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ある晴れた日に

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449部分:辺りは沈黙に閉ざされその十六


辺りは沈黙に閉ざされその十六

「ああいう人が家にいてくれたらな」
「男冥利につきるよな」
「全くだぜ」
「よかったね、音橋」
 明日夢はここで正道に声をかけるのだった。
「あんた将来いい奥さんがいてくれるわよ」
「俺か」
「そうよ。未晴のこと大事にしなさいよ」
 そしてにこりと笑ってさえみせるのだった。
「この幸せ者」
「ああ」
 だがそれを言われても晴れない顔だった。晴れないうえに何処か険しい、そんな顔だった。
「そうだな」
「まあ今は入院してるけれどね」
 言いながら顔を少し上にやる明日夢だった。
「それでも。大切にしなさいよ」
「それはわかっている」
 言うまでもないといった口調だった。
「俺はな」
「ねえ、それで野本さあ」
「わかってるんでしょうね」
「どうなのよ」
 五人はここで野本に突っかかるのだった。
「本当にそっくりだったでしょ」
「言ったわね、その時は覚悟しなさいって」
「はい、感想は?」
「嘘だろ、ありゃよ」
 これが感想だった。
「何だよ、本当に同じじゃねえかよ」
「ねっ、言ったでしょ」
「本当に何もかもがそっくりなのよ」
「そういうことだったのよ」
 それぞれ話すのだった。
「何かね。幼稚園の頃からそっくりだったけれど」
「中学校の頃からさらに似てきて」
「今はあんなのなのよ」
 自然と未晴とその母親の顔を頭の中でオーバーラップさせた言葉だった。それも完全にだ。
「もうね。本当に同じになって」
「間違えないように大変だから」
「どっちがどっちだか」
 こう話していくのだった。
「それにしてもお母さん」
「顔色よくなかったわね」
「表情も」
 このことに顔を曇らせるのは五人だけではなかった。
「やっぱり未晴の風邪酷いのかしら」
「っていうか風邪かしら、本当に」
「だよな」
「怪しくなってきたよな」
 そんな予感もしてきたのだった。
「けれどよ。風邪じゃなかったら」
「何なのだろうな」
「何なのっていうと」
 皆わからなくなってきたのだった。もう何が何なのか。彼等は口々に言うのだった。
「怪我とかか?」
「怪我?」
「アキレス腱切ったとかな」
 この説を出したのは野茂だった。
「それじゃねえのか?」
「ああ、それだったら確かに」
「動けないし」
「だよな」
 皆その説に少し頷いた。皆アキレス腱を切ったらどうなってしまうのかはよく知っているのである。だからこそここで話すことができたのだ。
「それだったらな」
「有り得るわよね」
「けれど。それだったら」
「それだったら?」
「おかしいわよ」
 野茂の説に異論を述べてきたのは静華だった。彼女は怪訝な顔で皆に言うのだった。
 
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