FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
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少年の狙いは・・・
漆黒の翼を広げ、さらなる魔力を解放したティオス。その姿を見た天海は、不敵な笑みから真剣な表情へと変わっていた。
(その真剣な表情・・・あの時以来だな)
ティオスになって初めて出会った日の天海。あの日の彼の・・・自身と出会った時の表情とそれは完全に一致していた。
(問題は・・・あの時よりも君は遥かに強くなっているということだ)
あの時と違うのは、お互いの力が大きく成長しているという点・・・あの頃でさえ、世界を破壊できるほどの力を互いに有していたのに、今の力はその時の比ではない。
(多少のダメージは仕方がない。魔力を使いきっても時間をかけて回復すればいいだろう)
彼以外に自分を止められる存在はいない。この時の彼は、天海の次に脅威となるシリルが目覚めたことをまだ知らない。ゆえに時間をかけても対して問題ないと考えていた。
「「・・・」」
静寂な時間が流れる。互いに隙を見せずに相手を見据えたままの状態。先に動いた方が負ける・・・と思っていたティオスだったが、意外なことに天海が早々に動いた。
「おろ?」
意外な展開に驚いたが、すぐに彼の攻撃に対処する。天海の突きに対し、ティオスは手のひらを出して受け止める。
「驚いたな、まさかすぐに動いてくるとは」
互いに隙のない場合は勝負を急がず・・・相手に隙ができるまではひたすらに集中力を保つ。それが一般論だと思っていたのに、彼はあっさりとそれを放棄した。
「昔のお前との戦いの時のように・・・粘り合いになると思ったか?」
「あぁ。それを予想していたね」
あの時・・・といっても今のティオスとは違うこの世界のレオンだが、彼はシリルが合流したのを感じ取り、あえて突進を試みた。結果は失敗に終わったが、今回はそれと状況が類似していたはず。
「互いの集中力を切らさないように待ち構える・・・実力者同士の戦いであればそれも有効だろう。だが・・・」
ニヤリと笑みを浮かべた瞬間、掴んでいたはずの天海の手が引き抜かれ、姿を一瞬見失う。
「おわ!!」
すぐさま振り返り頭部に繰り出された蹴りを間一髪で回避する。ティオスは慌てて後方へと飛ぶと、距離を保ったまま天海を見据える。
「実力に差がある場合は、それは適用されない」
彼のその言葉に苦笑いを浮かべる。しかし、すぐに口元を引き締めると、地面を蹴り一瞬で距離を詰める。
「残念だが・・・その判断はーーー」
体をクルリと回しながら上段蹴りを繰り出す。天海が受け止めたそれは、辺りに風を巻き起こした。
「間違いだったと言うしかあるまい」
素早く足を引いて距離を取る。天海を見据えるその目を見て、彼は笑みを浮かべた。
「あぁ。勝負を急ぎすぎたかもしれないと、少し後悔している」
予想外の素直な回答にちょっと困惑。だが、彼の目を見るとすぐに集中力を高めた。
「だが・・・これでいい。お前との命の削り合いこそ、俺の人生の最高の時間なのだから」
徐々にその力を出してきたティオスに心を踊らせる天海。対するティオスも、自身の眼前に来ている目標達成のために、意識を高めていた。
ダンッ
クリスティーナから投げ出されたカミューニ。彼はウェンディを抱き抱えたまま、地面に綺麗に着地した。
「カミューニさん!!だいーーー」
心配して声が大きくなってしまったウェンディの口をすぐに塞ぐ。
「気にすんな・・・それよりも・・・」
一夜、ジェラールと続けて彼の周囲に着地すると、すぐさま二人の怪物を覗き見る。
「ここを離れた方が・・・いいよな?」
岩の影で死角になっているとはいえ、二人のぶつかり合いをこんな間近でやられては何が起こるかわからない。
「メェーン。しかし、どうやって離れるんだい?」
「ここからじゃ、奴等に丸見えになってしまう」
隠れながら進んで行きたいが、荒野なこともあり身を隠せる場所が少ない。
「お互いに集中しているだろうから俺たちに気付かない気もするが・・・静かにいくか」
ジェラールの魔法でひとっ飛びもありだが、万一バレると撃墜される。彼らは静かに身を潜めながらその場を離れようとしたが、小さな少女は空を見上げたまま微動だにしない。
「ウェンディ。何してるんだ」
「ウェンディちゃん?空に何かあるのかい?」
彼らも空を見上げるが、そこには何も見えない。それでも彼女はそこから微動だにせず、ただ、黙して動かない。
「・・・シリル?」
最愛の少年の気配を感じ取っていた少女は、無意識にその名を呟いていたのだった。
ヨロヨロとゼレフの元へと歩み寄るメイビス。体から放たれていた輝きが完全に消え失せたゼレフは、漏れるような声で話し始める。
「体が・・・全く・・・動かない・・・僕は・・・負けたのかな・・・」
初めての敗北・・・今までにない感覚に何をすることもできないゼレフ。ただ、それでも彼はまだ諦めていなかった。
「すごいなぁ・・・ナツは・・・でも・・・甘いよ・・・僕は何度でも蘇る・・・この傷は数分もあれば完治するんだ」
「ゼレフ・・・」
不老不死であるゼレフは死ぬことはない。だからこそ今回の悲惨な戦いを起こすことになってしまったのだ。
「あなたが私の仲間たちを苦しめ傷付けたこと・・・私は絶対に許すことができません」
傷が少しずつ回復していくゼレフに対し、メイビスは静かな声で語りかけた。
「妖精の尻尾初代マスターとして血より濃い絆を信じてきた者として・・・あなたを今すぐこの世から抹消してやりたい」
メイビスのその言葉は本来恐怖を駆り立てるはずのもの・・・それなのに、ゼレフの表情はなぜか明るいものになっている。
「君に殺されるなら悪くない。でも・・・僕は・・・」
微動だにしない彼の横に腰を下ろす少女。
「もつゆっくり眠っていいのですよ」
「それが・・・できたら・・・」
「私があの時・・・もっとあなたを信じていたならば・・・」
「何の・・・ことだい・・・」
メイビスの言葉の意味が理解できないゼレフ。それは彼らに起きた、かつての悲劇のことだった。
「あなたは私を愛してくれた。その証拠に矛盾の呪いによって私の命は奪われた」
共に不老不死であることがわかったゼレフとメイビス。お互いに惹かれ合ってしまった。同じ境遇・・・二人でしか理解できない域だったから。
「だけど、同じ呪いにかかっているはずの私の方は・・・あなたの命を奪えなかった」
「・・・」
「私はきっと心のどこかであなたを信じていなかった。愛する力が足りなかったのです」
人の命を大切に思えば思うほど、命を奪ってしまう魔法・・・ゼレフはこれまで出会ったこと中で最もメイビスを愛し、大切な存在だと認識した。その力があまりにも強く・・・メイビスの命を奪ってしまった。
しかし、メイビスはゼレフの命を奪うまでには至らなかった。それに気付いた彼女は、兄弟の戦いに割って入ってしまったのだ。
「気に病むことはないよ・・・僕は誰にも愛されたことはないし・・・君の僕に対する感情は"愛"ではなく"情"だと気付いていた」
「いいえ!!情ではありません!!"矛盾"です!!」
思わず声を張り上げた。彼女の脳内に沸いてくるのは、彼と出会ってから起きた多くの記憶。
「あなたと出会えたから魔法が使えた。あなたに出会えたからこの街を救えた。あなたがいたから・・・妖精の尻尾が誕生した」
彼との出会いにより多くの仲間たち・・・愛すべき家族と出会うことができた。彼はメイビスにとって、全ての始まりとも言える人物。
「あなたは私の憧れでした。だけど・・・あなたは死を運び、私に運命を叩きつけた。私の仲間を傷つけ、私を利用し妖精の尻尾を破壊しようとした。
こんなに憎いのに・・・愛しい・・・あなたの孤独に私だけが共感できるから・・・私しか理解できないから・・・思考が矛盾するのです・・・計算できない・・・」
始まりの人物であり、最も憎むべき相手・・・どちらの感情も持ってしまっている相手に芽生えている不思議な感情。それは頭脳明晰な彼女ですら、狂わせるものだった。
「あなたを愛せばあなたを殺せる。心のそこから愛しく思えばあなたを殺せる・・・それが・・・作戦・・・だったのに・・・」
「メイビス」
「本当は死んでほしくないんです!!ずっと二人いたいのです!!」
目から零れ落ちる大粒の涙。その姿にゼレフは自身がこれまで格闘してきた矛盾の呪いの解決策に笑みを浮かべていた。
「人を愛しく思えば思うほど相手の命を奪う《矛盾の呪い》。そうだったのか・・・答えは愛されることだったのか・・・」
少女の自身を思う気持ちに嬉しさすら感じているゼレフ。その彼に寄り添い、メイビスは声を上げて号泣している。
「ありがとう、メイビス。ごめんね」
「死んじゃダメ!!憎い!!憎い!!あなたなんか大っ嫌い!!」
彼に対する思い当たる恨みを声に出していくメイビス。しかし、言葉と思考がかけ離れていることは、彼女も・・・目の前の青年もその事には気が付いていた。
「死んで」
真逆のことを言い、ゼレフと唇を合わせるメイビス。それに彼は驚いていたが、顔が離れ、視線があった少女の顔を見て涙が零れ落ちた。
「僕は・・・幸せ・・・だよ・・・君の・・・おかげで・・・眠ることができそうだ・・・」
他人の命を尊く思えば思うほど命を奪う魔法・・・その効力により、二人の体が次第に消えようとしていた。
「ずいぶんと自分勝手な判断だな」
「「!!」」
その時だった。彼が姿を現したのは。
「自分たちが起こした戦争の結末も見ないとは・・・無責任極まりないな」
体に悪魔の刻印が刻まれ、真っ黒な翼を広げた水髪の少年が、二人だけになったギルドの中へと入ってくる。
「シリル・・・」
「その体・・・」
異様なプレッシャーを放っている少年に目を見開くメイビスとゼレフ。呆気に取られている二人に不敵な笑みを浮かべて近付いてくるシリル。
「・・・」
動けなくなっている二人の顔を交互に見て、ニヤリと笑みを浮かべた少年は、二人の頭を鷲掴みにする水の竜。
「なるほど・・・こっちに魔力を持っていかれているようだが・・・」
メシメシと嫌な音が聞こえてきそうなほどに強い力で二人の頭を握るシリル。そこに、先ほどこの場を離れていった火の竜が大急ぎで戻ってきた。
「何やってんだ!!シリル!!」
ゼレフとの激しい戦いを繰り広げた青年の怒声。その口からは思わず血が飛び出るほどだったが、それを気にするものは誰もいない。
「ナツ・・・簡単なことだよ」
痛みに苦しむ二人を掴んだまま、ナツへと視線を向けるシリル。その目の光のなさに、思わず彼は体を震わせた。
「初代の・・・いや、二人の体にある妖精の心臓を取り出す」
その悪魔じみた表情にその場にいた全員の表情が凍り付く。だが、すぐに冷静になったナツが声を張り上げる。
「やめろ!!妖精の心臓は世に放ったらいけない魔法だぞ!!」
「そうだな・・・だが、レオンを倒すにはこれしかないんだ!!」
魔力を高めていくシリルの肉体にどんどん二人の魔力が集まっていくのがひしひしと伝わってくる。
「よせ!!シリル!!」
シリルを止めようとダッシュするナツ。だが、それも少し遅かった。
ピカッ
一瞬光り輝くギルド。それはゼレフがメイビスの魔法を取り出したあの時と一緒だった。
「これですべての条件が揃った」
真っ白の翼を携え、全身から魔力の光があふれでる水竜。
「さて・・・全てを終わらせようか」
母と同じ翼を得たドラゴンの子。彼が手に入れた力は本物か・・・それとも・・・
後書き
いかがだったでしょうか。
やっとやる気が出たので完成させられました。
あと数話でこのストーリーもおしまいです。
最後は綺麗に締め括りたいと思ったりしてます
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