ポケットモンスター〜翠の少年の物語〜
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第六話
前書き
どうも、バイトで日焼けして、同級生に、「お前の腕オセロやん」と言われました。めちゃんこ痛いです。
僕とユウキくんは、二人で揃って朝ご飯を食べたあと、受付のジョーイさんに聞いて、ラルトスが居るという病室の前にやって来ていた。
「…………」
僕は扉の前で、妙に緊張していた。どうにも、あのラルトスのことが気になって仕方ない。
「ったく……ただ入るだけだろ?なんでそんなに緊張してんだよ」
その緊張はユウキくんにも伝わっていたようで、呆れたように僕を見ていた。
「それは…………そうですけど、なんというか……うーん」
どうな風に言葉にしていいのかわからなくなった僕は、腕組をして考え始めた。
僕自身、どうしてこれほどまでにあのラルトスに入れ込んでいるのか、全くわからない。
僕にだけ聞こえる声で助けを呼ばれたり、変な夢を見たりしたせいなのだろうか。
「……とにかく、入るぞ」
そんな僕に見切りをつけたのか、一人で病室の扉を開けるユウキくん。
ガチャリ、という音を立てて開かれる扉。ユウキくんはそのまま中へ入っていき、僕もその後に続く。
部屋の中には、小さなポケモン用のベッドが置かれていて、その上に、これまた小さなラルトスが寝かされていた。
「あ、ユウキさんにミツルさん。来られたんですね」
中にいたジョーイさんは、僕とユウキくんに気付くと、パタパタと近づいてきた。
「はい。ラルトスの様子はどうですか?」
「今はぐっすり眠っています。怪我とかはほとんど治ってるから、明日には退院出来ると思いますよ」
「良かった…………」
ジョーイさんの言葉に、胸を撫で下ろす僕とユウキくん。それと同時に、ポケモンの生命力の強さにも驚いていた。
人間だったら、あれだけの大怪我をしたら、少なくても四週間は入院だろう。
あれだけ小さくても、ポケモンって凄いと、改めて実感した。
「それじゃあ、私はこれで。また何かあれば、呼んでください」
ジョーイさんはそう言って僕らに一礼すると、病室の扉を開けて出ていった。
ジョーイさんを見送った僕らは、ベッドに目を向けた。
そこには、所々に包帯をまかれた姿ですやすやと寝息を立てて眠っている、ラルトスの姿があった。
僕はそのラルトスを見て、なぜだか懐かしい感じがしていた。
「………………」
「……どうしたミツル?」
「いや…………なんか、初めて見る気がしないんですよ……」
「そりゃあ、昨日見たからだろ?」
「いや……そうじゃなくて……ずっと前に見たことあると言うか………」
「はぁ?」
昨日見た時は気づかなかったが、やはり、どこかで会ったことがあるような気がしてならない。デジャブ、と言うやつだろう。
しかし、僕はこれまでポケモンと触れ合ったことはほとんどない。外で遊ぶことのなかった僕は、両親がトレーナーでなかったことも相まって、ポケモンとは縁遠い生活だった。
だから、このラルトスにそんな感想を抱くわけがない。
「……うーん、どこで見たんだろう?」
「気の所為とは思わないのか?」
「思えない、ですね」
だけど、それを気の所為と思うには、この感覚はあまりにも強すぎた。理由はわからないけど、間違いなく、このラルトスとはどこかで出会った事がある。
そんな気がしてならなかった。
「……」
そんな僕をユウキくんは、訝しそうな目でこちらを見ていた。そりゃあ、突然こんなことを言い出したら仲のいい人だとしても変に思うだろう。
「…………ぴー?」
そんな時、そんな鳴き声が部屋に響いた。
ベッドを見ると、上半身を起こしたラルトスが、キョロキョロと辺りを見渡していた。
「ラルトス!目を覚ましたんだね……!」
「俺、ジョーイさん呼んでくる!」
ユウキくんはそう一言言うと、急いで病室から出ていった。
残された僕は、ベッドの横に座って、ラルトスと同じ目線になる。
「ここはポケモンセンターだよ。君、池の前で傷だらけだったんだよ?」
「ぴー?ぴー……」
僕の言葉に、驚きながら返事をするラルトス。僕らはポケモンの言葉を理解できないのに、ポケモンは僕らの言葉を理解しているのが、少し不思議だった。
「えっと……その……これからさ、どうしたい?」
何を話せばいいのかわからなくなった僕は、何故かそう口にしていた。それほどまでに、このラルトスのことが気がかりなのだろう。
「ぴー?」
「ほら、その……せっかく会えたし……じゃなくて………その……えっと……あーもう!!」
僕がこれから言おうとしていることは、僕のエゴだ。
『君のことが気になって仕方ないから、一緒に来て欲しい』だなんて……ワガママにも程があるだろう?
人に傷つけられたラルトスにそんなこと言ったとしても、恐怖があるかもしれない。
だから僕は、言い出せなかった。
こんな時にも、自分の思い切りのなさが、腹立たしい。
「…………ぴー」
そんな僕を見たラルトスは、ゆっくりと立ち上がった。
「ラルトス!?まだ寝てないと──」
「ぴー」
僕がラルトスを寝かせようとすると、ラルトスは僕に右手を差し出してきた。
それは、まるで握手をしようと言っているように見えた。
「……えっと……ほんとに握手……って、こと?」
「ぴー!」
僕の質問に、力強く頷くラルトス。
「え、っと……はい」
僕も右手を差し出し、ラルトスの小さな手を握る。
ラルトスは僕の右手を掴むと、真っ直ぐ僕の方を見てきた。
「ぴー♪」
そして、すごく上機嫌に鳴いたかと思うと、眩しいほどの笑顔を見せてくれた。
……あぁ、この子なら大丈夫だと、悟った。
「…………ラルトス。僕のポケモンに、なってくれないかな……?」
「ぴー!」
これが、僕の最高の相棒、ラルとの出会いだった。
─数時間後─
「やれば出来るじゃん」
僕とユウキくんは、百二番道路をてくてくと進んでいた。お昼までに、トウカシティまで帰っておこうという算段だった。
「あのラルトス、僕の言いたいことをわかってくれてたみたいでした……それでも、あんな風に笑ってくれるとは思いませんでしたけど」
「ま、人のことを嫌う嫌わないはポケモンによるからな。あのラルトス、そーとー図太い神経してるのかもな」
そんな風に軽口を叩いたユウキくんは、おもむろに辺りを見渡していた。
僕もそれにならって辺りを見渡した。やはり、昨日とは違い、至る所からポケモンの気配がした。
「しかし、昨日はなんだったんだろうな。あれだけポケモンが出てこないなんて──」
「──さっさと動けやテメェ!!」
ユウキくんの言葉を遮るように辺りに響く罵声。
僕とユウキくんは、思わず声のした方を見た。
「はい!ルチア、すぐに行きます!」
そこには、黒と白のTシャツを着て、青いバンダナを頭に巻いた男女が数人と、その人たちから少し離れたところで、重たそうな荷物を持った女の子がいた。
後書き
読んでくれてありがとうございます。さてさてさーて、もう既に暗雲漂い始めております。どこぞの友人の作品並みには、オリジナル要素の塊です。楽しんでいただけたら、幸いです。
それでは、また次回。
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