ある晴れた日に
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417部分:雉鳩が消えたその十七
雉鳩が消えたその十七
「何でこの連中浴衣着てそれでこんな話してるのに色気が全然ねえんだ?」
「ああ、色気な」
「そういやそれな」
「殆どねえよな」
「っていうか全然な」
これが男組のクラスの女組への感想であり評価であった。彼等は彼女達に対して親近感は感じても色気は全く感じていなかったのである。
「結構顔はいけてる奴等ばかりなんだけれどな」
「しかもうちの学校の女の制服ってスカート短いしな」
「だよな」
スカートが短い、それはその短さの分だけ男の目を引き付けるということでもある。男の目は本能的にスカートの短さに反応するものだからだ。
「それで何でこんなんなんだろうな」
「さてな」
「俺にも全然わからねえよ」
「それはあれじゃないかな」
ここで出て来た男がいた。
「あんまりにも開けっぴろげだからじゃないかな」
「おお、出て来たな」
それは竹山だった。野本は従兄弟の顔を見て思わず笑顔になるのであった。そうしてそのうえでその彼に対して言うのであった。
「よし、それで何だよ」
「僕達のクラスって皆仲いいじゃない」
「そうだね」
一緒に遊んでいた加山もいる。彼等は行動を共にしていた。ここでも。
「いじめとか喧嘩とか全然ないね。学級委員としては大助かりだよ」
「それでその分親しくなってるから」
「親しくなったら色気とか感じねえのかよ」
「だってかなり開放的になってるじゃない」
竹山が言うのはこのことだった。
「それでかえってね。色々見えるから」
「色気を感じない」
「そういうことか」
「成程な」
男組は彼の話をここまで聞いて納得できたのだった。
「そういや確かにそうだな」
「別に長い間一緒にいる妹に何か思ったりしないからな」
「って思ったら変態だろ」
「母ちゃんとかにな」
皆ノーマルであった。少なくともおかしな趣味や嗜好がないだけに彼等の言葉は極めて自然なものになっていた。これはいいことであった。
「そうか。俺達にとってのこの連中って」
「そういう相手なんだな」
「あくまで友達ってわけか」
友達であって彼女ではないということであった。
「だから別に色気を感じないんだな」
「何があってもな」
「そういうことだと思うよ。それでさ」
ここで話を変えてきた竹山だった。
「皆いいかな」
「おっ、オタク大王」
「いたの」
春華と明日夢が女組の中で最初に彼に気付いたのだった。
「もう射的終わったのかよ」
「随分荒稼ぎしてたそうね」
「ゲームソフトをね」
まんざらではないといった顔で彼女達に答える竹山だった。
「随分当てたよ」
「ちぇっ、射的の上手い奴はいいよな」
「全くよ」
彼の言葉を聞いて今度は口を尖らせる春華と明日夢だった。
「うちこういうのは弱いからな」
「私も。ちょっとね」
「まあ射的はいいとしてね」
竹山はそれが本題ではないというのだった。それでまた言ってきた。
「それよりもさ」
「ああ」
「どうしたの?」
今度は皆で彼女の話を聞きに入った。じっと彼を囲む。
「花火もうすぐだけれど」
「おっ、花火か」
「いいわね」
皆花火と聞いてその目の色を一斉に変えた。
「それで何処でやるんだよ」
「何処が一番よく見えるの?」
「川の土手のところだよ」
竹山は皆にそこだというのだった。
「そこが一番よく見えるから」
「よし、じゃあ食い物ありったけ買ってな」
「あとビール」
早速見事な連携を見せて的確に動きはじめる一同だった。やはり仲がいいことは事実でいざとなったらそのチームプレイも見事なものであった。
「もう飲めるだけ買って」
「いざ川の土手に」
「食い物は男が持つな」
「じゃあビールは私達ね」
「あと日本酒とコップも」
実に動きがいい。
「全部用意して」
「それで花火を見るとしようか」
「そうしましょう」
こんな話をしながら明るく皆で花火鑑賞に向かう。その頃連絡を受けた正道はとりあえずは安心していた。そして。
携帯をズボンのポケットになおして。呟くのだった。
「こういうこともあるか」
今はこう考えるのだった。しかしそれは大きな間違いだった。未晴に何が起こったのか、クラスの誰も知らなかった。それを知る由もなかった。
雉鳩が消えた 完
2009・8・16
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