魔法が使える世界の刑務所で脱獄とか、防げる訳ないじゃん。
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第58話 謹慎終了‼︎ え、早くないって? 殆ど気絶してたから
「なんで此処に居るんですか‼︎」
「てめえの治療の為だっつの。栄養失調でぶっ倒れた奴が、そういきなり騒ぐなって」
「栄養失調……ですか。てっきり、単純に気絶しただけだと……」
「まぁ、てめえが気絶する様に行動はしたな。てめえの考えを遥かに超えた行動をすりゃ、てめえは直ぐに考える。で、考えがショートして、気絶するっつー単純な作業だかんな」
赤信号に突っ込んで行くヤクザを助けて、煽ったら滅茶苦茶キレられた。
「ごめんなさい」と言わせるだけなのに犯される。
起きたら自室に、ヤクザと一緒に居る。
ヤクザが今の主だと告げられる。
全部夢オチでしたと言う結末を期待して眠ったら、マフィアのボスとヤクザのボスが喧嘩してる。
そして、起きたらヤクザが看守服着てた。
「もうやだ死にたい」
「死なれると困るのは俺様なんだが」
此処は第一魔法刑務所の医務室だろうか。見覚えがある。
……医務室ってことは、騒いだり暴言を吐くと、医師が怒る。
「クソ野郎、何が死にたいだボケェ‼︎ んな事言う暇があるんだったら働けや暇人‼︎ ってか謹慎中は家で大人しくしてろや‼︎」
「すみませんでした」
怒られた。
「……で、治療ってなんですか。というか貴方、なんで此処に居るんですか」
「治療は、てめえの随分と小さくなった記憶容量をデカくするだけだ、バーカ。で、此処に居んのはてめえの観察と、此処の刑務所の魔法技術の調査の為だ」
「……ヤクザのクセにですか?」
「ヤクザは嘘だ。俺様はマギアの一筋だぜ」
「……あの暴力団に所属するヤクザは全てマギアの研究員って事ですか。マギアの勢力がまだ大戦当時からあまり変わっていない事を世間に知らせない為のフェイク、って所ですかね」
「その通りだ。流石、俺様が造っただけあるぜ」
くしゃくしゃっと乱暴に頭を撫でられる。全くと言って良いほど嬉しくない。というか、不機嫌です。
「そうですか。教えてくれた御礼として、その情報を世間にばら撒いてあげますよ」
「無理だな」
偽ヤクザさんは頭に置いてあった手を通して、私の思考に干渉。そこからはよく分からなかったが、きっとその情報を言おうとした時に強制的に止めさせる為の魔法を仕掛けたのだと思う。
きっと、言おうとした瞬間、とんでもない激痛が来る。
「ほら、薬だ。痛みが凄かったら飲めば良い。一錠で効く」
「へぇ……」
薬が大量に入った瓶を手渡される。きっと、何度も言おうとすると思ったのだろう。だから、大量の薬を用意してくれたのだと思う。
丁度置いてあった水が入ったペットボトル三本程と、瓶の蓋を開け、湊さんに電話を掛ける。
さぁ、勝負だ。偽ヤクザ。
「湊さん、聞いて下さい‼︎ マギア幹部から情報を得ました! マギアの勢力は、まだ大戦当時からほと」
手が震えて、携帯を落とす。偶然、スピーカーのボタンを押せた様で、電話口から「如何した……!?」と声が聞こえる。
想像以上に痛い。湊さんが記憶消去の権限に因って消した記憶を思い出そうとする時より、全然痛い。
直ぐに薬を大量に口に中に入れて、水で流し込む。こういう時、薬を飲むのに慣れていて良かったと思う。
「大戦当時から、ほとんどかわって、ない」
叫んで、薬を飲んで、叫んで、薬を飲んでの繰り返し。側から見れば、普通に異常者だ。
「変わってないそうで、す……‼︎ マギアである事を隠して生活して」
痛みはどんどん大きくなっていく。意識を保つのがギリギリ。
「してる……でしょう‼︎ だから、っ……気をつけて」
無事に……では無いが、取り敢えず言い終わった。
気付けば薬がベッドの上に散乱していて、少し服が濡れていた。本当に異常者……
「……はぁ。薬の過剰摂取は嫌いなんですけどねぇ」
「おい騒ぐな病人‼︎ うるせぇ!」
「すみません。ちょっとこの白髪イカレ野郎と戦ってました」
「医務室では安静にしやがれクソが‼︎」
……はい。
「残念でしたね、偽ヤクザさん。言っちゃいました」
「てめえみたいなイカレ野郎だ。言いきるとは思ってたさ」
「ありがとうございます」
瓶に入っていた薬の殆ど飲んでしまったので、二回目はもう不可能だろう。しっかりと、湊さんに伝わっていれば良いですが。
「……で、これから貴方は如何するつもりですか、偽ヤクザさん」
「その“偽ヤクザさん”って言うの、いい加減止めろや。“真希様”」
「“真希さん”」
「チッ、しょうがねぇなぁ。まず、そこでチョロチョロしてる奴等をどうにかしろや」
「え」
病室の入り口の方を向くと、いきなり頰を掴まれて、無理矢理偽ヤクザさんの方を向かされる。そして、偽ヤクザさんは私の口に舌を入れて、顔の角度を変えながら、深くキスをする。
ちらりと入り口の方を見ると———
「あ、ぁ……あぁぁあ……」
一房のメンバーが、物凄く歪んだ顔をして、此方を見ていた。
この偽ヤクザ、分かっててやりましたね……‼︎
直ぐに離れようと、彼の肩を押しながら、後ろに下がろうとするが、彼は私の頭と腰に腕を回してホールド。それからも逃れようと、無理矢理後ろに下がれば、彼に押し倒される。本当に、なんなんですか、この男。
「んんっ‼︎ ……ぷはっ……貴方、何度も何度も何なんですか!」
「なんど、も……」
「なんども……」
入り口の方から声。囚人さん達の声だ。
「琴葉ぁぁああああああああ‼︎ 浮気か、浮気なのか⁉︎」
「琴葉ちゃん、この人に襲われたの⁉︎ レ◯プ⁉︎ それとも逆レイ◯したの⁉︎」
「看守……看守だけは裏切らないと思っていたのに……」
「琴葉ちゃんサイテー‼︎ 首領に報告したからね‼︎‼︎」
「待って待って待って‼︎‼︎ 此奴が仕掛けてきたんです! 此奴の所為で」
「大分善がってたヤツが言うか?」
「「「「⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」」」」
「よ、善がってない‼︎ 全然気持ちよくなんて」
「随分気持ちよさそうに鳴いてただろ? “もう許して”って叫びながらなぁ?」
「「「「⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」」」」
「違います違います違います‼︎ それは痛かっただけで」
「下半身とバイバイしても叫ばなかったヤツが、か?」
「「「「⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」」」」
「……………………」
「如何した? もう反論はねぇのか?」
「ぐっ……………………………………無いです……」
「「「「琴葉ぁぁぁぁあああああああああああああああ‼︎‼︎‼︎‼︎」」」」
「浮気なのか」
「浮気じゃないです。そもそも私、好きな人は居ませんから」
「◯イプされたの?」
「はい。多分そうです」
「裏切った訳では無いな?」
「はい。多分そうです」
「ほ、ん、と、に?」
「はい、本当です。悪いのは全部、このクソ野郎です」
「「「「じゃあ何でまだ其奴と居るんだよ」」」」
「私だって一緒に居たくないのに此奴が……‼︎」
「“此奴”じゃなくて、“真希様”だろ?」
「誰が呼ぶか……」
「また“お仕置き”してもイイんだぜ?」
「………………………………………………………………真希さん」
「なんだって? 聞こえねぇなぁ?」
「真希様! これで良いですよね‼︎」
「ははっ。よく出来ました」
なでなでと言う効果音がつきそうなほどに優しく、頭を撫でられる。
「…………………………………………はぁっ⁉︎⁉︎」
「如何したんだ? 真っ赤になってよぉ? 惚れたか」
「橙条さんと同じこと言わないで下さいよ‼︎」
「琴葉ちゃんってば橙条さんともそういう関係になってたの⁉︎」
「違いますって‼︎ はっ、もしかしてハメましたね⁉︎ もうやだぁ……」
……このあと、医師に怒られたのは言うまでもない。
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