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人類種の天敵が一年戦争に介入しました

作者: C
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第20話

 監視役の男達が部屋に入ってきて――わざわざノックしてから入って来るのよ、容赦なく拷問するくせに、無駄に礼儀正しくて腹が立つわよね。普段なら。腹が立つことなんて全くなかったわ、今回は。選ばれてしまったショックで私の頭の中なんてもう真っ白。どこをどう通ったのかもわからないまま、部屋の前に連れていかれたわ。そしたらね、ここまで連れてきた男が変なことを言うのよ。

「この向こうでリーダーが待っている」

 意味が分からなかったわ。……なんですか、その可哀想なモノを見る目は。……別に馬鹿じゃないわ! わかります! ただ、あの時、あの精神状態だとわからなかったってだけじゃない! ふんっ!
 ……続き?意味もわからず頷いて入った部屋は、白い処刑部屋ではなかったわ。リーダーの私室だから当たり前よね。一番偉い筈なのにびっくりするほど狭い部屋で、奥の壁に備え付けの二段ベッド、その前に壁から突き出したテーブル、同じく壁から突き出したベンチでもう限界。反対側の壁は収納ね。大昔の宇宙ステーションの中みたいだった。殺風景で生活感も潤いも無い部屋。
 私達の監禁されている部屋の方がずっとずっと良い部屋なのよ? 監視センサーがずらり、ということを除けばマンションみたいなんだから。実は、居住区画の一つを監禁場所にしていたからなんだけどね。本来の犯罪者を収用するような区画は危ないから立ち入り禁止なの。……危ないって言っても、区画ごと立ち入り禁止になるような危険人物が収監されているわけじゃないわ。区画全体の破損が酷くて立ち入り禁止なの。危険人物を収監するって言うならリーダーでも入れとけば? って話よね。あ、リーダーの私室の方が辛気くさくて独房っぽいのは、もともと仮眠室だからだそうよ。居候には丁度良いって笑ってたけど、リーダーの言うことじゃないわよね。
 ……こういうことに気がついたのは後になってのことなの。あの時は頭がいっぱいいっぱいというかきちんと働いてなくて、奥に男の人が座っていて、テーブルを挟んだ正面にも座るところがあって……くらいのものかな。だって、ほら、リーダーも中身はともかく、特にインパクトのある見た目をしているわけじゃないでしょう? 普通過ぎて説明に困る人だって思わない? 今だって、男の人、くらいしか描写が思い付かないし……え、他に!? う~ん……その……ほら……あっ! 若い男の人! ……う、うん。ごめん。いや、私悪くないし!? なんで謝らなきゃならないのか意味わかんないんですけど!? ……で、私は促されるまま、空いている場所に座ったの。

「君、日本人?」

 唐突な一言だったわ。日本語なんて、ずっと聞いていなかったから。全然反応出来なかった。聞こえた後もぼんやりしていたわね、口も開いていたかもしれないわ。

「私の日本語、下手になったかな? 日本語、通じる?」

 そう言われて、頷いたと思う。

「日本のこと、教えてよ」

 それがリーダーとの出会いで、とりあえず私の命が繋がった瞬間だった。
 ……それは、やっぱり怖かったわ。たぶんあなたが思ってることとは違う怖さね。こんなキチガイ集団のリーダーなんだから、スパイクアーマーのモヒカンか、顔を包帯でぐるぐる巻きにして顔の真ん中に目のマークを描いたスーツの男か、そんな感じだと思うでしょう? でもリーダーはいたって普通の人で……部下達はいつもピリピリしていて酷いときにはいきなり錯乱するのに、そんなイカれた空間で普通でいられるリーダーが何より不気味で底知れなくて怖かった。
 その怖いのか普通なのかよくわからないリーダーが私を呼んだ理由っていうのがまた酷いものでね。リーダーの母親が日系人ということもあって日本に興味があるから、話に付き合ってくれると嬉しい、なんて言うのよ。
 なんていうか、もうね、頭おかしいわよね。……そう思うでしょう!? おかしいわよ、うちのリーダーは!

 ……えへん。ということで、私はリーダーの申し出に一も二もなく飛び付いたんです。……なによ、悪い? あなただって話すわよ、その時になればね! 話している間は殺されないかもしれないでしょ!?
 とりあえず、故郷のことについて話したわ。やっぱり地元が一番詳しいから。それ以外だと、特に四国と九州のことを話したわ。リーダーが知りたがっていたから。シコクとキューシューっていうのはどちらも日本の島よ。なぜ四国と九州を特に知りたがったのかは、ここで暮らしている内にわかるかもしれないわね。
 とにかく死にたくない一心で色々話したけど、どんな物事にも時間制限はあるでしょう? 私も同じ。部下の人がリーダーを呼びに来て、話は終わり。私の人生も終わりかと思ったら、また会おうね、とか言われて。次まで生きていられるんだと思ったら嬉しくて、部屋に帰っても涙が止まらなかったわ。私が無事に帰ってきたことにみんな驚いていたわね。……これは後で知ったんだけど、リーダーは早くから地球連邦政府を倒すと決めていたらしいの。……そう、リリアナは、彼らの言うことを事実だとすれば、リリアナは反地球連邦組織ではなかったの。元々は別の目的のために設立された組織だったんだけど、リーダーが今の方向性に舵を切ったのね。まぁ、元々の目的自体が似たようなもので、やることは変わらなかった、らしいわね。だから組織のやり方はぶれてないの。対象は全殺し、革命は殺してなんぼ。地球連邦政府の軍人だったり職員だったりした私達を生かしておくつもりなんか全くなかったのね。
 だから別れ際のまた会おうねは、ホルマリン標本になってから会おうね、くらいの意味だったらしいのよ! たまたま部下の人達が、リーダーがまた会うって言うならそれまで殺すのは止めておくかって考えたから生かされたけど、もし別れ際の言葉がさよならだったらそのままホルマリンになってたかもしれないわ。まったく奇跡よね。
 そうして助かった私は入団試験を受けて、彼らの、リリアナの仲間になったってわけ。……唐突? 略しすぎ? いいじゃないですか。言いたくないこともあるんです。あ、そうだ。ミスター・レンチェフの入団試験は易しすぎます。何かあると考えた方が良いです。ええ、思い出すのも忌まわしい実体験です。

 もう一つ忠告しておきます。

 ミスター・レンチェフ、あなたもよくよく覚えておくと良いわ。良いわというか、覚えなさい。先輩としての忠告、いえ、命令ね。リーダーは、ストレイドは、命に頓着しない方よ。だから驚くほど簡単に人を殺す。どれほど親しくとも敵に回れば殺すわ。本人曰く、私は殺すことしか教わらなかった、敵は殺す、それが私の全てだ、そうですよ。
 組織の中では有名な話しだから他の人からも耳にすると思うけど、リーダーは敵に回った母親を自分の手で殺しているらしいのよ。母親相手でも何の躊躇もなく殺せる人なの。説得の一つも無しでいきなり殺しにかかったらしいわ。親に対してさえコレなら、他人に対しては尚更よね。
 だからミスター・レンチェフ、貴方の飼い主が誰かは知らないけど、くれぐれも立ち位置には気を付けておくことね。死にたくないなら彼の邪魔をしないこと。彼に敵意を向けられないこと。飼い主とはよくよく話し合っておきなさい。それと同じくらい、いざというときは首輪を外すことも考えておいたほうがいいわ。彼に殺されたくないならね。飼い主の言う通りにお座りして待っていると、そこが死地になりかねないわ。彼はサーチしたらノータイムでデストロイだから、誤解されても説得するヒマなんかなくってよ?

 ……どうやら私の乗る機体も準備が終わるみたいね。それじゃ、地上で会いましょう。 
 

 
後書き
>サーチしたらノータイムでデストロイ

マ「知ってる」
01「やーらーれーたー」
パッチ「ノーカウントだ!」




 
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