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戦国異伝供書

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第四十二話 信濃の南その八

「多くの時と人を使わねばならん」
「そしてその間に」
「美濃を強い勢力に奪われるとな」
「容易に手出しが出来なくなり」
「上洛が難しいものになるやもな」
 こう言うのだった。
「その時は」
「長尾家とはことを構えるべきではないですか」
「出来ればあの家は」
 長尾家、そしてその主となった景虎はというのだ。
「幸い西に一向宗がおって東の揚北衆も中々従わぬ、そこにじゃ」
「さらにですか」
「今北条家が関東に力を伸ばしておるな」
 昌幸は信之にこのことも話した。
「あの家が関東の西をほぼ手に入れればな」
「今下野に進出していますな」
「河越の戦に勝ってな」
 それからというのだ。
「山内、扇谷の両上杉家を退け」
「扇谷上杉家は滅びました」
 河越の戦で主が討ち死にしてだ、そうなってしまったのだ。
「そうなったので」
「そうじゃ、それでじゃ」
「扇谷上杉家はいなくなり」
「山内上杉家もじゃ」
 この家もというのだ。
「その力を大きくじゃ」
「弱めたので」
「このままでは上野もな」
 この国もというのだ。
「北条家の手に落ちる」
「そうなれば越後の長尾家とも境を接しますな」
「そこから長尾家が北条家と揉めてくれれば」
「武田家にはですな」
「兵を向けようとしてもな」
「それが中々となる」
「だからじゃ」
 そこまで考えると、というのだ。
「ここはじゃ」
「北条家とはですな」
「長尾家は揉めてもらいたい」
「さすれば」
「三つの敵を持ってじゃ」
 一向宗、揚北衆そして北条家とだ。
「長尾家は信濃にはな」
「さして目を向けられなくなり」
「その間にじゃ」
「我等はですな」
「信濃から美濃にな」
「兵を進め」
「美濃を手に入れ」
 そしてというのだ。
「そこからじゃ」
「上洛ですな」
「美濃を手に入れればじゃ」
「上洛はあと一歩ですな」
「近江の南を進み」
 そうしてとだ、昌幸は話した。
「そしてじゃ」
「いよいよですな」
「上洛となる、しかしな」
「その為には」
「何としてもな」
「長尾家じゃ」
 何といってもというのだった、ここでも。
「下手に長くな」
「揉めない様にですな」
「したい」
 是非にと言うのだった。
「やはりな」
「武田家のこれからの戦略を考えると」
「それで長尾家と対するにしても上洛にしても」
「どうしても必要なことは」
「後ろを万全にすることじゃ」
 このことも大事だとだ、昌幸は話した。 
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