ロックマンX~Vermilion Warrior~
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最終話:天より他に知る者もなく
ルミネを倒したことでパラダイスロストの闇は消え、本来の空間に戻ったシグマパレスの玉座の間。
「がはっ…」
苦しげに息を吐くと、ルミネの天使を思わせた姿は霧散して本来の純白と紫のボディの華奢な姿であった。
「…………」
その姿をアクセルは何も言わずに無言で見つめる。
ルミネは膝をついて仰け反りながら空を見上げると、満天の星がどこよりも近く、酷く凄烈な光景としてルミネの網膜に焼き付いた。
星空に滅びを待つだけの惑星である地球が視界に入って、ルミネは笑った。
しかしその直後に息を詰まらせ、擬似血液と共に呻き声を上げる。
「ぐふっ…」
血液で濁った汚い呻き声だった。
それを聞いたアクセルは今度こそルミネは終わりなのだと言うことを悟った。
「僕達の勝ち…だね」
「ふ…ふふふ…そのようですね…」
数の差はあっても全ての力を出し切って負けたのだ。
少なくともこの敗北には納得している。
「しかし…愚かですね……私1人を倒したところで最早流れは戻らない…」
しかし自分が倒れたと言うことはアクセル達の戦いはまだまだ続くことを意味するのだ。
哀れむようにように呟いたルミネは、アクセル達に怒りや憎しみすら上回る深い憐憫を感じたのだ。
「あんたみたいに…世界を滅茶苦茶にするような奴が現れたら…何度でも倒してやるよ…多分、ルナもここにいたらそう言ってる」
「ルナも…ですか…ふふ、あなた方は本当に何も見えていないのですね…例え私を倒しても私の意思を継ぐ者が必ず現れる…優れたレプリロイドが覚醒し、レプリロイドだけの楽園を創る…どう足掻いても平和など古き考えに囚われた者がいる以上…決して訪れたりはしないのです…」
「それでも…」
「…?」
アクセルとルミネの金色の瞳が交差する。
「それでも僕は最後まで足掻き続けるよ。レッドやルナのためにも」
それを聞いたルミネは微笑む。
「ふふふ…まあ、良いでしょう…その時が来るまで生き長らえるといい…です……ね…」
それがルミネの最期の言葉であった。
ルミネの反応が途絶えたのを確認したアクセルはルミネと似通った姿から本来の黒いアーマーの姿に戻り、エックス達もまた元の姿に戻り、武装を解除していた。
「…………」
アクセルが本来の姿に戻ったのが合図になったかのようにルミネの全身に罅が入り、乾いた音が響き渡る。
「ルミネ…あんたはこれで満足だったの…?」
ルミネのDNAデータを回収しようとアクセルがゆっくりとルミネの亡骸に近付いた途端に、ルミネの体が痙攣を起こし、ルミネの胸部から触手が凄まじい勢いで飛び出してきた。
突然のことと、ルミネとの戦いでのダメージで反応出来なかったアクセルは額のコアにまともに受けて吹き飛ばされる。
それを見たゼロは瞠目しながらも的確にセイバーで両断し、ルインはアクセルを受け止めると、エックスはエネルギーチャージを終えたバスターをルミネに向けてチャージショットを放った。
チャージショットの直撃を受け、派手な音を立てながらルミネの亡骸は粉砕された。
「ぐ…うう…」
「ルイン、アクセルは?」
「大丈夫、額のコアのクリスタルが割れただけみたい。今、エイリアとアイリスが総監に通信をしてゲイトやドクター達の手配をしてるよ」
ルインの言葉にゼロはアイリス達に視線を向けると、確かにエイリアとアイリスがシグナスに通信を繋いでいた。
「…終わったね……帰ろうか…」
「…そうだな」
アクセルの身を案じながらもエックス達はシグマパレスを後にして軌道エレベーターに乗り込んで、地球に戻るのであった。
そして、新世代型レプリロイドの暴動事件は終わりを告げ、治療を受けたアクセルは数日後に目を覚まし、エックス達にルミネとの会話の一部始終を聞かせる。
シグマは役目を終えた…と言うことはシグマが現れることはもうないということを意味するが、本当なのだろうか?
「だが、だからと言ってイレギュラーの脅威が無くなるわけでもない…それにルミネがそう言っていたように俺達が滅ぶのが運命であったとしても、俺達は戦わなければならない。その運命とやらと」
ゼロの言葉に全員が頷いた。
そして更に時が流れ、エックスはルインとエイリアを伴って今は亡きケインの研究所に足を運んでいた。
死んでいった同胞やケインの墓石にそっと花束を置いて祈りを捧げた後、エックス達は今のこの研究所の所有者であるドップラーに挨拶をして研究所を後にすると、仲良く歩く2人組を発見した。
「アクセル、ルナ」
「お?エックス」
「やあ、エックス。お墓参り?」
「そうよ、アクセルも?」
「うん、レッド達や……後はルナの死んじゃった知り合いの人に…ね…」
寂しげに微笑むアクセル。
あれ以来、アクセルは精神的な幼さは大分抜けた。
理由が理由なだけに喜ぶようなことではないが。
「?」
そんなアクセルに隣にいるルナは疑問符を浮かべていた。
ルナは動力炉が停止していた以外はダメージは修理可能な範囲であったが、電子頭脳の方に問題があった。
度重なる過剰解析のせいで記憶データが破壊されてしまい、例え再起動してもルナの記憶は殆どないだろうと言うゲイトの言葉にエックス達は一度は絶望したが、アクセルがルナの復活を望んだのだ。
思い出や絆はまた最初からやり直せばいいと言うアクセルの強い希望により、ゲイトは出来る限りの手を尽くしてルナを再起動させた。
取り敢えず、エックス達のことは何とか覚えてくれていたので交流はあまり困らなかったのは救いだった。
「行こうか、ルナ」
「?ああ、ここに俺の知り合いだった人が眠ってるのか?」
「そうだよ、挨拶していこう」
ルナを伴って研究所に入っていくアクセルの姿はルインは少し悲しそうに見遣る。
「何か寂しいけど…あれで良かったのかもね…あんな酷いことを忘れられて…」
「そうね…記憶がないことも時には救いになることもあると思うわ…」
エイリアもまた心を壊されるほどの恐怖をルナが忘れられたことに寧ろ安堵していた。
しかしルナのこととは別の心配が存在する。
「でも、アクセルが心配だわ…額のコアに何かを埋め込まれたんだもの…」
あの時、額のコアが受けた触手によりアクセルの額のコアには妙な物が埋め込まれており、何とか摘出することが出来ないのかとドクター達が苦心していたのを知っている。
アクセル本人は至って正常だが、イレギュラーの執念の攻撃程に恐ろしい物はない。
どうかアクセルに悪影響が出る前にどうにかなって欲しいところだ。
そしてやることを終えたのか、アクセルとルナは手を繋いで幸せそうに微笑みながら、寄り添うように研究所を後にして、街の中に消えていった。
2人の後ろ姿を見つめながらエックスは願う。
どうか、あの2人の未来に幸福が待っているように。
ルミネのイレギュラー化を受け、政府はコピー能力を持つ新世代型レプリロイドの初期ロットを破棄…。
コピーチップの製造を中断した。
しかし、宇宙開発の更なる隆盛から高性能な新型レプリロイド開発の要請は尽きず…。
数年後、厳重なプロテクトを施し、コピーチップの製造を再開した。
人間とロボット。
相容れぬ二つの生命が平和に共存する世界。
それは私が望んでやまない理想郷だ。
トーマス・ライト
遥か遠い過去。
時の流れは川のように絶えねど、その営みは天より他に知る者もなく。
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