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ある晴れた日に

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243部分:オレンジは花の香りその二十六


オレンジは花の香りその二十六

「それでどうだ?一人で二人でな」
「そうね」
 そして未晴は。彼の言葉に静かに応えてきた。
「二人で見て色々と話をしながらの方がいいわね」
「だからだよ。それでいいな」
「ええ、わかったわ」
 未晴はここでまた彼の言葉に頷いた。
「それじゃあ。二人でお花も」
「見ていこうな。早速紫陽花を見たいんだけれどな」
「紫陽花?」
「ここからちょっと行ったところにあるんだよ。紫陽花の花がな」
 こう未晴に話す。
「咲いてるお寺があるんだよ。いや、教会だったか?」
「教会?ああ、そうね」
 未晴は教会と聞いてあることを思い出したのだった。それが顔にも出る。
「この辺り。八条町だから」
「八条町っていうと何かあるのかよ」
「八条分教会があるのよ。咲がいつもお世話になってる」
「そういえば柳本の奴天理教の教会にいつも入り浸っていたんだったな」
「その教会の娘さん達と仲がよくて。それもあって」
「それで教会に通っているのかよ」
 咲の言葉を思い出しながら語るのだった。
「あいつも色々なところに顔出してるんだな」
「その教会に紫陽花が咲いてるの」
 そうだというのだった。
「そこにね。だからなのよ」
「そこだったのかよ」
「和風で看板に筆で書いてるわよね、教会って」
「ああ」
 未晴の問いにそのまま答える。
「そうさ。そのまま書いてあったな」
「じゃあ間違いないわ。その教会よ」
 未晴はまた彼に答えた。
「そこが八条分教会なのよ」
「あそこがかよ」
「そこに行くつもりだったの?」
「ああ」
 未晴に静かに答えた。
「そのつもりだったんだけれどな」
「けれど止めたの?」
「そのつもりだったけれど気が変わった」
 彼は今度はこう答えた。
「ちょっとな。今はな」
「どうしてなの?」
「雨だからな」
 だからだというのだった。
「やっぱり止めておこうって思ってな」
「別にいいじゃない」
 しかし未晴はその彼に言ってきた。
「行きたいのならそれで。私も一緒に行かせてもらうわ」
「いいのかよ」
「ええ」
 正道の言葉にここでも静かに頷くのだった。
「さっきも言ったけれど紫陽花好きだから」
「夜だけれどな」
「夜でもお花は見られるわ」
 未晴はまた述べた。
「だから。行きましょう」
「まあそうだな」
 正道は未晴の言葉を聞いてまずは落ち着いた顔になった。
「夜でもな。いい加減目も慣れてきたしな」
「だからよ」
「夜の中で見る花もいいものだよな」
 彼はまた言った。
「それならな。行くか」
「八条分教会にね」
「別に花見るだけだったら向こうさんも何も言わないよな」
「それはないわ」
 大丈夫だと答えた未晴だった。
「それはね。ないわ」
「ないか」
「あの教会の人達皆いい人達だし」
 未晴はこうも正道に話した。二人は夜の道を今も静かに並んで歩いている。
「そういうことではあれこれ言わないわ」
「そうか」
「そうよ。それに教会の人が出て来ても」
「その場合はどうなるんだ?」
「私がお話するわ。私もあの教会にはよく出入りしてるし」
 このことも正道に話すのだった。
「だからね。それでね」
「そういえばおたくも」
「咲だけじゃないの。私達皆なの」
「だったよな。六人でいつもあの教会に通ってるんだったよな」
「そうなの。凄く居心地もよくて。図々しいけれど」
「あいつ等はそうじゃないのか?」
 五人に対しては、と言った。
「あの連中はな。図々しいっていうかな」
「別にそういうのじゃないけれど」
「まあ能天気だからな」
 またこの言葉を出すのだった。
「あそこでまた入り浸って菓子でも食ってるんだな」
「それはそうだけれど」
「やっぱりな。そんなことだろうと思ったさ」
 まさに予想通りであった。
「それでだよ」
「ええ」
「おたくも出入りしてるってことは」
「勿論か御馴染みよ」
 結論はそれであった。
「教会長さんとも奥さんとも」
「娘さん達ともかよ」
「そうなの」
 こう彼に話した。
「だからね。私がお話したら」
「そうか」
 これで事情がわかった正道だった。
「じゃあ大丈夫なんだな」
「まあ見るだけだし」
 未晴はこうも言った。
「大丈夫よ。それはね」
「じゃあ行くか」
 ここまで話してそのうえで教会に足を向けた。そうして二人で夜の紫陽花を楽しむのだった。二人はこうして交際をはじめたのだった。


オレンジは花の香り   完


               2009・3・30
 
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