FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
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恐れていたもの
「これが妖精の心臓の力・・・」
全身からあふれ出る魔力を感じながら妖精の心臓の力をその肉体へと馴染ませていく。その姿はさながら天使すら凌駕した・・・神のようだった。
「シリル・・・お前・・・」
妖精の尻尾の一員としてやっては行けない行動に出た仲間に怒りを覚えている。だが、彼の後ろで倒れ込んだ二人を見て、すぐに冷静さを取り戻した。
「初代!!兄ちゃん!!」
せっかく分かり合え、あと少しで矛盾の呪いと思われたところで打ち消された希望。それを心配したナツは二人に駆け寄り、懸命に声をかける。
「ナツ、お前は二人の矛盾の呪いを聞いてどう思った?」
「どう思ったって・・・」
彼の聞きたいことがよくわからない。ナツは一度頭を落ち着けると、自身が最初に感じた感想を述べた。
「可哀想だな・・・かな」
その言葉を聞くとシリルは小さく笑ってしまう。
「何笑ってるんだよ!!」
「ごめんごめん。でも、やっぱり人間らしいところがあって安心しました」
不敵な笑みを浮かべるシリルに苛立ちと恐怖を同時に感じているナツ。シリルは扉の方へと向かうと、真っ白な翼を目一杯広げる。
「俺も最初はそう思いました。でも、全然そんなことはなかったんですよ」
「そんなことはなかった・・・?」
ますます言っていることがわからない。唖然としているナツに振り返ったシリルはとんでもないことを宣った。
「矛盾の呪いなんか元々なかったのさ」
「・・・はぁ!?」
思わず変な声が出てしまった。それはそうだ。それならメイビスとゼレフがいまだに生きていること、多くの人が呪いで殺されてしまったことが説明がつかない。
「矛盾の呪いと勘違いしてしまったのは二人の魔力が究極なまでに高かったから。そして激しい思い込みが脳内を支配していたからだ」
簡単にされたこんな説明では理解できるはずがない。シリルは倒れている二人を指差す。
「二人の矛盾の呪いは、《それにかかってしまった》という思い込みから体が勝手に負の魔力を放っていたに過ぎないんだよ」
「んなバカなことあるかよ!!」
「だったらなぜ、命を奪ってもアンクセラムの呪いにかからないんだ?」
「!!」
その言葉でピンときた。矛盾の呪いと言われるこの魔法のもっとも大きな矛盾点。それは命の開発をする禁忌、未完成の黒魔法に手を出すという禁忌に触れた二人のみがかかり、《生物の命を奪う》というもっともタブーな行為をした人間には何も起きていないこと。
「矛盾の呪いは古より人々があると思い込んでいただけの魔法。その知識を持っていた二人の心が、肉体が異常反応するほど思い込んでしまった結果に過ぎない」
ティオスはそのことを知っていた。ゆえに二人を偽りの呪いに捕らわれた哀れな存在と常々言っていたのだ。
「でも!!じゃあ初代たちはどうやってこんなに長く生きていたんだ!?」
そこで新たな疑問点。普通の人間であれば、こんなに長く・・・ゼレフに関して言えば400年以上も生きていくなんて絶対に無理。しかし、彼らはそれを実現させてしまったのである。
「それは彼らの高い魔力が自殺細胞のバランスを崩してしまったからだね」
「自殺細胞?」
聞き慣れない言葉に聞き返すことしかできない。シリルは小さくうなずくと、その問いに答える。
「よく病は気からって聞くだろ?あれは俺たちの中にある自殺細胞が過剰反応を起こし、肉体を疲弊させ、破壊しようとする。この細胞が通常作用していれば、ある程度肉体が破壊された段階で死を選ぶようになっているが、二人は《矛盾の呪い》にかかったという思い込みから、その細胞が通常作用しなくなってしまったのさ」
完全に意識を失っている二人に軽く目を移すと、少年は口を真一文字に閉じる。
「これは本人がそれに気付いた時点で自殺細胞が死を選び、肉体が滅びる。死んでほしくなければ・・・」
扉から一歩外に踏み出し、真っ白な翼を大きく広げる。
「このことは隠して置いた方がいい」
「シリル!!」
翼を羽ばたかせどこかへと飛び立っていく少年。どんどん離れていくその姿を見送ったナツは、あることに気が付いていた。
「あいつ・・・まだ正常な思考も残っているのか?」
最後の言葉にそんな疑問を抱いた青年。彼の頭の中がどうなっているのか・・・それは本人にしかわからない。
ドォンッ
響き渡る爆音。周囲のクレーターができるほどの強い衝撃を与え合っている二人の男の戦いは、全く衰えることはなかった。
「竜神の握撃!!」
氷と水を纏わせた拳を放ったティオス。しかしそれは目の前の敵を捉えることはできず、地面に突き刺さる。
「まだ上がるんだろ?」
「もちろん」
手を素早く地面から抜き取ると、すぐさま天海へと向き直る。漆黒の翼を羽ばたかせ、十分な距離を取ったはずの彼との差をすぐさま詰める。
「ほぅ」
スピード、パワー、反応速度・・・ありとあらゆる能力が上がっているティオス。天海はそれに感心している。そして同時に、胸の高鳴りを感じている。
(やはりそうだ・・・お前でなければ俺を満足させることはできない。そしてお前と戦えるのは・・・)
「俺しかいない!!」
両者の拳が顔面へと突き刺さる。しかしそれに二人はふらつくことはない。互いの一撃を受け止め、振り払うようにもう片方の手を振るう。
「ペッ」
ティオスの口から出た唾は赤くなっている。対する天海も口から鮮血が零れていた。
「最高だ・・・お前と命を削るこの戦いが・・・俺にとっての最高の幸福だ」
命の危険にさらされているはずなのに・・・天海はそれを微塵も感じさせない。それどころか、命が削られていき、死に近付いていくのを楽しんでいるかのようだ。
(相変わらず狂っている・・・だが、それは俺も同じか)
今の状況を少し楽しんでしまっているティオス。目的のために彼は邪魔である存在なのに、この時間が長く続いてくれればと思ってしまっている。
(しかし、終わらせなければならない。そろそろ次のステップに進まーーーー)
「「!!」」
そこまで考えていると突如二人が同時に空を見上げた。太陽の光に照らされた翼を広げた何かは、二人の間に勢いよく舞い降りた。
「よぉ、待たせたな」
真っ白な翼に光り輝く肉体。しかし、その顔は間違いなくティオスが最も警戒していた少年。
「なんだ・・・この感覚は・・・」
言葉を失っているティオスと感じたことのない魔力を感じている天海。二人の視線が突き刺さっているにも関わらず、シリルの表情は一切乱れていなかった。
「このタイミングで来るとは・・・ちょっと想定外だった」
いつかは目覚めて挑んでくることはわかっていた。しかし、そのタイミングが彼の想定よりも遥かに早い。ましてや妖精の心臓を手に入れてくることなど、誰が考えられたであろうか。
「く・・・くく・・・」
どうしたものかと頭を悩ませているティオス。それとは別に、天海は不敵な笑みを浮かべていた。
「これはいい・・・ティオス以外にもこれほどの強者がいたとは・・・」
新たな強者の登場に喜びの感情が抑えきれない。ティオスを倒して終わるかと思っていた戦いに、次なる標的が出てきたからだ。
シリルは彼からの熱視線に気が付いた。だが、その姿を一瞥すると、小さくため息を付いた。
「天海・・・悪いけどお前に興味ないわ」
「何?」
その言葉に目を細めた天海だったが、突如に鈍い痛みが腹部を襲う。
「ゴフッ・・・」
口から溢れ堕ちる鮮血・・・その理由はぽっかりと空いた腹部の穴。
「バカな・・・いつの間に・・・」
天海・・・いや、ティオスですら気付かないほどの光速攻撃。信じられない出来事にティオスは目を見開いていた。
「お前じゃ相手にならない。そこで大人しく寝てろよ」
「くっ・・・そ・・・」
どんどん血の気が引いていき地面へと崩れ落ちる。奇しくも彼が撃ち抜かれたのは、レオンに貫かれた部位と全く一緒だった。それがさぞ悔しがったのだろう、彼の顔はショックと絶望が入り交じったような表情になっていた。
「さて・・・と」
血の海に沈む天海から向き直るシリル。その少年の不敵な笑みに、ティオスの頬を冷たいものが流れる。
「こいつは想定外だ」
自分の脅威になることは薄々勘づいていた。だが、それでも彼を止めることは容易いことだと思い、放置してきた。それがここまで悔いることになるとは思いもしなかった。
「次はお前の番だ」
最強の力を手に入れた水の竜。それを間近にした絶対的な悪魔の表情に、焦りが浮かんでいた。
後書き
いかがだったでしょうか?
ずいぶんお久しぶりになりました・・・はい
アニメも追っかけられないくらい忙しくて・・・ということにしてください
あと少しで終わるはずです。
ただこのバトル・・・大魔闘演武の再来になりそうでちょっと不安・・・
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