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人徳?いいえモフ徳です。

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四十八匹目

『人件費が安い』『勤勉』。

確実に相反するであろうこの二つ。

が、その二つを持つ存在は居なくもない。

我ながらゲスな思考だとは思う。

が、しかし『これ』は昭和正化令和と続く近代日本でも取られた手法。

「なぁ、お前達。ローリスク・ローリターンだがローリスク・ハイリターンに化けるかも知れない仕事があるんだが、一口乗らないか?
なに、安心しろ。お前達が生きるのに必要な金くらい、直ぐに集まる」

現在地、繁華街路地裏の倉庫。

目の前には倒れている『僕とそう年の変わらないであろう』子供達。

僕の現在の状況。

『拐われたからアジトで暴れた』

「ああ、断ってくれても構わないが、その場合君達は死刑だ。
さぁ、どうするかね?」

side out






五月の初旬。

その日シラヌイは王都リベレーソの外に出ていた。

スライムコアを集めるためだ。

風魔法でジャンプしながらスライムを探し、近付いては手を突っ込んでコアを引き抜く。

否、引き抜いてはいない。

シラヌイの手は、スライムに触れていないのだから。

シラヌイの手は小さな竜巻を纏っている。

そんな手がスライムコアを掴めばどうなるか。

コアが周囲から切り離される。

制御を失った水は、パシャンと形を失う。

「これくらいにしとこうか……」

シラヌイがアイテムボックスにスライムコアを放り込む。

合計30。

「さて、これだけあればティアの子機もじゅうぶんだろ…」

シラヌイが風魔法で翔ぶ。

跳躍ではない。飛行だ。

シラヌイはリベレーソをグルリと囲む城壁の門を通ると、ギルドへ向かった。

換金のためだ。

近頃ようやく絡まれなくなったシラヌイは手早く換金を終え、代金と領収書を受けとる。

「帰りに串焼きでも買おうかな……」

貴族街へ向かう大通りを歩きながら、串焼やらジュースやらを購入する。

買った物を食べながら、シラヌイが貴族街へ歩いていると……。

ドン! と誰かがシラヌイを突き飛ばした。

「うきゅっ!?」

シラヌイが持っていたジュースと串焼が地面に落ちる。

「うっきゅぅー……」

シラヌイが目を開けると、路地裏だった。

ちょうど建物と建物の間。

「よし! 急げお前ら!」

「うきゅー!?」

シラヌイの頭に紙袋が被せられた。

(あ、いい匂い。これ蜂蜜パイ入れてたのかな?)

シラヌイはあっという間に手足を縛られ、奥へ奥へと運ばれていった。

しかし当のシラヌイはと言えば。

(わー…誘拐だ)

呑気なものだった。

(あ、違う。暴力的な身柄の確保だから略取なのかな?)

紙袋越しに聞こえる足音や会話から、シラヌイは犯人に目星をつけた。

(幼い声、狭い歩幅……ストリートチルドレンか。
目的はたぶん身代金なんだろうけど……)

数分ほどすると、シラヌイは中途半端な柔らかさの何かの上に置かれた。

(藁に布を被せてるのかな…?)

そこでバッと紙袋が取られた。

「よう。貴族様」

シラヌイの目の前には、そう年の変わらないであろう少女がいた。

ボサボサの髪に痩せこけた体。

ピンとたった猫耳に鋭い牙。

その少女の後ろに、彼女よりやや小さい子供達が十数名。

全員が猫耳だ。

(野良猫の群かな…? それにしては男が居ないような…?)

「やぁお嬢さん。一応義務的に言っとくよ『こんなことしたら僕の家がだまってないぞ』ってね」

「さぁどうだろうな? 誘拐されたなんざ貴族の恥。大人しく身代金を払うんじゃないか?」

「はっはっはっはっは! そんなのお婆様が気にする物か。
お婆様なら僕が拐われた事すら気にしないさ」

「ほう? お前さん、貴族の三男辺りか?」

「おいおい僕の事も知らずに拐ったのかい?
命知らずにも程があると思ったが、それなら仕方ないかな」

「あ?」

シラヌイが有らん限り偉そうに言った。

「今すぐ僕を解放しろ。そうすれば、僕は何も見なかった事にしよう」

「立場がわかってねぇようだな、貴族様よ」

シラヌイの手足は縛られ、数的不利は一目瞭然。

「ちょっと痛い目見た方がいいんじゃぁねぇのか!」

少女の足がシラヌイの腹を蹴ろうとした寸前。

「ゲート・オープン」

シラヌイがボソリと呟いた瞬間。

シラヌイの姿が消えた。

少女の足が空を切る。

「なっ!? 消えた!? 幻影か!?」

子供達が辺りを見渡す。

数秒の後、彼らの中心にシラヌイが現れた。

「やー、アイテムボックスの中に自分を入れるなんて事考えるのは僕だけだろうね」

子供達がシラヌイに殴りかかる。

が、しかし。

「パラライズ」

バチィ! と閃光がはぜた。

瞬間、子供達が倒れる。

「なぁ、お前達。ローリスク・ローリターンだがローリスク・ハイリターンに化けるかも知れない仕事があるんだが、一口乗らないか?
なに、安心しろ。お前達が生きるのに必要な金くらい、直ぐに集まる」

子供達は答えない、答えられない。

「ああ、断ってくれても構わないが、その場合君達は死刑だ。
さぁ、どうするかね?」

勝負は、決した。
 
 

 
後書き
短距離ワープ
自身をアイテムボックス(世界の裏側)に入れて出てくる魔法。
その性質上アイテムボックスの広さ内でしか移動できない。
シラヌイなら最大で100メートル(現状)。 
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