ロックマンX~Vermilion Warrior~
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第132話:Ignis
オペレーター達の熱の入った訓練から数日後、司令室の扉が開いた。
「エイリア、解析終わったー?」
扉が開くのも待っていられないと言うように司令室に駆け込んできたアクセルに、エイリアは仕事中ではあるのだがその顔を綻ばせた。
エイリアは、ふぅ、と一区切りつけて、オペレーターの顔に戻る。
「ごめんなさい、もう少し待ってもらえるかしら。まだ解析が不充分なの」
エイリアが喋り終わるか終わらないかで、ゼロとエックス達も司令室に入ってきた。
実はここに来る前は、5人でトレーニングルームに籠もっていた。
武器性能の調整に始まり、武器開発、それぞれのウォーミングアップとその内容は豊富だ。
「調子はどうだ、お前達?」
「悪くない……と思う」
シグナスの問いに、エックスは曖昧に苦笑し、そんなエックスにアクセルが身を乗り出した。
「悪くないなんてもんじゃないじゃん!!殆どパーフェクトだったくせに。トレーニングメニューの締め括りのダブルボスのマグマード・ドラグーンとシャイニング・タイガードのコンビなんて大してダメージ受けてなかったじゃない!!」
「そう言うアクセルもな。機動力が全く活かせない狭い場所であるにも関わらずにクレッセント・グリズリーとスラッシュ・ビストレオのコンビをあまりダメージ受けないで倒してたじゃんか」
「ああ、あいつら?まあ、普通に戦う分には苦戦するんだけどさ」
【?】
微妙な表情を浮かべるアクセルに全員が首を傾げた。
「あいつらのバトルフィールドってさ、大きい窪みがあるじゃない?あれに入ればビストレオとグリズリーの攻撃が全く当たらないんだよなあ。時々窪みの中に攻撃したり入ってきたりするけど被弾回数が少ないから余裕過ぎるよ…フィールドが狭いせいでビストレオの機動力も無駄になってたし…正直弱点武器無しでも勝てる自信あるかも」
「調整必要だよなあ、因みに俺はダーク・ネクロバットとブリザード・ヴォルファングのコンビだった。」
ヴォルファングはゲイト製のレプリロイドで処分されたレプリロイドだが、データは残っていたのでトレーニングメニューのトレーニングボスとして採用されている。
「お前は確かハイエナードをコピーして火炎でヴォルファングを即座に撃破していたな。」
あれを見たゲイトが膝をついて嘆いていたが、全員見なかったことにした。
「普通に戦うとヴォルファングのスピードはマジで厄介だからな。だから最初にヴォルファングを潰す。まあ、正直誰と組んでもスピードが厄介なヴォルファングを即座に潰すのが選択肢として出てくるから最も撃破方法に変化がないボスとも言えるな。これが一番楽で効率的にトレーニングをクリア出来るわけだし」
「ヴォルファングの相方が戦闘力が低いネクロバットじゃねえ」
攻撃方法も殺傷力が低い攻撃ばかりでネクロバットの最大の特徴であるダークホールドも使い手が弱いので宝の持ち腐れと化していた。
「て言うか何でトレーニングメニューのボスってこんなに偏ってんだろうな?レプリフォース大戦以降のボスなんてみんな出てるぞ?」
「レプリフォース大戦以前のデータは古くなっているからな…ルインはメタモル・モスミーノスとコマンダー・ヤンマークとのコンビと戦ったんだよな?」
「モスミーノスはともかくヤンマークに至ってはほぼ何もさせずに撃破したがな」
これまたゲイト製のレプリロイドであるヤンマークのオプションの光弾をルインはPXアーマーのバリアで無力化し、十字手裏剣の連発でルインは速攻でヤンマークをフォーメーションウワァー!の断末魔と共に倒した。
モスミーノスはヤンマークよりは戦いらしい戦いをしたが、ゴミ関係のレプリロイドのためかFXアーマーのメガトンクラッシュで燃やされてしまった。
「ゼロはイーグリードとアシッド・シーフォースのコンビだったね」
「ああ、だがやはりプログラムだからな。本物のイーグリードに比べれば動きは単調だし、シーフォースは液体金属のボディを凍らせてしまえば後はどうにでもなった。」
やはり何度もぶつかり合った親友だ。
イーグリードの戦闘スタイルは完全に理解しているし、シーフォースは一度エックスがフロストシールドで凍結させたのを見たからすぐに片付けることが出来た。
そんな5人のやりとりに、エイリアは思わずくすりと笑った。
まるでずっと一緒の仲間、そうでなければ兄弟のようだ。
その後もしばらく続いている会話をBGMに、エイリアは再びコンピューターに向かい合い、しばらくして異変に気付いて複数の反応がモニターに映る。
モニターに映るのはウェントス、イグニス、グラキエス、テネブラエの4人のレプリロイド。
「この4人のいるエリアは電波障害が酷くて、状況を知ることが出来ないし、ハッキングも出来ないの。だから…」
「ああ、このエリアには俺が行けってんだろ?」
「そうよ。ごめんなさい。あなたに頼るようで」
「気にすんな。これも俺の仕事さ。さて、まずはこのエリアに行くか」
ルナが指差したのはかつてのシグマの反乱で、シグマについた元特A級ハンター、バーニン・ナウマンダーが占拠した工場地帯である。
そこにいるイグニスから撃破しようというのだろう。
「奴らが何者で何の目的があるのか知らないが、今は戦うしかない。」
「みんな、私が彼らと戦うよ。」
全員で行けば的になる可能性もあるために、彼らの弱点を良く知るルインがルナと共に出撃することに。
「ルイン、気をつけて」
「うん、大丈夫だよエイリア。任せといて」
ルインとルナはかつてのシグマの反乱で、バーニン・ナウマンダーに占拠された総合火力発電所に赴いた。
懐かしさを感じながらもルインはルナと共にひたすら前へと進む。
守備隊らしきものがわらわらと現れてくるがそれらはチャージショットとリフレクトレーザーにより容易く残骸と化す。
ランナーボムがルインに向けて爆弾を投げるが、高機動のHXアーマーを纏うルインには掠りもせずにエアダッシュで距離を詰めるとダブルセイバーによる斬撃で瞬く間に複数のランナーボムが斬り刻まれた。
「アーマーの機動力とセイバーの出力、そしてオーバードライブの燃費も桁違いに上がってやがるな…やっぱりあのウィルスの影響か?」
「…多分ね。地上やコロニーのシグマウィルスを大量に吸収したから私の基本スペックが大幅に上昇したんだと思う。あんまり嬉しくないけどね」
その言葉だけで何となくルインの胸中を察したルナは苦笑を浮かべた。
「でも今は凄え助かるよ…。取り敢えずその力…頼りにしてるぜルイン」
「うん、任せて」
かつてのコロニー事件で得たシグマウィルスの恩恵による力は凄まじく、かつてはアルティメットアーマーを装備したエックスとブラックゼロを発動したゼロを同時に相手取れるくらいの力があった。
敵として振るわれるなら凄まじく恐ろしいが、味方として振るってくれるならこれ程頼もしい力はない。
「にしても、ここは確か、最初のシグマの反乱で占拠された場所だよな?ルイン、正直お前にとって懐かしい場所なんじゃねえか?」
「ふふ、そうだね。ここは私とエックスが初めて同じイレギュラーハンターだった特A級ハンターのナウマンダーを倒した場所でもあるから印象深いよ」
エックスと共闘し、初めて同じイレギュラーハンターであった同胞を破壊した記憶は今でも鮮明にルインに残っている。
「そしてここはエックスがライト博士と再会した場所……あのハイウェイが全ての戦いの始まりの場所ならここは私とエックスが強敵との戦いを決意した場所でもあるんだ。十字手裏剣!!」
ルインは懐かしさを感じながらもPXアーマーに換装して手裏剣とクナイを投擲してメカニロイドを薙ぎ払う。
「トランスオン!!ガンガルン!!」
ガンガルンに変身し、小柄故に軽快なフットワークで攻撃を回避し、至近距離からエネルギー弾を放つ。
そして次々に襲い掛かるメカニロイドとランナーボムを返り討ちにし、ルインとルナは発電所の最奥部に向かうのであった。
発電所の最奥部ではかつてルイン達がナウマンダーを破壊した場所でイグニスが佇んでいた。
「よお、イグニス。また会ったな」
「やはり来たか同胞…そして本物のルイン。影の方もかなりの怪物だったが、本物はやはり格が違うようだな」
「…………」
イグニスの言葉に対してルインは普段は穏やかな目付きを鋭くして睨む。
「おい、同胞ってどういうことだ?」
「お前も私達とルインと同じように人間素体型だろう?お前からは私達と同じ独特の反応を持っているから一目で分かったぞ」
「ルナが私と君達と同じ…ならやっぱり君達も元は人間だったんだね」
今までルインは単なる偶然かと思っていたが、どうやら人間素体型レプリロイドは普通のレプリロイドとは独特の気配と反応を持つようだ。
「そうだ。力を得るために貧弱な人間の体を捨て、レプリロイドに進化した。レプリロイドがこの世に誕生してから私達人間はただの抜け殻のようになってしまった。イレギュラーが現れるとただ逃げ惑う日々。私はそんな自分に嫌気が差していたのさ、そしてイレギュラーの暴走に巻き込まれて死にかけた時にあの男が現れた。“私に従うのなら貧弱な人間の肉体ではなく強大なパワーを持ったレプリロイドの肉体を与えよう”とな。レプリロイドに進化し、その力を振るった時は歓喜に震えた…人間時代はまるで手も足も出なかったイレギュラーがまるでゴミのように一蹴出来たのだからな…正に神の恵みと言うべきだろう」
「違うね」
イグニスの力に酔った発言にルインは冷たい表情で言い放つ。
「何?」
「そんな物は進化じゃない。そして君に与えられたのは神の恵みでも何でもないただの悪魔の狂気だよ」
「大体、そんなふざけた進化なんかねえよ。限りある人間の体を捨てて、そんなふざけた力を喜んで振り回してるてめえがしてることはただの“暴走”だ。」
ルインとルナの反論にイグニスは背中のナックルバスターに手を伸ばす。
「私達よりも早くこの進化に恵まれた貴様らに……私の気持ちなど分からんさ。何時イレギュラーが発生するか分からず、目の前のレプリロイドに怯える日常の恐怖などな!!」
ナックルバスターを構え、ルインとルナに向けてショットを放つ。
「こんなもん…」
回避しようとした時にショットの弾道が変化し、虚を突かれたルナは直撃を受けた。
「ぐっ!!弾道が変わった…!やっぱりこいつは…」
「ルナ、気をつけて。彼女が私のFXアーマーを元にして造られたなら性能も準ずるはずだよ。あれはナックルバスターによる遠近戦闘もこなせる万能タイプ。パワーも他の奴らとは比較にならないはずだよ!!」
「ほう?流石だなルイン。流石は私達のオリジナル…とでも言っておこうか。貴様にはこれをくれてやる!!」
イグニスがダッシュで距離を詰めると、オリジナルであるルインには出来ないダッシュからのメガトンクラッシュを繰り出す。
「なっ!?メガトンクラッシュはダッシュからの使用は出来ないはずなのに…」
「私はこの力を限界まで極めている。オリジナルである貴様に出来なかったことも出来る。」
ギリギリで火炎弾を回避したルインはチャージショットを放つ。
イグニスはそれをかわすが、ルインは即座にHXアーマーに換装してエアダッシュで距離を詰めるとオーバードライブで強化したダブルセイバーで斬りつける。
「ぐあっ!?」
「やっぱりね!!私のアーマーを基にしてるんだから君は雷が弱点かと思ったらドンピシャだ!!ソニックブーム!!」
セイバーを交差させて繰り出す衝撃波をイグニスに喰らわせるルイン。
弱点を立て続けに喰らうイグニスは激痛に顔を歪める。
「舐めるなオリジナル!!」
何とか弱点の怒濤の攻撃に耐えてナックルバスターのショットを連射してルインを近付かせないようにするが。
「ルインばかり見ていちゃあいけねえな!!」
ホーミングショットを放ち、イグニスに喰らわせるが、微動だにしない。
「ふん、ルインに比べれば火力が足りないな」
お返しとばかりにショットを放つイグニス。
「パワーか…なら、こいつだトランスオン!!ストンコング!!」
ストンコングに変身し、超硬度岩石の盾でイグニスの放ったショットを防ぐ。
「中々頑丈だな。だが…いかに超硬度岩石と言えど…」
イグニスはダッシュで接近し、ダッシュの勢いを加算したナックルバスターを勢いよく盾に叩きつける。
「なっ!!?」
「私のパワーの前には砂糖菓子のような物だ!!」
一撃でストンコングの盾を粉砕する。
エックスの強化されたチャージショットにも耐えてみせた超硬度岩石の盾をいとも簡単に。
「喰らえ!!」
もう片方のナックルバスターをルナの胴体に叩きつけ、吹き飛ばす。
「ルナ、大丈夫!?」
「お仲間の心配をしている暇があるのか!?グラウンドブレイクボム!!」
ナックルバスターの銃口から複数の爆弾が発射され、床に落ちる。
変身が解けたルナを抱えてルインは即座にエアダッシュと壁蹴りとホバーを駆使して上空へと避難する。
「流石だな。あの男を追い詰めた朱の悪魔は伊達ではないようだな。悪いが地に這いつくばってもらうぞ。ブラストボム!!」
巨大な火球を作り、こちらに発射して壁に当たると無数の小さい弾に分裂した。
「なっ!?」
驚愕するルインだが、即座にホバーで移動しながら弾を回避するものの、イグニスはナックルバスターを床に叩きつけ、大ジャンプをするとルインの真上に移動し、もう片方のナックルバスターをルインの背中に叩きつけ、叩き落とした。
「ぐっ!!」
そして床に転がっていた爆弾が大爆発を起こし、ルインとルナは爆発に飲まれた……かに見えた。
咄嗟にルインはPXアーマーに換装することでバリアを展開し、自身とルナを爆発から身を守っていた。
「成る程、流石だな」
「ふう、助かったぜルイン。やっぱあいつはお前を基にしてるからか強いな」
「うん…私とは違って完全に固定されてるから私では出来ないことも出来てる……」
再び睨み合う両者。
「まずはお前からだ!!」
ルインよりも先に手負いのルナを仕留めるためにイグニスはナックルバスターを構えて突っ込む。
「やらせるかよ!トランスオン!!デボニオン!!ボルトルネード!!」
ルナは不敵な笑みを浮かべてデボニオンに変身すると高速回転し、電磁竜巻を発生させると突っ込んでくるイグニスに直撃させた。
「ぐあああああっ!!?」
弱点属性のボルトルネードをまともに喰らったイグニスは動きを止めてしまう。
そしてそれを見逃すルインではない。
「ダブルプラズマビット!!」
セイバーから2発の電撃弾を放ち、硬直しているイグニスに直撃させる。
「ぐっ…舐めるなあ!!」
ダッシュメガトンクラッシュでルインを吹き飛ばし、ルナにはショットで牽制。
「ダブルブラストボム!!」
真横、斜め上に向けて放たれた火球が壁に当たると同時に無数の弾がルインとルナに迫る。
「やべえ!!」
「っ!!」
咄嗟にルインはルナを庇うように弾を全身に受ける。
「」ルイン!?」
落下していくルインにイグニスはナックルバスターを構えて、落下していくルインに向かう。
「とどめだ!!」
メガトンクラッシュがルインの腹部をまともに捉えた。
「うぐっ!!」
あまりの威力に疑似血液を吐いたが、次の瞬間にイグニスの腕を掴んで笑った。
「っ!?」
「OXアーマー、裂光覇!!」
裂光覇のエネルギーを拳に収束させた一撃をイグニスに直接叩き込む。
絶大な威力を誇る一撃が直接叩き込まれたことでイグニスは勢いよく吹き飛ばされてしまう。
「前より遥かに威力が跳ね上がってやがる」
「さて、どうする?このまま消えるなら見逃してやるけど?」
精神高揚と狂暴性の増大は変わらないらしく、普段のルインからは想像出来ない威圧感が放たれている。
「っ…とどめを指さないのか?甘いな…いいだろう。ここは退いてやる。私を生かしておいた事、いつか必ず後悔させてやる!!」
イグニスに去るのと同時にルナはイグニスのDNAスキャンが終了した。
「ルイン…」
「正直…倒していいのか分からなかった」
「いや、仕方ねえさ。相手は元人間だしな…俺があいつらやルインの同胞ね…」
「気になる?」
「いや、別に。あいつらはあいつら。俺は俺。帰ろうぜルイン。少し疲れた。」
「そうだね…帰ろうか」
周囲に敵がいないかどうかを確認した後、2人は火力発電所を後にしてハンターベースへ帰還するのであった。
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