戦国異伝供書
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第四十話 上田領有その十一
「非常に義侠心と正義感が強いという」
「立派な方のさまですな」
「うむ、立派じゃ」
晴信は幸村に確かな声で答えた。
「確かにな、しかしな」
「敵となれば」
「しかもじゃ」
「あの方はお強い」
「戦の場に出れば必ず勝っておるな」
「それも鮮やかなまでに」
「あの様な者と戦うつもりはない」
これが晴信の考えだった。
「わしでもあの者には勝てぬわ」
「お館様でもですか」
「そうじゃ、勝てぬ」
決してというのだ。
「だからじゃ」
「それで、ですか」
「越後と揉めてもな」
「長尾殿と戦うことは」
「せぬ、向かい合ってもな」
例え戦の場でそうなってもというのだ。
「正面から戦をしては勝てぬしじゃ」
それにというのだ。
「当家の将も兵も多く失う」
「そうだからこそ」
「戦わぬ、皆わしの宝じゃ」
「失いたくはない」
「そういうことじゃ、だからあの者とは戦わぬ」
決してという言葉だった。
「その様にしていくぞ」
「さすれば」
「ただ、あの者と向かい合う時は」
ここで晴信は幸村にこうも言った。
「当家の家臣は総出となるからな」
「それがしもですか」
「出てもらう、そしてじゃ」
「働かせて頂きますか」
「そうじゃ」
その通りだというのだ。
「そうしてもらうぞ」
「わかり申した」
幸村も確かな声で頷いた。
「そうさせてもらいます」
「その様にな」
「その時は十勇士達と共に身を粉にして働きます」
「ではな」
「さすれば」
幸村はまた応えた、そしてだった。
幸村が去ってからだった、晴信は今度は信繁を呼んでこう言った。
「真田家の者達が来ればな」
「早速ですな」
「会う」
そうすると言うのだった。
「そしてその時がじゃ」
「今からですな」
「楽しみじゃ」
これが晴信の考えだった。
「間もなくじゃが」
「では」
「うむ、その時を待っておる」
楽しみにしてとだ、こう言ってだった。
晴信は真田家の者達を待った、そうして彼等と会う日はすぐに来た。
第四十話 完
2019・3・1
ページ上へ戻る