ある晴れた日に
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329部分:その日からその二十五
その日からその二十五
「どちらも投げ出したことはないんだよ」
「今まで何曲作ったの?」
「百曲は作ったな」
少し考えてから述べる正道だった。
「もっとあるかな。作ったのは」
「多いわね。まだ十六よね」
「十五だけれどな」
少し笑って未晴に顔を向けて述べた。すると今度は左手にその顔が映る。それと一緒に未晴の横顔もそこに映っていた。二人は鏡の中でも一緒だ。
「まだな」
「あれっ、まだ十五だったの」
「そうさ。十五なんだよ」
正道は少し笑ってまた述べた。
「まだな」
「そうだったの。何かもう十六になったって思ったのに」
「そう見えるのか?」
「少し。大人びてるから」
だからだというのだった。彼女もその話をしながらまた述べた。
「だからもうなったと思ってたのに」
「それが違うんだよ。俺はまだ十五なんだよ」
またこのことを話す正道だった。自分の年齢のことを。
「まだな」
「そうなの。十五歳なの」
「そうさ。十五歳さ」
またこのことを話すのだった。
「そっちは?もう十六か?」
「ええ。実は」
少しだけ俯いてそのうえで述べた未晴だった。
「そうよ。もう十六歳なの、私」
「そうなのか。十六歳か」
「四月になったのよ」
「早いな」
それを聞いて思わず言ってしまった。
「じゃあ六人の中でもか」
「そうなの。六人の中で一番のお姉さんなのよ」
ここでは微笑んだ未晴だった。
「一番ね」
「十六歳か。まあ一つ違うだけだけれどな」
「私達の中じゃそれはね」
「そうなんだよな。全然違うからな」
これは学生の世界特有だった。学生の世界では歳が一つ違えばそれで学年が一つ違う。学年が違えばそれはもう天と地程の違いがあるのだ。
「それで」
「じゃあ私姉さん女房なのかしら」
ふと微笑みもする未晴だった。
「そうなると」
「そうだよな。やっぱりお姉さんだよな」
「何か私いつもお姉さんだけれど」
「じゃあよ。姐さん」
ふざけて出した言葉だった。
「それで俺の音楽だけれどな」
「ああ」
「一曲も途中で投げ出したことがないんだよ」
またこのことを未晴に話すのだった。
「それは音楽だけじゃなくてな」
「他のこともなのね」
「ああ。他のことも全部な」
この話をさらに続けるのだった。
「やってるさ。最後まで投げ出さずにな」
「いいと思うわ」
そして未晴はそれをよしと述べた。
「それでね。いいわ」
「そうか。いいのか」
「何でも最後までやり遂げてだから」
自分の考えと重ね合わせたうえで出した言葉だった。
「だからいいと思うわ」
「そうか。それだったらな」
「ええ」
ここまで話してまた正道に対して頷いてみせた。
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