ロックマンX~Vermilion Warrior~
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第145話:Pitch Black
帰投したエックスとエイリアを迎えたのはシグナスであった。
現在、ゼロ達のナビゲートをしているパレットは、エックスとエイリアが帰投したことに気付くと今まで視線を注いでいたモニターから離し、笑いかけた。
「エックスさん、先輩。お帰りなさい」
「ただいま、パレット」
「ナビゲートありがとう。パレット…大丈夫か?」
笑顔の下にある疲労にエックスは思わずパレットの身を案じるが、パレットは問題ないと言わんばかりに笑いながら口を開いた。
「大丈夫ですよこれくらい!私よりも戦っている皆さんの方が大変なんですから!!」
「そうか…でも辛いならすぐに言って欲しい。今は1人でも欠けるわけにはいかないんだ。ゼロのチームとアクセルのチームは?」
「ゼロさんのチームもアクセルのチームも何とかボスらしき反応のある場所までのナビゲートはしました。エックスさんとエイリア先輩のチームが一番乗りですよ」
「そうなの…ゼロのチームはともかく、アクセルのチームが心配ね」
「………そう、ですね…でも私はエイリア先輩やアイリス先輩のように敵の分析は正確に出来ないので…」
心配そうにするパレットの姿にエイリアはかつての自分を思い出す。
今のパレットと同じように自分と今ここにいないアイリスはエックス達を見守り、迎える側であった。
傷ついたエックス達を迎える時、喜びと悲しみが錯綜したのを覚えている。
殊にエックスは戦いを望まぬ性格故に、苦痛を堪えた表情を浮かべていることが多かった。
その彼を笑顔で迎え、労うことも、ハンターであるエックス達を支える自分達の大切な仕事だと思っていた。
笑顔で送り出すこともまた大切な仕事だと思っているために、エックスはそんな彼女に笑顔で応えてくれた。
「でも、私は大丈夫だって信じてます。ゼロさんやアイリス先輩。アクセルやルインさんが無事に帰ってくることを。信じて帰りを待つことも私達オペレーターの大切な仕事だって教えてくれたのは先輩達ですよ?忘れちゃったんですか?」
エイリアはそれを聞いて、キョトンとしたが、すぐに可笑しそうに笑った。
「そうだったわね、ゼロ達は強いもの…信じて帰りを待ちましょう」
「はい、帰ってきたらゼロさん達やアクセル達を笑顔で迎えてあげたいです。誰だって帰ったら笑顔で迎えられたいに決まってますよ。基本的に無愛想なゼロさんだって本当は嬉しいはずですよ。少し素っ気ないけど。今のアクセルみたいに辛い時とか、話したくない時とか、放っておいて欲しい時もあるかもしれませんけど、でも基本笑顔で“お帰りなさい”って言って欲しいに決まってますよね。」
「……………そうね」
「今はアクセル…ルナのことで落ち込んでますけど…きっと立ち直ってくれますよね…?ウィルスとか…きっと大丈夫ですよね…?」
その言葉にはパレットの不安が垣間見えた。
アクセル本人には今のところ異常はなくてもコピーチップがシグマウィルスに侵されていると言う、体内に爆弾を抱えているような状態なのだから。
「………大丈夫だ。今の俺達に出来ることはゼロ達とアクセル達を信じて待つことだ。そうだろうパレット?」
「……はい!!」
エックスの言葉に対するパレットの笑顔はとても明るく、眩しい太陽を思わせた。
エイリアもパレットの笑顔に微笑を浮かべて頷き、未来を感じさせる彼女にエックスも目を細めた。
「大丈夫よね…きっと…帰ってきたら笑顔で迎えて“お帰りなさい”って言うわ」
エイリアの言葉にエックス達も頷いた。
時は大分戻って、砂漠の地下兵站基地であるピッチ・ブラックに転送されたゼロとアイリス。
転送と同時にパレットから通信が入る。
『流石に、この施設には立派な監視システムがありますね…。なるべく引っ掛からないように明かりのありそうな場所にナビゲートしますね』
「了解した。パレット」
「分かったわパレット。でもあまりあなたも無理しないで」
隣でアイリスがナビゲートしてくれるパレットの身を案じている。
ゼロにも何となくだが、パレットの声に今までの明るさがないことが分かる。
戦闘しか出来ない自分にはあまり理解出来ないが、1人で複数のエリアのナビゲートをすると言うのはやはり大変なのだろう。
「行くぞアイリス」
「ええ!!」
ゼロとアイリスが立ちはだかるメカニロイドを斬り捨てながら前進すると通気口のファンをかわして奥のエレベーターに乗り込んで下の階に移動して近くの扉を抉じ開けると大量のブラッQが襲い掛かってくる。
「ふん、警備用メカニロイドか…この程度の奴らで!!」
「たあっ!!」
ゼロとアイリスが次々に現れるブラッQを破壊し、全てを破壊すると目の前の扉が開いた。
「どうやらこのメカニロイド達と扉のロックが連動していたようね」
「そのようだ。行くぞ」
次の通路にはサーチライトが動いている。
この光に照らされれば確実に警報が鳴り、警備ロイドが出てくるだろう。
『所々に、警備ロイドがいますね。見つかったら増援を呼ばれそうですね。アクセルならコピー能力で警備ロイドを騙してどうにか出来るかもしれませんけど…無い物ねだりしても仕方ないですよね。警備ロイドとサーチライトに気をつけて進んで下さい』
「分かったわ」
『それからこのエリアには、長い間使われていない発電機があります。施設内に明かりを点けたり、高所作業用の足場を動かしたりするための物だったみたいです。発電機を動かすことが出来れば明かりが点いてこのエリアの攻略がグンと楽になるはずです』
「発電機か、分かった。探してみよう」
サーチライトに照らされないように、警備ロイドに気付かれないように接近してセイバーとサーベルで破壊しながら先に進むと、発電室を発見した。
「あそこにパレットの言っていた発電機があるのね」
「行ってみるか、アイリス」
「ええ」
壁蹴りを駆使して駆け上がり、発電室の入り口に入ると発電室の扉が開いており、警備ロイドが仰向けに倒れて居眠りをしている。
「眠っているわ…」
「チャンスだな。」
警備ロイドを起こさないように慎重に発電室に入ると、古い発電機を発見する。
『あれが使われていない発電機のようですね。あれ?うーん…長い間使われてなかったから何だか、壊れてるみたいです…こういう時はショックを与えて直しましょう。確か大昔は機械の調子が悪いと叩いて直したんですって』
「パレット…技術者が言っていい言葉ではないわよ…?」
少なくてもメカニックに携わる者達が聞いたら猛抗議しそうな話だ。
「なるほどな、ショックか…セイバーでは破壊してしまうからこいつの出番のようだな」
セイバーの柄のスイッチを押すとセイバーが変形し、ハンマー型の武器であるTブレイカーとなる。
「え?ゼロ…」
「てりゃあっ!!」
「きゃああああ!!?」
ハンマーを発電機に思いっきり叩きつけるゼロに、アイリスは発電機が完全に壊れたと思ったが、ガコンと言う音がして明かりが点いた。
「本当に点いちゃった」
『大昔の人は偉大ですね。では、ゼロさん達も頑張って下さい』
明かりを点けたことで攻略の難易度がグンと下がり、ゼロとアイリスは迅速に基地を攻略していくと、ゼロの耳に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『ゼロ…ゼロよ…』
「この声は…Dr.ライトか?」
声のした方向に向かうと、そこにはライト博士のホログラムが現れた。
『久しぶりじゃのうゼロ』
「この人がトーマス・ライト博士…」
100年前にエックスの兄と言える強さと優しさを兼ね備えた最強の戦闘型ロボットであるロックマンを生み出し、世界の平和に多大な貢献をした偉大な人物。
今でも数多くの研究者が尊敬し、理想とする科学者。
『ゼロ…今回も大変なことになってしまったのう…ルナが連れ去られ、新世代型のレプリロイド達が反乱を起こしてしまう…』
「ええ、だが…ルナは必ず助け出し、必ず反乱は止めて見せる」
『…すまない、頼んだよゼロ。今回、エックスに授けるアーマーはニュートラルアーマーじゃ』
「ニュートラルアーマー…?」
ゼロとアイリスの前にホログラムに映し出される灰色のアーマー。
『ニュートラルアーマー自体には何の強化能力を持たない、全てのアーマーの基礎と言える物じゃ、しかし、これらの2種類のアーマーのパーツを組み合わせることでアーマーに能力を付加させる事が出来る。』
「つまり、今までのアーマーと違い、それぞれのパーツを装着することが出来るんですね」
『そう、イカロスアーマーのIパーツは戦闘力を重視している。ニュートラルアーマーをIパーツで統一すれば、広範囲を攻撃するギガクラッシュが使える。次にヘルメスアーマーのHパーツはイカロスアーマーのパーツとは違い、機動力を重視している。ニュートラルアーマーをHパーツで統一すれば、レイジングエクスチャージの簡易版と言える、全能力強化のエクスドライブが使える。それぞれのパーツの詳細はこのファイルに纏めておいた。ハンターベースに帰投したらこの2つのファイルをエイリアかゲイトに渡して欲しい』
「分かりました。アーマーファイルとパーツファイルを受け取りましょう」
『頼んだよアイリス』
ライト博士からアイリスはニュートラルアーマーのアーマーファイルとIパーツとHパーツのパーツファイルを受け取る。
『それではゼロ…後は任せた………君の創造主からあるメッセージを受け取っている』
「俺を造った奴から…?」
疑問符を浮かべながら表情を歪めるゼロ。
『うむ、“フォルテ以上の親不孝者の馬鹿息子よ。お前の好きに生きるがいい”とな。』
「…………」
『ワイリーは確かに悪人と言われても仕方ないことをしてきたが、ロボットに対する想いは本物じゃった。どれだけ反抗されようとお主の兄弟を決して見捨てたりはしなかった。ワイリーと袂を分かった後でもこれだけは覚えておいて欲しい。実際にシグマが反乱を起こすまでお主には一切干渉しなかった……ワイリーは最後の息子であるお主を彼なりに愛しておったんじゃよ。父親として』
そう言うとライト博士のホログラムは消えてしまった。
「………何を今更…」
俯いて呟くゼロにアイリスは歩み寄る。
「でもゼロ、ゼロを造ったワイリー博士について少し分かったことがあるわ…ワイリー博士はゼロを愛していたんだわ。その気になればずっと前からゼロに干渉することが出来るはずなのにしなかった…悪いことをしようとはしていたんだけど…きっとワイリー博士もゼロの幸せを願っていたんだと思う」
「どうだかな…アイリス、行くぞ」
「ええ」
アイリスと共に基地を一気に駆け抜けて行き、迫る警備ロイドを撃退しながら最後の扉の前に立つ。
確かこの基地の警備を担当しているダークネイド・カマキールは、確か暗闇での活動を得意としていたはず。
つまり、基地全体が明るくなっている今なら大分戦いが楽になるはずだ。
部屋に入ると、壁に張り付いている蟷螂をモチーフにしたレプリロイド…カマキールが此方を見下ろしていた。
「ふう、やっぱ眩しいのは好きじゃないな…それにしても渋いのと可愛いのが来たね…紅いあんたがゼロなんだろうけど、隣の嬢ちゃんは装備を見るからに…オペレーターかい?オペレーターまで前線に出るとは、ハンターの人手不足も深刻のようだな」
「お前達が暴動を起こさなければ彼女が前線に出ずに済んだんだがな、イレギュラー」
「イレギュラー?俺達、新世代型レプリロイドはイレギュラー化しないように造られてるって話だろ?」
「現にあなたはイレギュラー化してる…。あなたのしていることは完全にイレギュラー行為だわ。そんな話はアテにならないわね…」
「それならあんたらと一緒にいるプロトタイプ共はどうなんだい?俺達がイレギュラーだって言うならプロトタイプのあいつらも…いや、プロトタイプだからこそ…より危険だと思わないか?」
「少しお喋りが過ぎたなイレギュラー。俺の仲間を侮辱するとどうなるかを教えてやろう」
ゼロはセイバーを抜いてカマキールとの距離を詰める。
暗闇での活動を得意とするカマキールは部屋が明るいことで若干動きが鈍くなっているはずだ。
「おっと!!」
しかしいくら得意ではない状況下でも簡単にやられるはずがなく、カマキールは跳躍して壁に張り付く。
「そこっ!!」
張り付いた直後の隙を突いてアイリスがサーベルでカマキールに斬りかかる。
「わーう、オペレーターとは思えないくらい鋭い一撃だね」
直撃はしなかったが、カマキールの脇腹に掠り傷を負わせることに成功した。
「伊達に日々の訓練はこなしてません!!」
「努力の賜物って奴か。ならこいつはかわせるかな?シャドウランナー!!」
「っ!!」
闇属性のブーメランがアイリス目掛けて放たれた。
アイリスは即座にシャドウランナーの分析をし、特性を理解する。
まずは最初の一撃を回避して戻ってくるブーメランを空円舞で回避する。
「おっ!?」
初見であるにも関わらずかわされたことにカマキールは目を見開く。
「私達オペレーターの分析能力を甘く見ないで!!」
「アイリスを甘く見たなイレギュラー。落ちろ!!」
再びセイバーをTブレイカーに変形させると、カマキールに向けて振り下ろして叩き付ける。
「ぐはっ!!」
「Kナックル!!」
アイリスはサーベルの柄をナックルに変形させると両手に装備してカマキールにパンチを連続で叩き付ける。
「っ…見た目に寄らずパワーがあるな…ブラックアロー!!」
今度は上空目掛けて闇の矢を撃つ。
ゼロとアイリスはそれをかわすが、矢は床に刺さって消滅することなく残る。
「しまった…」
「あんたらの踏み込みのスピードは厄介だからな。少し削がせてもらうぜ。」
そう言うとカマキールが両腕の鎌で斬り掛かる。
「Bファン!!」
セイバーを分割、変形させると2つの扇となる。
リーチはナックルよりはあるものの、セイバーより短いが、しかしゼロの武器で唯一両手で扱う武器であり、小型故に小回りが利く利点がある上に防御時にバリアを展開し、弱い攻撃を弾くことも出来るのだ。
「ははっ、そのセイバー、色々な形になるんだな。」
面白そうに笑いながら鎌を振るうカマキールに対してゼロは扇でカマキールの鎌を弾く。
「貴様らイレギュラーは何をしてくるか分からないからな…当然の準備だ。」
「イレギュラーね……まあいいさ…それにしてもゼロの旦那も勿体無いことしたもんだ。」
「?」
「あんたさえその気なら俺達の大将になれたかもしれないってことさ。“あの方”はあんたのことを随分と買ってたみたいだしね」
「誰のことか知らんが、俺は貴様らイレギュラー共に担がれる気はない。安心しろ、あの方とやらもお前の後を追わせてやる。」
「はっ、所詮はあんたも旧世代ってわけか。それがどれだけ光栄なことなのかも気付けないってのは、哀れなもんだねえ!!」
互いに細い傷を付けながらも、カマキールはゼロを弾き飛ばして高く跳躍し、滞空すると両腕の鎌に凄まじいエネルギーを纏わせる。
「ゼロ、多分…カマキールのスペシャルアタックよ!!」
「ご名答!!さあ、死の刃を受けてみな!!デスイメージ!!!」
凄まじいエネルギーを纏わせた斬撃がゼロとアイリスに向けて繰り出された。
「ゼロ!!」
「アイリス!?」
アイリスがゼロの前に出てサーベルを扇に変形させて構えると少しでもダメージを軽減しようとする。
「そんなもので俺のスペシャルアタックが防ぎ切れるかよ!!」
嘲笑うカマキールの言葉通りに扇の防御は多少勢いを殺いだだけで、容易く打ち破った。
「終わりか…さて、部屋が眩しくて仕方ない…発電機を止めに行くか…」
「まだ終わっていない!!」
爆煙を斬り裂いて、カマキールの脚部に長い柄の武器…ゼロの持つ武器の中でも最もリーチが長い女神の名を冠した槍の穂先が深々と突き刺さる。
「ぐっ!?何だと…?」
「ふう…危なかったけど、何とか耐えきれたわ…」
「ば、馬鹿な…俺のスペシャルアタックは新世代型の中でも最高の殺傷力がある。何で標準の人型の嬢ちゃんが耐えきれたんだ…?」
「確かに私の通常の防御力では耐えきれなかったわ。でも事前に強化チップを組み込んでいたのよ。ダメージをある程度カットするシールドアーマーと体にかかる衝撃を緩和するショックアブソーバーをね…そしてBファンのバリアで少しでもダメージを軽減すれば…何とか耐えられるんじゃないかと思ったけど…」
「………見た目に寄らず大した度胸だなあんた。成功するかどうかも分からないのに臆することなく自分を盾にするなんてよ」
カマキールが沈黙を破る。
それは、皮肉ではなく、本心から実力を認めた響きである。
「っ…イレギュラーに褒められても嬉しくないわね」
しかしそれでもカマキールのスペシャルアタックを受けてはただでは済まずにアイリスはダメージの影響で膝をついた。
「そうか?ははっ…」
アイリスが膝を着いたのと同時に再び沈黙が戻り、槍をセイバーに戻したゼロが無言でアイリスを庇うように前に出た。
しばらくしてカマキールが再度口を開いた。
「なあ、あんたらの言うイレギュラーってのは何だ?」
戦場に似合わぬ穏やかな声でゼロに問う。
「何を今更…貴様らのような狂った奴らのことをそう言うんだ」
「そうかい?俺はてっきり、あんたらに従わないレプリロイドだと思ってたぜ?」
その言葉にゼロとアイリスは思わず目を細めた。
“イレギュラー”…人間やレプリロイドに害を為す存在のことを意味する言葉だが、その定義が綻びているのをゼロとアイリスは知っている。
かつてのレプリフォースのように、一方的にイレギュラーの烙印を押された者がいる。
イレギュラーの定義も、正義の形すらも今となっては殆ど曖昧な物となっており、“イレギュラー”達の嘲笑の対象となっている。
「まあ、あんたらには分からねえだろうな…俺達の存在理由を、俺達はこの世界を変えるために造られた。この歪んで、狂った世界をよ!!」
「(狂った…)」
世界には沢山の矛盾がある。
レプリフォース大戦では互いに認め合ったゼロとカーネルが戦い、上司と部下の関係であったエックスとディザイアが戦った。
そして親子のような関係であったアクセルとレッドも殺し合った。
そういう視点からすれば確かにこの世界は狂っているのだろう。
「(でも、みんなは悲しみを乗り越えて戦っている…世界を守るために…)」
「狂っているのは貴様だ。貴様がこの世界をどう思っているのかは知らんが、貴様らの勝手な理由でこの世界を荒らすのは許さん」
仲間が沢山の血と涙を流しながら、守り続けてきたこの世界。
イレギュラーのために滅ぼされては先に死んでいった仲間に申し訳が立たないのだ。
「そう言うと思ったぜ」
カマキールが嘲笑い、再び鎌を構えた。
「どちらが正しいのか、次で決めようぜ…」
「望むところだ……」
戦いは最後の幕を迎えた。
次の一撃が最後となるとアイリスは何となくそう思った。
息を詰め、静止した2人の空気が弓を引き絞るかのように緊張感を高めていき、場の空気が、ピタリと止まった一瞬、揺れ動いた。
「はああああっ!!」
「うおおおお!!」
互いの刃が急所目掛けて、宙を真っ二つに斬り裂いた。
勇姿が交差し、火花が散り、反対方向に跳んだ2人は、直後に目を見開いた。
ゼロの左肩から鮮血が上がり、噴き上げた血にゼロは大きくよろめいた。
それに対してカマキールは笑って勝敗に目を細め、ゼロに、もしかしたら自分達の大将になれたかもしれない古の破壊神に賛辞を送った。
「やるじゃねえか、破壊神さんよ」
直後に血を噴き上げてカマキールは絶命した。
それを確認したアイリスはゆっくりとゼロに歩み寄ると、止血を始めた。
そして機能停止したカマキールの方を見遣ると口を開いた。
「私達が不完全なのも、それ故に擦れ違い、争うことも知っている…でも不完全だからこそ、手を取り合って、支え合うことが出来る。それが私達レプリロイドなのよ…ゼロ、大丈夫?」
「それはこちらの台詞だ。アイリス、いくら防御力の底上げをしていたからとは言え、何て無茶を…」
「ごめんなさい、でもああするしかないと思ったの……ゼロ、本当にごめんなさい…でも私もあなたの役に立てたでしょ?」
微笑みながら尋ねてくるアイリスにゼロも彼女にしか見せない穏やかな笑みで彼女を抱き締めた。
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