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二十年

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第三章

「余が許す」
「服は、ですか」
「寝る時の服でよい」
 こう言うのだった。
「それでな」
「ですが」
「余が許すと言ったのだ」
 国王である自分がというのだ。
「だからだ」
「それでは」
「うむ、これからはな」
 こうして侯爵夫人に寝巻きのままでいいとした、そうしてだった。
 王は侯爵夫人の枕元にい続けた、彼が出来る限り。そのうえで教会で祈りもした。しかし最早侯爵夫人の病は誰が見ても明らかに死病であり。
 日に日に弱まり遂にだった。
「そうか」
「はい、今しがた」
 廷臣の一人が王に述べた。
「息を引き取られました」
「わかった」
 王は一言で答えた。
「それではな」
「葬儀のことは」
「ここで行うのだ」
 ベルサイユ宮殿でというのだ。
「よいな」
「それでは」
 廷臣も頷いた、そうしてだった。
 王は葬儀に出た、その間一言も喋らず。
 葬列を宮殿の端の部屋にあるバルコニーから見送った、この時は酷い嵐で冷たい雨が降り注いでいたが。
 王はバルコニーに出たままだった、それで廷臣達は王を止めた。
「王よ、ここにおられるとです」
「雨にあたって大変です」
「ですからここはです」
「どうか」
「わかっている、しかしだ」
 それでもとだ、王は言うのだった。
「ここにいさせてくれ」
「そうしてですか」
「侯爵夫人を見送られるのですか」
「そうされるのですか」
「これがただ一つの務めなのだ」
 王は涙を流していた、そのうえでの言葉だった。 
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