| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

戦国異伝供書

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第四十四話 上田原の戦いその十

「さて、傷が癒えたしじゃ」
「ならですな」
 信繁が晴信に応えた。
「これよりあらためて」
「信濃の北に出陣じゃ」
「そうしますな」
「そしてじゃ」
 晴信は信繁に微笑みさらに述べた。
「いよいよじゃ」
「信濃の北を完全に手に入れますな」
「そうじゃ、しかしじゃ」
「しかしといいますと」
「わしは傷を負った」
 その上田原の戦でというのだ。
「そして村上家も小笠原家もじゃ」
「まだですか」
「そうじゃ、まだじゃ」
 今の彼等はというのだ。
「わしが手傷を負ってじゃ」
「動けぬとですか」
「思っておろう」
「はい、それは」
 信繁は晴信に言われてすぐに答えた。
「やはりです」
「普通は一月で癒えぬ傷だったからのう」
「間違いなくそうでした」
「しかしじゃ」
「そこをですか」
「あえてじゃ」
 こう信繁に言うのだった。
「使うのじゃ」
「兄上は今は出陣出来ぬ」
「そうじゃ、軌道じゃ」
 ここで孫子の言葉も出した。
「兵は軌道じゃ」
「敵を騙してこそ」
「わしがおらぬと思わせてな」
「実はですな」
「そうしてじゃ」
 そのうえでというのだ。
「敵を攻めるのじゃ」
「そうしますか」
「そしてな」
「その軌道は」
「影武者じゃ」
 信濃の北に向かう時に晴信が信繁に話したことだ。
「あれを使う」
「やはりそうですか」
「お主とじゃ」
 まずは信繁に言った、そしてだった。
 弟の一人である武田信廉を見て彼にも声をかけた。
「孫六、お主もじゃ」
「兄上の影武者にですか」
「なってもらうがいいか」
「確かにそれがしは」
 信廉は長兄の言葉を受けて彼に応えた。
「顔立ちが兄上によく似ておりまする」
「二郎と共にな」
「だからですか」
「二郎とお主はじゃ」
「兄上の影武者になり」
「敵を惑わすのじゃ」
 こう信廉に言うのだった。
「よいな」
「わかり申した」
 確かな声でだ、信廉は晴信に答えた。見れば顔立ちだけでなく体型も信繁と同じく晴信によく似ている。声もだ。
「それでは」
「では諏訪の兜をな」
「はい、偽者をですな」
「二つ造ってじゃ」
 今度は信繁に応えた。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧