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戦国異伝供書

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第四十話 上田領有その二

「そのうえで、です」
「今じゃな」
「こう言えます」
「そうか、わしもな」
 信之も自分の言葉を述べた。
「見ていてな」
「お館様はですか」
「うむ、甲斐だけでなくな」
「この信濃も」
「治められるに相応しい、いや」
 その目の光を確かなものにさせてだった、信之は述べた。
「天下人になられるにもな」
「相応しいですな」
「そこまでの器の方であるな」
「兄上もそう思われますか」
「あの方にあるものは尋常ではない」
 信之も感じ取っていた、このことを。
「近頃あの方を甲斐の虎とも呼ぶ者がおる」
「甲斐の虎ですか」
「そうじゃ」
 その様に呼んでいるというのだ。
「まさにな」
「虎は非常に位が高い獣ですな」
 本朝にはいないがとだ、幸村は兄に神妙な顔で述べた。彼の後ろにはいつも通り十勇士達が忠実に従っている。
「四霊獣の一でもある」
「そうじゃ、それだけの方だとな」
「言う者が出ていますか」
「そうじゃ、それでじゃ」
「お館様は」
「非常に大きな方でじゃ」
「天下もですか」
 兄に対して問うた。
「戦国の世を終わらせ」
「それが出来よう」
「兄上もそう思われるとは」
「お父上を追い出されたことは不孝と言われるが」
 このことは実際に言われている、それも天下に。
「その後甲斐の国を万全に治められておる」
「まさに隅から隅まで」
「そして瞬く間に諏訪を所領にされてな」
「そこも治められています」
「大小の戦にもじゃ」
 それにもというのだ。
「堅実に勝たれておるしな」
「しかもです」
 幸村は信之に晴信のことをさらに話した。
「兵達に乱暴狼藉を許しませぬ」
「足軽の乱取りもじゃな」
「それを赦されず」
「一人一人に戦に加わったことで褒美を与えてな」
「それで乱取りを防がれ」
「他の狼藉もじゃな」
「許されませぬ」
 そうしたこともしているというのだ。
「何でも越後でもそうらしいですが」
「長尾虎千代殿じゃな」
「そして尾張の織田殿も」
「まあそれは他にもな」
「今川家や北条家もですな」
「そうしておる様じゃが」
「お館様もです」
 幸村は熱い口調で語った。
「その様にされて」
「民に迷惑はかけぬな」
「はい、元々本朝の戦は民とは関わりのないもの」
 あくまで侍同士でやるものだというのだ。
「民は戦があれば」
「離れたところから見ておるな」
「そうしたものですが」
「乱取りも許さぬ」
「それがです」
 まさにというのだ。
「お館様のお考えでして」
「実際にそうされておるな」
「兄上もそのことをご覧になられてますな」
「うむ」
 その通りだとだ、信之は弟に答えた。 
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