魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epica38いざ自由へ~Escape~
†††Sideアリサ†††
気が付けばあたしは妙なポッドの中で横になっていた。意識も混濁してるみたいで、どうしてここに居るのかを思いだすまでに時間が掛かる。そんな中で「ここ、どこ・・・?」聞き覚えのある声が。
「スバル、ティアナ・・・!」
「アリサさん!?」
「あの、ここは一体・・・!」
3人でそう話し合ってると、ここに居るのはあたし達だけじゃないことに気付いた。ぐるりと辺りを見回せば、円形状のこの部屋の内壁に沿ってポッドが100基以上並んでる。そんなポッド内には管理局の制服を着た人たちや、騎士団服や神父服、修道服を着た人たちも居て・・・。
「お兄ちゃん・・・?」
ティアナがそう漏らしたから、あの子の視線の先に目をやればティーダ・ランスター一尉がポッドに横たわってた。ティアナとスバルがティーダ一尉の元へ駆け出すのを見届けていると、「あれ?」ある人に目が留まった。
「マリアンネさん・・・!? それに騎士パーシヴァルも!」
シャルの母親と、トリシュの兄、さらに言えばシャルの父親のリヒャルト司祭もポッドに収められていた。そんな3人だけじゃなくて知り合いの局員や騎士も結構な数が居て、そのうちの1人が「あ・・・れ・・・?」ゆっくりと目を開けた。あたしはその人、「ミヤビ陸曹!」の元へと駆け寄る。元はシャルやルシル達の特務零課・特殊機動戦闘騎隊の一員で、シャル達が局から抜けた今はミッドの鉄道警備隊。だから任務で一緒になったことが何度かある。
「え?・・・バニングス二尉・・・? バニングス二尉!」
パチッとしっかりと目を開いてあたしを確認した。ガバッと体を起こして辺りをキョロキョロしたかと思えば「ああ! 私としたことが! 馬鹿馬鹿、馬鹿者!」頭を抱えて、自分を罵り始めた。あたしはそんな彼女の肩に両手を置いて「とりあえず知ってることの説明!」を求めた。
「あ、はい! 実は私は――」
ミヤビ陸曹から語られたのは、大隊からスカウトされた自分を囮として使い、内部から大隊の情報を流すための潜入捜査を、シャルやルシルと相談して決めて実行したとのこと。だけど気付いたら今まさにこの状況。・・・って、ここが大隊の本拠地ってことになるんじゃないの。
(あー思い出した。あたし、ガリホディンとの闘いの後、スバルとティアナの奇襲を受けたんだったわ)
「まさか潜入捜査だって気付かれていたなんて。いえそもそも、大隊からスカウトしておいてこんな・・・。うぅ、ごめんなさいシャル隊長~」
ガックリ項垂れるミヤビ陸曹に「落ち込む前に、ここの脱出を最優先!」注意して、ティーダを抱き起こそうとしてるスバルとティアナに「脱出するわよ!」と伝える。あの様子からあたしを撃墜したことは覚えていないみたい。そもそも襲ってきたあの2人が本物だって証拠もない。ううん、今はそんなことは後回しよ。
「あの、でもお兄ちゃんが!」
「待ってください、今お兄さんを連れて行きますんで!」
スバルがティーダ一尉を背負おうとしていた。気を失った人は重心の問題で余計に重く感じるようになる。スバルはサイボーグだからその程度の重さなんて気にならないだろうけど、敵地からの脱出となれば話が違ってくる。
「そ、それに他の人たちはどうするんですか!」
「申し訳ないけど置いていくわ。ミヤビ陸曹の話だとここは大隊の本拠地らしいし、まずはあたし達が脱出。それから助けを求める。彼らの脱出、というか救出はそれからよ」
「極力発見されやすくなるような行動は慎んだ方が良いと思います。背負っていては閉所で隠れることも難しくなるでしょうし・・・」
あたしにミヤビ陸曹も賛同してくれた。そんなミヤビの視線の先には、彼女の上司であるアントワネット・コレフシ三尉の姿。ミヤビは「すいません、三尉。必ず迎えに来ます」って悔しそうに漏らした。
「ですが・・・」「でも・・・」
スバルとティアナは少し渋っていたけど、「はい。判りました」ってティーダ一尉を元のポッドに戻そうとしたその時、「大丈夫。僕たちが護衛しよう」そんな声が掛けられた。
「騎士パーシヴァル、マリアンネさん!」
いつの間にかポッドから確かな足取りで出て来ていた2人に、「あの、大丈夫ですか?」尋ねる。すると2人は頷いて、マリアンネさんは「すこぶる快調なの、不思議ね♪」両肩をぐるぐる回して見せ、騎士パーシヴァルも「僕も問題ないよ」と微笑んだ。
「それもありますが、護衛と言うからにはその・・・」
改めて尋ねると、騎士パーシヴァルは銀色の魔力で創り出した槍を肩に担ぎ、マリアンネさんも苺色に輝く魔力の太刀と小太刀を両手で握った。
「あ、私もデバイスが無くても戦えます!」
――鬼神形態顕現――
ミヤビ陸曹の額から無色の、クリスタルのような角が2本と生えた。あたしも射砲撃くらいならデバイス無しでも扱える。雑魚ならここに居るメンバーだけで倒せるはずよ。
「僕が先行します。えっと・・・」
「ミヤビ、ミヤビ・キジョウです!」
円滑にコミュニケーションをとるために自己紹介をみんなでした後、改めてこの大ホールからの脱出を試みようとした時、出口となるスライドドアがパシュッと開いた。だからあたし達は一斉に身構えて、入ってきた何者かにいつでも攻撃が出来るようにしてたんだけど・・・。
「あー! やっと起きた~!」
「マリアンネ聖下、騎士パーシヴァル、お体の調子はいかがでしょう?」
入って来たのは予想外すぎの「アリシア!?」と「フィレスさん!?」の2人だった。アリシアを知るあたしとスバルとティアナは目を見開いて驚いたし、フィレスさんを知るあたしとマリアンネさんと騎士パーシヴァルも驚いた。
「アリシアさん、一体どうして・・・!」
「フィレス、あなたも!?」
ティアナとマリアンネさんの問いにアリシアとフィレスさんは、あたし達より早く目が覚めたことで、一足早く周囲を探っていたと話してくれた。そんな2人がポケットから取り出したのは「デバイス!」だった。あたしの“フレイムアイズ”やスバルの“マッハキャリバー”、ティアナの”クロスミラージュ”はもちろん・・・。
「フェーニクスフェーダー! よかったです~!」
「僕のロンゴミアント!」
「私のキルシュヴァッサーとキルシュガイスト!」
それぞれ自分の相棒を手に取って、「セットアップ!」して防護服へと変身。アリシアとフィレスさんの話だと、出口の先は一本道の通路で、その左右の壁にはいくつかのドアがあって、そのうちの1つの部屋にデバイスが置かれていたみたい。随分と無用心というか雑というか。
「でもさらに奥の出口はロックされていて出られなくてさ」
「他の部屋でもロックの解除が出来ないか調べてみましたが、専用の開錠コードを持っている関係者でないとダメみたいです」
「なら方法は2つに絞られるわ。破壊するか、向こうから開けてもらうか」
マリアンネさんの案はどちらも接敵を意味してるわ。危険度はかなり高いけど、もうそんな事でしか出来ないのも確か。あたし達は頷き合って、出口の奥の通路へと移動を始めようとしたら、「うぅ・・・」呻き声が聞こえた。
「誰!?」
一斉に声の出所を見ると、ティーダ一尉がポッドから出ようとしていて、「うあ!」ドサッと倒れこんだ。ティアナがすぐに「お兄ちゃん!」駆け出して、彼を抱き起こした。
「??・・・お兄ちゃんって・・・。まさか、そんな・・・君は・・・!」
「うん、うん・・・! 私だよ、お兄ちゃん・・・!」
「ティア・・・ナ・・・? そんな・・・! まさか・・・! あぁ、どれだけ僕は夢を見ていたんだろう。妹がこんなに大きくなって、綺麗になったなんて・・・」
伸ばされた手を握り返したティアナはボロボロ涙を流して、何度も「お兄ちゃん!」呼び続けた。感動の再会に水は差したくないけど、あたしは「スバル!」を呼んで、あの子がさっき言っていたことを実行させる。
「はい、アリサさん! あたしが背負います! お兄さん、あたしに負ぶさってください!」
スバルが目の前で片膝立ちして待つけど、ティーダ一尉はあの子に負ぶさろうとはせず、「僕はここに残るよ。自力で歩けないどころか立つことも出来ない。足手まといにはなりたくない」微笑んだ。ティアナが泣きそうな表情を浮かべる。
「足手纏い、か・・・。アリシアさん。彼のデバイスはあるかな?」
「え? えっと、どんな物かが判れば・・・」
「ティーダさん。君のデバイスはどんなのだい?」
「・・・僕のデバイスは拳銃型のピースメーカーで、その待機形態は腕時計型ですが・・・」
「腕時計は・・・コレかな?」
アリシアが制服のポケットから腕時計を取り出してティーダ一尉に差し出すと、「ああ、ソレだ」受け取って左手首に巻いた。そしてみんなの視線が騎士パーシヴァルに戻る。
「動けずとも戦う術があるのなら連れて行こう。射撃タイプなら問題ないはずだよ」
「お兄さん。あたしが背負いますから、今度はちゃんと負ぶさってくださいね?」
「いやしかし・・・。僕より小さな女の子に背負わせるのも・・・」
「あ、大丈夫です! あたしサイボーグなんで! 普通の男の人よりかは力強いですよ!」
「そういう意味では・・・」
女の子に背負われるっていうのが気になるみたいね。でもティアナが「お兄ちゃん、急いで!」急かすものだから渋々スバルに背負われた。スバルは戦えなくなるけど、その分ティーダ一尉の射砲撃って言う火力は維持される。うん、悪くないわね。
「それじゃあ出口に一番近い部屋で待機しておこうかしら。・・・必ず迎えに来るわ、あなた。待っていて」
「あ、こっちです!」
マリアンネさんは夫である眠ったままのリヒャルト司祭にキスをしてから、この部屋の出口へと向かい、あたし達も続く。そしてアリシアを先頭に通路へと出たんだけど、そこで白衣姿の男女3組とバッタリ遭遇。あたし達の姿を見て少し呆けた後、ハッとして・・・
「んな!?」
「贄が解放されてる・・・!?」
「通報! 今すぐ!」
「は、はい!」
「警備隊にも連絡を!」
「了解っす!」
――閃駆――
一斉に慌しくなった。通報されると厄介すぎるから口封じのために動こうとしたんだけど、あたしなんかより早く動いていたマリアンネさんが「はい、ごめんね~」一瞬にして5人を無力化して、残る1人の女性を組み敷いた。
「あら、あなた。それに他の子も、教会技術室の・・・」
「聖下・・・」
女性技術者が居心地悪そうに顔を逸らしたけど、悪びれてはいない様子。その態度に騎士パーシヴァルが「貴様、何だその態度は! 栄えある聖王教会の裏切者め!」ガチギレ。ビクッと肩を跳ねさせた彼女が「うるさい」ポツリと漏らしてキッと睨んだ。
「管理局も騎士団も、恋人を助けてくれなかったくせに!」
「彼?」
「パーシヴァル、この子の話は後で聞くわ。さあここがどこで、脱出経路を教えなさい」
「っ!?・・・ここは・・・北部ノーサンヴァラント海・オークニー諸島、ナウンティス島・・・です」
マリアンネさんの有無を言わさない凄みに女性技術者の怒りが収まり、ここがどこなのかを話した。その返答に騎士パーシヴァルが「自治領内・・・!」歯噛みした。
「大隊の施設がベルカ自治領内にあるだなんて・・・」
「これではまるで・・・」
「そうよ。最後の大隊は、教会騎士団と繋がっているの。首謀者は騎士団団長リナルド・トラバント。敵には現剣騎士最強のプラダマンテ・トラバントも付いているわ」
あたしとティアナでそこまで言いかけたとき、マリアンネさんの口からその最悪の答えが発せられた。目を見開くフィレスさんやあたし達に騎士パーシヴァルも「事実だ。僕と聖下はその2人の襲撃を受けた」怒りに任せて拳を壁に打ち込んだ。
「そういえばあたしも、ガリホディンと闘った後に・・・スバルとティアナの奇襲に遭ったわ」
あたしの言葉にスバルとティアナ、そしてマリアンネさんと騎士パーシヴァルとフィレスさんが驚きに目を見張った。マリアンネさん達は「ガリホディンも、か」また別の騎士の裏切りに怒りを震えた。
「あたしと・・・」
「私の・・・」
「「偽者・・・!」」
スバルとティアナは、自分たちの偽者が外の世界で好き勝手に活動してることに顔を青褪めさせた。アリシアが「うへぇ。私の偽者もいるかもってことでしょ~。やだな~」って肩をガックリ。
『緊急事態発生、緊急事態発生! 贄が解放された! 技術室および融合騎エルフテに何かしらの異常が起きた模様! 警備隊は技術室へ急行し、贄を確保せよ! 繰り返す――』
「私は技術者であると同時に魔導師でもあります。思念通話くらい出来ます」
アナウンスが流れた原因が自分であると自白した彼女は「騎士団も教会も温いんですよ」とだけ言い捨てて、あとはずっとあたし達をシカト。だからもう彼女は、ミヤビ陸曹の絞め技で夢の世界へ。
「気付かれたからには隠密行動は必要ないわ。向かって来る者はみな敵性存在としてこれを排除します」
マリアンネさんが閉じたドアを太刀・“キルシュヴァッサー”で斬り裂いて開扉。左右へと伸びる通路へと出る。スバルが「今の技術者に道案内させれば良かったですね」残念そうに漏らした。
「だけどあそこまで非協力的では、かえって嘘のルートを教えられる可能性がある。こうなれば聖下の仰るとおり、向かってくる敵勢力を迎え撃って大手を振って脱出した方が早い」
「言われてみれば確かに。案内されたとしてもその先に待ち伏せをされるのも嫌ですし」
「では右か左か、どちらを行くか。二手に分かれるのは避けたいんだが・・・」
緩やかなカーブを描いているから通路の先は見えない。どっちが正解なのか、それともどっちもハズレなのか、それを確かめようにも騎士パーシヴァルの言うように戦力を分散していい状況じゃない。
「一蓮托生でいいのでは? みんな一緒であれば恐れるものはないでしょう」
フィレスさんの言葉にあたし達は頷いた。元シュベーアパラディンの騎士パーシヴァル、同じく元シュベーアトパラディンのマリアンネさん、そしてフィレスさん。シャルやルシル達と同格とも呼べるミヤビ陸曹。あとあたし達。これならよほどの格上じゃなければ負けないはず。
「パーシヴァル。ロンゴミアントを」
「?・・・はい、どうぞ」
騎士パーシヴァルから“ロンゴミアント”を受け取ったマリアンネさんは、「よし」と床に“ロンゴミアント”を立たせ、パッと手を放した。支えがなくなったことで派手な音を立てて床に転がった“ロンゴミアント”。
「なああ!? 何してるのですか聖下! いくら頑丈とは言えデバイスですよ! 酷いですよ!」
慌てて“ロンゴミアント”を拾う騎士パーシヴァルを余所に、マリアンネさんは穂先の向いた方に指を差し、「あちらへ行きましょう」歩き出した。スタスタ歩いてくマリアンネさんにあたし達も付いて、最後尾に付いてくる騎士パーシヴァルが「キルシュヴァッサーでやれば良かったでしょうに」愚痴をこぼした。
「そういやアンタはどういった経緯で拉致られたの?」
「私? 私は、フェイトと第59管理世界サピンでのブラックマーケットの摘発の時ね。大隊がマーケットの関係者や客を殺しまくるのを止めようとしてたんだけど、不意打ちを食らったんだよね~。いやぁ、参った参った」
陽気な声と態度だけど、アリシアの纏う雰囲気は悔しさやら怒りやらがにじみ出てるわね。続くフィレスさんは、仕事終わりのシャワータイム中に拉致。ミヤビ陸曹はさっき聞いたとおり潜入捜査に失敗。
「私とスバルは、おにい――コホン、兄の偽者軍団との戦闘に敗れ、気が付いたらここに・・・といった感じです」
「ま、待ってくれ、ティアナ! 僕の偽者、しかも軍団!?」
「うん。クローンからのサイボーグ化と言った感じだった・・・」
「はは・・・。何もかもが夢であってほしいと願うばかりだよ。ティアナはいつの間にか大きくなっていて、外じゃ僕のクローン?が悪行を働いているなんて。これならまだ眠っていた方が良かったかもしれない・・・」
ティーダ一尉の言葉に、「そんなこと言わないで!」ティアナが悲鳴のような怒鳴り声を上げた。彼の今の言い方は、死んでいれば良かった、とも取れるものだったし、ティアナが怒るのも仕方ないわよね。
「またこうして生きて逢えたのに・・・」
「ティアナ、すまない。そういう意味で言ったわけじゃないんだ。ただ寂しいだ、僕だけが時間に置いてけぼりを食らったみたいで。ティアナの成長をしっかり見たかったし、僕自身も局員としてもっと頑張りたかった。・・・ティアナ。僕は今、公ではどういう扱いになってる?」
「密輸されたロストロギアの運び屋と一緒に、暴走したロストロギアの爆発に巻き込まれて・・・殉職、と。あ、でもこうして生きていたんだから、復職できるはず!」
「だと嬉しいな・・・」
ティーダ一尉はこれから苦労するかもしれないけど、兄のために管理局に入って、執務官まで上り詰めたティアナが一緒ならきっと大丈夫でしょ。
「ところで、この中で今の管理世界情勢を知ってる子っているかしら? 私、大隊と呼ばれる組織について知らないのよ」
マリアンネさんのその話題に、やっぱり騎士団の独立を宣言したマリアンネさんが偽者だってことが判った。その辺りの事はまだ知ってるあたしが、あたしが拉致されるまでの間に何が起きたのか話そうとした時・・・
「見つけたぞ!」
「聖下と騎士パーシヴァルと騎士フィレスは強敵だぞ!」
「心して掛かれ!」
いくつもあるドアから神父服や修道服、大隊の制服である学ランやらセーラー服を身に纏った男女がわらわらと出てきた。迎撃に入るためにあたし達はデバイスを構えたんだけど・・・。
「あーらあらあらあら♪ いけない子たちね。仮にも騎士団に属しているのなら、顔を合わせたらまずは挨拶からでしょう?」
マリアンネさんは“キルシュヴァッサー”と“キルシュガイスト”の刀身に風を纏わせ、こちらに向かってくる大隊のメンバーへと向かって・・・
「風牙・・・真空烈風刃!」
風の刃を複数巻き込んだ風の壁が通路いっぱいに広がって、「うあああああ!?」あたし達を捕まえに来た連中を1人残らずふっ飛ばしながら防護服やら防御魔法を切り裂いた。たったの一撃で連中は全滅して、僅かに呻き声を上げて床に倒れ伏した。
「すご・・・」
「さ、さすがシャルさんのお母さん、だね・・・」
「パーシヴァル。一番手前の彼だけ意識を保っているわ。嘘を教えられるのを前提で話を聞きましょう」
「了解です」
呻き続けてる学ランを着た男の襟首を引っ掴んでズルズル引き摺って来た騎士パーシヴァル。そして「貴様。外へ通じるルートを教えろ」髪を引っ張って顔を無理やり上げさせた。結構容赦ないのね・・・。
「別に嘘でも構いませんよ? 嘘であったと知ったその時になれば、あなたを酷い目に遭わせますが♪」
すごい魅せられる笑顔だけど、口にしてる内容はかなり危ない。男は「へっ。どうせ雇われの身。これ以上粘るのも馬鹿らしい」なんて言って、倒れたままで降参ポーズ。
「つうか、そろそろ手を離せよ。ハゲたらどうすんだ」
騎士パーシヴァルが男の髪から手を離した。ふぅ、と一息吐いた男が胡坐をかいて「マップを出せばいいんだろ」空中に両手を翳してモニターを展開した。確かにマップのようなものが表示されたんだけど・・・。
「王よ。無垢なる我らを楽園へ誘いたまえ・・・!」
男がなんかボソボソ呟いたのが聞こえた。するとティアナが「自爆します! 離れて防御!」叫んだ。頭で考えるより先に体が反応して、あたしは一足飛びで後退しつつ半球状のバリア・サークルプロテクションを発動すると同時、ティアナの言ったように男が自爆した。
「くぅぅ・・・!」
爆炎と黒煙で視界は完全に潰されて、衝撃波でバリアが軋みを上げる。衝撃波と炎をなんとか耐えて、残るは煙だけとなった時、あたしの魔法陣以上の広さを持つ赤いミッド魔法陣が展開された。
「え、なに!? うそ、転送トラップ!?」
浮遊感と一緒に視界が真っ白に染まって、気が付いたら「バニングス二尉!」ってあたしを呼ぶ「ミヤビ陸曹!」の2人っきり。結構広い部屋のどこにもスバル達の姿はないわね。
「分散されてしまいましたね・・・」
「ええ。誘い込まれたかもしれないわ」
そんな話をしていると案の定ドアが開いて、「贄を確認。確保に移ります」学ラン姿の男が数人入ってきた。でもこっちに陸戦SSランクのミヤビ陸曹が居るわ。
「バニングス二尉はサポートをお願いします。私はフロントアタッカーで・・・潰します」
ミヤビ陸曹がズンッと1歩足を踏み出すと、それだけで鉄の床が足型に沈んだ。その光景に男たちも「うっ・・・」たじろいで、彼女が1歩近付くたびに連中も1歩と後退してく。
「何ですか? 私たちを捕まえるのですよね? 来ないのなら、こちらから行きますよ!」
迫力満点なミヤビ陸曹が魔力を全身から放出。床にヒビが入るほどの出力と濃度に、とうとう男たちがドアの奥へと引き返して行って、ドアも閉まった。
「や、やるわね・・・」
「はふぅ、緊張しました~」
ホッと胸を撫で下ろすミヤビ陸曹。そういえば緊張しいだったわね。さて、追い払ったのはいいけど、ここからどうしようかって考えてたところで、『も~しも~し!』どこからか女の子の声が聞こえてきた。
「あ、あなたは!」
「あれ!? あんた、確かルシルの・・・ステガノグラフィア!」
いつの間にか側に展開されてたモニターには、ルシルの電子戦術式ステガノグラフィアを構成するプログラムの1体が、『見つけました~♪』小さな手を振ってた。
『ステガノグラフィア、マカリエル! マスターの指示で、みなさんを安全ルートでここから脱出するためのお手伝いをします!∠(^-^)』
そう言ってマカリエルが笑顔で敬礼した。
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