ある晴れた日に
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42部分:妙なる調和その三
妙なる調和その三
「どうにもこうにもな」
「それ野球の歌の楽譜だったの」
「そうさ。それだよ」
彼はまた楽譜を見ながら言う。
「チームの応援歌からして駄目だ。古い」
「古いんだ」
「古いだけじゃなくて北朝鮮の歌みたいだな」
これまた極端な酷評だった。
「もっとも巨人らしいって言えば巨人らしいな」
「大体巨人って北朝鮮そっくりじゃねえか」
「全くだぜ」
ここでは春華と野本の意見が一致した。
「会長の独裁だしよ」
「やりたい放題だしな」
「歌にもそれが出てるな」
正道は楽譜を見つつ顔を歪めさせていた。
「そういうことだな」
「まあ巨人の話はこれ位にしておく?」
恵美は静かにこう述べた。
「そろそろ到着だし」
「ああ、もうなの」
茜は今の恵美の言葉に顔を向けた。
「早いわね。案外」
「色々と話してたから時間経つの早かったな」
「そうだよな」
皆到着と聞いてこう述べた。
「到着ならな。それなら」
「荷物出すか」
「それは着いてからにしなさい」
江夏先生が皆の方に顔を向けて言ってきた。二人の先生はバスの一番前の席にいた。
「危ないからね」
「危ないのがいいんじゃないですか」
野本がまたとんでもないことを言い出してきた。
「スリルがあって」
「怪我したらその時点で強制送還だけれどいいのかしら」
「強制送還って」
「当然でしょ。林間学校よ」
本当の名前は親睦レクレーションなのだが生徒はおろか先生までこう呼んでいる。実際にやっていることがそれだからである。
「怪我していたら何もできないでしょ」
「ちぇっ、江夏先生は厳しいなあ」
「厳しいのがいいのよ」
先生も負けていない。
「そうでしょ?厳格な女教師ってね」
「先生、それ言ったら変な映画かビデオですよ」
千佳が素早く突っ込みを入れた。
「何か余計に」
「そういえばそうね。じゃあ取り消すわ」
「そうして下さい。御願いします」
「委員長も厳しいな、やっぱり」
坪本がそんな千佳を見て言う。
「折角のリラックスモードの場だってのに」
「怪我したら何にもならないでしょ」
千佳は今度はその坪本に対して言ってきた。
「だからよ。いいわね」
「わかったよ。じゃあ真面目に」
「おい、真面目なんて言うんじゃねえよ」
ここで野本が身体中をかきだした。
「蕁麻疹が出来るだろうがよ」
「ああ、そういえば御前真面目とか努力とかいう言葉が大嫌いだったな」
「聞きたくもねえよ」
佐々に対しても言い返す。その間にも身体のあちこちをかいている。
「そんな気色悪い言葉はよ」
「相変わらず変な体質だな」
「変どころか?」
「それどころじゃないわよね」
春華と明日夢がそれぞれ言う。
「どんな体質なんだよ、おめえよ」
「じゃあ何を聞けば治るっていうの?」
「怠惰とか自堕落とかだな」
つまりよくない言葉が好きなのだった。
「そういう言葉を聞くと治るぜ」
「やっぱりおかしいな」
「そうね。異常体質ね」
「異常でも何でもな。そうだから仕方ねえだろ」
どうやら自分でもどうしようもないらしい。
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