魔法が使える世界の刑務所で脱獄とか、防げる訳ないじゃん。
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第一部
第47話 戦う
「———あぁクッソ‼︎」
「そろそろ疲れてきたんですか?」
「違ェよ‼︎」
橙条と仁の攻防戦は既に三十分は続いていた。
両者が互角の実力を持っているからこそ、戦いは長引いていく。
だが始まりの頃と比べ、ミスは増えていた。
橙条が、床を破壊して作って飛ばしている破片に、ナイフを突き刺して軌道を変えたり、撃ち落としたりしていた仁だが、ナイフが刺さらない破片が出てきて、かなり傷が増えてきている。
橙条も自分の方まで飛んできたナイフを避けていたが、少しずつナイフを喰らうことが増えてきている。
両者共に、集中力の限界が近付いて来ていた。
———そして。
「……でも、終わりだよ」
「くそッ……‼︎」
橙条の目の前に、百を優に超える数のナイフが、隙間無くビッシリと詰められた様子が広がった。
それが全て、橙条に向かって飛ぶ。
避けられない。
そして、橙条の体にナイフが突き刺さる———
「———お兄に手を出すな」
前に、橙条と迫り来るナイフの間に、看守服を纏った人が入り、ナイフの動きを止めた。
近くの床に刺さっていたナイフに触れる事により、指定した空間内にあるナイフの全てにマーカーを設置。そうする事により、“彼女”の魔法は発動する。
「全てお返ししますね」
床に突き刺さっていたモノや、床の破片に突き刺さっていたモノを含めた、全てのナイフが浮かび上がり、仁の方へ向けて飛んでいく。彼女は魔法に因って、自分を強い磁石としてマーカーが反発する力を利用して、ナイフを飛ばしたのだ。
勿論、避ける事は不可能。
———仁の負けだった。
だが。
『———システム起動。三十秒後、地下牢獄ハ崩壊シマス。繰リ返シマス。地下牢獄ハ崩壊シマス。構成員ハ直チニ地下牢獄ヲ出テ下サイ』
「何……? この放送」
朱乃がポツリと呟く。橙条も小首を傾げながら、放送を聞いた。
『ステップ1。全テノ扉ヲ閉鎖シマシタ。取リ残サレタ構成員ハ、ステップ2開始前二転移シテクダサイ』
『ステップ2。地下牢獄内ノ魔力ヲ全テ消去シマシタ。取リ残サレタ構成員ハ、ステップ3開始前二体内魔力デ転移シテください』
『ステップ3。地下牢獄内ノ生物ノ体内魔力ヲ全テ消去シマシタ。構成員ハ地下牢獄二近付カナイデクダサイ』
『ステップ4。地下牢獄ト地上ヲ分離シマシタ。地下牢獄二近付カナイデクダサイ』
『ステップ5。地下牢獄ハ崩壊シマシタ。繰リ返シマス。地下牢獄ハ崩壊シマシタ』
意味の分からない放送が何回も流れ、二人がそれを異変に感じる。何か、拙い事をやってしまったのではないか、と。
———そして、戸惑う二人を嘲笑う様に、崩壊しかけている廊下に手を叩く音が響いた。
「実に素晴らしい戦いだったよ。橙条君」
黒より黒い色を纏った、彼———黒華湊の嗤い声と共に。
◇ ◆ ◇
「……橙条‼︎」
脱獄した囚人と独断で出て行った看守を回収しに来た、第一魔法刑務所の朱乃以外の四人の看守達が、爆発音を聞いて一斉に走り出す。
爆発音がした場所が、朱乃が向かった場所に近いと判断したからだ。
「嗚呼、随分と遅い到着だったね。と言っても、数秒遅いだけかな?」
「橙条‼︎」
他の三人より少し早く爆発音が聞こえた場所に着いた神白が声を上げる。
マフィアの首領、黒華湊が立っている後ろで、橙条雅人と橙条朱乃が重なって倒れていたからである。
「貴様ァッ‼︎」
「そんなに怒らないでくれ給え。二人は勿論生きている。“ねぇ、仁君”?」
「はい。首領」
廊下の奥から、橙条との戦いで死んだ筈の仁が現れる。無傷の状態で。
何度殺しても、何度も蘇る。
それがマフィア幹部。
主を殺すまで、何度だって、何度だって生き返って。
主の為に戦う。
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