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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第7章:神界大戦
  第208話「決死の撤退」

 
前書き
現在の状況を例えるなら、ラスダンで負けイベ&味方の強キャラが犠牲になって撤退を余儀なくされる的な状態です。
飽くまで例えで、それだけピンチというだけなので、どうなるかは別ですが……
 

 










「………」

「……桃子?どうかしたのかい?」

 高町家にて、なのはの母親である桃子はじっと窓の外を見つめていた。
 正確には、その先にある八束神社の方向を。

「……いえ、何でもないわ……」

 心配した士郎が声を掛けるが、何でもないと首を振る桃子。
 どう見ても不安そうなのは、見て取れた。
 当然、士郎が気づかないはずもない。

「……皆が、心配なのか」

「っ……そう、ね。なのはだけじゃなく、皆、戦おうと思った人は戦いに行った。……勝てるかどうか、全くわからないというのに」

 不安に思うのも尤もだ。
 いくらなのはが優秀な魔導師とはいえ、相手は神。
 基準となる強さを知らない桃子でも、そんな相手が一筋縄ではいかないのは理解出来た。
 なのはだけじゃない。戦いに行った者のほとんどが彼女の知る者だ。
 知り合いが戦うというだけで、不安なのだ。

「……信じるしかないよ。なのは達は弱い訳じゃない。あの子達は覚悟して戦いに行ったんだ。なら、僕らは信じて無事に帰ってくるのを待つだけだ」

「……そうね……」

 それでも、不安は拭えない。
 そんな面持ちで、桃子はしばらく八束神社の方角から目を逸らさなかった。

「(……無事に、帰ってきて……)」

 口にはせずに、心の中でなのは達の無事を祈る。





   ―――そっと、覚悟を決めたように、手を握りながら……





















「……そうか」

 ソレラの言葉に、優輝達を重苦しい雰囲気が襲う。
 その中で、まるで納得が行ったように、優輝は返事を返した。

「感情が消えたからか、この程度は揺さぶりにすらなりませんか。……まぁ、他の方に影響を与えられるだけいいですが」

「っ、ぁああああっ!!」

 優輝の代わりに、大きく反応した者がいた。緋雪だ。
 緋雪はシャルを通して魔力の大剣を作り、ソレラへと斬りかかる。

「緋雪!?ダメよ!」

「ッッ……!」

 優香が制止の声を上げるが、無意味に終わる。
 振るわれた大剣は、ソレラを守る神によって防がれた。

「邪魔ッ!!」

「何……!?」

 が、緋雪はその上から殴り飛ばす。
 “押し通る意志”が強かったため、それを食らった神は後退する。

「っぁあああっ!!」

 そのまま、緋雪はシャルを一閃。
 ソレラの護衛を無理矢理吹き飛ばす。

「今!」

「ッ!」

   ―――“Delay(ディレイ)

 その隙を狙っていたかのように、司と奏が動く。
 司は祈りによる身体強化で、奏はいつもの移動魔法で間合いを詰める。
 サイドからの挟撃。護衛を緋雪が吹き飛ばした今、ソレラ自身が対処しなければならない……かに思われた。

「嘘……!?」

「リカバリーが、早い……!」

 それよりも早く、他の神が防ぎに入った。

「“守られる性質”を甘く見ましたね」

「っぐ……!?」

「ぁああっ!?」

「ッ……!」

 攻めに入った三人は、割り込んだ神によって吹き飛ばされる。

「……そうかい?」

「……はい?」

 だが、それとは別に動いていた者もいた。
 発言したのは紫陽。そして、発現と同時に何人かの砲撃魔法が放たれた。
 ……尤も、その攻撃もあっさり防がれたが。

「守る者に影響を与える。その効果をある程度は推測してたさ。三人の攻撃が通用すれば……とも思ったけど、備えあればってね……!」

「息を合わせて!」

「はい!」

「ッ……!」

 術式が起動する。
 とこよ、ユーリ、サーラが強力な一撃を放とうと、力を溜める。

「誰かが割り込むのは予想済みさ!そして、その分包囲が薄くなる。そこを突破しようって訳さ!」

「ッ……!」

「邪魔はさせない」

 紫陽の言葉を聞いた瞬間、ソレラの動きを阻止するために優輝が動く。
 創造魔法による剣群、霊術の嵐、砲撃魔法。
 それらを一斉に放ち、さらに転移魔法からの近接戦も仕掛ける。

「くっ……!」

 当然ながら、今までと同じようにその攻撃は通じない。
 だが、目的はソレラの打倒でも、足止めでもない。
 狙いは、他の神の邪魔をされないための牽制だ。
 それは優輝だけでなく、手が空いていたクロノやユーノも行っていた。
 魔力弾が、バインドが、砲撃魔法が神々の包囲に向けて放たれる。

「「「「ッッ―――!!」」」」

 果たして、時間稼ぎは成功に終わる。
 四人の攻撃は無事に放たれた。
 吹き飛ばされた緋雪達は、鈴が回収して既に体勢を立て直している。

「よし、これなら……!」

 直撃した事に、誰かが声を漏らす。

「……無駄ですよ」

「ッ……!?」

 だが、それを否定するようにソレラの声が響き渡る。
 四人の攻撃による煙幕が晴れ……破壊出来ていない結界と、攻撃を防いだ神がいた。
 
「気づいていれば、カバーする事など容易です。……まだ侮っているのですか?」

 嘲るように、ソレラが冷たく言う。
 未だに牽制となる魔力弾や砲撃魔法が飛び交っているが、それも防がれる。

「侮っちゃいなかったが……こいつは予想外さね……」

「やっぱり、斬った方が良かったかもね……」

 実際に攻撃した紫陽ととこよが悔しそうに言う。

「やはり出し惜しみはなしです」

「はい。もう一度……!」

「させませんよ」

 さすがに警戒されたのか、二度目を撃たせまいととこよ達に神々が集中する。

「くっ……!」

 妨害ありきで結界を突破できる攻撃は放てない。
 このまま隙を作り出すまで戦闘になるだろうと、戦闘態勢に入る。







   ―――……その瞬間を、意識が一か所に集中するのを、待っていた者がいた。





「“スターライトブレイカー”!!」

「“プラズマザンバーブレイカー”!!」

「“ラグナロク”!!」

 飛び交う魔力弾や砲撃魔法、霊術に紛れて、魔力が集束する。
 放たれるのは三つの……否、六つの魔法。

「“真・ルシフェリオンブレイカー”!」

「行くよ!“雷刃封殺爆滅剣”!!」

「砕けよ!“ジャガーノート”!!」

 なのは達だけでなく、マテリアルの三人も魔法を放つ。
 一つに束ねるように放たれた魔法は、ただ放たれただけでなく……

「術式保てるかな!?」

「保てるのか、じゃないわ。保たせるのよ!」

「砲口、広げて……!」

 アリシア、アリサ、すずかによる霊術の“砲口”を通していた。

「なっ……!?」

 さすがに、予想外だったのかソレラの顔が驚愕に染まる。

「本命はこっち……!二段構えって奴だよ!」

 ただでさえ、六人の強力な魔法だ。
 そして、それを術式の崩壊ギリギリまで霊術で増幅した。
 増幅した六つの魔法と、結界を打ち砕かんとする計九人の“意志”。
 それらが、結界を撃ち貫く。

「ッ……転移!」

 すかさず、優輝やシャマルが転移魔法を発動させ、結界外へと脱出する。
 距離の概念がなくとも、“範囲外に脱する”という“意志”があれば逃げられた。







「っ………皆、いるか!?」

 転移後、何度か短距離転移を繰り返しながら逃げ続ける。
 そんな中、クロノが全員揃っているか確認する。

「いるよ!」

「こっちも大丈夫!」

「こちらもです!」

 各々から声が上がり、無事が確認される。

「……帝だけか。いないのは」

「転移ばかりしてたけど、見当たらなかったよね……」

 幸い、初撃で吹き飛ばされた帝以外は欠けていなかった。
 しかし、その帝は今まで見かけていない。
 どうなったのか、誰にもわからなかった。

「念話はどうだい?」

「さっきから試している……が、デバイス間の通信もできないようだ」

 念話出来ないか紫陽が尋ねるが、既に優輝が試していた。
 結果は繋がらず。リヒトからエアへの通信も出来なかった。

「じゃあ……」

「無事でいる……その可能性は低いな」

 神界で単独行動は危険極まる。
 ただでさえ敵と味方の区別がつかないような状況だ。
 戦闘も一対一でさえ一人で乗り越えるのは困難となっている。
 そんな状態に、帝は陥っているのだ。

「っ……!」

 何人かが“探そう”と言う考えを口にしようとして、思い留まる。
 そんな余裕がない事ぐらい、誰もが理解出来ていた。
 危険を冒すどころか、危険の真っ只中でさらにリスクを冒す事は出来なかった。

「辛い選択だが、今は見捨てるしかない……」

「……行くぞ。立ち止まっていたら、すぐ追いつかれる」

 クロノが苦虫を嚙み潰したように言い、優輝が催促する。

「………」

 飽くまで冷静に判断し、行動する優輝に、何人かの視線が集まる。
 つい先程、優輝はソレラに“貴方のせい”だと言われた。
 何も鵜呑みにする者はいない。しかし、思う所はあった。
 そして、優輝本人がどう思っているのか心配する者もいた。

「……敵の狙いは僕だ。いざとなれば、僕を囮に逃げろ」

「ッ……!お兄ちゃん!?」

 その視線に気づいてか、優輝がそんな発言をする。
 それに真っ先に反応したのは隣を並走していた緋雪だ。

「何を言ってるの!?そんな事……!」

「狙いが僕なら、他の皆に無闇に手を出す事もないだろう」

「ッ………」

 分かっていた。感情がない今の優輝なら、こう判断するだろうと、緋雪は分かっていた。

「……そうとは限らない。限らないよ」

 だからこそ、出来る限りその判断を否定しようと、反論する。

「相手は神。お兄ちゃんが狙いで、囮になっても手を出さないとは限らないよ。……私達を利用してでも追い詰めるつもりなんだから、意味がないよ」

「それでもだ。……僕の事で巻き込みたくないからな」

 だが、それでも優輝は押し通す。押し通してしまう。
 言葉で止めても、行動で止めても、優輝はその行動を止める様子はなかった。

「優輝……」

「………」

 止める事が出来ないため、心配そうに見るしかない。
 そんな、優香や光輝から送られる視線に、優輝は向き合おうとしなかった。
 ……感情もないのに、それを避けるようにして。

「とにかく、今は出口に……」

「出口……そうだ、椿さん達は……!?」

 話を切り替え、撤退を優先する。
 その際に、祈梨の護衛をしていた椿達の事を思い出す。

「……ソレラが洗脳されていた以上、彼女も正気とは限らない」

「なら、急がないと!……いや、撤退としても急いでたけど、それ以上に!」

 椿達が危ないと、今更ながらに緋雪は危機感を抱く。
 緋雪だけでなく、話を聞いていた全員が急ごうとする。





「行かせんぞ」

「行かせません」

「ッ……!」

 だが、それを遮るように声を掛けられた。
 振り返れば、そこには数人の人影が。

「羽に、輪……?」

「“天使”……!」

 現れたのは、天使の如き羽と幾何学模様の輪を持つ者達だった。
 祈梨から聞いていた、神界の神の眷属たる“天使”だ。

「っ………!」

「ぁ……」

 その姿を見て、奏となのはが一際強い反応を見せる。
 その身に宿る“天使”の影響だが、今はそれを気にしている暇はなかった。

「追いつかれたか……!」

「どうする……?」

 それよりも、どうするべきか。
 追いつかれた現状、このまま逃げる事は出来ない。
 しかし、だからと言ってまともに相手をしていたら取り囲まれてしまう。

「……僕が相手を―――」

「………」

 優輝が前に出て、囮になろうとする。
 ……それを、先に出て制する者がいた。

「……行って……!」

「えっ、司!?それに奏と緋雪も!?」

 前に出たのは、司と奏、そして緋雪。
 まるで“ここは引き受ける”とばかりに“天使”達に立ち塞がった。

「なぜ……」

「……少しぐらい、私達を頼って」

「っ……!」

 どうして囮になろうとするのか、優輝が尋ねようとする。
 だが、その前に司が寂しそうに言ったその言葉に遮られた。
 感情がないにも関わらず、優輝の目が僅かに見開かれた。

(かなめ)はお兄ちゃんだから。……その要の存在を、失う訳にはいかないよ」

「緋雪……!」

「ごめん、お母さん、お父さん。……でも、安心して。もう帰れない、なんて思わないから。……絶対に、追いつくよ」

 “ここで終わるつもりはない”と、緋雪は優香と光輝に言う。
 そして、“天使”達に向き直り、無言で霊魔相乗を行使する。

「こういう時のために、魔力の予備は用意しておいたわ」

「魔力結晶……その様子だと、相当な数を……」

「100個から先は数えてないけど……まぁ、その数倍はあるわ」

 神界において、魔力の回復はあまり必要ない。
 だが、一時的なブーストにはなる。
 その魔力結晶を、奏は大量に用意していたのだ。

「私は……まだ、恩に報い切れていないから」

「……奏……」

「優輝さんに貰った命。ここで終わらせるつもりはないわ」

 静かに揺らめく奏の魔力と霊力。
 それらは螺旋状に絡み合い、緋雪と同じく霊魔相乗となる。
 その力の静かな力強さから、奏の覚悟が滲み出ていた。

「……優輝君。私達はね、ずっと頼ってた優輝君に、頼ってほしかったんだ」

 最後に、司が優輝に話しかける。
 ジュエルシードの一つが司の傍に出現し、結界が展開される。
 その結界が、“天使”達を阻む壁となり、司達と優輝達を分離させた。

「そのために、強くなろうと、私達は思ったんだ」

 一つ、また一つとジュエルシードが現れる。
 その度に司の体を淡い光が包み込む。

「……だから、頼って。信じて。私達を」

「司……」

 一つ一つが祈りの結晶。
 そのため、司の想いに呼応し、司を強化していく。

「行くよ、奏ちゃん、緋雪ちゃん」

「ぁ……司!二人も!待っ―――」

 三人の強い覚悟を感じて、言葉を挟めていなかったアリシアが、止めようとする。
 だが、言葉を遮るように司がシュラインの柄で地面を叩いた。
 同時に、いつの間にかセットしてあった転移魔法が発動。優輝達全員を転送した。
 ……司達三人を残し、他の皆を逃がすために。

「……来なよ。今回の私達は……」

「一味、違うよ?」

「覚悟する事ね」

 魔力を、霊力をプレッシャーとして放ちながら、三人は相対する“天使”達を挑発する。
 戦力は司達の方が低いと思えるだろう。
 しかし、侮るなかれ。

「“天使”……か」

「神の眷属……となるなら、さすがに神よりは弱いかな」

「……そうね」

 三人とも、そんなことは承知だ。
 それを覚悟の上で、対峙している。
 ……大事な人を、守りたいがために。

「でも」

「負けるつもりはないわ」

「……だね」

 その“想い”が力となる。
 それは“天使”達が相手でも引けを取らない。

「絶対に、ここは通さない!!」

「お兄ちゃんの下には、辿り着かせないよ!!」

「倒されたい者から、かかってきなさい……!!」

 “天使”達が一斉に襲い掛かる。
 直後、初撃を司が放つ。

「はぁっ!!」

 魔力を爆発させ、襲い掛かった“天使”達を吹き飛ばす。
 奏と緋雪もその範囲内だったが、二人は転移魔法で回避していた。

「そこ!」

「シッ……!」

 転移した直後、奏と緋雪は爆発から逃れた“天使”に切りかかる。

「くっ……!」

 だが、相手も弱い訳ではない。
 緋雪の圧倒的怪力でも、奏の瞬間的な速さでも一撃を与えられず、防がれる。

「なら……!」

「これでっ!」

 ならばと、奏が即座に次の行動を起こす。
 移動魔法で再び死角を突き、しかしながら攻撃を当てることはしなかった。
 飽くまで隙を作るために、相手の光で構成された武器を弾く。
 そして、間髪入れずに緋雪の攻撃が放たれ、“天使”の一人が吹き飛ぶ。

「(最初よりも数が増えている……でも!)」

 司も次の行動を起こしていた。
 神の眷属である“天使”は神一人につき一人ではない。
 そのため、数は神よりも多く、既に接敵した時の数倍の数になっていた。
 だが、司はそれを捕捉し……

「輝け、星々よ!」

   ―――“étoile splendeur(エトワール・スプランドゥール)

 牽制、あわよくば撃墜する勢いで、弾幕を展開した。
 ジュエルシードは全て使用しているため、その展開数と威力も計り知れない。
 殲滅力で言えば、優輝達の中でもトップクラスになるほどだ。

「奏ちゃん!」

   ―――“Zerstörung(ツェアシュテールング)

「ええ……!」

   ―――“Delay Triple(ディレイ・トリプル)

 その弾幕の中に、さらに緋雪が破壊の瞳で攻撃を仕掛ける。
 これで、全体に牽制且つダメージを与えられる。
 ……そこから先は、奏の仕事だ。

「シッ……!」

 倒す“意志”を込め、“天使”達を一人ずつ倒そうと攻撃する。
 致命傷を与えようと、数撃程度では“意志”は挫けない。
 そのため、攻撃を当てても途中で妨害が入るが……

「ッ……!」

   ―――“Delay Double(ディレイ・ダブル)
   ―――“Angel Feather(エンジェルフェザー)

「はぁああっ!!」

 それを奏は移動魔法で躱し、置き土産に羽型魔力弾の弾幕を展開する。
 同時に、入れ替わるように緋雪が攻撃を仕掛ける。

「はっ、せぁあっ!!」

 一撃一撃が奏を遥かに凌ぐ威力を持つ。
 まともに食らえば、いくら“天使”達と言えど、大きく“意志”が削られた。
 ただ乱暴な一撃でもなく、とこよや優輝によって、緋雪の攻撃には技術がある。
 そのため、一対二、一対三であろうと、攻撃を弾き、反撃出来ていた。

「『退いて!』」

「「ッ!!」」

   ―――“poussée(プーセ)

 弾幕の中の攻防。それも長続きはしない。
 “天使”達も対応し、役割分担をして三人を撃破しようとする。
 だからこそ、司は先に行動を変えた。
 念話で二人に合図を出し、飛び退くと同時に重力魔法を仕掛けた。
 “天使”達は突如掛かった強力な重力に身動きが取れなくなる。
 中には、重みに耐えきれずに潰れている者もいた。

「……何人、倒した?」

「……1、2………10人ちょっと、かな」

「思ったより多い……かな?」

 一度三人集まり、現状を確認する。
 倒した数は十人余り。対し、“天使”の数は増える一方。
 それでも、緋雪達にとって()()()()()()()()だった。

「……まだまだ、ね」

「“天使”ばかりだから、何とかなっているのかもね」

「……そうだね」

 神であれば、もっと苦戦するだろうと、司は言う。
 三人の推察通り、“天使”達は神の眷属であるために、主である神より弱い。
 だからこそ、まだ司達が優勢であれた。

「(“天使”ばかり……?ちょっと待って、それって……)」

 そこでふと、緋雪はある事に気付く。
 今までは“天使”達と接敵する事はなかった。
 事前に“天使”について知っていなければ、それが“天使”だと分からない程だ。
 そんな“天使”達が、突然大群で現れた。

「ッ……!?もしかして……!」

「ど、どうしたの!?」

「“天使”がここに集結してるって事は、その主の神は……!」

「あっ……!?」

 緋雪の言葉に、司も奏も理解する。
 そして、同時に顔を青くした。

「優輝君……!」

「司さん!」

「ッ!!」

 思わず優輝達を転移させた先に、気を逸らしてしまう司。
 その隙を“天使”が突こうとして、緋雪の声と共に奏が割り込む事で防ぐ。

「足止めは向こうも同じって事……!してやられたよ!」

 油断などしてはいなかった。しかし、切羽詰まった状況ではあった。
 そのため、気づけなかったのだ。……これが陽動で、本命は別にあると。

「そもそも、神界にこっちの常識が通用するはずない!」

「じゃあ……!」

「全部、掌の上かもね……!」

 “天使”達の攻撃は続く。
 それを凌ぎつつ、だが徐々に三人の精神的余裕は削れていく。
 まだまだそれは保たれているが、いつまでも耐えられる訳じゃない。
 ……競り負けるのも、時間の問題だった。



















「―――って!っ、あ……」

「行くぞ」

「ッ……!」

 一方で、転移させられた優輝達。
 止めようとしていたアリシアは、転移させられた事に気付き、呆然とする。
 しかし、呆けている暇はないと、優輝がアリシアの襟首を掴んで移動を再開する。

「っぐ……!?ちょ、優輝!離して」

「悪い、呆けている暇はなかったからな」

 すぐにアリシア自身も呆けている場合じゃないと理解したため、その手はすぐ離れる。
 アリシア以外も、呆然としている者がいたが、同じように冷静に状況を判断できる者が引っ張っていた。

「しかし、ますます不味い状況だよ。転移に転移を繰り返し、具体的な位置も分からない。距離の概念がないためか、入口近くで待機している連中の気配も感じないよ。……葉月の気配すら」

「うぁー、ただ単に私の気配察知が届いていないかと思ってたら……ホントだよ。蓮さんとの繋がりも感じられない……契約自体はそのままだけど、繋がりを表す糸が途中で見えなくなってるみたい」

 紫陽の言葉に、アリシアも自身と契約している蓮との繋がりがない事に気付く。
 契約そのものは消えていないため、やられた訳ではないとはわかるが、それでも場所も気配も一切わからないという状態だった。
 紫陽もまた、妹である葉月の気配を感じられずにいた。
 本来ならば、姉妹と言う“縁”から簡単に気配が分かるはずだというのに。

「じゃ、じゃあどうするのよ……これじゃあ、あたし達、迷子も同然じゃない……」

「………こっちだ」

 不安を吐露するように、アリサが皆の思っている事を代弁する。
 そんな皆に、優輝が行く先を示す。

「……わかるの?」

「確証はない。……だけど、闇雲よりはいいと判断できる感覚だ」

 とこよが自信があるのか尋ねる。
 しかし、優輝の返答はどこか要領が得ない。

「“道を示すもの(ケーニヒ・ガイダンス)”……効果の分からないレアスキルだったが、効果そのものが抽象的とはな」

「ケーニ……なんだって?」

「ケーニヒ・ガイダンス……道を示すもの、だ。リヒトに記録しておいた、かつて存在した人の能力値を可視化する力で判明した、効果の分からなかった能力の事だ」

 その能力が今こうして、自分達に道を示しているのだと、優輝は言う。

「俄かには信じられんが……何もないよりはマシか」

「ああ。……だが、どの道変わらないだろうな」

「……?それはどういう……」

 優輝の言葉に、クロノが首を傾げる。
 ……答えは、すぐそこに来ていた。

「ッ……!」

 直後、優輝が何名かを転移させ、自身も飛び退いた。
 すると、そこへいくつもの雷が降り注いだ。

「見つかった」

「っ、そういう事か……!」

 少し離れた位置に、神が何名かいた。
 捕捉された事に、優輝達が把握している間にも、その数は増えていく。

「……突破するしかないだろう」

「逃げるって言っても、どこにって話だしね……!」

「総員、構えなぁ!!」

 すぐさま全員が戦闘態勢に入る。
 敵戦力を分析する暇もない。
 足を止めれば、たちまち競り負けると全員の本能が警鐘を鳴らしていた。





















   ―――……未だ、神界の出口は見つからない……

















 
 

 
後書き
砲口…簡単に言えば増幅装置。霊術と魔法の相性の問題は特訓時に解決済み。


ちなみにですが、優輝と緋雪以外の霊力&魔力保持者も霊魔相乗を使えるようになっています。さすがに、まだ制御しきれないため負担は残っていますが。
優輝→10割以上、緋雪→10割、司→5割前後、奏→7割前後な感じで扱えます。 
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