ある晴れた日に
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41部分:妙なる調和その二
妙なる調和その二
「そうでしょ?」
「あれはもうそれどころじゃないでしょ」
今度は静華が言う。
「もうあれはね」
「古木は凄かったのよ」
明日夢の言葉は既に過去形になっていた。
「本当にね。黒江さんが置き土産になったって言ってたし」
「ネタ選手?」
「どう見たってそうだよな」
奈々瀬と春華は隣同士の席だった。そこで顔を見合わせている。
「ヤクルトであの守備だったらね」
「宮本さんに一から教育だよな」
「村田だって守備よくなったし」
「なってねえなってねえ」
野本がそれは全力で否定した。
「つうかあんなのセカンドに置く方がおかしいだろ」
「今はサードじゃない」
「そのサードの守備だって今一つ以下だろ」
何故かこうしたことには詳しい野本であった。
「どう見てもな」
「守備って大事だよね」
桐生はぽつりと言う。
「やっぱり」
「ドラゴンズね」
未晴が少し誇らしげになっている。
「うちの守備はね。完璧よ」
「悔しいけれど確かにね」
明日夢がまた苦い顔になっている。
「荒木と井端がね。特に」
「野球はピッチャーだけじゃないっていうのね」
咲にもこの言葉の意味はよくわかった。
「我がホークスって何か昔から守備範囲は広くてもグラブ捌きは雑な選手が多いのよね」
「そういえば鳥越がエラーしたら絶対負けてたわよね」
「そうだったね」
茜と恵美が頷き合う。
「今だって何か」
「守備範囲はともかくって感じみたいな」
「王さんはエラーも少なかったのに」
咲は何故かそれも知っていた。
「守備範囲も広かったしバントやゴロもフライも上手に捌いていたし」
「送球には?」
「それも万全だったわ」
野茂の問いにも答える。
「打つだけじゃなかったのよ」
「凄い選手だったのね。本当に」
皆あらためて王の偉大さを噛み締めるのだった。世界の王は伊達ではない。
「流石は世界の王」
「どっかの三千本安打とか番長と大違い」
これは皆の言葉だった。
「所詮巨人に魂を売った連中なんてよ」
「そんなもんだろ」
坪本と佐々も巨人には容赦がない。
「まあ王さんも巨人の人だったんだな」
「御前それは言ったら駄目だろ」
坂上に正道が突っ込みを入れる。
「もうあの人は巨人に戻らないっていうんだからな」
「だからいいんだな」
「ああ。俺はそう思うぜ」
坂上に応えながら楽譜を開いている。
「巨人から出たんならな。さっきの二人は別だけれどな」
「それはそうと音橋」
明日夢が彼に声をかける。
「あんたここでも一緒なんだね」
「一緒って何がだ?」
「だからさ。ギター持って来てるんだね」
彼女が指摘したのはこのことだった。
「ギター。ここにまで」
「ギターは俺の命だって言ってるだろ」
席から身体を乗り出して彼の方に顔を向けてきている明日夢に対して応える。
「だからな。ここにだってな」
「持って来ているのね」
「そういうことさ。それにしてもな」
「どうしたの?」
「阪神の歌はともかく巨人の歌は駄目だな」
ギターを手に楽譜を読みながらの言葉だった。
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