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『賢者の孫』の二次創作 カート=フォン=リッツバーグの新たなる歩み

作者:織部
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賢者の国の陰陽師

 
前書き
 ぶっ飛ばせ常識を~♪ 

 
 法眼が魔物の群れを制する間、カートが暴走する魔方陣を止めていった。
 コツがつかめたのか最初のひとつほど長くはかからず、すべての魔方陣を鎮静化することに成功した。

「やった……」
「あとはこの瘴気をどうにかしないとな」
「たしか浄化装置があったはずだ、制御室に行こう」
「いや、その必用はない。この程度、俺の術で祓い清められる――高天原天つ祝詞の太祝詞を持ち加加む呑んでむ。祓え給い清め給う――祓え給い清め給え――」

 天に意を奏上し、けがれを清める最上祓(さいじょうのはら)いの祝詞。 陰と陽、天と地、五行などの種々様々な気の偏りを削ぎ、あるいは逆に不足を補いならし、周辺一帯の霊的な浄化を行う呪術。
 最後に柏手を打つと辺りを充満していた悪しき気、邪悪な魔力は雲散霧消した。

「それが、あんたの世界の魔法か……。凄いな」
「いや、魔法というより魔術や呪術といったほうが適切だな。特定の言語や文字をもちいて霊的存在にアクセスし、現実を改変する技術だ。それに対してこちらの世界の魔法はまさに『魔法』だ。魔力を制御し、想像(イメージ)することで物理法則を無視した現象を起こす。エネルギー保存の法則を無視してなにもないところに炎を燃え上がらせたり、強風を起こしたり、強烈な冷気を発生させたりする。質量保存の法則を無視して巨大化したり微小化できる。慣性の法則を無視して物体を動かせる――。そして詠唱は想像を喚起するためのエッセンスか、想像が創造を呼ぶとは面白い! これならオリジナル呪文(スペル)が唱えたい放題だ。『竜破斬(ドラグ・スレイブ)』とか『我は放つ光の白刃』とか『七鍵守護神(ハーロ・イーン)』とか、憧れのあれやそれが使える……!」
「な、なぁ。おまえ、しばらくこっちの世界で暮らすつもりはないか? 異世界(そっち)のことを詳しく聞きたいんだ。さっき同調(シンクロ)した時に伝わってきた。争いも差別も貧困も少ない、おまえの世界のことが」
「やっぱ呪文詠唱はオタクの浪漫だよな。様式美ってやつだ。これをないがしろにするやつの気が知れないね。さぁてどんな呪文を使おうかな。《爆ぜよ雷霆・切り裂け迅雷・黒雲に潜みし竜よ・我が敵は汝が敵なり》とか?」
「街中でホールドアップされたりしない、仕切り板のあるタクシーがほとんどない、道端にお金の詰まった自動販売機が置いてあっても壊されない、ハンドルをひねれば蛇口からそのまま飲める水が出てくる。治安が良くて経済的に豊かで、戦争もなくストリートチルドレンもおらず、発砲事件が少なく、識字率が一〇〇パーセント近い国など世界でも珍しい――。タクシーだの自動販売機だの、正直半分近くははなんのことかわからない。でもおまえの国が豊かで平和で素晴らしいことはよくわかった。だから知りたいんだ、おまえのことが。快適な暮らしができるよう手配する。だからしばらくとどまってくれ!」
「ああ、いいよ」
「一刻も早く元の世界に戻りたいのは百も承知だ。あんな平和な国なんだもんな、けれど――て、いいの!?」
「ああ、しばらくこっちにいるわ」
「ちょ、即答! いや、ありがたいのだが、いいのか?」
「俺もおまえの暮らしているJRPGみたいな世界が気になってな、こういうライトファンタジーに憧れてたんだよ。いやー、半裸のアーノルド・シュワルツェネッガーやジェイソン・モモアが闊歩するヤッバーンなハイボリア時代じゃなくて良かったよ」
「そ、そうか」
「それにもうさ、『アベンジャーズ/エンドゲーム』を見届けて、向こうの世界に未練ないのよ、マジで」
「よ、よし! では、改めてよろしく頼む。キイチ=ホーゲン」
「……キイチはやめろ」
「え?」
「なんかその発音でキイチって言われると食べたくもないミキプルーン食べないといけない気になるんだよね、だから俺のことは法眼と呼べ」
「わ、わかった。ホーゲン」
「今後ともよろしく」

 こうして、鬼一法眼はリッツバーグ伯爵家の食客となったのであった。
 
 

 
後書き
 未知の世界へ行こう~♪ 
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