ある晴れた日に
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450部分:辺りは沈黙に閉ざされその十七
辺りは沈黙に閉ざされその十七
「アキレス腱でこの状況って」
「おかしいって?」
「そうなのかよ」
「確かにアキレス腱切ったらもう生半可じゃ動けなくなるわよ」
静華もそれは認めた。
「けれどね。アキレス腱切ってもここまで長く入院しないし」
「そうだったのかよ」
「アキレス腱でも」
「退院してリハビリしてね。一応は家にいるのよ」
こう皆に話すのだった。
「しかも面会謝絶ってないし」
「ないのかよ」
「そういったことも」
「ないわ。絶対にね」
このことを強調する静華だった。
「だから怪我とかじゃないと思うわ」
「じゃあ何だ?」
「何なのよ」
皆ここで一層訳がわからなくなってしまったのだった。
「一体。それだったら」
「風邪でも怪我でもないとしたら」
「何で入院してるんだよ、あいつ」
皆わからなくなってしまった。いい加減話がわからなくなり煮詰まってしまった。それでどうにも話がまとまらなくなってしまったところで。
「なあ」
「んっ!?」
「どうしたの?」
「俺用事があるからな」
正道だった。こう皆に言ってきたのである。
「ここで別れる」
「用事って」
「またギターのコードでも買うの?」
「そんなところだ」
とりあえずそういうことにしてしまうことにしたのだった。
「じゃあな。今から行って来る」
「そうか。じゃあな」
「また明日ね」
皆その彼に声をかけた。
「車に気をつけてな」
「はねられるなよ」
「それは安心しろ」
車についてはこう皆に返す正道だった。
「それは一番気をつけている」
「気をつけていてもはねられる時ははねられるからな」
「精々用心しろよ」
少しひねくれた言葉も投げかけられた。
「まあ怪我はするなよ」
「気をつけろよ」
「わかった」
何はともかくこれで別れることになった。ここで加山がそっと彼に言ってきたのだった。
「じゃあ気をつけてね」
「ああ」
真顔で加山の言葉に頷きもした。
「これからな」
「ギターのケースはどうするの?」
「これは持って行く」
これについては有無を言わさぬ口調だった。
「何があってもな」
「そう。それだけは何があってもってわけだね」
「わかってるだろう?これだけはな」
真顔のままでの言葉だった。
「何があっても離すつもりはないからな」
「ギターは君の命だったね」
「あいつと同じだ」
言葉により真剣なものが宿った。
「あいつも大事だ。このギターも同じだ」
「つまりどちらがないとってことだよね」
「そういうことだ。だからな」
「わかったよ」
加山もまた彼のその言葉を受けて納得した顔で頷いたのだった。
「じゃあ気をつけてね。本当にね」
「そうさせてもらう。それじゃあな」
「うん、これでね」
「おい音無」
そんな二人の事情を知らない春華が別れる正道に対して言ってきた。彼は既に別の道に向かおうとしている。なおその道は実はいい加減である。
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