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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第7章:神界大戦
  第206話「絶対神界戦線」

 
前書き
思いっきりサブタイトルをパロって行くスタイル。

実は優輝達は未だに氷山の一角でしか行動していなかったり。
神界の中心ではインド神話も真っ青な戦いが起きています。
……神界の(設定上の)世界観的に中心ってどこだよって話ですが。
 

 








「ふっ!」

 神界の……強いて言い表すならば中心に近い場所。
 そこで、イリスの勢力とそれに抵抗する神々が戦っていた。

「キリがないな……」

「次、来ます!」

 何人かの強力な神が中心となり、次々とやってくるイリスの勢力を食い止めていた。

「永久に保てる訳でもない。活路を開かないとダメだが……」

 特に前線で中心となっている神、ディータはそう呟く。
 茶髪の童顔で、中性的な容姿の彼は、その間にも一撃で敵の神を気絶させる。

「……いや、僕が動くのは危険か。決意を抱き、食い止めないと浸食されてしまう」

 ディータはイリスの力に強く抵抗できる数少ない一人だ。
 “決意の性質”、それによって、洗脳などの力を跳ね除けてしまう。
 また、“意志”を挫かない限り倒れないという、神界の性質とも非常に相性のいい“性質”なため、こうしてイリスの勢力を食い止める中心となっていた。

「スヴィルス」

「はい」

「洗脳された神々を頼むよ」

「わかりました」

 ディータは後方に控えていた金色の長い髪と瞳、そしてギリシャ神話にありそうな純白の衣に身を包んだ女神に声をかける。
 スヴィルスと呼ばれた神は、先程の交戦で倒れた神々を回収する。

「ッ……!まだ来るか……!」

「この程度なら問題ありませんよ」

 そこへ、隠れ潜んでいたのか洗脳された神々がスヴィルスに襲い掛かる。
 刹那、その神々が吹き飛び、直後に叩きつけられる。

「終わりです」

「いや、増援のようだよ」

 襲い掛かった神々はスヴィルスの放った光の槍で縫い付けられる。
 だが、そこへさらに敵の増援が来た。
 今度は数が多く、1000人はいた。

「多いですね」

「そうだね。僕らも数を揃えた方がよさそうだ。スヴィルス、皆を呼んできてほしい。君はその後は洗脳の解除を頼む」

「はい。……私以外にも洗脳が解けたらいいんですが……」

「“光の性質”を……というより、洗脳が解ける程の力を持つのが君ぐらいだからね。僕も可能といえば可能だけど……ちょっと時間がかかるから効率が悪い」

 スヴィルスはサーラ達が戦ったルーフォスと同じく、“光の性質”を持つ。
 だが、その強さはルーフォスより強く、さらにはイリスの洗脳を解除する事もできる。
 同じようにディータも出来るのだが、効率を考えて彼は前線に出続けていた。

「……そうでしたね。では」

「頼んだよ」

 スヴィルスは気絶した神々を浮かべ、飛び退くように消える。
 直後、100人以上の神々が次々と現れた。

「さぁ、行くよ。“決意と共に戦え”!」

 “決意の性質”を用いた激励が響き渡る。
 それは言霊のように、駆け付けた神々を強化し、10倍の人数差を質で埋める。









   ―――神界の命運を賭けた戦線が、そこにあった。

















「……おいおい……」

 帝が茫然としながら、そう漏らす。

「これが……神界の戦い……」

 優輝達は大きな勢力同士のぶつかり合いを目の当たりにしていた。
 片や洗脳されてイリスの手先となった神々。
 片やそれを食い止める神々。
 数の差は多きけれど、拮抗した戦いがそこで繰り広げられていた。

「……一つの戦線ですね。戦いが始まって、状況もかなり変わったようです」

「中心人物を定め、進行を食い止める部隊を作ったか。長丁場になると見て、“持ち堪える事”を目的とした徒党を組んだようだな。中心の神は、何かが違うぞ」

 優輝達がいる場所は、戦線を遠くから眺められる程離れている。
 物理的な距離は関係ないとは言え、そこからでも何か感じる事ができていた。
 それほどまでに、戦線の中心人物……ディータは強い部類に入っていた。

「援護に入る必要は……」

「なさそうだよ」

 司が心配そうに言うが、

「“詠歌”とはまた違う……でも、それより遥かに強い力が、あの神々に働いてる。一人一人が、ほぼ確実に私より……“強い”」

「なっ……!?」

 一筋の冷や汗を流しながら言うとこよの言葉に、それを聞いていた者は驚く。
 隣にいる紫陽も冷や汗を流しており、感じられる力がそれだけ強大なのを表していた。

「……その通りだな。僕も見た限り、敵数人に対し、一人で立ち回っているのがほとんどだ。中には十人以上を相手にしている。それだけ強いのだろう」

「あれを……か」

 帝が思い浮かべたのは、先程の戦いでの相手。
 相手の“性質”を考えれば仕方ないとはいえ、複数掛かりでやっとだったのだ。
 初戦がそうなれば、後の戦いも基準として思い浮かべてしまう。
 そして、そんな相手を複数相手にしている事に戦慄せざるを得なかった。

「えっ、嘘っ……!?」

「まさか、増援……!?」

 しかし、ここで状況が動く。
 なのはとユーノが驚いたように、敵側にさらに増援が来たのだ。
 それも、さっきまでの敵数と同等以上の数が。

「このままだと、押し切られるぞ……!」

 ディアーチェが焦ったように言う。
 しかし、すぐさま優輝達は動く事が出来ない。
 相手は一人でも数人がかりだった神々だ。
 不用意に飛び出した所で、事態が好転するはずがないと、誰もが分かっていた。

「……いえ、行く必要はなさそうです」

 その時、ソレラが一点を見つめながらそう言った。
 その視線の先には……

「(速い……!)」

 数人の神が敵陣へと飛び出していた。
 その神々の中心となっているのは、ディータ。
 戦線の中でも戦闘力が高い何人かが敵陣を搔き乱すために飛び出したのだ。

「うぇえっ!?一撃!?」

「ただの攻撃じゃないわ。おそらく、神としての“性質”が……」

「……だとしても、一撃で倒すって相当だな……」

 アリシア、奏、神夜の順に驚き、言葉を述べる。
 ディータは敵の神々の攻撃を捌き、躱し、反撃を放っていた。
 その一撃で、次々と敵の神々を気絶させていたのだ。
 ただの物理攻撃にしか見えないが、その攻撃一つ一つに彼の“性質”が込められていた。
 “決意の性質”により、その攻撃には敵を打ち倒すという“決意”が込められている。
 その“決意”が直接敵に叩き込まれたため、敵の“意志”に干渉し、挫いていた。
 そのため、ディータは一撃で敵を次々と倒せていたのだ。

「……まずいな」

「え?」

「感づかれている」

「……そうだね」

「ですね」

 優輝の呟きに、司が聞き返す。
 同じように気付かれている事に気付いていたのか、とこよとサーラが頷く。

「構えろ。一部の奴らがこっちに来るぞ」

「尤も、もう仕掛けられていますけどね……!」

「障壁を張りな!」

 ユーリが魄翼を展開し、紫陽が指示を出す。
 そして、他の皆も行動を起こした瞬間、閃光が全員を襲った。

「ぐ、ぁああっ!?」

「くぅううっ……!」

 それぞれが身を守るために張った障壁はいとも容易く破られてしまった。
 全員が吹き飛び、急いで体勢を立て直そうとする。

「全員、各個撃破……いや、持ち堪えろ!」

 だが、その前にクロノの指示が飛ぶ。
 なぜなら、それぞれに一人ずつ敵の神が襲い掛かったからだ。

「おいおい、マジかよ……!」

「っ……行くよ……!」

 慄く者、戦意を高ぶらせる者。
 反応は様々だが、それぞれが対応する。
 幸いと言うべきか、どの敵も圧倒的差のある実力ではないようで、すぐに負けると言う事は誰にも起きる事はなかった。

「(こちらは連携も鍛えてきた。対し、相手は洗脳されて群れているだけ。一対一ならともかく、連携を取れば簡単に負ける事はないだろう)」

 優輝は一人の神を相手にしながら、彼我の戦力差を分析する。
 全体的に見れば、優輝達の方が劣っているだろう。
 しかし、一人一人の力だけで勝敗が決まる訳ではないのが戦いだ。
 故に、優輝はこの戦力差を“何とかなる”と断定した。

「(それに……)」

 大丈夫だと判断したのは、連携の差だけではない。
 優輝は一瞬だけ視線を他所に向ける。
 そこには、なのはと奏の姿が。

「(二人に宿る“天使”……彼女達が、何かするかもしれないしな)」

 神界に来てから二人の様子が若干変わっていた事に、優輝は気づいていた。
 そして、根拠がない故に優輝は憶測にすら出さなかったが、直感的に奏となのはなら一対一でも何とかするだろうと、そう感じていた。
 もしかしたら二人がジョーカーになるかもしれないと、そう思ったのだ。

「(まぁ、まずは自分の所を何とかするか)」

 思考を切り替え、優輝は改めて目の前の神と対峙した。









   ―――ギィイイイン!!

「ッ……!」

「ッ……!」

 刃と刃がぶつかり合い、互いに後ろに後退する。
 奏が相対したのは、自分と同じように二刀を扱う神だった。

「(巧い……?いえ、互角……?)」

 一人では倒しにくい事は重々承知だった。
 しかし、それにしては互角過ぎる事に、奏は内心首を傾げていた。

「(戦闘技術の割に、私と実力が拮抗している……“性質”が関係している……?)」

 奏の推測は当たっていた。
 奏は知る由もないが、今相手している神は“対等の性質”を持つ。
 その“性質”により、奏と対等の戦闘技術と強さになっているのだ。
 戦闘技術はともかく、強さ自体は神界の神としてはランクダウンもしている。

「(これは……)」

 初戦で神界での戦いの感覚は掴んでいる。
 そのため、一手一手に“勝つ意志”を込めている。
 一撃でも当てれば、物理的ダメージには劣るが確実に勝利に近づけるのだ。
 だが、その一撃すら、相手は上手く防ぐ。

「『エンジェルハート、モードリリース』」

〈『わかりました。サポートに移行します』〉

 奏が下した判断は、この拮抗状態を正面から打破するというもの。
 ジャントとの戦いから、無闇に強化するのは危険だと、奏の勘が叫んでいた。
 それだけ、敵の強さは不自然に互角に近かったのだ。

「(初戦の敵と似た類の“性質”なら、どの道一人では倒しきれないわ。……時間を稼ぐにしても、対等でい続けられる戦法で……!)」

 基本的に攻撃が速く軽い奏だが、戦闘スタイルは実に堅実なものだ。
 優輝のようにカウンターを得意とする玄人向けのスタイルでもなく、司や緋雪、神夜のように魔法や身体能力に特別優れている訳でもない。
 帝のように手札が多くもなく、所謂フェイト(速さ)クロノ(堅実さ)を合わせたような戦闘スタイルとなっている。

「ガードスキル……“Hand Sonic(ハンドソニック)”」

 重さを捨て、速さと手数で攻める奏。
 火力不足な所があるが、その堅実さ故に、簡単に負ける事はないだろう。
 ……尤も、奏の見立ての限りでは相手も同じようだったが。

〈『……マスター。一言よろしいでしょうか?』〉

「『……手短にお願いするわ』」

〈『“一人では倒しきれない”“時間を稼ぐしかない”とマスターは思ったようですが……訂正を。……私もいます』〉

「っ……!」

 エンジェルハートの言葉に、奏はハッとする。
 そう。今まで口数が多かった訳ではないが、奏はエンジェルハートと共に歩んできた。
 その相棒がいるのだ。一人ではない。

「……そうね……!」

 先程までと違い、奏の表情はただ覚悟を決めただけではなかった。
 相棒がいるから勝てると、確信めいた表情をしていた。

「ッッ!!」

 直後、クロスした二振りの斬撃が奏を襲う。
 それを同じようにクロスした二刀で防ぎ、奏は少し後退する。

「ハッ……!」

「ッ……!」

 即座に奏は反撃に動く。
 袈裟、突き、体を捻り逆袈裟。反撃を逸らし、屈んで追撃を躱す。
 そのまま体を回転させ、裏拳のように刃を薙ぎ払う。

「っ……!」

 しかし、それは相手の剣によって防がれてしまう。
 そこで一旦間合いを取るように飛び退き……

「ふっ……!」

「っぁ……!」

 一息つく暇も与えずに、敵が肉薄してくる。
 放たれる連撃を、同じく連撃で相殺。
 大きく弾かれた事で、またもや間合いを取る。

「―――!」

 今度は双方に肉薄し、右の刃で突きを繰り出す。
 鏡合わせのように繰り出されたその突きは、お互いギリギリまで引き付けて躱す。
 避けた頬を掠め、お互いに一筋の傷が付く。

「ッ!」

「ッ!」

 即座に振り返り、左の刃を振るう。
 だが、相手も同じように反撃してきたため、鍔迫り合いになる。

「くっ……!」

「この……!」

 右の刃で状況を打開しようとし、こちらも組み合うように鍔迫り合いになる。

「(千日手……!)」

 このままでは千日手になると奏は判断し、すぐさま飛び退く。

「はっ!」

「ッ!」

   ―――“Delay(ディレイ)

 追撃を移動魔法で回避し、反撃を繰り出す。

「くっ!」

「ふっ!」

 反撃は屈むことで躱され、反撃の蹴りと斬撃が続けざまに振るわれる。
 蹴りを跳んで躱し、斬撃は防いで凌ぐ。

「(……見える)」

 追撃を上手く捌き、タイミング良く斬撃を避け、反撃に転じる。
 一転攻勢。今度は奏が攻める。

「(……動ける)」

 しかし、その攻勢はすぐに終わってしまう。
 奏が攻勢に転じたのと同じように、敵もまた攻撃を捌き、回避と同時に反撃に出た。
 少しばかり剣戟を繰り広げたが、双方とも刃は当たっていない。

「(……読める……!)」

 一進一退の戦い。
 ……今までの奏であれば、そうなっただろう。
 しかし、今回は違った。

「なっ……!」

 刃による連撃が奏に向けて放たれる。
 だが、奏は刃で防ぐ事なく、最小限の動きでその連撃を躱す。

「ふっ!」

「くっ……!」

 刃がぶつかり合う音が響く。
 流れるように放たれた反撃は、敵の神の刃を大きく上に弾く。

   ―――“Delay(ディレイ)

 敵の体勢が崩れ、チャンスだと思われた。
 しかし、奏は飛び退いた。
 直後、隙を潰すように敵は理力を衝撃波として放った。
 奏はこれを読んでいたため、事前に飛び退いたのだ。

「(……やっぱり……)」

 そこでようやく、一息付ける時間が出来た。
 同時に、奏はどこか納得のいく感覚があった。

「(動きが見える上に読める。今まで、ここまでじゃなかったのに……)」

 神界に来てから冴え渡る感覚。
 それが、奏を優位に立たせていた。

「……!」

 再び、敵が間合いを詰めてくる。

「……お返しよ……!」

 それを、今度は奏が衝撃波を放つ事で吹き飛ばす。
 ただ単に魔力を使った衝撃波なため、ダメージはほとんどない。

「っ!」

 間髪入れずに、奏はその場で刃を振るう。
 魔力や霊力が斬撃となって、敵へと飛ぶ

「(ここ……!)」

   ―――“Delay(ディレイ)

 斬撃を弾き、潜り抜け、奏は肉薄される。
 一撃を移動魔法で避け、攻撃後を狙い……

「は、ぁっ……!!」

   ―――“Angel Dance(エンジェルダンス)

 移動魔法を併用しつつ、高速の連撃を繰り出した。

「っつ……!」

 相手も応戦するように連撃を繰り出す。
 刃と刃がぶつかり合い、火花を散らす。
 ただ武器をぶつけ合うだけでなく、相殺しきれないのは回避する事で凌ぐ。
 攻撃を繰り出し、回避し、隙を突く。
 その一連の動作を移動魔法も用いており、それは一種の“舞”だった。

「(これも防がれる……でも……!)」

 舞うような斬撃の連続だったが、それは相手も同じだった。
 結局一撃もまともに当たらず、最後の一撃で少し間合いが離れる。

「……!」

 並走するように走り、互いに牽制の斬撃を飛ばす。
 躱し、躱されをしばらく繰り返し……

「(好機!)」

   ―――“Delay(ディレイ)

 一瞬の隙を突き、斬撃を最小限の動きで躱しつつ肉薄した。

「なっ……!?」

「ふっ、はっ!」

 右の刃で突き刺し、左の刃で斬り払いつつ右の刃を抜く。

   ―――“Delay(ディレイ)

「ッ!!」

 直後に移動魔法で背後に回り、思いっきり蹴り飛ばした。

「ぐっ!?」

「がっ!?」

 吹き飛んだ神は、別方向から飛んできていた神とぶつかり、そこで落ちた。

「なのは……?」

「あ、奏ちゃん」

 どうやら、吹き飛ばしたのはなのはだったようだ。

「………」

「……、………」

 少しばかりお互いを見つめ、無言で隣に並び立つ。
 言葉は不要だった。そのまま、二人で二人の神を相手にする事に決めた。

「『奏ちゃん、行けるよね?』」

「『ええ。なのはは?』」

「『好調、かな。こんな状況下だけど、相手の動きが見えるよ』」

「『私も同じよ』」

 念話で会話しつつ、起き上がった神二名を警戒する。
 あれは連撃の中で入っただけの物理攻撃に過ぎない。
 勝つ“意志”が込められていようと、あの一撃ではダメージはほとんどなかったようだ。

「『なのはの相手はどんな神?』」

「『剣が得意みたい。でも、剣以外を使う事はない……かな。斬撃を飛ばしたりは出来るみたいだけど、基本的に剣に関する攻撃しかしてこないよ』」

「『そう。私の方は、不自然に互角だったわ。私がハンドソニックに重点を置いてからは使っていないけど、普通に遠距離魔法みたいな事もするわ』」

 お互い情報交換し、少しでも相手について知る。
 しかし、僅かな戦闘時間で知れる事など僅かしかない。
 どちらの神も剣を扱う事以外、よくわからなかった。

「『“性質”はさすがに……わからないわね』」

「『うん……ちょっとね……』」

 初戦での戦いは相手の“性質”による弱点を突いていた。
 だが、それは“性質”が分かっていたからこそ出来た事だ。
 今回の相手はそう易々と“性質”を明かす訳がなく、故に攻めあぐねていた。

「『……さっきまでの攻防から、まともにやりあう事もできるわ』」

「『じゃあ、とりあえずは……』」

「『さっきまでと同じように、戦うだけよ』」

 奏が前に出て、前衛と後衛の形を取る。
 御神流を習得してから、なのはも前衛が容易になったが、連携としてはこちらの方が上手く行う事が出来るため、この形を取っている。

「(動きをよく見て、対処する。基本にして、重要な事だけど……うん、やれる)」

「(後は如何にしてなのはと連携を取るかだけど……大丈夫。“出来る”わ)」

 特別何かある訳でもなく、特訓でもそこまでなのはと重点的に鍛えた訳でもない。
 しかし、なのはと連携を取るにあたって、奏には何か確信染みた感覚があった。

「「ッ!!」」

 神二人が動きだす。
 同時に、なのはと奏も動いた。

「シュートッ!」

「ッ……!」

 椿達によって教えられた、霊力や魔力を研ぎ澄ます方法。
 それにより、二人の魔力及び霊力の運用効率は格段に上がっていた。
 魔法の発動はほぼノータイムで行われ、間合いを詰める二人に並走するように、二人の魔力弾が放たれた。

「はっ!」

 間合いを詰めようとする二人に対し、神が刃を振るって斬撃を飛ばす。
 当然ながら、これは牽制でしかないため、当たる事はなかった。
 だが、僅かに二人の肉薄する速度が落ちる。その間に、神二人は体勢を整えてしまう。

「ふっ……!」

   ―――“Delay(ディレイ)

「はぁっ!」

「くっ!」

 先行した奏が、待ち構えていた片方の神に刃を振るう。
 真正面からなため、あっさりと受け止められるが、それは奏の想定通りだった。
 次の動作に移ると同時に移動魔法を使い、今度はもう片方へと刃を振るった。
 結局その攻撃も受け止められたが、なのはがそれの後に続いた。
 奏の後を引き継ぐように、最初の神へと攻撃を仕掛ける。

   ―――“Delay(ディレイ)

「シッ!」

「はぁあっ!」

 少しばかり剣戟を繰り広げた後、奏は再び移動魔法を使う。
 移動先はなのはを含めた三人の頭上。
 先ほど放っておいた魔力弾と共に、斬撃を雨あられのように飛ばす。
 なのはは、その斬撃を躱しつつ、同じように魔力弾を神へとぶつける。
 同時に、二人の神の間に移動し、斬撃を薙ぎ払うように飛ばす。

   ―――“Angel Feather(エンジェルフェザー)
   ―――“Divine Rain(ディバインレイン)

「なのは……!」

「奏ちゃん!」

 互いに名前を呼びあい、お互いが放った魔法の中を舞うように避ける。
 同時に神二人へと攻撃を仕掛け、一種の舞踏のようになっていた。

「なんだ、この連携は……!?」

 それは、いくら連携に優れていようが信じられないものだった。
 なにせ、二人分の弾幕だ。避けるだけでも難しいと言えるほどだ。
 だと言うのに、奏となのははその中を舞うように動きながら、さらに連携をとって神二人へと攻撃を仕掛けている。
 しかも、お互いの魔法に注意する事もなく、誤爆せずにだ。
 いくら何でも、その連携はあり得ない程に優れていた。
 最も連携が上手いと言える優香と光輝でさえ、ここまでとはいかないだろう。

「ちぃっ……つぁっ!!」

「っ!」

「くっ!」

 だが、それと勝てるかは別問題だ。
 なのはと一対一で戦っていた方の神が、二人から間合いを取った。
 そのまま、理力を用いて驚異的な衝撃波を放ち、二人を吹き飛ばした。

   ―――“Delay(ディレイ)

「レイジングハート、カートリッジロード!」

 ……二人は、それを織り込んでいた。
 元より、今ので倒せる程甘くはないとわかりきっていた。
 故に、流れるように次の行動を起こした。

   ―――“Delay Triple(ディレイ・トリプル)

「っ……!」

〈“Barrel Shot(バレルショット)”〉

〈“Chain Bind(チェーンバインド)”〉

「行くよ!“エクセリオンバスター”!!」

 重ね掛けしたディレイで、奏が二人の神へ攻撃を仕掛け、意識を逸らす。
 同時になのはが拘束効果付きの砲撃を放ち、奏もバインドを仕掛ける。
 そのまま奏は離脱し、なのはの本命の攻撃が放たれた。

「がぁああああっ!?」

「ッ、ッ……!?」

 意志の込められたバインドから、神二人はすぐに逃げる事は出来ずに砲撃に呑まれる。
 明らかな攻撃の直撃。それを受けた神二人は……

「ぐ、っ……!」

「この程度で……!」

 ……まだ、倒れてなかった。







「―――予想通りね」

   ―――“Fortissimo Chorus(フォルティッシモ・コーラス)

 そして、奏はそれも読んでいた。
 反撃に出られる前に、片方の神に砲撃魔法を押し当てるように放つ。
 その反動を利用し、もう片方の神に肉薄。同じように連続して砲撃魔法を放った。
 もちろん、“倒す”という“意志”を込めた上で。

「……勝ったの?」

「ええ。気絶したわ」

 奏の追撃により、二人の神を倒す事に成功する。
 
「……やっぱり、いつも以上に動ける……」

「……今は好都合よ。それより、他を助けに行きましょう」

「……うん!」

 今までの認識以上に動ける事に、なのはは首を傾げる。
 しかし、悩む暇はなかった。

 二人は、そのまま他の皆への助力へと動き出した。















 
 

 
後書き
ディータ…“決意の性質”を持つ神。性質の通り、決意を力に変える事が出来、状況によっては神界でもかなり上位に食い込む強さを持つ。名前は決意の英語から適当に。

“決意の性質”…決意を抱き続ける限り、決して倒れない。イメージはUndertale。

スヴィルス…ルーフォスと同じく“光の性質”を持つ女神。ルーフォスよりも強く、洗脳を解除する事すら可能。強さもかなり高い。

“決意と共に戦え”…“Fight with determination”。自身を含めたバフみたいなもの。決意の力を分け与える。前述の英語はUndertale the Musicalという動画のFloweyの曲の歌詞の一部より。

詠歌…かくりよの門で人魚系の式姫が持つスキル(スキル継承可)。歌によるバフを味方全体にかける。時間経過でMPが減っていく。

“対等の性質”…相手と同じような戦闘スタイルになり、実力も対等にする性質を持つ。厄介な能力ではあるが、神界の者ではない相手だと、ただの弱体化になる。

Angel Dance(エンジェルダンス)…ディレイとハンドソニックによる攻撃を織り交ぜた舞踏の如き連撃。対応力のある技で、相手によって動きが変わる。

Divine Rain(ディバインレイン)…小さな砲撃魔法を雨のように放つ魔法。威力はアクセルシューター以上ディバインバスター未満。

Fortissimo Chorus(フォルティッシモ・コーラス)…砲撃魔法であるフォルティッシモを連続で放つ。複数相手や単体相手でも強い効果を発揮する。コーラスの効果は、他の魔法にも適用可能。


以前、閑話16の後書きで効果音を書かずに地の文で表現すると書きましたが、表現の性質上必要なものは今回のような書き方で書く事に決めました。
細かい効果音などは依然書かないままです。

描写上、神相手でも優勢に戦えているように見えますが、これは洗脳による弊害です。
洗脳下にある神は、所謂バーサーク状態に近い状態にあるので、相手に対して真っ向からぶつかり合ってしまうため、戦術などに悉く嵌ってしまうという訳です。もちろん、戦術などに長けた“性質”の神ならその限りではありませんが……。
裏を返せば、そんな状態でようやく五分に持ち込めている訳でもあります。 
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