ある晴れた日に
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457部分:これが無の世界その六
これが無の世界その六
「壊れてしまってそれで」
「もう二度と」
「どうなるかわからないの。けれど回復はもう」
「絶望的ですか」
「ええ。それはもう」
駄目だと。またしても首を横に振っての言葉であった。
「どうしようもないそうよ」
「・・・・・・そうですか」
「このことは誰にも言わないで」
こう正道に願い出てきたのだった。
「御願いだから。誰にも」
「ええ」
頷くしかなかった。今の事態に対しても。受け入れることのできない現実だったが受け入れるしかない、それもまた現実だったからだ。
「わかっています」
「未晴にはもう傷ついて欲しくないの」
泣いていた。目からだけでなく心でも泣いている言葉だった。
「だから。これだけは御願い」
「わかりました。それじゃあ」
「ただ」
「ただ?」
ここで彼女の言葉の色が変わってきた。
「貴方のことは知っていたから」
「俺のことは」
「未晴と付き合っていたのよね」
尋ねてきた。それはこのことだった。
「あの娘と。そうなのよね」
「はい」
今ここで隠すようなことはできなかった。彼にとっては。
「その通りです」
「それならいいわ」
「いいとは?」
「また未晴にお見舞いに来てくれて」
こう言うのだった。
「また。何時でもいいから」
「けれどそれは」
「未晴のこと大切に思ってくれているのよね」
顔をあげてきた。そうしてじっと彼の顔を見ての言葉だった。
「だったら。御願いするわ」
「いいんですね。それで」
「このことも御願いするわ」
言葉がここで変わったのだった。同じ願いであっても違う願いであったからだ。
「未晴の為に」
「本当にいいんですか」
「いいわ。だからね」
また願い出るのだった。彼女は。
「そうしたらひょっとして未晴も」
「けれどあいつは」
「そうかも知れないわ。けれど」
希望を持ちたかったのだ。少しでも。どれだけ絶望的な状況であってもだ。
「御願いしたいのよ」
「考えさせて下さい」
今は答えを出せなかった。とても。
「暫く」
「そう。そうよね」
彼女は正道の今の言葉を受けて。まずはまた俯いた。そうしてそれから少しずつ言葉を出すのだった。
「こんなこと。すぐにはね」
「ええ」
「受け入れられる筈がないわね。私もそうだったし」
張り詰めて今にも切れてしまいそうな顔での言葉だった。
「未晴が。私の娘があんなことに」
「ですから。少しだけ」
「じっくり考えてもらっていいわ」
こうも正道に言う彼女だった。
「だって。本当にこんなことって。未晴が」
「あの、それで」
泣きそうになる彼女のそれを推し留めるようにして声をかけた。
「知ってるのは御家族だけですか」
「ええ。私達家族と」
まずは彼女達というのである。そして。
「担任の先生達が。けれどこのことも誰にも話さないでね」
「はい」
話せる筈がなかった。その知っているという先生達にも。相手がそのことを知っていても決して言葉に出してはいけない、そうした話があることも今知った正道だった。
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