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ある晴れた日に

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432部分:夏のそよ風吹く上をその十五


夏のそよ風吹く上をその十五

「それでですね」
「それで」
「本当にすいません」
 深々と頭も下げてきた。正道にとってはここまでの母親の動作がどれも違和感に満ちたものに感じられてきた。少しずつではあるがそう思えてきたのだった。
 だがそれは気のせいかも知れないと思い今は言わなかった。その間に未晴の母はさらに言ってきたのであった。
「また来られるんですか」
「駄目でしょうか」
「いえ」
 またしてもであった。困ってはいるがそれでいて嬉しいような。損な顔を見せてきたのであった。
「それは別に」
「じゃあいいですか」
「御願いします」
 そしてこう言ってきたのだった。
「それで」
「わかりました。それじゃあ明日も」
「未晴のこと」
 ふと言ってきたのだった。
「大切に思ってくれてるんですね」
「竹林さんのことが」
「前にも言いましたけれど」
 俯いていた。その俯いた顔での言葉だった。
「未晴はですね」
「竹林さんは」
「音橋さんのこと時間があれば言ってましたから」
「そうだったんですか」
「咲ちゃん達もいつも電話してくれて」
 今度は咲達の話もしてきた。
「いつも家にまで来てくれるし」
「あいつ等もですか」
「ずっとね。未晴と一緒にいたから」
 このことはもう正道もよく知っていた。咲達がどれだけ未晴を大切に思っているのかは。
「それで心配して来てくれるのよ」
「あいつ等はそうでしょうね」
「時々他のクラスメイト達も来てくれるけれど」
「他の」
「ええ」
 こう彼に話すのだった。
「そうなの、けれど男の子でこんなに毎日みたいに来てくれるのは」
「俺だけですか」
「だから。有り難う」
 また正道に対して礼を述べてきた。
「有り難う。本当にまた来て」
「わかりました」
「未晴はまだ」
 ここでまた何か言おうとしたのだった。
「まだ・・・・・・いえ」
「いえ?」
 ここでもおかしいと思い。無意識のうちに尋ねてしまったのだった。
「どうかしたんですか?」
「何でもないわ」 
 しかし正道にこう返しただけであった。
「何でもないわ。気にしないで」
「そうですか」
「ええ。本当に何でもないから」
 一度言えばいいところを何度も繰り返すのだった。
「気にしないで」
「それでしたら」
「とにかく今日はまたね」
 そして正道に告げるのだった。
「今から未晴の御飯作らないといけないから」
「わかりました。それじゃあまた明日にでも」
「よかったら来て。それじゃあまたね」
「失礼しました」
 多分に違和感を感じながらも未晴の家を後にするのだった。この日も正道は彼女に会えなかった。そのうちに夏休みが終わろうとしていた。
 その夏休みの終わり間際のことだった。江夏先生と田淵先生が二人でいた。しかしそこはいつもの白鯨ではなかった。誰もいない学校の生徒指導室において。二人で向かい合って座っていた。 
 学校は夏休みだ。それに生徒が碌にいないのにそれで生徒指導室など誰も使いはしない。それどころか前を通る人間さえ滅多にいない。そんな部屋の中で向かい合って話をはじめようという二人であった。
 
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