戦国異伝供書
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第四十四話 上田原の戦いその二
「しかし足軽に槍を持たせるとな」
「違いますな」
「横から攻めても強く退く時もじゃ」
「槍を出したままゆっくりと下がればいいですな」
「だから強い、それでじゃ」
晴信はさらに話した。
「わしもこの度はじゃ」
「しかとですな」
「考えてじゃ」
そしてと言うのだった。
「攻める」
「そうしますな」
「だからじゃ」
「この度は」
「そうじゃ、前から攻めることはな」
「しませぬな」
「騎馬隊を使ってもな」
それでもというのだ。
「そうしてもな」
「前からあの槍隊は突き破られぬ」
「それは出来ん、かえってじゃ」
「多くの兵と馬を失いじゃ」
「弾き返される」
「そうなってしまう、だからじゃ」
「騎馬隊を使わず」
信繁も言った。
「ここは」
「ゆっくりと近寄るが」
「そこで、ですか」
「敵は弓矢を使って来るが」
「こちらもですな」
「前に進みつつそうしてじゃ」
そしてと言うのだった。
「あれを使う」
「ここで、ですか」
「村上家の軍勢にも小笠原家の軍勢にもないな」
「そのないものを使う」
「うむ、高い買いものであったが」
晴信は少し苦笑いになってこうも述べた。
「しかしな」
「ここで、ですな」
「あれを使ってな」
「そしてそのうえで」
「勝つとしよう」
「それでは」
「戦に勝とうぞ」
こう言ってだ、晴信は兵を前に進めさせてだった。
そろそろお互いの弓矢が届く距離になってだ、ある者達に命じた。
「ではじゃ」
「これよりですな」
「我等がですな」
「うむ、攻めよ」
こう命じてだ、彼等に敵の軍勢に攻撃をさせた。すると武田の軍勢から突如として火が幾つも噴き凄まじい音がした。
その音を聞いてだ、村上家の者達も小笠原家の者達もだった。
大いに驚いて咄嗟に周りを見た。
「な、何じゃ!?」
「何じゃ今の音は」
「雷か!?」
「いや、天気は晴れておるぞ」
「前から聞こえたぞ」
「武田の軍勢の方から」
驚いたまま言うのだった。
「武田が仕掛けてきたのか」
「しかし何じゃ今の音は」
「一体何の音じゃ」
「何なのじゃ」
「これはまさか」
村上は最初に気付いて眉を顰めさせた。
「鉄砲か」
「あの噂のか」
小笠原は村上の話を聞いて言った。
「上方や薩摩で使われておるという」
「それをじゃ」
「武田の軍勢もか」
「持っておる、凄まじい音と共にじゃ」
村上は小笠原にさらに話した。
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