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ある晴れた日に

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406部分:雉鳩が消えたその六


雉鳩が消えたその六

「浴衣は」
「咲はそれでいいわ」
 最初に答えたのは彼女だった。
「赤が好きだから」
「で、うちは青で」
「私は黄色」
「私は緑」
 春華、静華、凛と続く。
「それで奈々瀬は桃色よね」
「うん」
 奈々瀬は未晴の指し示す桃色の浴衣に対してこくりと頷く。
「私はそれね」
「それで私はこれね」
 未晴は白い浴衣を見ていた。白地に薄紫の朝顔が描かれている。奇麗な浴衣だ。
「去年と同じ白で」
「そうね。それにしてもあれよね」
 咲がここでまた言ってきた。
「奥さんも浴衣よく取っておいてくれたわ」
「これって前からこの教会にあるのだったわね」
「確かね」 
 静華が凛の言葉に頷いていた。
「そうだったわ。千里さんも二人の娘さん達も着られないらしいけれど」
「小さいからなあ、千里さん」
 春華は首を捻って苦笑いと共に言った。
「うち等が着られる服着られないんだよな」
「そうなのよね。私達って結構大きい方?」
 奈々瀬も言う。
「私もこれで一六二だし」
「咲は一五六だけれど」
 咲は少し寂しそうな顔になっていた。
「ぎりぎり小柄じゃないと思うけれど」
「小柄じゃなくても千里さんの服は着られないでしょ」
「無理、絶対無理」
 これはすぐに否定する咲だった。
「だって千里さんって本当に」
「小さいからねえ」
「奥さんや妹さん達と同じで」
 背が低いのである。どうやら遺伝らしい。
「小柄なのはどうしようもないってことね」
「私着られる浴衣これしかないのよね」
 凛は自分が着ると言った緑の浴衣を見て言う。その浴衣には金魚が描かれている。
「大きいのもこうした場合損かしら」
「別に損じゃないんじゃないの?」
 未晴がその凛に対して告げた。
「別に」
「損じゃないの」
「だって着られる浴衣ちゃんとあるじゃない」
 未晴はこうその凛に話すのだった。
「だったら損じゃないわよ」
「着たい時に着られる服がある」
 凛もまたここで自分で言う。
「有り難いことよね、これって」
「そうよ。有り難いわよ」
 咲が今の凛の言葉に頷いて来た。それも結構強い勢いで。
「それも着たい服がよね」
「ええ。私やっぱり緑が好きだし」
 実際に凛はその緑の浴衣を手に取ってさえいた。
「着られるの。嬉しいわ」
「私もよ」
 未晴もそうだというのだった。
「私もこの白が好きだから」
「未晴昔から白好きよね」
 静華は未晴のこの好みのことを指摘するのだった。
「そうよね。子供の頃から」
「ええ」
 そしてそのことを自分でも認める未晴だった。こくりと頷いてみせる。
「そうよ。好きよ」
「じゃあ未晴もやっぱりあれよね」
 今度言ってきたのは奈々瀬であった。
「着たい時に着たい服が着られるのよね」
「嬉しいわ。だから」
 だからだというのだった。
 
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