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ある晴れた日に

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429部分:夏のそよ風吹く上をその十二


夏のそよ風吹く上をその十二

「しっかりとな」
「そうしなさい。それじゃあ行くのね」
「ああ。行って来る」
「お弁当はいらないの?」
「マクドナルドがある」
 そこで食べるというのである。
「そこに入る」
「そう。じゃあそうしなさい」
 また息子の言葉を受けた彼女だった。
「マクドナルドでね」
「そうする。じゃあ行って来る」
「それにしても」
 再び背を向けた息子を見て困ったような微笑みを見せてきたのだった。
「あんたもやっぱりお父さんの子供ね」
「親父とか」
「無愛想なんだから」
 微笑みには苦笑いが入っていた。その微妙な黒いクリープが入った微笑みで彼に告げるのだった。母親として。
「お父さんの最初の時とね」
「今の親父も無愛想なものだ」
「今はかなりましになったのよ」
 こうも述べるのだった。
「あれでね」
「あれでか」
「そうよ。あれでね」
 こう述べるのだった。
「ましになってるから」
「昔はもっと酷かったんだな」
「もうそれこそ。何て言ったらいいかしら」
 言いながら息子の顔を見るのだった。そのうえでまた言ってきた。
「あんたとそっくりだったわ」
「俺とか」
「あんたがお父さんにそっくりって言った方がいいけれど」
 確かにそちらの方が正しい言葉だった。この場合は。
「何もそんなところまで似なくてもって思うけれど」
「意識してなったわけじゃない」
 こう返す正道だった。背中を向けたまま。
「別にな」
「意識してなれるものじゃないわよ。まあそれでも」
「行って来る」
「何かわからないけれど頑張りなさい」
 玄関を開けた我が子に最後に告げたことばだ。
「あんたのやれる限りのことをね」
「わかった」
 今の母の言葉にも頷いた。
「やれるだけな」
「駄目だと思ってもそこからまたやれる場合もあるし」
「最後の最後まで諦めるかか」
「あがいて無駄なことってないわ」
 また息子に告げたのだった。
「絶対にね」
「悪あがきでもか」
「悪あがきであればある程いいのよ」 
 これが彼の母の言葉だった。
「わかったかしら」
「一応はな」
「わかったら行きなさい」
 微笑んで息子を送り出す。
「それじゃあね」
「行って来る」
 こうして彼は家を出た。まずはそのままミスタードーナツに入った。その多くの町にある如何にもアメリカンな店の中に入ると早速女の子の店員が笑顔で出迎えてきた。
「いらっしゃいませ」
 ミスタードーナツの制服もお決まりのものだった。そこにあるドーナツも。正道は制服を見ずにそのドーナツを見てすぐに言うのだった。
「まずはエンゼルショコラと」
「はい」
「それとオールドファッションがいいな」
「オールドファッションですね」
「あとは幾つかだな」
「どういったものがいいですか?」
「幾つかそっちで選んでくれるか」
 ここは店員に任せることにしたのだった。
「いいものをな」
「いいものですか」
「そうだな」
 少し考えてから。こうも述べたのだった。
 
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