ハイスクールD×D イッセーと小猫のグルメサバイバル
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第54話 極寒地獄の番人、ツンドラドラゴンとの戦い!
side:イッセー
アイスヘルに到着した俺達は現在ヘリの中で大陸の上を目指していた。といっても途中の足場で降りてそこからはよじ登っていかないといけない、上は凄まじいブリザードの影響でヘリが着陸出来ないんだ。
「イッセー、カーネル氏って意外と勇気が有るのね」
「急にどうしたんだ、ティナ」
「あたし前に現在のグルメ時代の富豪を紹介する番組でテレビ局に来ていたカーネル氏に会ったことあるんだけど、その時は嫌味な金持ちっていう印象が強かったの。でもいくら食材のためとはいえこんな危険な場所に来るなんて少し見直したかも」
「……そうかもな」
ティナはカーネルの行動力に感心しているようだが、実際は勇気があるから来ているんじゃない。まあグルメSPは世界中から優れた武闘派のみを集めたエリート集団だから安心なのもあるが……多分あのカーネルは偽物だ。前にGTロボから嗅いだ匂いが微かにしたからな。
(とはいえ確証があるわけでもないしヘタな事を言って皆を混乱させるのは良くない、今回は黙っておこう……)
しかしカーネルか、今後は少し用心した方がいいのかもしれないな。
「おいイッセー、お前らどうしてそんな恰好をしているんだ?」
「あれ?ゾンゲ、ライタースーツを着ないのか?この外は極寒の地獄だぞ?」
一緒のヘリに乗っていたゾンゲが声をかけてきたんだが、なんとゾンゲはライタースーツを着ていなかった。寒くないのか?
「ゾンゲ、アイスヘルは-50℃の極寒地獄だぞ?そんな恰好をしていたらあっという間に氷漬けだ」
「へっ、この寒がりどもが。オレ様は装備なんかに頼ったりしねぇのさ!何たってスゲーレベルだからな!」
―――――――――
――――――
―――
「あががが……さ、寒い~!?」
「だから言っただろうが。ほら、ライタースーツだ」
というか仲間の二人はしっかりとライタースーツ着ているのに何でこのおっさんは着ていないんだよ……
ヘリから降りた俺達は氷の壁を登ってアイスヘルを目指していた。悪魔の皆やイリナは羽根や体が凍ってしまうかもしれないので飛ばずに壁を登っている。
「イッセーさん、大丈夫ですか?」
「このくらい平気さ、アーシアとルフェイこそ大丈夫か?」
「私は大丈夫です。イッセーさんの背中、とっても温かいですから」
「師匠はぬくぬくですね」
俺はアーシアとルフェイを、祐斗がティナを背負って上に上がっている。まあ男だし当然だよな、でも祐斗は少し辛そうだな。帰ったらもう少し体力トレーニングをさせるか。
「よおし、俺達が一番乗りだ!小猫ちゃんも早く上がって来いよ!」
「ま、待ってくださいよ~……」
大陸の一番上に着いた俺は下にいた小猫ちゃんに声をかけた。
「イ、イッセーさん!前に何かいます!」
「えっ……?」
俺の背中にいたアーシアが何かを見つけたようだ。前を見てみると猛吹雪の中に鋭く光る眼が浮かんでいた。そしてその全貌が露わになると俺は思わず叫んでしまった。
「こいつは……まさか『ツンドラドラゴン』か!」
そう、俺達の眼前にいたのは巨大なドラゴンだった。こいつの名はツンドラドラゴン、捕獲レベルは50を超えるこの大陸でも屈指の猛獣だ。
「ガァァァッ!」
ツンドラドラゴンは咆哮を上げると長い首を素早く動かして俺に喰らい付こうとした。
「おわっと!」
「きゃあぁぁぁっ!」
俺はアーシアとルフェイを抱えて咄嗟にその場からジャンプして攻撃を回避する。ツンドラドラゴンの一撃が俺達の立っていた足場を崩してその破片が下に落ちていった。
「拙い、崖の下には小猫ちゃん達がいるんだぞ!この!」
俺はツンドラドラゴンの首を掴んで遠くに投げ飛ばした。
「先輩!崖が崩れて氷の塊が落ちてきましたが何かあったんですか!?」
そこに下にいた小猫ちゃんが大声で俺に声をかけてきた。良かった、無事だったんだな。
「小猫ちゃん、皆は無事か!?」
「私達は無事です!でも一部の美食屋さん達が今の崖崩れに巻き込まれて……」
「……そうか」
くそっ、犠牲者が出てしまったか……美食屋が死と隣り合わせの職業だってことは知っているがやっぱり堪えるな……でも今は思考を切り替えないといけない。じゃないと待っているのは死だ。
「小猫ちゃん、この上にはヤバイ奴がいる。崖が崩れたことによってその辺は脆くなっているからこのまま登るのは危険だ。下の人達にここは危険だと伝えて迂回してくれ!」
「わ、分かりました!」
小猫ちゃんは崖の下にいる人達にツンドラドラゴンの存在を教えるように指示を出す。そして俺はツンドラドラゴンに向かっていく。
(しかしこいつは何故怒っているんだ?腹が減って気が立っているわけでもなさそうだが……)
ツンドラドラゴンの攻撃には明確な殺意があった。食うためではなく怒りや憎しみで殺そうとする殺気……自然界の生き物がこんな感情を出すなんて珍しいな。
「だが向かってくると言うのなら迎え撃つまでだ!ナイフ!」
ツンドラドラゴンの前足での踏み付けをかわした俺は、腹の下に潜り込んでナイフを放つ。
「チッ、浅いか……」
だがツンドラドラゴンの皮膚は思っていた以上に固く浅く切り裂いたぐらいのダメージしか与えられなかった。
ツンドラドラゴンは身体を回転させると自らの尻尾で俺に攻撃を仕掛けてきた。俺は腕をバツの字に組んで防御するが大きく後退する。
「ぐっ、凄まじいパワーだな」
ツンドラドラゴンは口から水分を含んだ息を吐きだした、それがアイスヘルの超低気温によって一瞬にして固まり氷柱になってこちらに降り注いできた。
「ナイフ!」
「メラミ!」
背中にいたルフェイが炎の球で氷柱を溶かし、壊し損ねたものを俺がナイフで破壊していく。
「ガァァァァ!」
「ぐうっ!ブリザードまで起こせるのかよ!」
ツンドラドラゴンの翼が大きく羽ばたくと猛吹雪が吹き荒れる。視界が悪くなりツンドラドラゴンの姿が見えなくなる。
「奴め、吹雪で姿を隠しやがったか。さて何処から来る……?」
俺は神経を集中させて奴の出方を待つ。すると背後から風を切って何かが飛んでくる音が聞こえた。
「はぁっ!」
俺は二人を振り落とさないようにジャンプする、するとそこに大きな氷柱が突き刺さった。更に吹雪の中から氷柱が飛んでくるが俺は二人に当たらないように何とか回避していく。
「そこだ!フライング・ナイフ!」
「グギャアァァッ!!」
吹雪の中から奴の気配を感じ取った俺はフライング・ナイフを放った。その一撃はツンドラドラゴンに当たったようで奴の怒りの咆哮が聞こえた。
「手ごたえ在りか。しかしこのままじゃ寒さで体力が奪われてしまうな……」
奴に与えたダメージは少量でしかなくこの低気温では体力がどんどん奪われてしまう。
「師匠、ここは私に任せてください!フバーハ!」
ルフェイが魔法を唱えるとさっきまで感じていた寒さが大分和らいできた。
「ルフェイ、これは……」
「フバーハといって炎や氷に対して耐性をつける魔法ですが、補助効果として気温の変化にもある程度耐えられるようになるんです。でも魔力の消耗が大きいから連発は出来ません!」
「十分だ、これだけ身体が温まってくれば動きやすくなるぜ。ありがとうな」
ルフェイにお礼を言うと、一気にツンドラドラゴンに向かった。奴は氷柱を飛ばしてくるが全てかわして懐に潜り込んだ。
「10連!釘パンチ!」
奴の顔面に必殺の10連を叩きこんだ。だが奴もただでは吹き飛ばず前足の爪で俺の胴体を貫いた。
「ぐはっ!?」
「イッセーさん!?」
奴の爪がアーシア達にまで届かないように腹に力を入れて爪を押しとめた、そして10連の反動で体が浮いたツンドラドラゴンはそのまま地面に倒れるが俺は腹を押さえて蹲ってしまった。流石は捕獲レベル50を超える猛獣……一筋縄ではいかねぇな。
「イッセーさん、今回復しますね!」」
アーシアは俺の傷を回復してくれるが体力や失った血までは回復しない、結構な量の血を流してしまったせいで体の体温は一気に下がってしまった。
「師匠!何か来ます!」
「くそっ!!」
ルフェイの指示を聞いた俺は動きの鈍くなった体に喝を入れる、そしてその場を素早く離れたが次の瞬間ツンドラドラゴンの口から吐かれた超低温のブレスが俺達がいた場所を氷漬けにする。
「あいつ、水分の含んだ息だけじゃなく超低温の冷気のブレスまで吐けるのか!」
驚く俺にツンドラドラゴンは容赦なくその鋭い牙で襲い掛かってきた。
「拙い!この体勢では回避が……」
「させません!」
だがそこに小猫ちゃんが現れてツンドラドラゴンを殴り飛ばした。
「龍鎚閃!」
更に祐斗も現れてツンドラドラゴンの頭を切り裂いた。
「だいじょうぶですか、イッセー先輩!」
「ああ助かったよ、ありがとうな二人とも。でも他の皆はどうしたんだ?」
「向こうで猛獣と戦っているよ。幸いそこまで強そうな奴じゃなかったからそっちは部長たちに任せて僕たちはイッセー君の援護に来たんだ」
向こうにも猛獣がいたのか。心配ではあるが今のリアスさんは危険を判断できる確かな目を持っている、その彼女がだいじょうぶだと判断したのならそちらは任せよう。
「先輩、あいつの弱点とかって分からないですか?」
「ツンドラドラゴンは低温地帯に生息する生物だ、だから高温の攻撃……炎や熱などには弱いと思う」
「じゃあ今回はコレの出番だね」
祐斗は聖魔刀の形を変化させた、刃の形が鋸の様にギザギザになっている。
「祐斗、それは?」
「これはある人斬りが使っていたという刀をモチーフにした聖魔刀だよ。何でもその刀は人を切っていくうちに刃に人の脂肪がしみ込んでいって、それがこの鋸状の刃から出る摩擦熱に着火して燃えるっていう恐ろしい刀さ。その名も『無限刃』」
祐斗は無限刃を構えるとツンドラドラゴンに向かっていった、ツンドラドラゴンは祐斗を迎撃しようと無数の氷柱を飛ばしてくる。
「させるか!フライング・フォーク連射!」
「メラミ!」
俺はフライング・フォークを連射してルフェイが炎の球を放ち祐斗を援護していく、援護を受けた祐斗はツンドラドラゴンの懐に入って刃を振るった。
「壱の秘剣『焔霊』!」
ツンドラドラゴンを切り裂いた部分から炎が生まれ、ツンドラドラゴンの身体を焼いていく。切り傷に火傷のダメージを合わせていくのか、えげつないな……
「祐斗先輩に負けてはいられません。私も新技を披露します!」
小猫ちゃんは腕を組んでフライング・クロス・チョップの体勢で俺に突っ込んできた……って何で俺にっ!?
「先輩!赤龍帝の鎧をお願いします!」
「何だかよく分からないが、小猫ちゃんが言うのなら何でもやってやるぜ!」
俺は赤龍帝の鎧を纏うとそこに小猫ちゃんが突っ込んできた。ギュルギュルと俺の胸板に錐揉み回転しながら向かってきた小猫ちゃんを体で受け止めるが、次第に小猫ちゃんの腕から煙が立ち上がっていく。
「今です!『モクテスマ・ディフェンス』!!」
その煙が大きくなり遂に着火して火を起こすと、小猫ちゃんの全身を炎で包んでいく。
「小猫ちゃん!?」
「問題無いですよ、先輩」
俺は小猫ちゃんが火だるまになってしまったと思ったがどうやら彼女は無事のようだ。一体どういう事だ?
「あれは魔法で炎を操作して操っていますね」
「炎を?そういえば小猫ちゃんも悪魔だから簡単な魔法は使えると言っていたな」
悪魔は魔力を持っており、転生悪魔も同じように持っているので祐斗や小猫ちゃんも魔法が使えると聞いた。だが二人の魔力はそこまで高いわけではなく、少し物を浮かせたり小さな炎をちょろっと出すくらいしかできないようだ。リアスさんや朱乃さんのように実戦では使えるものではないらしい。
「俺の鎧を擦り摩擦熱を起こし、火種を生み出してそれを軸に炎を生み出した。そしてそれを操り体に纏わせたのか。大きな炎は出せないからってそんな方法でカバーするとはな」
「はい、最近魔力の操作方法を小猫ちゃんから教えてほしいと言われてレッスンしていましたが、あれをする為に特訓していたって事ですね」
「まだ未完成ですし体力も大幅に消耗するので迂闊には使えないですが、炎を苦手とする相手には有効です!」
鎧を解除した俺は小猫ちゃんの新技に驚愕していた。
小猫ちゃんは炎を纏いながらツンドラドラゴンに突っ込んでいく、当然ツンドラドラゴンがそれを許すはずもなく超低温の冷気のブレスを吐くが小猫ちゃんが纏う炎に遮られて小猫ちゃんには届かない。
「やあぁぁぁっ!」
小猫ちゃんのボディプレスがツンドラドラゴンの頭に炸裂した。熱さと痛みでツンドラドラゴンが悲鳴を上げるが小猫ちゃんはツンドラドラゴンの首に足を絡ませると連続のヘッドパッドを食らわせていく。
祐斗の焔霊と小猫ちゃんのモクテスマ・ディフェンスの攻撃に身体が傷ついていくツンドラドラゴン、だが奴は再びブリザードを放ち二人を吹き飛ばした。
「ぐっ、あれだけの傷を負っておいてなんて生命力なんですか……!」
「相当にしぶといね……」
流石は捕獲レベル50は超えるツンドラドラゴン、あれだけの傷を負いながらも戦い続けられるとは……
「だが俺達はこんなところで立ち止まるわけにはいかないんだ!行くぞ、祐斗!小猫ちゃん!」
「はい!」
「行こう、イッセー君!」
3人で一斉にツンドラドラゴンに向かっていくが、ツンドラドラゴンは超低温の冷気ブレスを広範囲に広げて吐いてきた。
「させるかよ!」
俺は口から赤龍帝の炎を同じように拡散させながら吐いた。冷気と炎のブレスがぶつかり合い巨大な波となって広がっていく。
「魔剣よ!」
祐斗は炎属性の魔剣を空中に生み出してそれをツンドラドラゴンに向かって飛ばしていった。ツンドラドラゴンも負けじと氷柱を吐き出して相殺していくが、一本の魔剣がツンドラドラゴンの目に当たりお返しと言わんばかりにツンドラドラゴンの吐いた氷柱が祐斗の右肩を貫いた。
「ぐっ……お願いイッセー君!」
「任せろ!喰らえ、10連……」
俺はその隙に10連釘パンチを喰らわせようとしたが、奴の方が一瞬早く俺に噛みついてきた。咄嗟にアーシアとルフェイを小猫ちゃんの方に放り投げて俺だけが噛みつかれる形には持って行けたが、深々と奴の鋭い牙が食い込み血が噴き出した。
「イッセー先輩!」
「な…舐めるんじゃねえよ!」
ツンドラドラゴンはそのまま俺を食い殺そうとするが、俺も負けじと奴の口に両手を差し込んで牙をこじ開けた。
「うおぉぉぉっ!!」
そしてツンドラドラゴンの口内に炎のブレスを喰らわせた。流石のツンドラドラゴンも体の中から焼かれるのは効いたのか俺を放り投げて苦しんでいた。
「メラゾーマ!」
「弐の秘剣『紅蓮腕』!」
ルフェイの放った特大の火球がツンドラドラゴンの背中に炸裂した、羽根が焼けただれ見るも無残な姿になっていた。
そこに追撃をかけるように祐斗が無限刃の刃を右手に付けていた手袋に擦るように押し当てる、すると巨大な爆発が生まれて奴の腹に大きな火傷を負わせた。
「祐斗!?」
「大丈夫だよ、イッセー君。この手袋は剣を握る際の滑り止めの為に付けていたんだけど、いざという時に使えるかと思って火薬も仕込んでおいたんだ。勿論僕自身にはダメージがいかないように考慮して作って貰った特注品さ」
「あれは私が作ったんですよ、師匠。良く伸びて頑丈な『ゴムザル』や固くしなやかな『アイアンアルマジロ』、火薬から使用者を守る為にと『マグマラット』などの皮などをうまく配合して『花火ミミズ』や『ニトロバード』などから取れる火薬をブレンドした物を使いました」
そ、そういう事は事前に教えてほしかったぜ……
しかし祐斗も思い切りが良くなってきたな。最初は騎士道精神にこだわっていたが、今では不意打ちは普通にするしああいう絡め手も好んで使うようになった。模擬戦でも手痛い一撃を貰うことがあるんだよな。
「グ…ガァ……ァァァァ……!」
既にボロボロのツンドラドラゴンだが捕獲レベル50の意地を見せ立ち上がろうとする、だがそこに小猫ちゃんが頭突きを食らわせた。
「死体に鞭を打つ真似をして申し訳ありません、でも私達も負けるわけにはいかないんです!」
小猫ちゃんは首の筋肉の力だけでもう一度跳び上がる、そして連続で頭突きを食らわせていく。
「イッセー先輩!最後は一緒に……!」
「分かったぜ、小猫ちゃん!」
俺は小猫ちゃんが大きく跳ね上がったタイミングと共に、10連釘パンチをアッパーするように奴の顎に叩き込んだ。それと同時に小猫ちゃんが頭突きを喰らわせた。
「10連!釘パンチ!!」
「必殺!『偽マッスル・リベンジャー』です!!」
そして最後の一撃でツンドラドラゴンの頭を同時に攻撃した。
「グゥ……ガァァァ……ァァァ……」
その一撃が決め手となったのか、ツンドラドラゴンは吐血しながらフラフラと首を揺らしている。その瞳は俺達に対する憎しみに包まれていたが、ゆっくりと倒れこむと遂に息だえた。
「ごめんな、お前に恨みはないが襲ってくるのなら戦わなくちゃならないんだ……」
俺は手を合わせてツンドラドラゴンに御免をした。せめてお前の肉や血は俺達が有難くいただくからな……
「イッセー君、やったね!」
「何とか勝てましたね……」
「ああ二人が来てくれなかったらもっと苦戦していただろう、本当にありがとうな」
俺は二人に握手をすると、小猫ちゃんに声をかけた。
「小猫ちゃんの自分の身体に炎を纏わせて戦う戦法には恐れ入ったぜ。でも態々自分で火種を作らなくても俺かルフェイに炎を貰えばもっと楽にアレできたんじゃないか?」
「自分で起こした火じゃないと操作できないんです。体力も大幅に使ってしまうしもっと改善が必要ですね。私としては祐斗先輩の火薬などに驚きましたが……」
「勝つ為に手段なんて選んでいられるほど僕は強くないからね。それよりも……」
俺達は話を中断してツンドラドラゴンの死体に目を向けた。
「こいつからは明確な殺意を感じ取った。俺達個人にというよりは『人間』そのものに……一体何があったんだ?」
野生の生物が食う目的以外で殺気を出すのは考えにくい、あるとすれば目の前で我が子や番を殺されたりでもしたのか?だがこの時期に俺達以外にこの大陸に来るやつなどいるのか……
「師匠、こっちに来てください!」
ルフェイが何かを発見したようでそちらに向かってみる。そこで俺達が発見したのは氷漬けになったもう一体のツンドラドラゴンの死体だった。
「ツ、ツンドラドラゴンがもう一体?」
「こいつはもしかするとメスかもしれないな。小猫ちゃん、グルメスティックセンサーで調べてみてくれ」
「分かりました」
小猫ちゃんがツンドラドラゴンの死体にグルメスティックセンサーを当てる、すると様々なデータが浮かび上がった。
「カロリー、体長、捕獲レベル……あっ、ありました。どうやらメスみたいですね」
「やはりメスか、さっきの奴がオスだとすれば番だったのかもしれないな」
小猫ちゃんに調べてもらうとこの死体は俺の予想通りメスだった。俺は凍ったツンドラドラゴンの死体の匂いを嗅いでみる。うん?この匂いは……
「この死体、微量だが前にテリーの母親から嗅いだ羊水の匂いとフェロモンがする。腹の膨らみ具合からしてもしかすると妊娠していたのかもしれないな」
「子供さんがいたんですか……それは悲しいですね」
「そうか、番と生まれるはずだった子供が凍って死んだからオスが怒っていたんだね」
……『凍って』死んだ?俺は祐斗の言ったその言葉にある疑問が生まれた。
「ツンドラドラゴンはこのアイスヘルに適応した生物だ。生きている内に凍って死ぬなんて事はまずあり得ない」
「生きていたら……じゃあこのツンドラドラゴンは誰かに殺されたって事ですか?」
俺の言葉に小猫ちゃんも気が付いたようだ。ツンドラドラゴンはこの環境に適応した生物だ、生きているならば凍ることはまずない。だとしたらこの目の前の死体は何者かに殺されたツンドラドラゴンの死体が凍った物なんだろう。
これは推測だがオスのツンドラドラゴンはメスの為に食料を取りに行っていた、だが帰ってみればメスが何者かに殺されていてそれを見て怒った。その何者かは殺されたか逃げたかは分からないが怒りの収まらなかったオスが偶然出会った俺達に襲い掛かってきたのかもしれないな。
「でもツンドラドラゴンは捕獲レベル50を超えるんだよね?そんな猛獣を殺せる人物なんてそういるものなの?」
「いや、俺には心当たりがある」
「……美食會ですね」
祐斗はツンドラドラゴンを殺せる人物などそうはいないと言う。それは事実だ、このレベルの猛獣を殺せる奴は人間の中にはそういない。でも俺には心当たりがあった、それを察した小猫ちゃんが言った美食會だ。
「ヴァーリやグリンパーチ程の実力者ならツンドラドラゴンを殺すことは可能だろう」
「でもどうして美食會がここに?」
「皆、前にウール火山で戦ったグリンパーチの話を覚えているか?あいつらはGODを手に入れるのを目標としている、だからグルメ界に入るためにグルメ細胞を進化させないといけないはずだ」
「なるほど、美食會が美味いグルメ食材を狙っていたのはその為だったんですね」
奴らは前回ジュエルミートの捕獲に失敗している。だからジュエルミート級の食材であるセンチュリースープを狙ってきてもおかしくない。
「でもこのドラゴンさんは何処にも傷がありませんよ?」
「確かに傷らしきものはないね。どうやって殺されたんだろう?」
アーシアと祐斗は外傷の無いメスの死体に疑問を抱いていた。傷がないって事は毒で殺されたか、それとも俺の想像もつかない方法で殺したのか……どっちにしろ気は抜けないな。
「取り合えずオスの死体を切り分けて異空間に保存しておこう。長い旅になるかもしれないから食料は多めにあった方がいい」
俺はオスのツンドラドラゴンの身体をナイフで切り分けようとする。だがオスの頭から何かが飛び出してきて俺の脇腹に喰らい付いた。
「イッセー君!?」
「こいつは……ふんっ!」
俺は脇腹の筋肉に力を入れて謎の襲撃者を体の外へ押し出した。
「ナイフ!」
そしてナイフでその物体をバラバラに切り裂いた。
「イッセー君!大丈夫かい!?」
「ああ、俺は平気だ。問題はこいつだな」
俺はバラバラにした物体に目を向ける、その正体は何と昆虫だった。まだ生きているようで体の欠片がピクピクッと動いている。
「む、虫さんですか……?」
「驚いたね、こんな極寒の地に虫がいたなんて……」
「一体何なんでしょうか?」
「分からん、だがこんなのも生息しているのならモタモタしているのは厄介だ。早くやることを済ませてリアスさん達と合流しよう」
アーシア、祐斗が虫の存在に驚き小猫ちゃんが首を傾げる、だが俺にもこの虫の正体が分からなかった。
だがこんな生き物がいるのならのんびりとしてはいられないな、そう思った俺はオスの身体を冷凍保存してルフェイの魔法で異空間にしまった。
「先輩、メスの方はどうしますか?食材として持っていきますか?」
「いや止めておこう。どうやって殺されたのかが分からないから食すのは危険だ。もしかしたら毒などで殺されてしまったかもしれないからな」
「じゃあせめて供養だけでもしてあげましょうよ」
「そうだな……ッ!?」
俺はメスから何か得体のしれないモノを感じ取り後ずさる。なんだ……?今の悪寒は?メスに近づこうしたら感じたぞ。
(こいつはマズイ!俺の美食屋の感がそう告げている……!)
「先輩?どうかしましたか?」
「皆、急いでここを離れるぞ。何だか嫌な予感がするんだ」
俺はそう言って急いでこの場を離れた。さっき感じた悪寒が何かは分からない、でもこの場にとどまるのは危険だと判断したんだ。
だが俺達は後で運が良かったと思い知ることになる。メスの身体の中にはヤバイ存在がいて、もしあの時メスに何かしようとしたらそいつを目覚めさせていた、そして消耗していた俺達では適わずに皆殺しにされていたという事に……
後書き
ルフェイです。師匠は流石ですね、あんな大きなドラゴンを倒しちゃうんですから。小猫ちゃんや祐斗さん、アーシアさんのサポートもバッチリでした。
えっ私はどうだった……ですか?まだまだですよ、慢心は一番の敵ですからね。師匠に「流石俺の弟子だな!」って自慢してもらえるくらいには強くならないと!
氷の世界の番人も倒していよいよアイスヘルの冒険が始まります。でも美食會の影もあって一筋縄ではいかなさそうですね。
次回第55話『凍てつく氷の世界!氷山を目指して突き進め!』で会いましょうね。
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