戦国異伝供書
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第四十一話 人と城その八
「お主、見事であるな」
「和歌がですか」
「そうじゃ、はじめて聞いたが」
「学ばれていたと言われた通り」
まさにとだ、高坂も言った。
「確かなものですな」
「古今集等を詠んだか」
山縣はまた言った。
「そうして学んでおったか」
「はい、その様にして」
「それだけのものがあるな、しかし」
「しかしとは」
「お主の歌は実に一本気だな」
幸村の和歌についてだ、山縣はこう評した。
「そしてますらおじゃな」
「その雰囲気がありますか」
「うむ」
そう感じたとだ、山縣は答えた。
「質実剛健でな」
「確かにな」
山縣の言う通りだとだ、原も言ってきた。
「源次郎の和歌はな」
「一本気で、ですか」
「ますらおじゃ」
原も言うのだった。
「実にな」
「そうですか」
「お主の心が出ておるわ」
「左様、和歌はじゃ」
まさにとだ、晴信は主の座から述べた。
「詠う者の心が出ておる」
「それで、ですな」
「お主の和歌もな」
「それがしの心が出ていますか」
「確かにじゃ」
まさにというのだ。
「その一本気さとますらおの心がな」
「出てですか」
「そうした歌になっておる」
晴信もこう評するのだった。
「見事な武士の心がな」
「左様ですか」
「うむ、その心はな」
決してともだ、晴信は幸村に話した。
「そのまま持っておくのじゃ」
「これからも」
「さすればお主は必ずじゃ」
「それがしの目指す」
「天下一の武士になる」
なれる、ではなかった。なる、だった。晴信は確信を以てそのうえで幸村に対して言うのだった。
「そうなるぞ」
「では」
「これからも武芸と学問に励みな」
「戦の場でも」
「政の場でも今の様なな」
「学問、歌の場でも」
「励むのじゃ」
晴信は幸村に笑顔で話した。
「よいな」
「それでは」
「では皆の者さらにじゃ」
晴信は幸村に語ることが一段落してだった。
そのうえでだ、他の家臣達に言うのだった。
「詠っていくぞ」
「左様ですな」
「兵達も詠える者は詠っています」
「それではですな」
「これからもですな」
「詠っていくぞ」
こう言ってだった、自身も詠ってだった。
そうして出陣前の最後の行いに入った、晴信は諸将をある鎧の前に連れて行った。それは古い形だが立派な鎧であった。
その鎧を見てだ、幸村は今度は唸った。
「この鎧が」
「そうじゃ」
信繁が彼に答えた。
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