に賛同したのだった。
「やっぱり。音橋君にも音橋君の事情があるだろうし」
「ちぇっ、仕方ないか」
「それじゃあ」
皆また様子見をすることになった。彼に対してもだった。正道は相変わらず自分の席から動くことはない。ただギターを手にしてそれも奏でずに座っているだけだった。
「ギターも奏でないのかよ」
「重症だな、いや」
「重症どころじゃないな」
「そうだよな」
皆で言い合うことになった。そうした正道を見て。今の彼はギターすら奏でない。ただそのギターを持っているだけで動かないのだった。
その放課後やはり開店早々の猛虎堂に来た。既に佐々がカウンターの前に来た。
「よお」
「ああ」
憮然とした、いや沈みきった顔で彼の挨拶に応える。そのうえでカウンターに座る。そして今日もまた酒を注文するのだった。
「今日はバーボンいや焼酎がいいな」
「焼酎か」
「強いのを頼む」
そのうえでさらに言うのだった。
「つまみは何でもいい」
「何でもかよ」
「飲めれば何でもいい」
そして今度はこう言う正道だった。
「飲めればな」
「飲むのはいいさ」
佐々もそれはいいとしたのだった。しかしであった。ここでクラスでの皆との話を思い出してそのうえで、であった。あれを出すのであった。
「その前にな」
「その前に。何だ?」
「これを飲め」
こう言って出したのはそのミルクを一杯出したのだった。大きめの陶器の持ち場所が付いたそのコップの中には白いものがなみなみと注がれていた。
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