英雄伝説~灰の騎士の成り上がり~
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第1話
1月7日、AM11:30―――
~メンフィル帝国・マルーダ城・客室~
「「「……………………」」」
リウイの指示によってメンフィル帝国の帝城の客室の一室にて待機し続ける羽目になったリィン達はそれぞれ黙ってエヴリーヌと同じ”客将”扱いの為、リィン達と違って身動きが可能と思われメサイアによる情報収集の結果を知る為にメサイアを待っていた。
「―――お待たせいたしましたわ。」
「メサイア…………!それで、今どういう状況なんだ…………!?」
部屋に入ってきたメサイアの登場に血相を変えたリィンはメサイアに訊ねた。
「…………まず結論から申し上げますわ。エリゼ様も仰ったように、やはりメンフィル帝国はユミルの件を理由にエレボニア帝国に戦争を仕掛けるつもりです。一応戦争に勃発させない為の要求――――ユミルで起こった様々な国際問題に関する”謝罪の証”である”賠償”をリベールの王都のエレボニア帝国の大使館に突き付けたようですが…………要求内容もそうですがエレボニア帝国政府の代表者の性格を考えると、どう考えてもエレボニア帝国政府はメンフィル帝国政府の要求を絶対に呑まない事を”確信”した上で既に戦争の準備を始めていますわ。」
「そ、そんな…………軽はずみにも私が姫様の潜伏先としてユミルを選んだばかりにこんな事に…………っ!」
「エリスのせいじゃない!悪いのは貴族連合軍と結社、そして襲撃されたとはいえ、死者は出なかったユミルの件をメンフィル帝国は軽く見ていたと勝手に判断していた俺の迂闊さだ…………!」
「エリスお姉様…………お兄様…………あ、あの、メサイアさん!先程メンフィル帝国とエレボニア帝国の戦争に勃発させない為にメンフィル帝国はエレボニア帝国に賠償を要求したと仰っていましたわよね?その賠償内容はどのようなものなのですか?」
メサイアの報告に悲痛そうな表情をしているエリスに指摘をしたリィンは辛そうな表情で唇をかみしめ、二人を心配そうな様子で見つめたセレーネはある事に気づいてメサイアに訊ねた。
「…………正直な所を申しまして、エレボニア帝国政府の代表者であるオズボーン宰相でなくてもエレボニアの政府の代表者なら誰でも絶対に呑まない要求内容ですわよ?それでも知りたいのですか?」
「あのオズボーン宰相でなくても、エレボニア帝国政府の代表者なら誰でも絶対に呑まない要求内容ですか………」
「…………それでも教えてくれ。当事者である俺達も知るべきなんだ。」
メサイアの答えを聞いたエリスは不安そうな表情を浮かべてリィンに視線を向けた後メサイアを見つめ、リィンは辛そうな表情でメサイアに続きを促した。
「…………わかりましたわ。メンフィルがエレボニアに突き付けた要求内容はこの要求内容の写しに書かれていますわ――――」
そしてメサイアはリィンの意思を知るとリィンに一枚の書状を渡し
「な――――」
「こ、これは…………」
「そ、そんな…………」
渡された書状の内容を読んだリィンは絶句し、セレーネは信じられない表情をし、エリスは悲痛そうな表情を浮かべた。
メンフィル帝国によるエレボニア帝国に対する戦争勃発を中止する為の賠償内容は以下の通り。
1、”四大名門”の当主全員―――ヘルムート・アルバレア、クロワール・ド・カイエン、ゲルハルト・ログナー、フェルナン・ハイアームズ並びに”貴族連合軍”の”総参謀”だった”アルバレア公爵家”の長男ルーファス・アルバレア、エレボニア帝国宰相ギリアス・オズボーン、エレボニア帝国皇女アルフィン・ライゼ・アルノールの身分を剥奪し、更に全員の身柄をメンフィル帝国に引き渡し、メンフィル帝国がそれぞれに与える処罰内容に反論せずに受け入れる事。
2、クロイツェン州全土とラマール州全土、残りの”四大名門”の本拠地、そしてノルティア州とサザーランド州からはメンフィル帝国が指定する領地の統治権、”ザクセン鉄鉱山”の所有権をメンフィル帝国に贈与する事
3、内戦の影響でメンフィル帝国領に避難してきた難民達の生活費等の支払いとその利息の支払い(難民達に対して消費したメンフィル帝国の財産は1000億ミラ相当で、利息は10割として1000億ミラとして、合計2000億ミラ)
4、メンフィル帝国に贈与した元エレボニア帝国領地に住んでいる貴族達は”アルゼイド子爵家”のような内戦に加担していない貴族以外は全てメンフィル帝国への帰属を許さない。よって贈与された元エレボニア帝国領内に引き続き住むのならばメンフィル帝国は爵位を剥奪して”平民”に落とし、貴族としての”爵位”を維持し続けたい場合はエレボニア帝国が引き取り、エレボニア帝国領内に住まわせる事
5、ユーゲント・ライゼ・アルノール皇帝はユミルに自ら赴き、”シュバルツァー家”にメンフィル帝国領であるユミルを自分の不徳によって起こったエレボニア帝国の内戦に巻き込んだ事を誠心誠意謝罪し、エレボニア皇家の財産からシュバルツァー家に謝罪金並びに賠償金を支払う事
6、エレボニア人がメンフィル帝国領に入国する際、平民は入国料金一人1万ミラ、貴族、皇族は一人10万ミラを入国時に毎回支払う事を承認する事。更にメンフィル帝国領内でエレボニア人(貴族、平民問わず)が犯罪を犯した場合、通常の判決より厳しい判決が降される事を承認し、メンフィル帝国領内で犯罪を犯したエレボニア人がエレボニア帝国の領土に逃亡した場合は犯人逮捕に積極的に協力し、犯人の引き渡しをする事
「アルバレア公やカイエン公、それにルーファスさんの引き渡しは予想していましたが、まさか他の”四大名門”の当主の方々に加えてアルフィン殿下やオズボーン宰相の引き渡し、その他にもエレボニアにとって絶対に受け入れられない要求内容だなんて…………メサイアさんの仰った通り、エレボニア帝国政府の代表者がオズボーン宰相でなくても、誰も絶対に受け入れられない内容ですわね…………」
「ああ…………第三項に書かれている難民達の生活費等の支払いの件を除けば、どれもエレボニア帝国政府は絶対に受け入れられない要求内容だ…………っ!」
「姫様は…………姫様はメンフィル帝国に引き渡された後、一体どういう処罰内容が降されるのですか!?」
メンフィルがエレボニアに要求している賠償内容を知って複雑そうな表情を浮かべて呟いたセレーネの言葉に頷いたリィンは辛そうな表情で身体を震わせ、ある事が気になっていたエリスは真剣な表情でメサイアに訊ねた。
「四大名門の当主とルーファス・アルバレア、それにオズボーン宰相に対する処罰内容は既に”処刑”に決定していて、アルフィン皇女に対する処罰内容は…………メンフィル帝国に所属している貴族の使用人兼娼婦として、その貴族に一生仕える事との事ですわ…………ちなみにその貴族はまだ詮議中の為、現時点では決定してはいないようですが…………」
「”娼婦”だって!?…………っ!どうしてメンフィル帝国政府はアルフィン殿下にまでそこまで過酷な処罰内容を求めているんだ…………!?身分剥奪もアルフィン殿下にとってあまりにも厳しい処罰内容の上アルフィン殿下も被害者なのに…………っ!」
メサイアの説明を聞いたリィンは血相を変えて声を上げた後辛そうな表情で唇をかみしめた。
「あ、あの、兄様…………”娼婦”とは初めて聞く言葉なのですが、一体どういう存在なのでしょうか…………?」
「わたくしも初めて耳にしましたが…………もしかして、メンフィル帝国―――いえ、異世界特有の存在なのでしょうか…………?」
「それは…………」
「…………”娼婦”とは”身体を売って賃金を得る女性”――――つまり、”売春行為を行う女性”の事ですわ。ちなみにゼムリア大陸では売春行為は犯罪のようですが…………私達の世界であるこのディル=リフィーナでは犯罪でない所か、”娼婦”を集めて売春行為をさせる施設―――”娼館”が公共施設として各国の都市には必ずある施設ですわ。」
一方”娼婦”の意味がわからないエリスとセレーネの疑問にリィンが複雑そうな表情を浮かべて答えを濁しているとメサイアが代わりに答えた。
「ええっ!?」
「そ、そんな…………それじゃあ例えエレボニア帝国がメンフィル帝国の要求を呑んでも姫様が…………っ!」
メサイアの答えを聞いたセレーネは驚き、エリスは悲痛そうな表情を浮かべた。
「何か…………何かないのか!?メンフィル帝国の要求をもっと穏便な内容にする方法は…………!?」
「…………リィン様には申し訳ありませんが、ディル=リフィーナで生き続け、かつてメルキア皇族としてメルキアと戦争した結果敗北した国がどうなったかを知っている身からすれば、メンフィル帝国―――いえ、ディル=リフィーナの国々にとってはこの要求内容でも相当穏便な内容ですから、これ以上の譲歩は不可能だと思いますわ…………」
「こ、この条約でもこの世界にとっては穏便な内容なのですか!?」
「あの…………メサイアさん…………異世界で戦争が起こった際、敗戦した国々は普通どのような待遇を受ける事になるのでしょうか…………?」
悲痛そうな表情を浮かべて叫んだリィンに対して複雑そうな表情で指摘したメサイアの指摘を聞いたセレーネは信じられない表情をし、エリスは不安そうな表情でメサイアに訊ねた。
「皇族に関しては皇は当然として、皇以外の男性の皇族は全員処刑された後”晒し首”にされ、妃等の女性の皇族は”娼婦”にされて娼館に売られたり、兵士達への褒美として兵士達に下賜された後死ぬまで兵士達の慰み者として犯される事になりますわ。更にその国を占領した国家が非人道的な国家ですと、占領された国家の民達も”奴隷”や”娼婦”落ちしてしまう事もありえますわ…………」
「そ、そんなあまりにも惨い事が異世界で行われているなんて…………」
「その…………メサイアさんがいた国―――”メルキア”という国も戦争で勝利した際、今仰ったようなことを実行していたのですか…………?」
メサイアの説明を聞いたエリスは信じられない表情をし、セレーネは不安そうな表情でメサイアに訊ねた。
「いえ…………お父様は”簒奪王”と恐れられた方でもありましたが、同時に”賢王”としても名高く、混乱の極みであった国内をまとめあげ、中原東部の国々を平定し、メルキア帝国の全盛期を築いた偉大なる王として称えられていましたし、実際お父様の存命時自国の領土として占領した領土の民達を虐げるような政策は行わず、メルキアの軍や貴族の関係者達が民達を虐げている者達が判明すれば、容赦なく処刑しましたわ。…………最も、占領した国家の女王や妃、女性将校の方々は妾にしたり娼婦として娼館に売ったりしていて、私の母はその占領された国―――”アンナローツェ王国”の女王だった方でアンナローツェ滅亡後お父様の妾として生涯後宮で過ごしていましたけどね…………」
メサイアの答えを聞いたエリスとセレーネはそれぞれ冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「…………話は変わるがメサイア。今気づいたんだが、よくメサイアは”客将”の立場でありながら、こんな短期間にこれ程の情報を収集する事ができたな?幾ら”客将”とはいえ、戦争勃発直前の時点でこれ程の情報が開示されたよな?」
「言われてみればそうですわよね?特に写しとはいえ、賠償内容が書かれている書状まで手に入れていますし…………」
「メサイアさんは一体どなたからこの写しを頂き、要求内容について伺ったのでしょうか?」
リィンの疑問を聞いたセレーネは目を丸くし、エリスは不思議そうな表情を浮かべてメサイアに訊ねた。
「戦争の件を私に教えて頂いた方達はルクセンベール卿とプリネ皇女殿下ですわ。」
「ツーヤお姉様とプリネ様が!?という事はお二人は今帝城にいらっしゃっているのですか?」
「ええ、お二方も戦争の準備で多忙との事でしたが、運よく帝城内を歩いている所を見つけてダメ元で会談を申し込んだ所承諾して頂き、そして戦争の件を私に説明してくださったのですわ。」
「お二方も戦争の準備で多忙という事はお二方もエレボニア帝国との戦争に参戦なさるのか?」
「あ…………」
セレーネの疑問に答えたメサイアの説明を聞いてある事に気づいたリィンは複雑そうな表情でメサイアに訊ね、リィンの問いかけを聞いて姉も戦争に参戦するかもしれない事にセレーネは呆けた声を出した後複雑そうな表情をした。
「ええ。それにお二方が私に教えて頂いた戦争に参加なさるメンフィル帝国の皇族や武将の方々を考えると今回の戦争、12年前の”百日戦役”と違って”本気”でエレボニアを滅ぼすおつもりだと思いますわ。」
「…………ちなみにその皇族や武将の方々は何ていう名前の方々だ?」
「…………メンフィル帝国によるエレボニア帝国征伐軍はリウイ陛下を”総大将”として、皇族で参戦なさるのはリフィア皇女殿下、プリネ皇女殿下、レン皇女殿下、エフラム皇子殿下、エイリーク皇女殿下、ヒーニアス皇子殿下、ターナ皇女殿下で、武将は”百日戦役”でもその名をゼムリア大陸に轟かせ、今回の戦争ではエレボニア帝国征伐軍の”副将”も命じられているファーミシルス大将軍とエルサリス元帥、それにルース将軍に加えて戦争に参加なさる皇族の親衛隊を率いる将軍の方々、”総参謀”はシルヴァン陛下の名代も兼ねているセシリア将軍を中心としたメンフィル軍に所属する参謀達、そして私と同じ”客将”の立場である魔神エヴリーヌ様も参戦なさるとの事です。」
「そんなにも多くの皇族や武将の方々がエレボニア帝国との戦争に参加なさるなんて…………」
「最悪だ…………皇族の方々もそうだが、皇族の親衛隊を率いる将軍の方々もみんな武勇でその名を轟かせる方々だし、セシリア教官まで参戦なさるなんて…………」
「お兄様はそのセシリア将軍という方をご存じなのですか?その方の事を”教官”と仰っていましたが…………」
メサイアの情報を聞いたエリスは辛そうな表情で顔を俯かせ、疲れた表情で肩を落として呟いたリィンのある言葉が気になったセレーネはリィンに訊ねた。
「…………セシリア教官は俺の訓練兵時代の担当教官としてお世話になった方なんだ。」
「え…………ではその方もサラ教官と同じ、お兄様にとっては”恩師”にあたる方なのですか…………」
「ああ…………ちなみにセシリア教官は参謀としての能力は当然として魔術師としての能力もメンフィル軍でトップクラスで、メンフィル軍に所属する魔道の使い手としては5本の指に入ると言われている。それとセシリア教官はシルヴァン陛下の側妃の一人だ。多分教官がシルヴァン陛下の”名代”として選ばれたのはその件も関係しているんだと思う。」
「そんな凄い方が訓練兵時代の兄様の恩師だったなんて…………」
リィンとある人物の関係を知ったセレーネとエリスはそれぞれ驚いていた。
「それと…………戦争に参加なさる武将の件で他にもお伝えすべきことがありますわ。―――ちなみにその方々はリィン様とも浅からず縁がありますわ。」
「え…………一体誰だ?」
「…………”神速のデュバリィ”を始めとした結社の”鉄機隊”の方々もメンフィル帝国軍に所属してエレボニア帝国の戦争に参加なさるとの事ですわ。」
「え…………」
「!?一体どういう事だ、それは!?まさか…………メンフィルと結社は協力関係を結んだのか!?」
メサイアが口にした驚愕の事実にセレーネは呆け、リィンは血相を変えて信じられない表情で訊ねた。
「いえ、プリネ皇女殿下達の話では内戦の間にメンフィル帝国は結社の”盟主”もそうですが最高幹部である”蛇の使徒”もほぼ全員抹殺し、数少ない生き残りにして結社の”盟主”達の居場所等を申告した上リウイ陛下達と共に”盟主”を抹殺した元蛇の使徒の”第七柱”率いる”鉄機隊”は親衛隊とは別にリウイ陛下とイリーナ皇妃陛下を守る独立部隊としてメンフィル帝国軍に所属しているとの事です。」
「な―――――――」
「ええっ!?結社のトップである”盟主”に加えて最高幹部もほとんど抹殺したという事は結社は…………!」
「事実上崩壊した事になるわよね…………?そのメンフィル帝国に寝返った”第七柱”という方は一体どうしてそんなことをなさったのかしら…………?」
更なる驚愕の事実を知ったリィンは絶句し、セレーネは驚き、エリスは困惑していた。
「それと…………戦争の件で他にも判明した事実をお伝えしておきます。今回の戦争、メンフィル帝国は”クロスベル帝国”と連合を組んでエレボニア帝国と戦争するおつもりのようですわ。」
「な―――”クロスベル帝国”って、あのクロスベル自治州の事か!?猟兵達に襲撃された件がエレボニア、カルバード、メンフィルの三国のせいだと主張してその報復と独立の為にIBCによる資産凍結を行わせた…………!?」
「そもそもクロスベルには皇族は存在しない上、何故”自治州”であったクロスベルが突然”帝国”の名を名乗るのようになったのでしょうか…………?」
クロスベルの政変までも大きく変わった事にリィンは信じられない表情で声を上げ、エリスは困惑の表情で訊ねた。
「…………そのクロスベルの”皇族”の事なのですが―――」
そしてメサイアはクロスベル帝国やクロスベルの皇を名乗る人物はかつての”西ゼムリア通商会議”にて、テロリスト達の襲撃を利用してクロスベルの警備隊を解散させて自国の軍を駐屯させようとしたオズボーン宰相とロックスミス大統領の狙いを未然に防ぐどころか反撃までして、二人に政治的ダメージを与えた”六銃士”の一人にして転生したメサイアの父親でもあるヴァイスハイト・ツェリンダーとメルキアの宿敵の国家の皇であったギュランドロス・ヴァスガンである事を説明した。
「ええっ!?メサイアさんのお父様の件も話には伺っていましたが、まさかクロスベルを”国”として建国した上、自ら”皇”を名乗るなんて…………」
「ですが”国”を名乗るにしても”自治州”であったクロスベルが僅かな領土しかない状況で何故”帝国”を名乗ったのでしょう…………?」
「…………話によりますとお父様たちは”クロスベル帝国”建国後”二大国”―――エレボニア帝国とカルバード共和国に戦争を仕掛け、その結果勝利し、占領した領土が広大になる為、予め”王国”や”独立国”ではなく”帝国”を名乗るようにしたとの事ですわ。」
「幾ら何でも無謀過ぎる…………普通に考えれば警備隊や警察の武装じゃ二大国が保有する兵器に対抗できないのに、メサイアのお父さん達―――”六銃士”はどうしてそんなことを…………」
「…………今の状況を考えると恐らくですが、お父様たちがクロスベル警備隊、警察の上層部の椅子についた時からメンフィル帝国よ何らかの約定を既に結んでいたかもしれませんわ。実際、お父様達が”クロスベル帝国”の建国や二大国に対して戦争を仕掛ける事を宣言した際にリウイ陛下もその場にいて、メンフィルは”クロスベル帝国”と共に”覇道”を歩む―――つまり、クロスベルと連合を組んで二大国に戦争を仕掛ける事を断言していたとの事ですし…………」
「え…………」
「何だって!?という事はメンフィルはユミルの件がなくても最初からエレボニアに戦争を仕掛けるつもりだったのか!?」
メサイアの話を聞いたエリスは呆け、リィンは血相を変えてメサイアに確認した。
「…………恐らくは。そしてクロスベル帝国建国から僅かな日数で”カルバード共和国征伐”を行ったメンフィル・クロスベル連合軍はカルバード共和国を占領―――つまり、”カルバード共和国は既に滅亡しているとの事ですわ。”」
「な――――」
「ええっ!?」
「長年エレボニアの宿敵であったあのカルバード共和国が既に滅亡していたなんて…………あ、あら…………?そう言えば帝国を名乗るようになったクロスベルの”皇帝”の一人がメサイアさんにとっての並行世界の生まれ変わったお父様という事は、その方のご息女であるメサイアさんはクロスベルの皇女殿下という事になりますが…………!?」
カルバード共和国が既に滅亡している事を知ったリィンは絶句し、セレーネは驚き、エリスは呆然とした後ある事実に気づいて信じられない表情でメサイアを見つめた。
「………ええ。実はプリネ皇女殿下達が”客将”とはいえ、身動きができないようにしているリィン様の使い魔である私にそこまでの情報を開示した上その写しも用意した理由は、こちらの世界の今の時代に生まれ変わったお父様が並行世界とはいえ、私の事を正式に”娘”として認めてメンフィル帝国にもその事を伝えた為、メンフィル帝国は既に私の扱いを”客将”から”同盟国であるクロスベルの姫君”―――つまり、メンフィルにとっての”最高クラスの他国のVIP”へと変えた為、私が城内で情報収集をしても特に咎める事もせず、それどころか戦争の経緯を含めた様々な世間の今の動きについての情報を開示したとの事ですわ。」
「そ、それじゃあメサイアさ―――いえ、メサイア皇女殿下は本当にクロスベル帝国の皇族になったのですか…………」
「ふふっ、今まで通り”メサイア”で構いませんわよ。プリネ皇女殿下達の話ですとこの時代に生まれ変わったお父様は会った事もない私を”娘”として認知したどころか私の”意志”を尊重している為、クロスベル皇女になった今もリィン様の”使い魔”を続ける事やセレーネさん達同様私とリィンさんが婚約の関係を結んでいる事も容認しているとの事ですし。」
信じられない表情で自分を見つめて呟いたセレーネにメサイアは苦笑しながら答え、次から次へと判明した青天の霹靂の出来事にリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「えっと………という事は私達”シュバルツァー家”は将来、セレーネの縁でメンフィル皇家の分家であられる”ルクセンベール家”だけでなく”クロスベル皇族とも縁戚関係になる”という事ですよね…………?」
「あ、ああ…………何から何まで突然過ぎて現実だと今でも思えないが…………―――そうだ!クロスベル皇帝の一人であられるヴァイスハイト陛下に将来縁戚関係を結ぶことになる俺達―――いや、”娘”のメサイアが何とか面会して、メンフィルと共にエレボニアとの戦争を止めるように説得する事はできないか!?」
表情を引き攣らせながら呟いたエリスの推測に疲れた表情で頷いたリィンはある事を思いついて真剣な表情でメサイアに訊ねた。
「いえ、面会まではできるでしょうけど、お父様の性格を考えると”娘の嘆願如きで、戦争を中止するような事は絶対にありえませんわ。”」
「ぜ、”絶対にありえない”って………そのヴァイスハイト陛下という方は一体どういう性格をされている方なのでしょうか…………?」
複雑そうな表情で首を横に振ってリィンの推測を否定したメサイアの答えを聞いたセレーネはメサイアにヴァイスの性格を訊ねた。
「お父様は民思いで”好色家”であり、女性にはとても優しい方ですが常に”上”を目指す向上心や”皇族”としての自覚を人一倍持っている方ですから、”私情”では決して”国”の運命を決めるような事はなさらない方ですわ。―――例え心から愛する方の頼みやお父様にとって大切な方が人質に取られても、お父様自身が決めた”覇道”を変えるような事は絶対にありえませんわ。」
「それは…………」
「確かに皇族―――”皇”としては文句なしの性格ではありますが…………」
「…………っ!ちなみにもう一人のクロスベル皇帝―――ギュランドロス陛下はどんな性格をしている方なんだ…………?」
ヴァイスが決して自分達の嘆願では決して戦争を止めるような性格ではない事を知ったエリスとセレーネが複雑そうな表情をしている中、辛そうな表情で唇をかみしめたリィンはギュランドロスの事について訊ねた。
「ギュランドロス陛下については私もあまり詳しくはないのですが…………少なくともお父様よりも遥かに”野心”に溢れた”皇”である事は断言できますわ。実際、メルキアの宿敵の国家である”ユン・ガソル連合国”の”皇”であったギュランドロス陛下はご自身の代で”宿敵”であるメルキアを滅ぼす為に何度もメルキアに戦争を仕掛けた方ですから…………」
「という事はむしろギュランドロス陛下の方がヴァイスハイト陛下やリウイ陛下よりも遥かに危険な性格の人物という事か…………俺達は何もできず、ここでただエレボニアが滅ぶのを待つしかないのか…………?」
「……………………姫様……………………」
「お兄様…………エリスお姉様…………」
ギュランドロスの好戦的な性格を知って八方塞がりである事に気づいて辛そうな表情を浮かべたリィンとエリスをセレーネは心配そうな表情で見つめた。
「……………………その事ですが…………プリネ皇女殿下達に戦争を止める事は無理でも、せめてエレボニアを滅亡させずに済む方法を訊ねた所、決して”ベスト”ではなく”ベター”―――いえ、”何もしないよりはマシ”な結果でエレボニアを滅亡させずに済む方法がある事を教えて頂きましたわ。」
リィン達の様子を見て少しの間黙り込んだメサイアは決意の表情を浮かべてリィンを見つめてある事を伝え
「え……………………」
「!?一体どんな方法だ、それは!?」
メサイアの話にエリスが呆けている中リィンは血相を変えてメサイアに訊ねた。
「先程も口にしたように”ベスト”や”ベター”ではなく、あくまで”何もしないよりはマシな結果”の上エレボニアの内戦を終結させた時よりも遥かに茨の道ですわよ?それでも知りたいのですか?」
「ああ…………アリサ達が…………クロウが守ろうとしたエレボニアが滅亡する事をここで黙って見てはいられない!」
「わたくしもお兄様と同じ気持ちですわ…………!アリサさん達―――”Ⅶ組”を始めとしたわたくし達がお世話になった多くの方々の為にも…………そしてクロウさんの犠牲を無駄にしない為にも、わたくしもお兄様と共にその方法に賭けますわ!」
「私も姫様の為にも兄様たちと共にその方法に頼ります…………!」
メサイアの確認に対してリィン達はそれぞれ決意の表情で答えた。
「……………………わかりましたわ。メンフィル・クロスベル連合による”エレボニア帝国征伐”でエレボニアを滅亡させずに済む方法…………―――それはメンフィル・クロスベル連合による”エレボニア帝国征伐”に私達も参戦し、”戦場”で数多の手柄を挙げる事―――つまり、”戦争の英雄”になる事ですわ。」
「え……………………」
「ええっ!?わ、わたくし達がエレボニアとの戦争に…………!?」
「メサイアさんは私達が”戦場で数多の手柄を挙げる必要がある”と仰っていましたが、それがエレボニアの滅亡阻止や姫様を助ける事にどう繋がるのでしょうか…………?」
メサイアが口にした提案にリィンが呆け、セレーネが驚いている中、エリスは不安そうな表情で訊ねた。
「メンフィル帝国は”尊き血”を重視―――つまり、”血統主義”であるエレボニア帝国と違い、貴賤問わずその人自身の能力を公平に評価し、その能力に相応しい地位や褒美を用意する”実力主義”との事。プリネ皇女殿下達の話では実際、過去”戦場”で様々な手柄を挙げた方々やメンフィル皇族の方々が”恩”と感じた事を行った方々が様々な希望が叶えられたり出世したりした事もあったとの事ですわ。プリネ皇女殿下によればリィン様もその方々の一部をご存じとの事ですが…………」
「ああ…………リフィア殿下の親衛隊を率いるゼルギウス将軍閣下やシグルーン副将軍閣下、それにセシリア教官もその例に当てはまるし、”ブレイサーロード”の異名で呼ばれていて遊撃士を務めているカシウス師兄のご息女もかつて結社がリベールで暗躍を行っていた時の出来事でメンフィルの重要人物を助けて、その”褒美”として貴族の爵位を授けられた話をサラ教官から聞いたことがある…………それを考えるとエリゼもその一人になるのか…………」
「エリゼお姉様は若輩の身でありながらも、次代のメンフィルの女帝になる事が内定しているリフィア殿下の専属侍女長を務めている事で、リフィア殿下を始めとした多くのメンフィル皇族達からの信頼を勝ち取り、リウイ陛下御自身もエリゼお姉様を重用していらっしゃっている様子でしたから、夏至祭での”帝国解放戦線”によるテロの際誘拐されかけたエリスお姉様の救出の為に自ら剣を取って、クロウさん達と刃を交えましたし、その後もエリスお姉様とアルフィン殿下が陛下達に許可も取らずにアルフィン殿下のお付きを務めていた事も”注意”で済ませて、多めに見て下さりましたものね…………」
「あ…………」
メサイアの指摘にリィンは静かな表情で頷き、セレーネが呟いた推測を聞いたエリスはかつての出来事を思い出した。
「リィン様達が”戦場”で手柄を挙げ続ければ、自ずとリィン様達の地位も高くなるでしょう。―――それこそ、”戦後のエレボニアの処遇について口出しできる権限の地位”に就ける可能性もありえますわ。」
「た、確かにその方法ならばエレボニアを滅亡させる事を防ぎ、アルフィン殿下を救う事もできると思いますが、その為には…………」
「……………………俺達が”エレボニア帝国征伐”で手柄を挙げる――――領邦軍、正規軍関係なくエレボニアの多くの兵達や軍の上層部に貴族、更には”アルノール皇家”の方々を殺害、もしくは捕縛する必要があるという事か…………」
「そ、それは…………」
メサイアの推測を聞いたセレーネは不安そうな表情をし、複雑そうな表情で呟いたリィンの推測を聞いたエリスは辛そうな表情を浮かべた。
「…………リィン様達の場合皇族はともかく、兵や軍の上層部、貴族に関しては”殺害”でなければメンフィル帝国はリィン様達の忠誠を疑う可能性も考えられますわ。リィン様達はメンフィル帝国に許可も取らずに”他国”であるエレボニアの内戦終結に貢献した事から、リィン様達を親エレボニア派―――戦争相手であるエレボニアの為にメンフィルを裏切る可能性がある人物達として見ているかもしれませんし…………」
「そ、そんな…………確かにエレボニアの方々は私達にとって大切な方々ですが、幾ら何でも祖国であるメンフィルを裏切るような事は私達はしません…………!」
「…………だけど、それをメンフィルに証明する”方法”は今の俺達にはない。そして俺達の事を信用してもらい、エレボニアの滅亡を防ぎ、アルフィン殿下を救う為には”エレボニア帝国征伐”にメンフィル帝国軍の一員として参戦して、数多のエレボニアの兵士達や軍の上層部、貴族の命を奪わなければならないという事か…………」
メサイアの指摘を聞いて悲痛そうな表情を浮かべたエリスは反論し、複雑そうな表情で呟いたリィンは静かな表情になってその場で考え込んだ。
お前らは……まっすぐ前を向いて歩いていけ……ただひたすらに…………ひたむきに…………前へ…………へへ…………そうすりゃ…………きっと……………………
「…………………………………………」
「兄様…………?一体何を―――」
”煌魔城”でのクロウ―――”大切な友”の”遺言”を思い出したリィンはその場で目を伏せて黙って考え込んだ後決意の表情になって、懐から”Ⅶ組”の生徒手帳とARCUSを取り出して取り出した手帳とARCUSを見つめ、それを見たエリスが不思議そうな表情を浮かべて声をかけたその時
「八葉一刀流―――”四の型”紅葉切り。」
手帳とARCUSを放り投げた後その場で太刀を抜いて二つに向かって剣技を放った。すると手帳とARCUSはそれぞれ真っ二つに分かれて絨毯に落ちた!
「お、お兄様!?どうして生徒手帳とARCUSを…………!?」
「…………俺自身に発破をかけて、覚悟を決める為さ。―――Ⅶ組と…………アリサ達と決別する事を恐れていたかつての俺と決別する為にも…………」
「に、兄様…………」
「……………………リィン様は本当にそれでよろしいのですね?”エレボニア帝国征伐”に参戦すれば、Ⅶ組の方々を始めとしたトールズ士官学院の生徒達の親族や関係者である軍人や貴族の方々の命を奪う事もそうですが、最悪の場合”Ⅶ組”とも刃を交える事が起こるかもしれませんわよ?」
自身の行動に驚いているセレーネに答えたリィンの決意を知ったエリスは辛そうな表情でリィンを見つめ、メサイアは真剣な表情でリィンに確認した。
「ああ…………いざ、その時が来た時にクロウのように割り切って戦えるかどうかは今でもわからないけど…………それでも、その方法でしか残されていない以上、俺はメンフィル・クロスベル連合側として”エレボニア帝国征伐”に参戦する――――!」
メサイアの問いかけに複雑そうな表情を浮かべて答えたリィンは決意の表情を浮かべて窓から見える景色を見つめた――――
後書き
この話の最後でキャラ紹介のOPが入ると思ってください。なお、OPのBGMは閃Ⅳの”変わる世界 -闇の底から-”で、最初に映る仲間キャラはリィン、エリゼ、エリス、セレーネで、その後リィン側の仲間として現時点で予定しているキャラ達が仲間になる順番(ステラ、フォルデ、アルティナ、”鉄機隊”全員、アルフィン、ミュゼ、クルト、プリネ、ツーヤ、エヴリーヌ、レーヴェ、リフィア、ゼルギウス、シグルーン、リアンヌ、ローゼリア)に映った後、リウイ達、ヴァイス達、セリカ達、ユウナを加えたロイド達、エステル達、エイドス達が映った後Ⅶ組と対峙しているシーンのリィン達が映り、リィン達にとっての敵陣営であるⅦ組やその協力者達、結社の残党、”鉄血の子供達”、ルトガーを含めた”西風の旅団”メンバー、アルベリヒとゲオルグとジークフリード、そしてギリアス・オズボーンが映り、最後は戦艦の甲板から景色を見つめているそれぞれの起動者の背後にヴァリマール、ヴァイスリッター、アルグレオン、(もしかしたら)テスタ=ロッサが映ると思ってください♪)
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