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緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──

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押しかけ武偵

今朝のホームルーム──転校生ちゃん発砲騒動から数時間が経った、昼下がり。既に昼食を終えていた自分とキンジは、屋上のフェンスに背を預けるようにして、互いに話していた。
件の体育倉庫周辺では、蒼天の下に探偵科と鑑識科が鑑定捜査を始めている。さながら刑事ドラマの一場面のようだ。

残骸の自転車やセグウェイが捜査の手掛かりになるかは疑問なのだが──まぁ、素人が口出しできる案件でもないね。そんな光景を横目にキンジへと問いかける。ただでさえ根暗そうな顔付きは、根暗そのものへと変化していた。今朝のこともあったし、色々と疲れたんだろう。
同情できないわけではない彼の胸中を慮りながら、「まぁ、お疲れ様だったね」──と告げてやる。それに次いで、ずっと気になっていた核心、その真偽を問いかけてみた。


「で、キンジ。君は本当にアリアとそういうこと(・・・・・・)はしてないんだね?」
「……断固として答える。俺はしてない」


依然として頑なに首を横に振り続けるキンジだが、そこにはどうにも矛盾がある。キンジとアリアがそういう行為をしていないのなら、何故、アリアはキンジに強制猥褻をされたと糾弾したのか──それだけが思考の端々に引っ掛かっているのだ。


「そんなはずはないだろう。現にアリアが糾弾してるんだ。……ほら、何があったか話してごらん。誰にも言わないから」
「……ったく。誰にも言うなよ? 特に──女子には」


──女子には。……あぁ、分かった。そうか。そういうことか。その一単語を聞くや否や、自分の脳は結論を導き出してしまった。キンジが女を避けている理由にも成り得る、それを。


「……ふふっ」


笑いが堪えきれていない。……いや、堪えられなかったのだろう。
キンジは怪訝な表情を自分へと向けながら、執拗に辺りを見渡す。そうして誰も居ないことを確認したらしく、その原因ともなる予想通りの結論を、口早に告げてきた。


「……その、あれだ。ヒステリアモードだ」
「まさか、アリアを見ただけでHSSになったわけ? それは流石に無いよね。だとしたら距離を置こうと思うんだけど」
「違ぇよ! ただ……爆風に吹っ飛ばされた結果、2人揃って跳び箱の隙間に収まっちまってな。んで、なんだ……下着が見えてたり、不可抗力で胸を押し付けられたりだな……」


──ヒステリア・サヴァン・シンドローム。頭文字を取って、HSS。キンジはヒステリアモードと呼んでいるそれは、どうやら精神疾患の1つらしい。『性的興奮』を引き金に脳内伝達物質であるβ-エンドルフィンを過剰分泌させることで、身体能力や思考能力やらが格段に跳ね上がるのだとかいう。

性的興奮が引き金になるのは、正直言ってハードルが高すぎる。
それでも、自在に使いこなせれば強いことには相違ないのだ。現にキンジはHSSの状態で武偵校の入試を受け、当時は強襲科Sランクとして認定されたほどなのだから。本人は期せずしてと語っていたけれど、それが逆に功を奏していたろう。


「……もうその話はいいだろ。終わりにしようぜ」
「あ、ちょっと待って。最後にあのベルトの弁明が聞きたい」
「あれは……爆風でスカートのチャックが壊れたって言ったから貸してやっただけだよ。それ以上でも以下でもない」
「なぁんだ、つまらない。でも少し安心した」
「はぁ……?」


ちょうど良い拍子に、昼休みの終了を告げる予鈴が鳴り響いた。







一般科目を終え、早々に帰路に着いた自分は──ただ暇に任せながらソファーの上に寝転がっていた。専修科目の強襲科に赴かないのは、取り敢えず進級できそうなだけの単位は既に揃えてしまっているからだ。去年の総合獲得単位は今年分を含めた進級単位にほど近しいらしく、それを聞かされた時は驚愕したね。

1年の時は、何がなしに依頼を受けていた記憶がある。それこそ本物の便利屋のように。しかし単位を1年でそこまで取っていて、しかも繰り越し制度もあるなんて──という感想しか抱けなかった。今なら現状を見て、取り敢えずは暇だという感想くらいは言える。
対してキンジは探偵科の授業を受けているから、まだ帰ってこないだろう。終わった頃合いとはいえ、徒歩での帰宅は少々時間がかかる。本当に暇だね……。

呆然と何かを考えていると、まるで行き先の決まっていた観念連合のように、話題は今朝のチャリジャックに行き着いた。誰が自分たちの自転車に爆弾を仕掛けたのか。そもそも自転車に乗ることを予知していたのか、本当に無差別だったのか。誰があのセグウェイを遠隔操作していたのか。武偵殺しは既に捕まったはずだ。なら、これは模倣犯の仕業なのか。

思考を重ねるほどに分からなくなっていく。泥沼に片足を突っ込んだみたいに、考えが上手く纏まらなくなるような感覚を抱いた。脳内を縦横無尽に単語が横切っていくものだから、落ち着かない。匿名で武偵校の裏サイトに通報をしたあの後、直々に探偵科と鑑識科には物品の鑑定依頼をしたけれど、その結果を待たないことには話は始まらないか……。

そこまで思考が行き着いた時、制服の内ポケットに仕舞っていたケータイが、バイブレーションでメールの着信を知らせた。宛先は──ホームルームで馬鹿騒ぎしていた、探偵科の峰理子だね。さしずめ、共同調査の中間報告といったところかな。


『To:あっくん
From:理子りん
本文:探偵科と鑑識科の共同捜査はちょうど今、終わりましたっ! 鑑識科にセグウェイの詳細鑑定を任せてるから、それが終わったら結果を教えるねっ♪』


『ありがとう。お疲れ様』とだけ返信しておいて、ケータイを二分に折り畳んだ。そのうちに理子が結果を教えてくれるだろうから、ゆるりと待てば良いことだろう──そうしてまた内ポケットに仕舞い直したところに、玄関の呼び鈴が来訪人を告げた。

突然にリビングに鳴り響いたチャイムの音に、緩慢と上体を起こす。窓硝子から差し込んだ斜陽が、嫌に眩しかった。まだ放課後すぐとはいえ、こんな時間に来客とは──しかも、自分の部屋に──果たしてどんなご用向きだろうか。


──ピンポーン……。


キンジは基本的にチャイムは鳴らさないし、白雪の慎ましやかな鳴らし方とも少しばかり違う。なら、理子とか……?
自分が早く応対しないことに苛立ちを覚えたのか、2度目のチャイムが鳴る。来客を待たせないためにも足早に玄関へと向かい、覗き穴で来客が誰かを確認しないまま、そのまま扉を開いた。
そうして、視界の中央に飛び込んできたのは──、


「……あれ、アリア?」


──ホームルーム騒動の発端である、神崎・H・アリアだった。

 
 

 
後書き
……アリアも理子も可愛い。(遺言その1)

……評価等もよろしくお願いいたします(*´︶`*)♥️(遺言その2)
 
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