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ある晴れた日に

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404部分:雉鳩が消えたその四


雉鳩が消えたその四

「もう何時あれだろ?危なくなってもな」
「そういうものか」
「そうだよ。終戦の時に十一で」
「その時にひい爺さんが右目をなくして戦争から帰ってきた」
「それでも生きていただけでもよかったな」
「俺もそう思う」
 正道の曽祖父についてはこれで話が済んだ。やはり人間は生きていてどれだけというものである。少なくとも彼の曽祖父は生きて戦争から帰って来たことは事実だった。
 それを間に入れて話してそのうえで。二人はさらに話すのだった。
「よくな」
「まあそれで爺さんが今もギターやってるんだな」
「アメリカ軍からの流れものを安く手に入れてそれからだった」
 当時はこのようにしてギターを手にする者も結構いたのである。アメリカ軍がアメリカ文化を日本に持ち込んだことも事実なのだ。
「爺さんがギターをはじめたのはな」
「へえ、本当に古いんだな」
「そして親父も」
 次に話は彼の父に及んだ。
「学生運動の時代にずっとギターを持っていた」
「それで反戦歌とかでも歌ってたのかよ」
「いや、親父は学生運動は大嫌いだったらしい」
 当時は学生運動と反戦は同じであった。もっともそうした学生達がしでかしたことこそが暴力だったので何を言わんやではあったが。所詮革命とはそういうものである。誰かを敵にしてそのうえでその誰かを執拗に糾弾し最後には処刑する。それは自分達になる場合もある。
「それで今もそうした歌は歌わないし聴かない」
「へえ、ある意味頑固だね」
「他の流行歌を歌っていた」
 その他にも歌は色々あるのだった。
「後は巨人が嫌いで阪神の歌を今でも歌っている」
「六甲おろしだよな」
「他には近鉄や阪急や南海の歌もだ」
 かつてのパリーグの関西球団である。どのチームも鉄道会社を親会社としていたことで有名である。当時は鉄道会社が強かったのだ。
「今でも歌っている」
「学生運動と巨人が嫌いな団塊世代か」
「ただし玉子焼きは好きだ」
「いや、それでもいいんじゃねえのか?」
 彼は正道の話を聞いて素直にこう述べた。
「俺も巨人は嫌いだしな。それでいいんじゃねえかな」
「そう言ってくれるか」
「ああ。ついでに言えば学校で習ったマルクスとかも嫌いだしな」
 彼はそれも嫌いなのだった。
「これはただシュミレーションゲームで昔ソ連軍に色々やられたからだけれどな」
「それで嫌いなのか」
「ああ、大嫌いさ」
 多分に個人的感情から来るものであったがそれでも彼がそうした思想が嫌いなのは紛れもない事実のようである。それはよくわかる正道だった。
「それもかなりな」
「わかった」
「それで話を戻してな」
 彼の方から話を戻してきた。
「御前の持ってるギターってやっぱり」
「コードは何度も代えてるがギター自体は爺さんからのだ」
「だよな。見たら相当古いな」
「ずっとこれで奏でてきた」
 彼もまたそうだったのだ。
「はじめてギターを持った時からずっとな」
「思い出のギターか」
「それに三代続けて使っているギターだ」
 彼だけではないのだった。
「俺にとっては。本当に」
「命みたいなもんなんだな」
「分身だ。だからいつも一緒に持っている」
「成程な。それも凄いな」
 素直に賞賛の言葉さえ述べる彼だった。
「俺もそんなギターが欲しいな」
「それもあれだ」
 ここで話は先程の恋話と何処か混ざり合うのだった。話す正道も聞く彼もそこまでは意識していないがそれでもその混ざり合った中で話をまた続けた。
「持とうと思えば持てばいい」
「持とうと思ってもてるものなのかよ」
「そう思ったギターがそれだ」 
 そうだというのだ。
「そのギターがな」
「そういうものかね」
「俺はそう思う」
 そしてまたこう述べるのだった。
 
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