戦国異伝供書
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第四十四話 上田原の戦いその九
「その今川殿が織田家に一戦で敗れもしたら」
「その時は、ですか」
「我等は」
「用心してじゃ」
そのうえでというのだ。
「ことを進めねばな」
「なりませんな、確かに」
「お館様の言われる通りに」
「そうなれば織田家を足止めする者はいなくなる」
若し今川家が織田家に一戦で敗れでもすればというのだ。
「そうなってな」
「そして、ですな」
「織田家はですな」
「今川家という足止めがなくなり」
「思う存分動きますか」
「他の国に手を伸ばしてじゃ」
尾張の外の国々にというのだ。
「そしてそこにはな」
「美濃ですな」
「今我等が話しているあの国にもですな」
「手を伸ばしてくる」
「そうなりますか」
「そうかもな、しかしわしは焦るつもりはない」
ここでもこう言う晴信だった。
「いつも言っておる通りにな」
「焦っても何もならぬ」
「焦って何かしてもしくじるだけですな」
「周りが見えなくなり迂闊なおとをしてしまい」
「そうなるからですか」
「そうじゃ、だからじゃ」
それ故にというのだ。
「わしとしてはじゃ」
「焦らずにですな」
「地固めをして」
「そして地固めがしっかりしてからですな」
「次の手を打ちますな」
「そうじゃ、そうするからじゃ」
晴信は甘利と板垣に話した。
「美濃もじゃ」
「尾張から美濃の稲葉山城は目と鼻の先ですが」
板垣が真剣な顔で主に述べた。
「しかし尾張から進むと」
「川が複雑に入り組んでおるな」
「只でさえ攻めにくい城だというのに」
「だから流石にとわしも思っておる」
「簡単には攻め落とせませぬな」
「織田家があの城を攻めこまねている間に」
「我等はですな」
「美濃の東から入ってな」
そうしてというのだ。
「あの城を東から攻めてな」
「織田家が手をこまねいている間に」
「攻め取る、若し織田家があの城を攻め落としても」
「美濃の東を押さえておきますな」
「そうしてまた機を伺う」
そうするというのだ。
「そうする」
「そう致しますか」
「先の先の話にしても」
甘利も晴信に話した。
「しかしですな」
「うむ、今からじゃ」
「しかと考えておくべきですな」
「そうじゃ、だからじゃ」
それ故にというのだ。
「わしは焦らぬ、焦って取り返しのつかないしくじりをせぬ為にな」
「左様ですな」
「では今は」
「傷を癒そうぞ」
上田原でのそれをというのだ、そして実際にだった。
晴信は甘利そして板垣と共に湯に入り続け傷を癒した、そうして一月程入ると傷はすっかり癒えた。
それで己の館に戻ってだ、家臣達に言った。そこには甘利と板垣もいる。
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