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ある晴れた日に

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403部分:雉鳩が消えたその三


雉鳩が消えたその三

「ないのかよ。曲はいいのによ」
「この曲に合った作詞はする」
 正道はこう答えた。
「これからな」
「作詞もあんたか」
「いつも作詞作曲は自分でやっている」 
 アーチストでは至極当然のことである。とりわけソロ活動をしているアマチュアならば余計にだ。グループにもなればそれぞれのメンバーが作詞、作曲をしたりすることもあるが。
「だからこの曲もだ」
「そうか。あんたが作るのか」
 彼はそれを聞いて目を少し丸くさせて述べた。
「それはまたな」
「おかしいか」
「いや」
 そうではないとも言う。
「別に。いいんじゃないのか」
「ならそれでいく」
「ただな。俺もな」
 彼はまた楽しそうに笑って言ってきた。ここで。
「こういう曲作りたくなったな」
「なら恋をすることだな」
「そうだな。成功しても振られても」
 これまた随分と前向きになっていた。
「やってみるな。振られてもそれはそれでいいか」
「何度も言うが転ぶだけだ」
 また転ぶだけと言ってみせた正道だった。
「振られるのはそれだけだ」
「それだけか」
「他には何もない」
 やはりその言葉は素っ気無い。少なくとも素っ気無く聞こえる。
「痛みはそれだけだ」
「そうだよな。怖がっても仕方ないよな」
「誰かに告白したことはあるのか?」
 正道はまた彼に対して問うた。
「そうしたことはあったか」
「いや、それがないんだよ」
 彼は照れ臭そうに笑って正道に答えた。
「実はよ。そうしたこともされたこともな」
「なら余計にするといい」
 それでも、ということだった。
「まずはそれからだ」
「だよな。そうするな」
「ああ。それでだ」
 ここまで話したうえで話を変えてきた正道だった。今度の話題は。
「それでだ」
「今度は何だよ」
「このギターどうだ」
 彼が今持っておりそれで奏でているギターについて問うたのだった。
「どう思う」
「いいんじゃねえのか?」
 彼はすぐにこう答えたのだった。
「古いけれど音はいいしな。弦は代えたんだな」
「この前新しいものに代えた」
「そのせいだな。音いいじゃねえか」
 音を褒めるのだった。ギターのその音を。
「あとかなり丈夫そうだしな」
「大阪の方で買った」
「へえ、大阪でか」
「爺さんがな。勝ったやつだ」
「あれっ、御前の爺さんって」
 彼は正道の話を聞いてその目をまずはしばたかせた。
「ギター。やるのか」
「今でも時々やっている」
「へえ、そりゃまた元気な爺さんだな」
「まだ七十五だがな」
「いや、もう七十五だろ」
 正道の今の言葉はこう訂正させた。
「もう七十五だろ?そりゃよ」
「まだ若いものだがな」
「七十五で若いも何もないだろ」
 この辺りに彼と正道の認識の違いが出ていた。しかし正道はそうしたことには一切気付いていなかった。七十五という年齢に対する認識の温度差に。
 
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