刺青将軍
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第二章
彼は身を立てていった、しかし。
その額にある刺青は消さない、兵達はこのことに首を傾げさせた。
「何故だ?」
「何故狄青様は額の刺青を消されない」
「それはどうしてだ」
「俺達と同じだな」
「あの方は兵隊あがりだが」
「普通士官になられると刺青を消す」
医術でそうしたことも出来るのだ。
「それが出来る筈だが」
「それでどうしてだ」
「何故将軍は刺青を消されない」
「何故だ」
「何故そうされない」
兵達はこのことに首を傾げさせた、狄青は刺青を消さずそのうえで戦の場では兜も被らず戦い続けた。額の刺青を誇示するかの様に。
そのことは皇帝も聞いた、それで廷臣達に言った。
「実に興味深い」
「狄将軍のことですか」
「あの方のことですか」
「そうだ、何故刺青を消さない」
このことを言うのだった、後に仁宗と呼ばれる皇帝でその顔には確かな威厳と慈愛があり皇帝に相応しい。
「将軍にもなったというのに」
「そのことですが」
「将軍に直接聞かれてはどうでしょうか」
廷臣達は皇帝に口々に畏まって意見を述べた。
「万歳翁ご自身が」
「将軍は明日参内されますし」
「そうだな、ではそうしよう」
皇帝は廷臣達の言葉をよしとして頷いた、そうしてだった。
翌日狄青が宮廷に参内するとすぐに彼に問うた、すぐに刺青のことを聞くのもどうかと思ってまずは彼の武芸のことを尋ねた。
「そなたは武芸、特に騎射が得意だな」
「はい」
その通りだとだ、狄青も答えた。
「昔から」
「農民の出と聞いたが馬に乗り弓矢を扱うことが出来たのだな」
このことで活躍したことも彼の今につながっている。
「それは何故だ」
「はい、私は汾州西河です」
「あの辺りは確か」
その生まれを聞いてだ、皇帝はすぐに察した。そうして皇帝の座から述べた。
「夷敵との境で」
「よく戦になりましたので」
「そなたもか」
「自然と馬に乗り弓矢を使う機会が多く」
兵になる以前からだというのだ。
「その為にです」
「騎射を得意としているか」
「そうです」
「そのことはわかった、そしてだが」
皇帝はいよいよ本題に入った、これまで以上に口調を真剣なものにさせてそのうえで狄青に尋ねた。
「そなたの額には刺青があるな」
「今も入れております」
「そなたが兵だったことは知っておる」
このことはとだ、皇帝も答えた。
「それはな、しかしな」
「今はですか」
「将となったのだ」
だからだというのだ。
「もう兵の証である刺青はいらぬであろう」
「だからですか」
「まだ入れている理由がわからぬ」
皇帝にしてはだ。
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