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魔法が使える世界の刑務所で脱獄とか、防げる訳ないじゃん。

作者:エギナ
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第一部
  第37話 Side.First Magic Prison

「———くそッ‼︎ 何でこうなッちまった‼︎」

主任看守会議の途中にも関わらず、オレは立ち上がって、机に拳を叩きつけた。

新年魔法大会の日、四舎副主任である白雪真冬が、第一魔法刑務所を裏切り、魔法犯罪組織であるマフィアについた。他にも、囚人番号九〇四番もマフィアについた。黒華を暗殺しに来て返り討ちにされたらしい、響とか仁とか言う、メイド兄弟も所属していたマフィアへ戻った。
そして、黒華が奴等に———

「おい、橙条。座れ。会議中だ」
「逆に、何でそンなに落ち着いてられンだよ! イラつくが、只でさえ主任看守部長だった黒華がマフィアに拐われてンだぞ‼︎ この状態でマフィアがもう一度攻めて来るモンなら、この刑務所が無くなるかも知れねェんだぞ⁉︎」

オレがそう叫んだ瞬間、騒ついていた看守長室に、静寂が訪れる。何か不味い事でも言ったのかと思い、他の主任達を見ると———何を言っているんだとでも言いたげな表情で、小首を傾げていた。
何がおかしい。そう言おうとして口を開けるが、ワンテンポ先に、神白が言った。

「橙条……その、“黒華”と言うのは誰だ?」

と。

神白の元へ移動して、胸倉を掴んで自分の方へ引き寄せる。
なんで……なんでそんな事を言うンだ。

「何寝惚けてンだよ……黒華琴葉だ……一舎の主任だよ。彼奴の巫山戯た顔、忘れたなんて言わねェよなァ……? 直前まで一緒に競い合ってたンだ。喧嘩してたンだ。なのに……忘れた訳ねェよな……?」

「だから、何だ。その“黒華”と言うのは。以前から私が主任看守部長なのだが? それに、一舎の主任は黒崎だろう。暫くしたら巡査部長になるらしいが……って、その黒崎も居ないな。全く、何処へ行ったんだ……」

主任看守部長が……神白?
で、一舎主任が……黒崎?

じゃあ黒華は?
黒華はどうなるンだ?

「———……おい、橙条‼︎ 何処へ行く‼︎ 橙条‼︎」

オレは堪らなくなって看守長室を飛び出した。

———おかしいだろ……何で、黒華の存在自体が無かった様な言い方するンだよ。確かに、彼奴は居たンだ……なのに、何で……

携帯を取り出して、黒崎に電話を掛ける。黒華を溺愛していた彼奴なら、絶対に黒華を忘れている筈が無い。
そんな淡い希望を持ちながら、オレは電話を耳に当てた。

———そして、ツーコール目で、彼奴が電話に出た。

『君は第一魔法刑務所の橙条雅人君だね? こんにちは』


彼奴———マフィア首領、黒華湊が。


◇ ◇ ◇


「オイ、何で黒崎の携帯にてめえが出るンだ! 黒崎はどうしやがッた‼︎」
『黒崎君かい? 彼は単独で、真正面からマフィアビルに乗り込んできたからね。捕らえさせて貰ったよ。今は魔法研究に必要な人体実験の被験体にするか、拷問の後に殺すか、幹部と一緒に相談しているよ』
「ふざけンな……‼︎ 黒崎を解放しろ!」
『なら取り返しに来れば良いじゃないか。彼だって、琴葉君を救出する為に行動した』
「黒華の為……? 彼奴は生きてンのか‼︎」

『嗚呼、生きているとも。“マフィア幹部”としてね』

脱獄して、一舎と“塔”って呼ばれている所を結ぶ通路の近くでうろうろとしていたら、急に怒鳴り声が聴こえた。声の方に近寄ってみれば、橙条さんが誰かと電話しているようだった。耳が当たってしまったのか、スピーカーの状態になっている。

と言うか、今“琴葉”って———

「は……? マフィア、幹部……って」
『そのままの意味だよ。琴葉君は五年前と同じ様に、響君と仁君を補佐につけて、幹部をやっている。それがどうしたんだい?」
「五年前と同じ……? ってことは、黒華もマフィアの人間だったのか……? 彼奴も裏切って……」

「琴葉はそんな事しない‼︎」

あ。

物陰に隠れて聞いていたのだが、つい飛び出して叫んでしまった。

勿論、橙条さんは目を見開いて固まっている。橙条さんの携帯の画面の向こう側からは、小さく笑い声も聞こえる。

やってしまった。

『ふふ、可愛い囚人君だねぇ。レン君、だったかな? 琴葉君が会いたがっているよ』
「なら、会わせてくれよ! 琴葉を返せ‼︎」
『橙条君にも言ったけど、そんなに琴葉君が大切なら取り戻しにおいで。その力が無い奴に、琴葉君は渡せない』
「だったら行ってやる。要だって行ったんだからな。ハクだって、シンだって、琴葉に会いたがってるから」

やってしまった。

マフィア首領に怒鳴ってしまった。

明日殺されるな。

「看守さん、これから俺達三人は外に出る。脱獄って扱いにされたくなければ外出許可を出せ」
「ハァッ⁉︎ ンなの出来る訳ねェだろ‼︎」
「じゃあ脱獄する! 琴葉がいなけりゃさっさと外出れるからな‼︎ 首洗って待ってやがれ、マフィア‼︎」

言っちまったぜ。

まぁ長くても明日までしか生きられないしなぁ。

マフィアに逆らったから。

『はは、面白い冗談だね。隣で琴葉君が膝を抱えて笑っているよ。琴葉君、代わる? ……って、何処行くんだい。逃げるつもりなのかい?』
『……橙条“さん”、何の用ですか? それに、被験体も。マフィアに戻ってくる気になったんですか? 大歓迎ですよ……って、首領。そんなに笑わないでくださいよ』
「琴葉……? 琴葉なのか⁉︎ どうしたんだよ、その口調とか……俺達の呼び方とか。何で何だよ。本当に誘拐されただけなのか……?」
『私は、私の意思で此処に居ます。取り戻したいと願い、此処まで来るのならば……』



———貴方達でも容赦しません。


 
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