ハイスクールD×D イッセーと小猫のグルメサバイバル
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第57話 小猫&滝丸!ボギーウッズを打倒せよ!
side:リアス
「皆、急ぐわよ!」
イッセー、朱乃、祐斗、小猫とマッチさんと滝丸君を残し私とアーシア、ゼノヴィア、イリナ、ルフェイ、ティナさん、シンさん達はセンチュリースープがある下の階層に向かっている所よ。
「……イッセー君、大丈夫かな?私だけでも残れば良かったかも……」
「いや、あの美食會という連中は下種だが実力はかなりのものだ。祐斗達ですら勝ち目の薄い敵が相手となれば悔しいが私とイリナが残っても何もできなかっただろう」
「悔しいな、私達にもっと力が有ればイッセー君や小猫ちゃん達を助けれたのに……」
イリナとゼノヴィアは今回が初めてのグルメ界の冒険と言う事で張り切っていたわ、でも美食會の幹部クラスの実力を見てかなり恐怖してしまったようね。二人とも震えているけど悔しそうに手に握りしめていたわ。
「イリナ、ゼノヴィア。貴方たちだけがそう思っているわけじゃないわ」
「リアスさん?」
「私は眷属達を守るべき王なのにいざという時はイッセーに任せてばかり……正直王として相応しくない姿ばかりさらしてきたわ。でも今回はイッセーが率先して私達を頼ってくれた、だから今は何としてもセンチュリースープを手に入れて信頼に答える為に頑張りましょう」
「リアス殿……そうだな、彼らを心配するんじゃなく信じて自分がするべきことをしよう」
「そうね、私のイッセー君があんな奴に負ける訳ないもんね♪」
私の言葉にゼノヴィアとイリナは暗かった表情を消して決意を込めた笑みを浮かべてくれたわ。良かった、二人を鼓舞することが出来たみたいね。
「やるじゃないか、リアスちゃん」
「ああ、上に立つ者として立派な姿だったぞ」
「そんなことないわ、情けないのは事実だしね」
シンさん達が私を褒めてくれるが、こんな事は褒められることじゃない。本当なら私も眷属たちと一緒に戦いたかったわ。
(祐斗や小猫達が心配じゃないと言えば嘘になる。でもイッセーが私たちを頼ってくれるなんて滅多に無い事、つまり今の状況はそれほど深刻なものだっていう事だわ!イッセーには普段頼ってばかりだしこういう時に彼の役に立たないと仲間として申し訳が付かないわ!)
普段イッセーや眷属の皆に頼ってばかりで王として情けない私だけど、みんなの思いに応えるためにも何としてもセンチュリースープを手に入れるわ!
「あっ、みんな下を見て!何処かに出そうよ!」
ティナさんの言う通り坂道が終わって何処か広い場所に出たわ。もしかしてここにセンチュリースープがあるのかしら?
「ここの何処かにセンチュリースープがあるのか?」
「でもオーロラが見えないぞ?」
「まさかイッセーさんの言った通りスープは無いんじゃ……」
「そんな……」
辺りを見渡してみてもセンチュリースープがある場所にできると言われるオーロラの姿はなかった。まさか本当にスープは無いのかしら?いえ、まだ諦めるのには早いわ。
「皆、諦めたら駄目よ!オーロラが無くてももしかしたらスープがあるかもしれないわ、ここは手分けしてスープがないか探しましょう!」
節乃さんのお店で飲んだセンチュリースープはあまりの透明さに目で見えないくらいだったわ。だから天然物のセンチュリースープも同じように目に見えないくらい透き通ってるかもしれない。
「よし、なら数人で組を作って捜索しよう。まだ美食會の奴らがいるかもしれないしな」
「……いや、どうやら既に誰かいるみたいだぞ」
ゼノヴィアは奥から誰かが来るのを察知したみたいね、私も何者かの気配を感じたわ。
「だ、誰か来たわよ!?」
「覆面を被っていますね、顔が分からないです……」
「あんなの怪しすぎますよ!敵の可能性大です!」
ティナさんが奥から誰かが来ると叫んだ。その人物はアーシアの言う通り頭に覆面を被っており顔は分からなかったが体格からして男かもしれないわね。
あら、翌々見たら船で見かけたような気がするわね。でもこんな場所で一人でいるなんて怪しすぎるわ、さっきグルメSPの人が美食會の仲間だったからあいつもスパイかもしれない。ルフェイの言う通り敵の可能性が高いわね。
「そこのあなた、止まりなさい。こんな所で一体何を……ッ!?」
私は滅びの魔力を出して怪しい男に警告する。だが男は何も言わずにその姿を消してしまった。
「消えた!?」
「いや、後ろだ!」
私は消えた男を目で追うが、ゼノヴィアは背後にいると指摘したので振り返ってみる。すると彼女の言う通り男が背を向けて立っていた。
「おい、お前!何者だ!」
「美食會の仲間か!」
閃さん達が氷銃を構えるが男は何も反応しない。殺気も感じないし目的は私達じゃないのかしら?
「リアスさん、あの人は悪い人じゃないのでしょうか?」
「ちょっと待ってください!私達が下りてきた通路から何か来ますよ!」
アーシアは男の行動に首をかしげていた、けど直ぐに何かを感じ取ったルフェイが声を荒げる。確かに何か羽根の擦れるような音が聞こえるわね……まさか!?
「あれは虫か?あの昆虫使いの男が出したのか!」
「マズイわ、祐斗君ですら斬れなかったクワガタみたいな奴が来たら……!」
ゼノヴィアとイリナは不安を言葉にする。私も先程攻撃を受けたからどうしても体が恐怖してしまってるわね……
そして通路の奥から現れたのは蚊のような昆虫だったわ。でもどうみても友好的な奴じゃないわね、以下にも血を抜いて殺すって感じだわ。
「皆、迎撃態勢を!……って!貴方何をしているの!?」
とはいえこのままみすみす殺られるわけにはいかないわ。私は皆に指示を出そうとしたが覆面の男がゆっくりと昆虫の方に歩いているのを見て叫んでしまったわ。
(マズイ、あの人がやられるわ!?)
蚊のような昆虫が男に鋭い口を刺そうとした、でも男は一瞬でその昆虫を2体まとめて潰してしまった。そのあまりにも鮮やかな動きに私達は反応することが出来なかった。
「早い……それでいて何と自然な動きなんだ」
「ただ物じゃないわね……」
皆もあの男の動きを見て警戒を強めていた。敵だったらかなり厄介な相手になりそうね。
「あーあー……手が体液で汚れちまった。まあ仕方ねえか、コイツのノッキング法は知らねぇからな」
男は覆面を外して手に付着していた虫の体液を手を振って祓っていた。意外とあっさりと覆面を取っちゃったわね、それに結構イケメンね。
でも長髪かと思ったらそれは覆面についていた物で実際はリーゼントなのには驚いたわ。あの髪形を見ていると次郎さんを思い出すわね。
「ねえ貴方、貴方は一体何者……」
「しゃべらない方が良い、この大陸から出られなくなるぞ」
「えっ……?」
私は男に声をかけようとしたが男に手で遮られて黙ってしまう。この大陸から帰れなくなるってどういう事かしら?
―――――――――
――――――
―――
side:小猫
部長たちを先に行かせた私達は、美食會の幹部と対峙しています。グルメSPの男性と体格のいい男性、どちらも相当の実力者のようですね。
イッセー先輩の方をチラッと見てみると既に戦闘を開始していました。虫使いの男、トミーロッドの放つ無数の虫をナイフやフォークで迎撃して戦っていました。朱乃先輩も雷の矢でイッセー先輩をフォローしています。でも二人とも虫の攻撃で傷だらけになっていました。
「よそ見してるんじゃねーよ!」
「ッ!?」
巨体の男がいつの間にか目の前にいて頭を叩きつけようとしていました。男の予想外のスピードに驚きましたがかわせないほどではありません。私は後ろにバックステップして攻撃を回避します。
「二重の極み!」
そして男に殴りかかりますがそこにグルメSPの男性が割って入って攻撃を受けました。
「なっ!?」
まさかこっちの細い人が攻撃を受けに来るなんて思いもしませんでした。でもこれで少なくともダメージは与えられるはず……!?
「な、何が起きたんですか?人の中から人が……!?」
そう、私の攻撃を受けた男性の身体が剥がれて中から別の人物が出てきたんです。仙術で見ても分からなかった、じゃああれは変装ではないのでしょうか?
「シャア!」
するとその男は鋭い動きで私の腹部に攻撃をしてきました。戦車の駒の力で防御したので痛手にはなりませんでしたが男の連続攻撃に動けなくなってしまいました。
「小猫さん!」
そこに滝丸さんが現れて背後から男に栓抜きショットを喰らわせて吹き飛ばしました。
「大丈夫ですか、小猫さん?」
「ありがとうございます、滝丸さん。おかげで助かりました」
私は滝丸さんにお礼を言って吹き飛んだ男の方に視線を向けます。案の定男は身体に着いた汚れを落としながら立ち上がりました。
「なっ!?栓抜きショットで骨を外したはずなのに平然と立ち上がるなんて……」
「気を付けてください、滝丸さん。あの男、普通じゃありません」
最初の二重の極みでも大きなダメージは与えられませんでした。もしかすると何か秘密があるのかもじれません。
「グルメ騎士に美食屋イッセーの仲間……コレクションに加えてもいいかもしれないな」
「コレクション?どういう意味か分かりませんが私の体はイッセー先輩にしか触れさせませんよ?」
「何だ、そういう関係か?安心しろ、イッセーも仲良くコレクションにしてやるからよ」
「そんな事は私がさせません!」
私は男に素早く接近すると頭と足を掴んでたすき掛けのように背負いあげました。
「『リビルト・カナディアン・バックブリーカ-』!!」
先程打撃は通じなかったので今度は関節技で攻めていきます。このまま背骨をへし折って……?なんだろう、この感じは。まるで抵抗がなく曲がってしまいましたが……
「効かねえよ、バカが」
「ッ!?」
男はまるで蛇のように私の体に自身の体を巻き付いてきました。そして見た目からは造像もできないような力で私を締め付けてきます。
「があぁぁ……!?」
「小猫さん!」
締め上げられる私を見て滝丸さんがフォローをする為に動きました。すると男の腕が伸びて滝丸さんに向かっていきました。
「なに、腕が伸びただと!?」
滝丸さんはまさかの攻撃に一瞬驚いていましたが、危なげなくそれを回避しました。でも男の腕があり得ない方向に曲がると再び滝丸さんに向かっていきました。
「ぐうっ……!」
流石にかわせなかったのか滝丸さんは腕を組んで攻撃を防御しました。でもその顔には悲痛の表情が浮かんでいました。
「へぇ、良い反応してるじゃねーか。こりゃますますコレクションに加えてやりたくなったぜ」
「ぐっ、うぅ……」
私は拘束から抜け出そうともがきますがビクともしません。どんな体をしているんですか!
「無駄だ、力の強さには正直驚いたが力づくでこの拘束はぬけだせやしねぇ。このまま窒息しな」
「た、確かに力づくで脱出は厳しそうですね。だったら……」
私は意識を集中させて体の中を流れる氣を活性化させます。そして仙術を発動させて身体を成長させて隙間を無理やり開けました。
「何!?」
「やああぁぁぁ!!」
そして空いた隙間から無理やり体を通して拘束から脱出しました。そして奴の顔に向かってフライング・レッグ・ラリアートを喰らわせて吹っ飛ばします。
「はぁ……はぁ……これが私の新しい能力、その名も『白音モード』です……!」
私は今まで仙術を上手く使いこなせていませんでしたが、ライザー戦の後に先輩に協力してもらって仙術の修行をしてきました。そしてつい先日に出会った一龍さんにアドバイスを貰ったんです。
『小猫、お前さんの使うその技、身体に流れる氣を使っとるようじゃのう』
『えっ、一龍さんは仙術を知っているんですか?』
『仙術は知らんが似たような事は出きる。そもそもワシに限らずこの世界の強者は身体のエネルギーを自在にコントロールできるからな。究めれば数年食べなくても生きれるようになれるぞ』
『そんな技術があるんですね、イッセー先輩も使えるんですか?』
『イッセーもまだ出来んわい。まあいずれイッセーにも習得してもらおうと考えておるが今回は特別にそれの簡単な方法を教えてやろう。どうじゃ、知りたいか?』
『は、はい!教えてください!』
そして一龍さんに習った方法で仙術を練ることによって遂に白音モードは完成しました。とはいっても短い時間しかなれませんがこれで戦闘力は上昇です。
「小猫さん、その姿は?」
「これですか?これは仙術という……あれ?なんだか顔が赤いですよ、どうしたんですか?」
近寄ってきた滝丸さんは私を見て顔を赤くしていました。一体どうしたんでしょうか?
「あの、服がパツンパツンなんですが……」
滝丸さんは顔を逸らしながらそう言いました。見てみると確かにパツンパツンですね、特に胸が黒歌姉さまくらいに成長していますからギチギチです。
(おおっ……夢にまでみたおっきなおっぱい!凄い重さです……)
やりました。今まで部長や朱乃先輩のおっきな胸に嫉妬していましたが、私の将来性はどうやら希望にあふれたものだったようです。
(これならイッセー先輩のおっきなナイフもご奉仕できます。あれは凄かったですからね……)
前にお風呂場で見たイッセー先輩の下のナイフを思い出してしまいました。前はその大きさに入るかな?って思っちゃいましたが成長した私の身体なら問題は無いですね。
「……じゅるり」
「こ、小猫さん?大丈夫ですか?」
「えっ?……あっ、大丈夫ですよ。心配してくださってありがとうございます」
私は思考を切り替えて吹き飛んだ男の方を見ます。普通に立ち上がってきたところを見るとダメージは無いようですね。
「まさかあの拘束をそんな方法で脱出するとは思わなかったぜ。しかしいきなり身体が成長するなんてどんな体質をしているんだ?こんなレアな宿は初めてだぜ、女の宿は一つもなかったしお前をその一号にしてやるか」
「さっきから何を言ってるんですか?」
「意味が知りたいか?ならそこに転がっているゴミをよーく見てみな」
「ゴミ……?」
奴の視線の先にはさっきまで奴が被っていたグルメSPの男性の作り物があって私はそれをじっくりと見ました。
(……!いや、違います。これは人間の皮……!!)
良く見てみると、それは作り物ではありませんでした。髪や肌は人間の身体で作られた正真正銘の本物、つまりこの男は人の皮を被って変装をしていたんですね。
「悪趣味な奴だ。まさか本物の人間を加工して変装用の皮にするなんて……」
「宿っていうのはこの事だったんですね、確かにその方法ならイッセー先輩の鼻でも分からないですね、何せ本物の人を材料にしているんですから」
「それは少し違うな、そいつは生きているよ」
「えっ?」
私は仙術を使って再びグルメSPの男性の皮を見てみます。すると弱弱しいですが氣の流れを感じました。
「そいつは生きてるんだよ。筋肉もあれば臓器も血管も脳すらちゃんと残っている。まあ骨は全て抜き取ったから二度と動けないだろうがな」
「骨を抜き取った?」
「そうだ、俺が身体の中に侵入して骨格となり神経を操作することで全く同じ実力を引き出すことができる。擬態や変装じゃない、いわば変身ってやつだな」
私は男の話を聞いて震えが生まれました。生物の体内に侵入して操る生き物がいるのは知っていますが、まさか人間でそんなことができるなんて考えたこともなかったからです。
「俺の名はボギーウッズ、美食會第5支部の支部長にして変身のスペシャリスト!お前らも俺の宿として保存してやるよ!」
男……いえボギーウッズは再び腕を伸ばして攻撃してきました。私と滝丸さんはそれをかわしましたが腕が意思を持つかのようにある得ない方向にねじ曲がって追撃してきます。
「かわしても追いかけてくるなんて厄介です!」
何とか上手く立ち回って攻撃を回避していきますが、床の氷に亀裂がある場所がありうっかりそこに足を移動させてしまい体勢を崩してしまいました。
「しまった……!」
「危ない!」
そこに滝丸さんが私をかばって攻撃を受けてしまいました。滝丸さんの頭に巻いてあったターバンが外れて今まで隠れていた左目が露わになりました。その目は左右非対称の違った色をしていました。
「あん?その目は……!チッ、曰くつきだったか」
滝丸さんの目を見たボギーウッズは、忌々しい物を見るような眼で滝丸さんを見ていました。
「曰くつき?滝丸さん、その目は……」
「……」
滝丸さんは言いにくそうに顔を背けました。もしかして触れてほしくない事だったのでしょうか?
「予定変更だ。お前はもういらねーよ、だからこの場で処理してやるよ!『イレギュラーショット』!」
ボギーウッズは不規則な動きで腕を伸ばして私達に攻撃を仕掛けてきました。攻撃を防ごうとしても全く予測のつかない動きに翻弄されて全身を強打されてしまいました。
「がはぁッ!?」
「うわぁぁぁ!!」
全身を打ちのめされた私達は、意識が失いかけてしまうような程のダメージを受けてしまいました。
「これで終わりだな。女は骨を抜き取って男はゴミ箱いきだ」
ぐっ、強いとは思っていましたがここまでとは……もうダメなのでしょうか……
「ま、まだだ……」
ですが滝丸さんはボロボロの身体を打ち付けて立ち上がりました。その目には強い意志が宿っており闘志は全く衰えていません。
「しつこい奴だ。何故立ち上がる?」
「こ、この左目は……」
「あん?」
「この左目は……ボクの大切な人の恩恵でこうなった。死ぬ運命にしか無かったボクを救ってくれた人がくれた大切な部分なんだ!」
そう言う滝丸さんの表情には確かな怒りがありました。きっとあの目は滝丸さんにとって大切なモノなんですね。
「お前からすれば曰く付きの物件にしか見えないだろうが……ボクにとってはこれ以上ないほど愛情を注がれて育った大切な体だ。お前なんかに住めるものじゃない!」
「言ってる意味が分からんな?」
「分からないだろうな。誰かに感謝して生きるという意味を、嬉しさを、それらを一切知らないお前にはボクの身体は家賃が高すぎて住めないって言っているんだ!」
……誰かに感謝して生きる喜び、確かにそれは大切なものです。私もたくさんの人たちに支えられて生きてこられました。命を物として踏みにじるあいつには一生分からないですよね。
「……ぷっ。ぶわーっはっは!あーっはっは!あ!?感謝?バカじゃねえの?感謝なんてするわけねーだろう?俺が入り込める生物のすべてが宿でしかないんだからな!」
ボギーウッズは大きな声で笑うと滝丸さんにトドメをさすべく彼に向かっていきました。
「滝丸さん!」
「栓抜きショット!」
滝丸さんは敢えて自分から接近して栓抜きショットを放ちました。ボギーウッズの攻撃は読めない軌道で攻撃してくるので先手必勝が有効的です。
「でもあれなら……!」
あれ?でもそういえばさっき滝丸さんが栓抜きショットで攻撃しましたがアイツは何の影響もなく動いていました。じゃあまさか……
「……何かしたか?」
「そ、そんな……!!」
私の想像どおり、滝丸さんの攻撃を受けてもボギーウッズは平然としていました。
「レギュラーブロー!!」
「がはっ!?」
そして滝丸さんの腹部を鋭い攻撃で殴りつけて吹き飛ばしました。
「あ、あり得ない。ボクが外したのは背骨だぞ?本来なら一歩も動けなくなるはずなのに……」
「なるほど、骨や関節を外す技か。普通ならこれで決まるが本当に可哀想な奴だ、まさか俺が相手になるなんてなぁ」
「ど、どういう事だ?
「こういう事さ」
ボギーウッズは体中の部位をあり得ない方向にねじ曲げました。
「俺の骨格は常人とは数も形も全く違う、4000個の骨が複雑な形を構成して俺の体を支えている。たとえ背骨を外されても別の骨で体を支え神経も別の骨から伝達させて動かすことができるのさ」
「だから二重の極みも効かなかったんですね……」
物体を完全に破壊する二重の極みですが、一つの骨を破壊しても別の骨で動かせるから意味がない。全部破壊すればいいかもしれませんがその前にやられてしまいます。
「フフ、俺の支部は仕込みを担当していてな。調理の為に生物の体内に入っているうちに身に着けた技術さ。今では大概の生物の中に入ることができる」
「ぐにゃぐにゃしてて気持ち悪い……まるでタコみたいですね」
強がってみますが実際はヤバイです。何せ私や滝丸さんにとって相性が最悪の相手……これならあの体格のいい男と戦えばよかったです。
「分かるか?俺はお前らにとって天敵と言ってもいい存在だ。勝ち目なんてねえんだよ」
ボギーウッズは懐から鎌と分銅を取り出して両手に持ちました。伸びる腕に鎌と分銅、これってもしかして……
「そろそろ決着をつけさせてもらうとするか」
ボギーウッズは腕を伸ばすと鎌と分銅を私達に向けて鎖鎌のように振るってきました。最初の一撃はかわせましたが背後から分銅の一撃を受けた私は身体を曲げながら地面に叩きつけられました。
「小猫さん!?」
「よそ見してんじゃねーよ!」
「ぐわぁぁぁ!!」
滝丸さんの身体を鎌が斬りつけます。攻撃が不規則な軌道を描いているため回避が困難です。全身に攻撃を受けた私達は血まみれになって地面に倒れてしまいます。
「漸くくたばったか。女は加減したから生きているだろう、後で骨を抜きとりゃいいし今はバリーの援護にでも向かうとしよう」
(か、勝てない……強すぎる……)
相性の悪さに加え相手は格上の存在、私には荷が重すぎました……幸い奴は私達が動けなくなったと思い込んで背を向けましたしこのままやり過ごしても……
「ま、まだだ……」
「滝丸さん……」
でも滝丸さんは諦めるどころか更に闘志を燃やしていました。
「ボクは負けられない、絶対に諦めるものか……!」
「でも相手はこちらの攻撃が通用しません。勝ち目なんか……」
「いや、ボクに考えがあります。あいつが言っていた事を覚えていますか?」
「ボギーウッズの……?」
「あいつは大概の生物に入れるとは言ったが何故大概なんでしょうか?もしかすると入れない生物もいるのかもしれない。つまりそれは……」
「動かせない骨がある……ということですね」
「ええ、人間の身体には背骨の土台となる『仙骨』と呼ばれる部位があります。それを外せば流石の奴も動けなくなるでしょう……」
滝丸さんは小声で私に仙骨の事を教えてくれました。確かにもしそれが本当にあるのなら勝機はあるかもしれません。
「だがボクはダメージを受けすぎてしまった……もう少しで仙骨のある場所が割り出せそうだが身体が動かない。あともう少しなのに……」
「ならここからは私の出番のようですね」
「えっ……?」
私はゆっくりと立ち上がると滝丸さんに視線を向けます。
「ごめんなさい、実はさっきちょっと弱気になっていました。でも滝丸さんの話を聞いて勝機が出たんです。あいつの身体にある仙骨を探るのは私に任せてください」
「こ、小猫さん……」
「すぅぅぅぅ……ボギーウッズッ!!」
私はそう言ってボギーウッズに向かって叫びました。奴はわたしの方に振り替えると面倒くさそうに頭をかいていました。
「おいおい、まだ動くのかよ?少ししつこ過ぎじゃないか?」
「生憎私はやり残したことがありますので……」
「そうか、なら今度は死なない程度に全身の骨を破壊してやるよ!」
奴は再び鎌と分銅を振り回してきました。私は敢えてそれをかわさずに鎌を左腕で受け止めました。
「かわさないだと!?」
そして右手でボギーウッズの腕を掴むとそれを引っ張ってこっちに引き寄せます。そして奴の顔面に拳を叩き込みました。
「こいつ!」
ボギーウッズは腕を鞭のように振るって攻撃してきますが、私はそれをかわして関節技を喰らわせました。
「なんだ、何をしてくるかと思えば関節技?効かねえと言っただろう?」
ボギーウッズは余裕そうにそう言いますが私は構わずに攻撃を続けます。
「いい加減うっとうしいんだよ!」
頭を殴られて血が噴き出します、でもそれにひるまずに何度も関節技を仕掛けていきます。ボギーウッズは何度も私を攻撃してきますが戦車の駒の防御力で耐えながら何度も挑みました。
「こいつ、やけになって攻撃ばかりしているのか?哀れだな、勝ち目のない勝負に挑み続けなくちゃいけないっていうのは」
私が自分に通用しない関節技しかしてこないことで憐みの視線を向けてきました。そして私の腹部に強力な一撃を与えると私は血を吐きながら吹き飛びます。
「もういいや、折角珍しい個体を見つけたがこれ以上時間をかけていたらトミーロッド様に殺されちまう。お前はもう死ね」
そしてボギーウッズは私にトドメを誘うと鎌を振り上げました。だが鎌が当たる前に私は起き上がってボギーウッズの身体を掴みます。
「何のつもりだ?」
「わ、私に夢中で接近に気が付かなかったようですね」
「あん?……ああ、そういう事か」
私達の背後には滝丸さんがいて既に技を放つ準備を終えていました。
「小猫さんのお蔭で十分な集中力を高めることが出来たよ」
「それでまたさっきの技か?効かないのに放つとかイカれてやがるみたいだな。態々喰らってやる必要はないしこんな拘束はさっさと解いて……?」
ボギーウッズは私を振り払おうとしましたが、徐々に体の動きを鈍くしていきました。
「なんだ、急に体の動きが……」
「私が関節技ばかり仕掛けたのは……貴方の身体に密着する為……そうすることで仙術で氣の流れを乱すのが目的でした」
「仙術……?」
「貴方は普通の人間とは体の作りが違うので乱すのに時間がかかりました。でも……少しは効いたでしょう?」
「なるほどな、仕組みは良く分からないが何らかの方法で俺の動きを鈍らせたのか。だがこんなことをしても無駄だ。結局お前らの技は俺には通用しないんだからな」
ボギーウッズはそう言いますが本当の狙いは仙術で氣の流れを見て体の構造を探る事、そして骨から流れる神経を辿って仙骨を探すことです。そしてそれが漸く分かりました。
「滝丸さん!貴方から見てボギーウッズの腰の右上辺りにソレはあります!」
「承知しました!」
「ま、まさかお前ら……!?」
そして滝丸さんは私が言った場所に両手を添えました。それを見たボギーウッズは私達が何を狙っているのか理解したようで叫びますがもう遅いです!
「ここだぁ!栓抜きショット!奥義『コルクスクリュー』!!」
滝丸さんの一撃がボギーウッズの身体から何かを抜き取りました。私はそれをキャッチしましたがそれは奇妙な形をした小さな骨でした。
「こ、こいつら……まさか仙骨の場所を……!?あり得ねぇ、俺の仙骨は骨盤には無いんだぞ?どうしてわかったんだ……!」
「貴方が油断して関節技をさせてくれたので何とか探し出せました。それでも滝丸さんのアドバイスが無ければ無理でしたが」
「お前は無駄な足掻きだと思っていたんだろうが、全ては仙骨を探るための下準備だったって訳さ。覚えておけ……無駄な攻撃など一つもないって事をな」
「そしてこれで……終わりです!」
私はボギーウッズの目の前で仙骨を握りつぶしました。
「く、クソがぁぁぁぁ!!」
ボギーウッズはそう言って倒れてしまいました、それを見届けた私と滝丸さんも倒れてしまいます。
「や、やりましたよ。先輩……」
私はそういうと気を失ってしまいます。どうか勝ってください、先輩……
後書き
祐斗です。ボギーウッズになんとか勝利できた小猫ちゃんと滝丸君。僕とマッチさんはバリーモガンという男に苦戦していた。でも負けるわけにはいかない、僕だってこの壁を乗り越えて見せるさ!
次回第58話『極寒地帯の罠!祐斗とマッチ、友情の一閃!』で会おうね。
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