魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epica40目指す場所~Purpose~
†††Sideセレス†††
トラバント団長の指令でミッド北部の廃棄都市区画へとやって来た私たちオランジェ・ロドデンドロンを出迎えたのは、そんな事だろうと思っていたとおり最後の大隊だった。連中は結界で私たちを個別に閉じ込め、各個撃破を狙ってきた。
「AMFも弾道ミサイルも鬱陶しいし・・・、それにさっきからチマチマと・・・」
――クリンゲ・フリーゲン――
浅黄色に輝く魔力刃が4発と飛んで来た。切断力と凍結効果を発揮する冷気の付加術式、氷奏閃を発動して、私の大剣型アームドデバイス・“シュリュッセル”を強化。そして迫る魔力刃を連続で斬り払い、私を殺すとのたまう大隊のメンバーを睨み付ける。
「ちきしょう! AMFの中でどうしてここまでやれるんだ!」
教会騎士団の現斧騎士最強の座、アクストパラディンであるグリフレット・ビエナート。パラディンとなって数週間はチャラチャラしていたけど、今では青い髪を短髪にして好青年風になった。立派になったかと思っていたらこれだ。大隊の一員として犯罪に手を染め、こうして邪魔者になった私たちを殺しにきた。
「うるっさいな・・・。分散させて、AMFで弱体化させて、弾道ミサイルの迎撃で隙を作らせて・・・。そこまでしないと私を殺せないの? それに、この魔法と魔力パターンと魔力光からして融合騎とユニゾンしてるよね? よくもまあ・・・」
それだけの事をしておいてよくアクストパラディンと名乗れるよね、と言外に伝えた。始めからグリフレットにはパラディンの称号は荷が重過ぎたということだ。私の考えを察したアイツは「僕がパラディンだ!」魔力流を放出して、その魔力量を見せつけてきた。
(グリフレットの紫色と、おそらく融合騎の浅黄色が混ざってる・・・)
変な色と化した魔力が、ガリフレットの大斧型デバイス・“リュールング”の刃に集束していく。
――ギガント・シュピール――
そして魔力は放電する電撃の巨大刃と成った。グリフレットは「パラディンを目指しすらしないお前なんぞに!」なんて、変な方向で怒り始めた。騎士は全員パラディンを目指さないといけないような言い草に私は「フンッ」鼻で笑ってしまった。
「おのれぇぇぇぇぇぇ!!」
巨大な魔力刃を有する“リュールング”を横に大きく振り被りながらの突進をしてくるグリフレットに、私は「あ、今のはマジでごめん」って謝りつつ、“シュリュッセル”を上に振りかぶる。
「おらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「速攻で終わらす!」
魔力刃の攻撃範囲に入ったことでグリフレットは振り被っていた“リュールング”を横一線に振るってきた。アイツは私や“シュリュッセル”にしか警戒してない。だからこの一撃を決着の連撃1発目にしよう。
――女神の鉄拳――
私とグリフレットの合間の地面から氷の鉄拳を突き出させて、「ぐごぉ!?」アイツの腹に強烈な一撃をお見舞いしてやった。
「涙する皇剣からの・・・!」
左手に氷の剣を創り出し、“シュリュッセル”と一緒に冷気を放出させて、空に吹っ飛ぶグリフレットの元へと「てい!」跳び上がる。吐血しながらも私を睨み付けてきたアイツへと・・・
「双刃十字星!」
“シュリュッセル”と氷剣の刃が直撃しないように十字に振り払う。十字状に広がる冷気がグリフレットに直撃して、そのままアイツを氷の十字架に閉じ込めた。そして十字架は地上へと落下して、大きな音を立ててコンクリートに突き立った。
「あ、また来た」
弾道ミサイルが私たちの居る結界内へと落ちて来る。ルシルの話だと、第97管理外世界では弾道ミサイルの迎撃は技術的に難しいらしいけど、魔導師にとっては範囲攻撃を行えば十分可能だ。持ってる氷剣を上空へと全力投擲。
「爆ぜる凍煙・穿つ氷刃!」
氷剣は爆発して、ウニのように全方位へと大剣状の氷柱を生やした。ミサイルはその爆発に巻き込まれて一瞬で完全凍結、そして氷塊と一緒に地面に落下して粉々に砕け散った。
「ルシルからは本拠地潜入を終えた合図があるまでは大隊を刺激しないでほしい、って言われてたけど・・・」
グリフレットが弱すぎる所為だから私に問題はないはず。氷のウニに閉じ込められているアイツを横目に、空に展開されてる複数のモニターへと目をやる。アンジェとクラリスとトリシュは苦戦してる。イリスとルミナも苦戦してるように見えるけど、ルシルの言いつけを守って時間稼ぎしながら闘ってるみたい。私やルミナのようにミサイルの迎撃をしながらの戦闘。空戦をすればいいのにしないのは、おそらくあっちもAMFも展開されてるから。
「アンジェ達の相手は・・・最古参のパラディン、ガラガース卿とガリフット卿とラヴェイン卿か・・・。アンジェ達にとっては乗り越えないといけない壁。頑張って!」
ルシルの方は別に気にしない。本物のルシルとアイリは、ヴィヴィオ達に付いて本局に向かって、大隊の拉致を待ってる。
「魔法に頼らない手段を持ってる私たちだけ特別待遇というわけか」
だとすれば大隊は大失敗。アンジェ達も今では魔術師化が出来る。そうなれば卿たちも一方的に倒される側になる。アンジェ達はそんな勝ち方で納得は出来ないかもだけど、綺麗な勝ち方に拘っていい状況じゃない。
「ん?」
パキッと氷塊から音がした。そちらに目をやると、グリフレットの赤い髪がオレンジ色に変色し始めていて、浅黄色の魔力を放出し続けてる。融合騎が体の支配権を借りてるみたい。
「魔術じゃないにしても私の凍結封印を、融合騎が破るなんて思わなかったよ」
私やセレスの魔術師化と魔導師化の切り替えは、ルシルからも賞賛されるほどに早い。だからグリフレットへの攻撃時にだけ魔導師化して、それ以外は魔術師化することでAMF対策やミサイルの迎撃を簡単にしてる。
「どれだけ足掻いたって無駄だってこと、そんなに痛みで知りたいかな~?」
ガシャァン!と氷塊が砕けて、グリフレットが地面に跪いた。魔力から神秘を抜いて魔法とした氷槍、「レフィナド・ランサ!」を8本生成して、「往け!」一斉に射出。それと同時に再び魔術師化して、ミサイル襲来に備える。
『ユーバーファル・カッツェ!』
女の子の声がしたと思えばグリフレットの姿が掻き消えた。視界の端に“リュールング”を振り上げた状態のアイツの姿を収める。
――守護宣言――
私とグリフレットの間に氷の壁を1枚創り出した。半透明の氷壁の向こうに居るアイツは回り込むこともせず、振り上げてた“リュールング”の刃に『ブリッツ・ギヨティーネ!』電撃を付加。
『ヴルツェル・シュメルツ!』
そして地面に目掛けて“リュールング”を振り下ろした。穿った地面に魔法陣が描かれて、蜘蛛の巣みたく電撃が地面を伝って伸びた。私の氷壁も回り込んで来たことで、「よいしょ」通過するのに合わせてジャンプして、氷壁の上に着地する。
「『ラオフェン・・・!』」
融合騎の声にグリフレットの声が重なった。髪の色も、アイツの赤でも融合騎のオレンジでもない、薄紫色へと戻った。アイツは全身から放電して電撃を全身に纏い、「『ドナー!」』」突っ込んで来た。速度はなかなか。威力も見た限りじゃすごいものだって思う。でもさ・・・。
「私の氷を溶かすにはまだまだ温い!」
――悪魔の角――
足元の氷壁を踏みつけて砕き、大小さまざまな破片を杭へと変化させてグリフレット目掛けて一斉射出。弾幕となってる氷杭を全身に浴びてもなお勢いは止まることなかった。これは逃げないとダメかな?ってちょっと弱気になったけど、急に勢いが収まって・・・ただ走ってるような速度に。
『それでも!』
「俺は諦めない!」
――ボースハフトアクスト――
斧刃に電撃の刃を付加した“リュールング”をバトンのようにグルグル回して、遠心力を加えた斬撃を繰り出してきた。
「無駄!」
――氷奏閃――
下から掬い上げるように“シュリュッセル”を振り上げて、グリフレットの両腕ごと大きく頭上に掲げさせた。がら空きになったアイツの腹へと突き蹴りを繰り出し、「ごふっ!」十数mと蹴っ飛ばした。
「グリフレット。意識を飛ばす前に聞いておきたいんだけど。あなたたち最後の大隊・・・というか教会騎士団は、一体何を目的としているの」
最後の大隊なんて汚れ部隊をわざわざ創ってまで管理局を陥れた。大隊としては管理局の腐敗や、管理局法の甘さに嫌気が差したから、らしい。大隊の母体である騎士団にもその目的が通用するけど、それだけとは思えないってみんなで話していた。
「ぐふっ、げほっ、ごほっ。決まっているじゃないか。俺たちはベルカ人だ! ベルカ人は誇り高き騎士の末裔だ! それをあんな不正だらけの組織より下に見られていることが我慢できない! だから――」
「不正を暴いたうえで殺して、さらに要らぬ濡れ衣を着せてまで陥れた、と?」
どうしよう。ここまで愚かな組織だったなんて思いもしなかった。だから大きく溜息を吐いて、「どの口で誇り高いとかほざきやがる!」ちょろっと汚い言葉遣いになったけど、それだけ私の心に渦巻く怒りは、ベルカ自治領ザンクト・オルフェンの北部に在る、ミッドで一番高いキララウス山を軽がる突破するレベルで湧き上がった。
「騎士の在り方を語りたいなら犯罪者なんぞに身を堕とすな!」
「歴史の転換点には犠牲も、汚い役目を負う覚悟も必要だ!」
足元と体の前面にベルカ魔法陣を展開したグリフレットは、“リュールング”の刃に魔力付加。そして前面の魔法陣へ向けて“リュールング”を振るった。発動までのアクションが多い魔法ほど強力だと思うけど、その僅かな手順の間でこちらもいろいろと準備が出来る。
「『ゲレヒティヒカイト・ツェアシュトーラー!』」
前面の魔法陣から離れたのは砲撃。でも発射される頃には射線軸から数歩分横移動して、グリフレットへと突っ込んでいた。“シュリュッセル”をアイツの頭上へと放り投げ、両手に冷気を纏わせる。魔法を放った直後ということもあって“リュールング”を振り払った体勢からすぐには動けないアイツの懐へと入り込み・・・
「ルシル直伝! 凍牙雹冷 氷帝 双雪掌!」
「がはっ・・・!」
ミヤビと一緒に教わった技を打ち込んだ。打撃と同時に冷気が爆ぜて、人ひとり容易く飲み込めるほどの氷塊と化してグリフレットを閉じ込めた。これも魔法として発動したから、さっきみたいに破砕されそうだけど・・・。
「・・・・。後で迎えに来るよ」
白目を剥いて完全に活動停止してるグリフレットの頭を覆ってる箇所をコツンと小突き、万が一に私がこの場から離れた際に起きてしまった時のことを考えて、ある魔法を発動しておく。
「立ち込める氷結の濃霧域・・・!」
今いる結界内みたいな密閉空間では絶大な凍結効果を発揮して、たとえ広大な空間でも効果をあまり落とさない冷気の霧を充満させる補助魔法だ。急激に対象を凍結するんじゃなくてじわじわと凍結させることで、霧への対処を遅らせられる。
「さてと・・・!」
最小魔力で脚力強化を行って、霧の範囲外に出るために近くのビルの外壁を駆け上がる。屋上へとたどり着いて、みんなの交戦映像を見る。
†††Sideセレス⇒イリス†††
私を襲ってきたのは風を扱う天狗の仮面持ち。得物は2mほどの槍。コイツとの因縁はプライソン戦役時からだ。
「カタパルトヴィンデ!」
風で浮かせていた鉄パイプを始めとした鉄片を槍で弾いて超高速で打ち放ってきた。それらを“キルシュブリューテ”の腹で打って、その全てを仮面持ちへと返す。
「なっ・・・!?」
『風刃烈火!』
女の子の声と共に槍全体に黄緑色の風が纏わり付き、天狗の仮面持ちが槍を振るって返って来た鉄片などを全て弾き返した。そのちょっと前にわたしは高速移動歩法・閃駆で突進していて、放射状に広がる鉄片の中を掻い潜り、「でぇい!」バットのフルスイングの如く“キルシュブリューテ”を仮面持ちのお腹目掛けて振った。
「ぐぅぅ!?」
「ホームラン!」
魔力付加も魔法も無しな状態での一撃ってこともあってダメージは入ってない手応え。そもそも結界内に充満してるAMF効果が邪魔して、まともに魔法が扱えない。カートリッジを使い続ければ問題ないけど、ここで使い切っていいのかどうかも判らない。
「ま、ルシルから合図が来るまで粘って、合図を確認したら魔術とスキルを使って叩きのめせばいいか♪」
宙に魔法陣の足場を創って着地して、「ヴォルフ・クラオエ!」槍の穂に風を纏わせた仮面持ちが性懲りもなく突っ込んで来た。一直線限定での速度はなかなかのもの。なら対処はしやすい。
(前々から思ってるんだけど、どうして自分より速い相手にスピード勝負を挑むかな~?)
あの仮面持ちより速い相手と常に模擬戦をしてるんだ。ただの突進に反応できないようなわたしじゃないよ。“キルシュブリューテ”を顔面に向かって繰り出される刺突を見切って、「ほっ!」首を傾げて回避。んで、槍の柄を左手で鷲掴んで突進を食い止めた。
「え・・・!?」『うそ・・・!?』
「驚くようなことじゃないと思うけ・・・ど!!」
――風牙烈風刃――
本来は風圧の壁を横に向けて放つ魔法を、刀身の振り下ろしと同時に直下に居る仮面持ちへと叩き付けてやった。ルシルが時折使う複製魔法・重力操作みたく、「ぐぉ!?」仮面持ちを地面に落とし、深さ1mくらいのクレーターの底に沈めた。
「おーい、大丈夫~? わたしを殺しに来たんでしょ~? なのにこの体たらくってまずくな~い?」
“キルシュブリューテ”の切っ先でお尻をツンツン突く。すでにマントも学生服も学生帽も目出し帽も、そして仮面も粉々に砕けている。
「くそ・・・! 僕はパラディンだぞ・・・!」
「そうだね。現槍騎士の頂点、シュぺーアパラディン。ブレオベリス・アドリオン」
フライハイト家の前女中長プリアムスとの結婚を機にパーシヴァル君が除隊したことで繰り上げ昇格してパラディンになった騎士だ。A級1位の座に10年以上留まれるだけの実力を持ってるはずなんだけど、どうもそれが十全に発揮できてないっぽい。
(気になることと言えばもう1つ。このふざけたレベルのAMFの中で、ブレオベリス・・・じゃないな、たぶん融合騎・・・、なんで魔法を容易く扱えるのか・・・)
ブレオベリスの魔力は確か緑色。けどさっきから使われてるのは黄緑色。髪の色だって青じゃなくて・・・アイスグリーン?みたいだし。ユニゾンしてるって考えた方が自然だ。でもそれで弱体化するのはおかしな話。
「ひょっとして・・・」
ブレオベリスが槍――“ゼーンズフト”を支えに立ち上がって、神父服から騎士甲冑へと変身し直した。篭手、脚甲、胸当て、それ以外は普通の衣服のような軽鎧姿。
「騎士イリス! あなたには恨みは無いが、僕とこのゼーンズフトと・・・フュンフツェーンで、討たせてもらう!」
『風刃烈火!』
“ゼーンズフト”全体に風が纏わり付いた。穂先を下げるように構えて、足を前後に開いて僅かに腰を落とした。突進の構えだ。わたしは左手に鞘を具現して「カートリッジ、3発ロード」させて、突進からの連撃に備える。
――風纏走破――
両足に風がフワッと纏わり付いたかと思えば、さっきまでとは比べられないほどの速度で突っ込んで来た。
「でもまだ遅いよ。・・・双牙!」
鞘には電撃を、“キルシュブリューテ”には炎を付加しての「炎雷刃!」で迎撃。“ゼーンズフト”の刺突を鞘で外側へと向かって弾いて、燃える“キルシュブリューテ”でブレオベリスを袈裟切りで切り伏せる。
「ぐああああああ!」
またクレーターの底に落っこちた。消費した分のカートリッジを給弾してると、ブレオベリスが「もういい。もうダメだ」なんて弱音を吐き出した。これにはドン引きしたけど、その直後に結界内に充満してたAMFが消失した。
「AMFなんて役立たずじゃないか。・・・でもこれで、僕も全力を出せる」
ブレオベリスが自身の魔力を放出した。でもこれで弱体化の理由がハッキリした。彼自身もAMFの影響を受けてた。だから融合騎が魔法を発動していた。AMFを受け付けない特別な融合騎か。便利なんだか不便なんだか。
『風刃烈火!』
「シュニット・ヴンデ!」
“ゼーンズフト”を振り回すと同時に、風の刃を何十発と放ってきた。それに対して「双牙烈風刃!」で迎撃。“キルシュブリューテ”と鞘による烈風刃の同時発動だ。巨大な暴風の壁を、迫る風の刃に叩き付けて相殺させた。
「相殺か。威力はさっきまでとは段違いね!」
「当然だ! 僕と、 フュンフツェーンのサポートさえあれば、あなたにさえ勝てる!」
『風纏走破!』
ブレオベリスの姿が掻き消えて、周囲の建物の外壁や地面にダン!と着地音が続く。わたしの法陣のような感じ。でも足場間の距離が距離だから、移動中の彼は無防備とも言える。
「判るよ。わたしも使う手だからさ」
どれだけ速くても魔力反応は完全には消せないし、暴風が迫って来てるのが風の流れでなんとなく察知できる。ビルの外壁からダン!と踏み付ける着地音と、踏み切った際の外壁の破裂。これまでとは違う感じに、「来る・・・!」ことが判る。カートリッジを1発ロード。
「ハイリヒ・フライハイト!」
わたしの持つ、フライハイト家に代々伝わってきた最高の防御魔法を発動。ブレオベリスが来る方角にシールドを張った直後、雷が落ちたような大きな音が轟いて、彼の“ゼーンズフト”の穂先が直撃していた。
「突破できない・・・!?」
「当然でしょ!」
――拘束の連鎖――
着地前のブレオベリスを、彼の四方に展開したベルカ魔法陣から伸びるチェーンバインドで拘束する。続いてトドメの一撃を準備しようとしたけど、「まだだ!」彼が叫んだ。
『グレンツェ・ゲヴィッター!』
球体状の暴風をブレオベリスを中心に発動されて、バインドが砕け散った。竜巻の風圧に吹き飛ばされそうになったわたしが距離をとろうとした瞬間、『グラナーテン・ヴィント・ツヴァイ!』魔力弾の弾幕が張られた。
「ちょっ・・・!」
直撃コースの魔力弾だけを“キルシュブリューテ”と鞘で弾きながら後退中、「ヴィントホーゼ・フェッセルン!」両腕を蛇のような風のバインドで拘束されちゃった。
――真紅の両翼――
魔力翼を即座に展開して、包まるように防御体勢。ギリギリだったけど魔力弾幕の防御に成功。ガツンガツンと翼に魔力弾の着弾音が続く中で、「ヴォルフ・クラオエ!」ドスッ!と翼を貫通してきたのは“ゼーンズフト”の穂。
「あっぶな・・・!」
翼を勢いよく開くことでブレオベリスを引き剥がそうとしたけど、思いのほかグッサリ刺さってるから抜けない。だから翼を解除して、彼が地面に足を付くまでの1秒の間に「氷牙凍封刃!」で捕縛に入る。凍封刃は、斬り付けた箇所から全身に広がるように凍結させて、相手を氷漬けにする一撃だ。
「っく!」
ブレオベリスは“ゼーンズフト”を縦に構えて防御はしたけど、空中に居たこともあって吹っ飛ばされた。
「『シュトゥルム・シャルフリヒター!!』』
そして空中を滑空する間にも魔法を発動。竜巻の龍と化してわたしに向かって突っ込んで来るから「光牙烈閃刃!」剣状砲撃で真っ向から迎撃するんだけど、パァン!と掻き消された。大した威力だ。地面を大きく抉りながら突っ込んで来るから、急いでその場から閃駆で離れる。
「砲撃でダメなら・・・!」
カートリッジを1発ロードして、防御・結界系魔法を寸断する魔法を発動して、迫り来るブレオベリスを対峙する。失敗すれば大ダメージ。ルシルの治癒魔法が無いと本事件はリタイアだ。
「自分とフライハイト家の技を信じないとね! 光牙・・・裂境刃!!」
振り上げていた“キルシュブリューテ”を全力で振り下ろして、竜巻の先端に一撃を打ち込んだ。竜巻を真っ二つに切断して、わたしを貫くために構えられていた“ゼーンズフト”を地面に叩き伏せた。
「な・・・!?」
穂先が地面を抉り、ブレオベリスの背中がわたしに向いた。カートリッジをさらにロードした“キルシュブリューテ”、それと鞘に魔力を付加。
「光牙・・・双月刃!」
「ぐごぉ!!」
問答無用でブレオベリスの背中に“キルシュブリューテ”と鞘を打ち込んで、彼を地面に叩き伏せた。
――剣神モード――
手から離れた“ゼーンズフト”を、絶対切断スキルを発動した上での斬撃で破壊。続けて完全に気絶してる彼を「拘束の連鎖」で捕縛。融合騎もブラックアウトで気を失ってるようで、沈黙したままだ。
「ふぅ・・・。他のみんなは・・・」
モニターに映るみんなの交戦映像へと目をやって、偽ルシルがすでに消滅してることに気付いた。それに「トリシュ!?」がかなりまずい状況だってことにも。トリシュとガラガース卿の結界は、運が良いことにわたしの隣だ。
「トリシュ、気付いて!」
偽ルシルが消滅した今、トリシュも魔術師化すれば陥ってる危機から逃れられる。でもそんな余裕が無いのも確か。1対1を邪魔したことで恨まれてもいい。だから今は助けるよ。
「せぇぇぇぇぇい!」
――絶刃・斬舞一閃・新式――
絶対切断効果を有する魔力を付加した“キルシュブリューテ”で結界を斬り裂き、モニターに映る場所へと閃駆で向かう。割と近いところで助かった。廃ビルの角を曲がってすぐ、トリシュとガラガース卿、それに大きな狼が視界に入った。
「雷牙閃衝刃!」
雷撃を纏わせた“キルシュブリューテ”の刺突動作で放てる雷槍を、ガラガース卿の持つスタウロスへと放つ。最速の一撃は狙い通りスタウロスに直撃して、ガラガース卿の手から跳ね飛ばし、さらに彼を「むぉぉぉ!?」感電させた。
「イ・・・リス・・・嬢ちゃ・・・ん・・・!」
閃駆で接近しつつガラガース卿に「裏切り者め・・・!」と言い放ち・・・
「滅牙・・・!」
炎牙、氷牙、風牙、雷牙、光牙、凶牙、6属性の魔力を纏わせた“キルシュブリューテ”と鞘による直接斬撃を14連撃と叩き込んだ。
「暴破螺旋刃!」
鎧も粉々に砕け、全身をボコボコにされたガラガース卿へと烈風刃をぶつけ、彼を建物の瓦礫へと吹っ飛ばした。遅れてわたしに攻撃を仕掛けてきた狼には、炎を纏わせた“キルシュブリューテ”と鞘での2連撃「炎牙双月刃!」を打ち込んで・・・制圧完了。
「イリス・・・」
「ごめん、トリシュ。水差した」
トリシュの手をとって立ち上がらせながら謝ると、トリシュは首を横に振って、瓦礫に埋もれたガラガース卿へと目をやった。
「ありがとう」
「・・・うん」
モニターを見る限り、残る敵は偽ルシルを倒した奴だけだ。
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