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色を無くしたこの世界で

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第二章 十三年の孤独
  第36話 光の後

「――――! ――――!!」

――なんだろう……声が聞こえる……。
――俺……どうしたんだっけ……。

――そうだ、確かスキア達と戦っていて……。
――それで最後に覚えてるのは……。
――黒いローブと、緑色の……。

「天馬っ!」
「!!」

 不意に聞こえた言葉に天馬は目を覚ました。
 まぶたを開き最初に目に映ったのは、白い天井と見慣れた二人の心配そうな表情。

「…………葵……? 信助も…………」

 囁くように唱えられた天馬の言葉に、二人は椅子に腰を下ろし「よかった」と安堵の声を漏らす。
 そんな二人の様子を横目に、天馬はここがどこかを知る為、周囲をぐるりと見渡してみる。
 先程までいた灰色の空間とは一変した白い空間と独特な匂いから、ここが病院である事を理解する。

「葵、信助…………俺、どうして病院なんかに…………」

 自分達は先程まであの影の世界で試合をしてたはず。
 それがどうしてこんな場所に……
 そんな状況が読み込めない様子の天馬に二人は顔を見合わせると、静かに首を横に振った。

「私達にもどうしてここにいるのか分からないの」
「僕達もあの緑色の光に包まれたかと思ったらこの病院の前にいて……そしたら天馬達が倒れてたから、ここの人達と一緒に病室まで運んだんだ」

 そう説明する信助の言葉にハッと自分の体を見る。
 所々に手当てされたであろう形跡はあるものの、どうやらたいした怪我では無いらしく天馬はホッと胸を撫で下ろす。

――そうだ、他のみんなは……

「ねぇ二人共、他のみんなは? 姿が見えないみたいだけど…………」

 幸か不幸か、ザ・デッドの目的はフィールドプレイヤーである天馬達を潰す事だったようで。交代で入ったキーパーの信助や、選手ではない葵の身に怪我は無かった。
 だが、自分と共にフィールドに立っていた神童達は……
 不安そうな天馬の表情に葵は優しく微笑むと、安心させるように「大丈夫」と言葉を返した。

「みんな、比較的怪我は軽いらしいの」

 「一日安静にしていれば問題ないって」。
 葵の言葉に天馬は安心したのか徐々に表情を明るくさせ「よかった」と笑って見せる。

「じゃあみんなは別の病室にいるんだね」
「うん…………」

 ふと、葵の表情が暗くなった気がして天馬は首を傾げる。
 視線を横に流すと、葵と同じように元気無く俯く信助に気付き、天馬は口を開いた。

「……二人共、どうしたの?」

 尋ねた天馬の言葉に二人は顔を見合わせると、いままでつぐんでいた重たい口を開き話し出そうとする。
 瞬間、ガラガラと喧しい引き扉の音と共に一人の少年の声が病室内に響いた。

「あ! 目が覚めたんだね、天馬」
「フェイ、ワンダバ!」

 病室に入って来たフェイとワンダバの姿に天馬は言葉を発すると、元気そうな自身の姿に「安心したよ」と笑うフェイの表情へと視線を移す。
 その笑顔からは試合中見た、あの苦しそうな表情など嘘のように消えていて、天馬は少しだけ安心したように言葉を続ける。

「フェイこそ、体調はもう平気なの?」
「うん。ここに来て少し休んだからか、大分良くなったみたい。まぁ、怪我の方は安静にしてないといけないみたいだけど……」

 「軽いみたいだからすぐ治るよ」と笑うフェイ。その後ろでワンダバはその短い腕を組むと、「しかし」と思い悩んだような声を発する。

「試合中に現れたあのローブの人物……一体、何者なんだ……」
「うーん……ボク達を助けてくれたみたいだけど、どうしてそんな事してくれたのか……謎だね……」

 二人の会話に天馬達も同様に頭を悩ます。
 まるで自分の存在を他に分からせないように被られたフード。アレせいであの人物の顔はおろか、男か女かですら知る事が出来なかった。
 そもそも、あの影の世界にはスキア達と自分達、雷門イレブンしかいなかったハズ。
 それなのにどうして、ローブの人物はあの場に姿を現す事が出来たのか……
 考えれば考える程、天馬達の頭の中に黒いモヤのような物が広がっていく。
 考える天馬の記憶に唯一残っているのは、見た事の無い化身と、エメラルド石のように輝いた緑色の瞳だけ……

 天馬は「うーん」と低く唸るような声をあげると髪をかき、脱力したように天井を見詰めた。

「ダメだ、考えても分からないよ」
「うん……今は情報が足りないね」

 フェイの言葉にその場の全員が考えるのを止め、口をつぐんだ。
 数秒の沈黙の後、天馬は何かを思い出したかの様に瞳を瞬かせると、ベッドから体を起こしフェイに尋ねる。

「そうだ、フェイ。アステリは?」

 天馬がそう言うとフェイは一瞬目を丸くし、キョロキョロと周囲を見回し言葉を返す。

「ボクは見てないけど……」
「え」
「あ、アステリなら――――」




 「アステリなら屋上にいる」……その言葉を聞くと天馬は病室から飛び出し、屋上への階段を駆けあがる。
 ペンキが剥がれ粗末に見える白い扉を開くと、地面に座りながらボーッと空を見詰めるアステリの姿を見つけた。
 その背中に天馬は一つ、声をかける。
 突然聞こえた声にアステリは一瞬肩を震わせるも、すぐさまその声が天馬の物である事に気付き、驚いた様子で彼に駆け寄っていく。

「天馬……怪我の方は平気なの?」
「あぁ! へーきへーき!」

 ハツラツと答えた天馬の言葉に「よかった」と微笑むアステリだったが、すぐさま悲しそうに瞳を細め、顔を俯かせてしまった。

「……? アステリ……?」
「天馬。……キミに伝えないといけない事があるんだ……」
「え?」

 意味ありげに囁いたアステリの言葉に天馬は首を傾げた。そんな彼にアステリは「ついてきて」と言うと、病院内へと戻って行く。
 何が何だか分からないまま、天馬は彼の後を大人しく着いて行った。

――なんだろう……
――なんだか、とても嫌な予感がする……
 
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