| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ある晴れた日に

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

381部分:目を閉じてその八


目を閉じてその八

「何も考えてないから」
「手前に言われたかねえよ」
 野本は奈々瀬のその言葉を聞いてすぐに彼女に言い返した。ムキになった顔で。
「そういう御前は何なんだよ、おい」
「何って私が?」
「その格好よ。何なんだよ」
 見れば今の奈々瀬は相当な格好であった。右足は半ズボンになったズタズタのジーンズをはいていて上は肘までたくしあげたジーンズのジェケットと白いタンクトップだ。そのタンクトップの首のところにサングラスをかけている。サングラスは黒というかなりの格好だ。
「何処のヘルスエンジェルスだよ」
「ああ、それ意識したのよ」
 平気な顔で言葉を返す奈々瀬だった。
「そういうの好きだし」
「全然似合ってねえんだけれどよ」
 野本もまたムキになっていた。
「そんな格好よ」
「そう?似合ってるわよね」
「ねえ」
 しかし女組はこう言うのであった。
「それもかなり」
「奈々瀬着こなし上手いし」
「何でうちのクラスの女はこんなにファッションセンスねえんだよ」
「君が言っても説得力ないよ」
 野本はまたしても従兄弟からの謀反を受けた。
「今の格好見たら」
「今の?」
「上が赤紫色のシャツで下がピンクのズボンって」
 当然腰でわざと低くしてはいている。トランクスが時折見える。
「それはかなり」
「いかしてるだろ」
「全然」
「何考えてんのよ」
 しかし女組の評価は厳しいものであった。
「ストリートダンサーがよくやる格好だけれどさ」
「色合い最悪」
「全然駄目」
 やはりその言葉は厳しい。
「何がもう何だか」
「変なんてものじゃないし」
 そうしてまた言うのであった。
「これでどうかって言われても」
「最悪って言うしかないし」
「本当にセンスなさ過ぎ」
「俺のセンスがわからねえのは悲しいことだぜ」
 しかし野本はそう言われても全く動じていなかった。
「未来のファッションリーダー様のこの格好がよ」
「いや、俺達も人のこと言えねえけれどな」
「それでもな」
 今度は男組からの造反まで受けるのだった。つくづくファッションにかけては何の人望もない野本であった。本人に自覚は全くないが。
「御前のセンスは酷いだろ」
「最悪に近いぜ、おい」
「男なら野本、女なら柳本」
 ついでに咲の名前まで出る。
「うちの学校でもそうなってるぜ」
「ワーストファッションでよ」
「咲もなの?」
 咲も自分の名前が出たところで顔を顰めさせた。
「何処がよ。このファッションの」
「あのな、何処にピンクハウスにブーツ履く奴がいるんだ?」
「そんな奴見たことねえよ、黒レザーのブーツにピンクハウスなんてよ」
 見れば今の咲のファッションはそれであった。実際にブーツである。服は夏用とはいえあのピンクハウスのひらひらとした派手なものである。
「しかも帽子は相変わらずホークスだしよ」
「今度は今のソフトバンクかよ」
「一番好きなのはダイエー時代の最後の方だけれどね」
 それがいいというのである。
「あれは最高にいいでしょ?」
「まあ個体としてはな」
「いいよな、確かに」
「なあ」
 男連中も福岡ダイエーホークス時代後期のその帽子については頷く。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧