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色を無くしたこの世界で

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第二章 十三年の孤独
  第43話 険悪

 アステリを先頭にこのモノクロの世界を歩き続けて、どれ程の時間が過ぎたのだろう。
 分厚い雲で覆われた空は太陽や月の有無も分からない程、暗く沈みこみ。
 周囲を見回せば、上へ上へと伸びた背の高い廃ビルと頭上を埋める電線が目に映り、なんとも閉鎖的な印象を一同に与え続けていた。
 歩めど歩めど変わらない平坦な風景に、メンバーの足取りも自然と重くなり、口数も減ってしまっている。
 重苦しい空気の中、後方を歩く錦が口を開いた。

「ワシ等は一体いつまで歩き続けりゃええんじゃ」
「さっきから同じ風景ばっかりだけど、本当に進んでんのかよ」

 続いて狩屋が疲弊した様子で言葉を吐く。

「なあ、アステリ。さっきからこうやって歩いてはいるが、俺達はどこに向かっているんだ?」

 神童達、人間にとってこのモノクロ世界と言う場所は完全に未知の領域だ。
 どこに何があるのか、そもそも何を目的として自分達は歩めばいいのか。
 文字通り右も左も分からない状況で、この世界で生まれ過ごしたアステリに従いついて行くのは必然の行動だった。
 心の内ではなんと思っていようと、自身等の目的を果たすにはそれしか方法が無いし、それが最善の策だと分かっていたから。
 だが、いつまでも同じ風景ばかりが続く場所を歩き続け、さすがにメンバーの顔にも疲労と不安の色が見え始めている。
 背後で尋ねられた神童の言葉にアステリは体ごと向きを変えると、他のメンバー達にも聞こえるような声で話を始めた。

「ボク達は今、【黒の塔】と呼ばれる場所に向かっています」
「黒の塔?」

 アステリの口から告げられた言葉に天馬は首を傾げた。

「この世界の最深部に存在する、その名の通り黒く高い塔。そこにクロト達は住んでいます」
「それって敵の本拠地って事?」

 驚いたように声を上げた信助に続いて、神童が言葉を投げかける。

「その塔にはどうやって行くんだ? 地図のような物は無いのか?」
「この世界は日によって地形を変えるんです。だから、そう言う物は……」
「そうなのか……」
「ではお前はどうやってその塔に行くつもりだ」

 白竜が冷たい口調で言い放った。

「まさか、地図も無く。地形すら変わるような場所で、闇雲に歩き続けるつもりだった訳ではあるまいな」
「違うよ。……でも、どうやってその塔に向かうのかは、説明出来ない」
「ハッ、意味が分からないな。説明の出来ない行動など、闇雲な行動と同じだろう」
「それ、は……」

 まるで威圧するかのように吐きだされる白竜の言葉にたじろぐアステリ。
 何も言い返してこないのを良い事に白竜はそのまま言葉を続ける。

「俺達はお前と違って命があるんだ。今はしょうがなくお前の言う事を聞いているが、お前の勝手な行動でこちらの身が危険に晒されては――――」
「いい加減にしろ、白竜」

 先程よりも高圧的になってきた白竜を止めるように、剣城がその肩を強く掴む。その行動が気に入らなかったのか、白竜は振り返るとギロリと彼を睨み付けた。
 両者の間でピリピリとした空気が流れる。それを察して天馬が二人の間に入った時だった。

「おい、あれはなんだ?」

 緊迫した雰囲気の中、ワンダバがそんなノンキな声を上げる。
 傍にいたフェイが「どうしたの」とワンダバの視線の先に目をやると、先程から見慣れてきたコンクリートの道の先に白い石製のゲートのような物が見えた。
 先程まで険悪した雰囲気だった白竜達も同様にそのゲートの方に視線を向ける。

「こんなゲート、さっきまであったか?」
「いや……」

 神童の問いに一同は首を横に振る。
 確かに先程までは皆平坦な風景と疲れから自然と伏し目がちになっている者も多くいた。
 だが、これだけの人数がいて誰一人このゲートに気付かなかったなんて、あり得るのだろうか。

「……この先にも道があるみたいだな」

 ゲートの向こう側を見ると、同様に白い石製の道が続いているようで、先に進む事が出来る。
 アステリはゲートの先を見詰めると、少しの間まぶたを閉じ意識を集中させる。そしてゆっくり目を開けると一つ頷き、口を開く。

「行こう」
「大丈夫なの?」
「身の危険の心配は無いよ。……それに、どの道先に進むにはこのゲートの先に行かなくちゃいけない」
「行くしかないか……」

 神童はメンバーの顔をぐるりと見回し、反論が無い事を確認するとそう言葉を発した。
 先頭はアステリが、最後尾には未だ怪訝そうな様子の白竜を連れ一同はゲートをくぐり、先へ進み出した。 
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