ポケットモンスター〜翠の少年の物語〜
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第七話
前書き
どうも、前回の投稿日に投稿し忘れたまま、今日に至ったV・Bです。アホすぎるでしょうさすがにさぁ?
僕達は立ち止まり、その男達のことを見ていた。
「ったくよぉルチアぁ!テメェトロいんだからさっさと動けよ!そんなんだからいつまで経っても正式にアクア団団員になれねぇんだろうがよ!」
僕らとほとんど変わらないであろう少女に、罵詈雑言を浴びせる男達。僕であったら、涙目になってしまいそうなほど迫力があった。
「はい!すいませんでした!次から気をつけます!」
しかし、ルチアと呼ばれた、緑色の髪を持つ女の子は、全く臆することなく、かなり重そうな荷物を持ち上げていた。女の子が一人で持っていい量の荷物ではない。
「……おい、あれは?」
ユウキくんはこちらに来たばかりだからなのか、あの集団について驚いている様子だった。
「えっと、あの服を来た人達は、アクア団って言って、海の面積を広げようとしている……はず」
父さんが言うには、一昔前までは、海の環境を良くしようとする普通の組織だったらしい。しかし、途中からその活動がエスカレートしていき、今ではご覧の通り。
本当なら、余り関わらない方がいい組織であり、僕自身も、あまり関わろうとはしない。本来であれば、見なかったことにして、そそくさと立ち去っている。
「……ふうん。ま、見た感じ、ただのチンピラだよな。関わらないように──」
「──おいゴラガキ共!何ジロジロ見てんだよ!!」
ユウキくんが冷たい目でアクア団の男たちを見ていると、僕達に気付いた男の一人が、こちらに怒鳴りつけてきた。
「いっ、いえ!通りがかっただけです!」
「ああ、別に何もしない」
萎縮してしまい、声が震えてしまった僕に対して、ユウキくんは堂々としていて、そっけなく応えていた。
「フン、まあいい。おい、行くぞ」
「チンタラすんじゃねぇぞルチアぁ!!」
そんな僕らに興味をなくしたのか、男達は、ぞろぞろと僕らの横を通り過ぎて行った。
「はいっ!すぐ行きます!」
そして、ルチアと呼ばれた女の子は、重そうな荷物を抱えて、よろよろとおぼつかない足取りで男たちの後を追っていった。
その時、僕とユウキくんの顔を見た女の子は、軽く僕らに微笑んだ。
「──ッ!?」
その瞬間、背筋に悪寒が走った。
慌てて後ろを振り返ると、やはりそこには足取りのおぼつかない女の子が居るだけだった。
「……あの子、お前や俺と歳変わらねぇ位だよな……ったく、変な所に入っちまったもんだな……」
「…………」
ユウキくんは過ぎ去っていったアクア団達の背中を眺めながらそう言っていたが、僕はそれに気づかず、ルチアという女の子の背中をじっと見つめていた。
「……ミツル?」
「…………へ、あっ、すいません。ちょっと考え事してて……なんですか?」
僕はユウキくんが呼んでいることに気づいて、慌てて顔をユウキくんの方に向ける。ユウキくんの表情は、何とも形容し難いものだった。
「……あの女の子が気になるのか?」
「へっ?いや……まぁ、気になると言えば気になりますけど……」
突然そんな事を聞いてきたユウキくんに戸惑いつつも、やましい事は何も無いので、正直に答える。
「……どんな風に?」
しかし、ユウキくんは更に僕に詮索を入れてきた。どちらかと言うと、ユウキくんの方があの女の子を気にしているようにも思えた。
「……なんと言いますか……怖かった、です」
「……はぁ?」
僕は、やはり同じように正直に答えたが、ユウキくんはますます首を傾げるだけだった。どうやら、ユウキくんは何も感じていないらしい。
「怖いって……あの女の子……ルチアってのがか?」
「はい……」
「……いや、何がだよ。見た感じ、可愛らしい女の子だったが?」
そう、確かに彼女は、ドキッとしてしまうくらいには可愛らしい顔立ちをしていた。
しかし……いや、だからこそ感じた、多大なる違和感。
「……あの笑顔は、僕らと同じくらいの歳の女の子が浮かべていいものじゃないです」
「……?」
「あんな、完成度の高い作り笑いは」
十歳くらいの女の子が、あれ程までに綺麗な作り笑いを浮かべるなんて、どんな生活をしていたらできるようになるのか。
正直、想像すらしたくなかった。
「……作り笑い?あれがかぁ?」
「はい……多分、そうです。根拠は、無いですけど……」
「ねぇのかよ」
ジト目で僕のことを見つめてくるユウキくんから目を逸らしつつ、もう後ろ姿が見えなくなった女の子に思いを馳せる。
なぜ彼女は、あんな集団に居るのだろか?
なぜ彼女は、あんな風に笑うのだろうか?
僕は、ラルトスと同じくらい、あの女の子のことが気になっていた。
「…………はぁ。まあ、いいや。取り敢えず帰るぞ。もう少しでトウカシティだからな。ほら、行くぞ」
ユウキくんはそう言うと、僕の首根っこを掴んで、ズルズルと引っ張りながら歩き始めた。
「ちょ、ちょっと!?ユウキくん痛い!」
「なら歩け」
抗議したものの、冷たくあしらわれた僕は、大人しく歩き始めるのだった。
─自宅─
「ふぅむ……傷だらけのラルトス、か…………」
あれから、何とか昼頃にトウカシティにたどり着いた僕達は、また明日会う約束を交して、そのまま別れた。僕はそのママ自宅へと一直線に帰って行った。
家の扉を開くなり、母さんに抱きつかれてしまった時は、心配させてしまったのだと、少しだけ申し訳なくなってしまった。
そして、夜。二日前と同じように、椅子に座った僕は、この二日の間にあったことを父さんに話していた。母さんは、買い忘れているものがあったと、急いで買い物に出かけていた。
…………アクア団と遭遇したことを除いて。
「一緒にいたユウキくんが言うには、人の仕業じゃ無いかって……」
「ありえない話ではないな。事実、バトルで負けた腹いせに、自分のポケモンに手を出すトレーナーも居るからな」
父さんは腕組みをして、なにか考え込んでいる様子だった。気になることでもあるのだろうか。
「……しかし、そのラルトス、よくミツルに心を開いたな。なにかしたのか?」
「…………心当たり無いよ」
父さんの疑問は当然のことで、なぜラルトスが僕のことを信じてくれたのかは、全くの謎だった。
ユウキくんの言葉を使うが、野生のポケモンが人間から傷つけられたら、人間そのものに対して不信感を抱いてもおかしくない。
「考えられるのは、ラルトスがお前の事を気に入ったのか、ユウキくんだったかな?の、仮定が間違ってるか」
「……そうなんだよね……僕には全く分かんないや」
僕はため息をついて、椅子に深く座り直した。答えの出そうにない問題を考え続けるのは、非常に疲れる。ただでさえ、なれない事をしてきたのだ。早くベッドで寝たい。
「…………………」
すると、そんな僕を父さんはじっと見つめてきていた。今までにないほど、真剣な目付きだった。
「…………父さん?どうしたの?」
「……ああ、いや。なんか……雰囲気変わったな、って」
「?」
父さんの言葉を聞いても、僕にはなんの事か、さっぱり分からなかった。
「なんと言うか……覚悟を決めた顔してるというか……凛々しくなったというか……何かあったのか?」
「そりゃあ、何かはあったけど……凛々しくなるって、なんなの?」
父さんからの指摘を、僕は軽く笑って流した。人は、そう簡単に変われるものじゃ無いんだ。
「それじゃあ、僕はもう寝るね。明日もラルトスを迎えに行かなきゃ行けないし」
「あ、ああ……おやすみ」
「うん。おやすみなさい」
僕はそう父さんに告げると、椅子から立ち上がり、リビングの扉を開けた。
「……やっぱり、変わったよ」
父さんのそんな声は、僕には届かなかった。
─???─
そこは、港のような場所だった。満点の青空の下、僕は大きな船を見上げていた。なぜそんな所にいるのかは分からなかったが、これからこの船に乗り込むのだということは理解していた。
覚悟を決めた僕は、その船に乗るため、足を踏み出そうとした。
「──ミツルくんっ!!」
後ろから、大声で僕を呼ぶ声がした。どこかで聞いたことのある、少女の声だった。
僕は足を止め、後ろを振り返った──。
後書き
読んでくれてありがとうございます。いやぁ、早いとこ旅に出さしたくて仕方ないですけど、相変わらずのスローペースなので、もう暫く、続きます。
それでは、また次回。
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